表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

137/497

第137話・俺という個人が国家と戦う方法

 

 汚職公安にキールの政治将校、そして本命のスパイ……。

 これらの事実を暴いた俺は、まず1つの結論を早々に出した。


 ––––個人でどうこうのレベルではない。


 相手が公的機関や、まして国家など常人では泣き寝入り不可避。

 たとえ古の魔王だろうが勝てないだろう。


 けれど、それは脳筋スタイルで正面から突っ込んだ場合の話だ。

 俺はこれまでの人生経験から、即座に対キール特化戦略を打ち立てていた。


「話は伺っております、どうぞ中へ」


 アサルトライフルで武装した警備を通り過ぎ、俺は堅牢そうな施設へ訪れた。

 見上げた先にあるそれは、白が基調の要塞––––圧倒的な国力を強調するかのように建っていた。


 名を……在ミリシア『アルト・ストラトス大使館』。


 世界に影響力を持つ、超大国の持つ施設だ。

 そんな建物の廊下を歩き、俺は部屋の扉をノックした。


「王立魔法学園生徒会長、アルス・イージスフォードです」


 名を告げてすぐ、中から入室許可を告げる声が届いた。

 扉を開く。


「きっかり8時……、見事な時間厳守だね。イージスフォードくん」


「お久しぶりです、ジーク・ラインメタル大佐。会長の俺が時間も守れないようでは––––学園の威厳そのものが問われますからね」


 黒の軍服を纏ったこの人は、駐在武官にして学園の特別顧問だ。

 今回考えた対キール戦略において、最も重要な人間である。


 椅子に座った俺を見て、ラインメタル大佐は上機嫌そうに笑みを見せた。


「前に会ったときよりもずいぶん強くなったね、魔力の質を見ればわかる」


「ほぼ不可抗力でしたがね……、残念ながら平穏とは程遠い状態です」


 俺の経験上……他人の実力を測れる人間は、基本的に恐ろしく強い。

 眼前の軍人は、たった一目でファンタジアでの俺の成長を見抜いてきた。


 それだけで、元勇者という存在の強さはなんとなくわかる。


「急なアポには正直驚いたが、相手が王立魔法学園の生徒会長ならば私も断れない。要件を聞こう」


「ありがとうございます」


 話が早くて助かる。

 俺は持ってきた分厚いケースを、机の上にドンと乗せた。


「今回は大佐––––いえ、貴国アルト・ストラトスと共有する価値観の確認をしたいと思った次第です」


 ケースの中半分を占めていたのは、今回のアリサ拘束に関する状況を纏めた概要書。

 公安の汚職、キールの関与、アリサの状況などをメインに書き綴った書類(証拠付き)。


 総文字数は––––17万文字以上。

 小説の単行本を軽く上回る文量だ、俺はこれを今日までに死ぬ気で書き上げてきた。


 机の向こうで、さしもの大佐も驚きを見せる。


「これを……1人で仕上げ、纏めたのかい?」


「これだけじゃありません、ぜひこの音声記録も聞いてください」


 俺は生徒会室でアリサが拘束されたときの録音を聞かせ、さらに盗聴したクラーク捜査官とキール政治将校の会話を流す。


 これだけ見せて聞かせなければ、国家は話もしてくれない。それが世界の常識だ。


「フム……大まかな概要は理解した、つまり君は––––我々アルト・ストラトスの人道的見地を知りたいというのだな?」


 書類を手に取った大佐は、次々と私物のファイルへ押し込んだ。

 交渉しよう、という合図だった。


「おっしゃる通りです、見るに耐えない汚職が少女の人権を脅かしているこの状況。自由主義を掲げる『連合王国同盟』の盟主たる貴国なら十分に存じ上げるかと」


 国家を相手に、個人が情でお願いをするなど論外だ。

 そんなことで国は動かない、彼らを動かすには––––共通の価値観を用いるのがもっとも手っ取り早い。


「たしかに看過し難い状況だということはわかった、学園特別顧問として大変遺憾でもある。けれど––––」


 ラインメタル大佐は、問うように続けた。


「相手はキールという国家だ、非常に高いリスクがある。外交官でもない君に我々が動く動機を与えることができるかね? イージスフォードくん」


 メガネの奥の碧眼は、俺の意志を確認したがっていた。


 この質問までは、いわば決定事項だ。

 俺も大佐も––––ほとんど様式的に話している、言うならここからが本番。


「えぇ、ありますとも」


 国家と相対するとき最も有効なのは、相手より強大な国を味方につけること。

 大国アルト・ストラトスを生徒会に味方させるため、俺はケースのもう半分を机に広げた。


 ––––それは、ただの一度しか使えない切り札だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ