【追放者サイド】第14話・ズルして順位を上げても、それは偽りに過ぎないでしょう
大型企画を進めるにあたり、入念な準備は必要だ。
闇ギルド『ルールブレイカー』へ喧嘩を売る前に、グリードはやるべきことをこなそうと考えていた。
「や、やぁみんな! 久しぶりだね、神の矛チャンネルへようこそ!」
カメラへ向かって喋るグリードは、前までと打って変わり非常に弱々しそうに映る。
それもそうだ、この2週間でパーティーの評判は落ち続け、チャンネル登録者も60万人にまで減っていた。
なんとか減少を止めねばならない。
「今日はいつものメンバーで、諸事情により長くやれてなかったクエストを行いたいと思う……。内容は行商人の護衛だ」
前回のライブ配信によって、『神の矛』は無様に全滅判定をくらっていた。
ギルド本部に全滅判定をされると、しばらく危険度の高いクエストを受注させてもらえなくなる。
しかも彼らは1ヶ月間、高レベルダンジョンへの立ち入り禁止を勧告されていた。
「謹慎中もしっかりトレーニングしてきた、前回はちょっと調子が悪かったからな。ここで挽回してリスナーさんにいつもの姿を見せられると思う」
チャット欄は、勢いよく流れていた。
『テンプレ謝罪文しか見せられないの? 謝罪動画はよ』
『あんだけ炎上してよく懲りずにライブ配信できるな』
『根性だけは竜王級wwwwww』
『グリード様! アンチコメなんかに負けないで!!!』
『土下座wktk』
思わず眉をひそめるグリード。
以前までは自身を称賛するコメントしかなかったのに、ほとんどが反対に化けていた。
「それじゃあ早速護衛クエストを開始しようと思う、カメラマンと荷台の固定カメラ両方で撮影するぜ!」
カメラの外で、グリードはミリアへ「アンチコメ主は全てブロックしろ」と耳打ちする。
5台の馬車をグリード、ミリア、ラントのほかに戦闘員5名で守る。
行き先は温泉で有名な街、距離にして60キロであった。
先頭の馬車に乗りながら、剣聖グリードは“久しぶりに持つ”愛剣を握った。
「何事もなければ……戦闘は起きないはず、一番安全そうな道の護衛を選んだんだ、間違いない」
さきほどグリードは「トレーニングしてきた」と言ったが、真っ赤な嘘である。
本当は匿名掲示板に、腹いせでひたすらアルスの悪口を書き込み毎日を過ごしていた。
パーティーを抜けたペインに言われた言葉が、無性に腹立たしかったのだ。
「なにが見えづらいだけの柱だ! どいつもこいつも剣聖の俺を馬鹿にしやがって、俺こそが竜王級に等しい存在なのになぜ理解しない」
ブツブツと独り言を小さくぼやいていると、依頼主の行商人が手綱を引きながら話しかけてくる。
「いやー、今絶賛トピックのパーティーが護衛してくれるなんてね」
「はぁ……」
「いやほんと頼むよ? 行商人の間でしか話題になってないけど、最近ここいらのルートちょっとやばいんだよ」
冷や汗が一筋、グリードの額を伝った。
「危ない?」
「よくわからない魔導士? みたいな武装集団がウロチョロしてるって聞いたんだ。だけどそいつらは本物の魔導士じゃないみたいで……」
「言ってる意味がよくわからん」
「あぁ、とにかく得体が知れなくて––––おっと?」
見れば、進行方向で大木が横たわっていた。
見事に道を塞いでおり、馬車は順番に止まる。
「おかしいな、腐ってもないみたいだし嵐もなかったのに」
「関係ありませんよ、カメラはミリアを映していろ。大陸トップと謳われた彼女の魔法が木っ端微塵にしてくれる」
ミリアが大木の前に立った瞬間、真後ろで爆発が発生した。
「なっ!?」
振り返ると、最後尾の馬車が吹き飛んでいる。
馬がパニックを起こし、周囲は混乱に包まれた。
「おい! 前後を塞がれたぞ!」
そう叫んだ戦闘員も、グリードがまばたきした一瞬で火だるまとなった。
左右の森から、挟み撃ちにされているのだ。
完璧な待ち伏せ戦術である。
彼は急いで馬車から降りた。
「おいグリードさん! 積荷を守ってくれ! 高純度のアルナクリスタルがあるんだ! 応戦を––––」
行商人の声を振り切って、グリードは全力でその場から走った。
冗談じゃない、こんなことになるなんて思わなかった。
いかに戦闘せず、真実を隠しながらランキングを上げられるか必死で考えたのに、なぜこんな……!!
「逃げるぞラント! ミリア! 荷物なんて捨ておけっ!!」
「ぐ、グリードさん! 俺たちを見捨てるんですか!?」
「戦略的撤退だ!! こんな不利な状況で戦えるか!!」
買ったばかりのカメラごと、逃げようとしたカメラマンが体を貫かれる。
必然的にカメラの動作も切られた。
行商人と数人の戦闘員を見捨てて、グリード一行は爆発と断末魔を背に一目散で逃走。
このライブを見ていたユグドラシル・冒険者管理部は、クエストの失敗と2度目の【全滅判定】を下した。
同時に、このルートの無期限閉鎖が決定する。
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