第13話・★アリサ・イリインスキー★
「行くよっ! アルス!!」
先に動いたのはアリサ。
10メートルあった間合いを一気に詰めてくると、非常に鋭い打撃を見舞ってきた。
「あっぶ!?」
反射神経や動体視力には自信があるので、初撃は回避。
それでも、アリサは一切隙を見せずに詰めようとしてきた。
クッソ、近接ガチ勢かよ……! だったら。
「それそれそれぇ!! もっと反撃しないとこのまま決め––––ブフォっ!?」
手加減できていない高圧の水属性魔法を顔面にくらい、アリサは地面へひっくり返った。
その隙に距離を取り、俺は右手を向けながら言った。
「もう暑い時期だしな、遠慮なく水浸しにさせてもらうぞ」
『魔法能力強化』発動。
「なっ、なにを––––プヒャッ!?」
あまり加減できていないが、ノックバックだけはある初級水属性魔法で、アリサをさらに遠ざけた。
言うならば高圧放水だ、火事だって消せるレベルである。
「こんの〜ッ!!」
踏ん張り切られる。
ただ、ちょっとやり過ぎたか制服が濡れたことで透け始めたので、さすがに中断した。
しかしこれだけ濡らせば十分だ。
俺は魔法杖がなくて時間が掛かっていた魔法を、左手で放つ。
「『レイド・スパーク』!!」
気絶へ持っていくには十分……いやヤベェ、完全に加減に失敗した魔法がアリサへ向かってしまった。
やはり素手ではコントロールが効かないか!
「よけろっ!」
思わず警告を叫ぶが、アリサはなんと魔法を正面から受け止め––––
「はあぁッ!!!」
消滅させてしまった。
へぇ、そんな芸当ができるのか。
「彼女の能力ですか?」
マスターの問いに、教師が慌てて答えた。
「彼女に魔法は一切効かないのです、ユニークスキル名『マジック・ブレイカー』。どんな攻撃魔法もアリサさんが触れれば消滅します」
なるほど、その能力があったから俺へ勝負を挑んできたわけだ。
さっきの水属性魔法は攻撃とすら思われていなかったらしい。
いいだろう!
『魔法能力強化』を解除。
纏っていた赤いオーラが俺から四散した。
「フフン、もしかしてもう終わり?」
「まさか、全然本気じゃねーよ」
エンチャント変更、全身を金色の魔力が覆った。
「『身体能力強化』!!」
「ウッソ!? あんた攻撃魔法しか使えないんじゃないの!?」
「ちょっとは驚いてくれたかよ、こういうのもあるんだぜ?」
今まで3年間、剣聖グリードとタンクのラントへ与え続けていたエンチャントだ。
その全てが今、俺の体へ宿る。
「関係ない! 近接戦でわたしは今まで無敗––––」
言い終わる前に、俺はアリサの真後ろへ回り込んだ。
無防備な背中が映る。
「はやっ……!?」
振り返る暇も与えず、アリサの脳天へ手刀をお見舞いした。
かなりいい音が響き、「いったああぁあああっ!!?」という絶叫と共に、彼女は地面を転がり回った。
「これは勝負あったかな」
マスターのジャッジで、俺はエンチャントを解いた。
風が吹く中、俺は悶え苦しむアリサへ手を伸ばす。
「悪い、頭大丈夫だったか?」
「グスッ、それだとすっごい悪口に聞こえる……」
「いやすまん、なんというかまだまだ加減ができないんだ。なるべく弱く叩いたつもりだったんだが」
「ううん、大丈夫」
俺の手を握ったアリサは、泥だらけながらも元気に立ち上がった。
「ありがとねアルスくん、わたしのわがままに付き合ってもらっちゃって。しっかり魔法メタってたのに、まさかここまで強いとは思わなかったよ」
「別にいいよ、俺も今回の実戦でいろいろ課題が見えた。もし入学できたらよろしく頼む」
「こちらこそ、次は絶対に負けないよ。わたしはまだまだ強くなる……! あんたが入学してくるまでさらに腕を磨くよ」
握手を離すと、アリサ・イリインスキーはそのまま“生徒指導室”へ連行されていった。
たぶん、午後までキツいお説教コースだろう。
なんていうか––––
「すごく変なヤツでしたね」
「はっはっは、君やミライちゃんも同じくらい個性あるけどね」
「なんかライバル認定されたっぽいですし、どうなることやら」
後日、喫茶店ナイトテーブルで俺は『合格通知書』を受け取った。
ほんとうに、どうなることやら。