第140話・みんなともっと楽しみたかったなぁ……
王都魔導士収容所は、都内でもかなり残忍で冷酷な施設だ。
強大な能力を持つ魔導士たちから、徹底的に抵抗心を奪うために残酷な手法が取られる。
重罪を犯した魔導士のみが収容されるため、いかに非人道的な扱いをしようと問題視はされていない。
「どうだ? アリサ・イリインスキーの様子は。いい加減くたばってくれると楽なんだけどねぇ」
収容所に訪れたクラーク捜査官は、ニヤニヤとした顔で部屋を訪れた。
無機質なレイアウトに、マジックミラーと通信機器が設置されたここは尋問監視所。
名の通り、進行形で行われる尋問を指示する部屋だ。
「さっきまでは悲鳴と絶叫を繰り返してましたが、今ちょうど気を失ったところです」
抑揚なく応答する尋問官。
視線を向けると、ガラス向こうの部屋で魔法陣に囲まれたアリサが倒れていた。
両手両足には、魔力の流れを阻害する鎖が繋がれている。
着ている白色の制服は、随所が破れてボロボロだ。
彼女がもう抵抗できないと踏んだクラークは、さらに頬の角度を吊り上げた。
「ちょうどいい、部屋に入れてくれ。処刑は明日だ––––最後に楽しくお話してみたい」
「了解しました」
カギを渡されたクラークは、廊下から彼女のいる部屋へ入った。
尋問官には、席を外すよう命令している。
「無様だな、どうだ? 祖国に売り飛ばされた気分は」
「……」
16時間にも及ぶ激しい電撃魔法の拷問で、彼女の意識はとっくにない。
隅にあったバケツを持つと、クラークはアリサへ冷水をかぶせた。
「プハッ! がはっ、げほ!!」
無理矢理目覚めさせられたアリサは、ようやくクラークの存在に気づいた。
それでも起き上がることはできない。
「よう、気分はどうだ?」
「……最低以外、ゼェッ……あると思う?」
「そいつぁ結構だ、今日は俺が特別に会いに来てやったんだ––––光栄に思ってくれ。お前のおかげで俺は未来の局長だ」
クラークの問いを聞くこともなく、アリサは彼の足目掛けて唾を吐いた。
「汚職捜査官なんかと話したくないね、ハァッ……サッサと帰ってくんない?」
「ッ!!!」
足を振り上げたクラークは、力任せに横たわるアリサの腹を蹴り飛ばした。
鎖が伸び、吹っ飛んだ彼女はしたたかに壁へ打ちつけられた。
「ゲホッ……!! おえっ」
「昇進の贄だからと少し慈悲を掛けてやれば……、これだからガキは嫌いなんだ。立場がわかってないのかねぇ!?」
涙目で咳き込む彼女を、連続で蹴り付けた。
「そんなに吐きたきゃ、好きなだけ吐きやがれ! オラっ!! オラァアッ!!」
今の彼女は魔力と四肢を封じられており、抵抗も防御も一切できない。
数十回アリサの腹部へつま先をめり込ませたクラークは、苦痛に満ちた表情で唾液を吐く彼女を見て大きく笑う。
「明日お前を処刑すれば……晴れて俺は極悪スパイ検挙の功績を収め、最高の実績を手に入れることができる」
「けほっ、驕れる者……久しからず……」
「あぁ?」
「好きなだけ……、幻想の栄誉をさ……抱いてなよ。そうして人を蹴って殺して、本気で手に入ると思ってんならさ」
「俺は上に登れる人間だ! テメェみたくここで無様に退場するモブじゃぁない。この状況––––待っているのは俺の完全勝利だ」
高らかに宣言したクラークは、勝ち誇ったような顔で見下ろした。
「俺は国家を味方にし、圧倒的な公権力で勝つんだ。どんなに竜王級が強かろうともはや手遅れ、俺の勝ちは揺るがないッ!」
アリサの意識が、再び遠のいていく。
「処刑場への護送はつつがなく行われる、さらには‘キールの特殊部隊“まで呼んでおいたからなぁ。どんな問題が起きようと対処可能だ!」
地下室に響く笑い声を上げながら、クラークは部屋を出ていった。
まどろみに意識を落とす直前、アリサは掠れるように小さく呟いた。
「秋の大魔導フェスティバル……、みんなと楽しみたかったなぁ……」
それは、処刑日の後に予定されている学園の大イベント。
叶うはずもないであろう願望を、アリサは大粒の涙をこぼしながら夢見た。
もうその頃……、自分はこの世にいないのだから。




