★第127話・ユリアの告白★(イラスト付き)
ユリアに呼び出された俺は、そのまま隣の車両へ移動した。
扉を閉めた途端、背後で楽しく騒いでいるアリサとミライの声が遮断される。
一体なんだろう……、俺なんかしたか?
誰もいない客席と、流れる景色を見ながら冷や汗を流す。
「宝具……直って本当によかったな」
様子見も含めての一言。
だが、通路で振り返ったユリアの顔は非常に明るかった。
「はい、これも……会長が師匠のところへ行こうと言ってくれたおかげですっ」
どうやら、シリアス案件ではないらしい。
ただのお礼かと安心しつつ、次の一言を繰り出した。
「まぁ役員のモチベーション管理も、会長たる俺の務めだからな。見て見ぬフリなんざしたくなかったんだ」
「……会長は、わたしをあくまで一役員として見てる……感じですか?」
あっ……。
直感的に、俺はこれまでしてきた経験からこの一言の意味を悟る。
今のユリアは、アルテマ・クエストを終えた直後のミライと同じ雰囲気を纏っていた。
覚悟を決めた、女として最強の顔だ。
「……本人の前で言って良いかはわからんが、お前を“ただの役員”だけと思ったことは……ない」
「ッ……!!」
ユリアの顔が一層紅くなる。
俺は鈍感系を名乗れるほど鈍くはない、彼女の声色にこもる想いを……確かめる必要があった。
「ただの同級生、ただの役員、そんな見方で……お前を副会長に選んではいない」
「わたしじゃなきゃ……ダメだった、そう言うことですか?」
「俺はあのとき……お前を心から信じたよ。その想いは選挙終了後から今に至るまでずっと変わらない」
振り返っても、たぶんこれまでの勝負事で一番苦戦したのはユリアだけだ。
元学園ランキング1位の、俺とは本来縁などない天上の人間。
そんな彼女と、俺はあの日出会った。
「思えば懐かしいよな、お前初めて会ったとき––––めちゃくちゃ敵意剥き出しで教室にやってきたじゃん。登場のインパクト強すぎだわ」
「うぅ……過去の話ですっ、なんというか––––当時は自分のことを無敵で最強とか思ってて、会長も本気で倒せると思ってたんですよ」
恥ずかしそうにうつむいたユリアは、大きく深呼吸した。
「わたし……、こう見えて会長には感謝してるんです」
「俺に? 何か礼を言われることをした覚えはないが……」
「フフッ、どうせそう言うと思ってましたよ。まぁ端的に言えば––––貴方はわたしを“必要”としてくれた“唯一の人”だったからです」
「唯一? 俺がか?」
「えぇ、わたしは生まれながらの天才……ゆえに存在を認めてもらえる時は、誰かをこの才能で屈服させた時だけだと……以前のわたしは本気で信じてたんです」
胸に手をあて、懐かしむような顔で一歩足を進めた。
「そんな中、噂になってた竜王級の人が現れて––––いきなり勝負することになって、文字通りの死闘を演じて、”人生で初めて“……敗北しました」
それは彼女の独白でもあり、同時に心へ響く鐘のようだった。
「でも……会長はそんなわたしに正面から敬意を払ってくれて、労ってくれて、腕が痛いと嘘ついてみたらご飯食べさせてくれて、最後には––––副会長になって欲しいと求めてくれた」
エメラルドグリーンの瞳を開けたユリアは、目尻に涙を浮かべながら俺を見上げた。
「嬉しかったんです……! 会長は負けたわたしを求めてくれた、必要としてくれた、お前じゃなきゃダメだと言ってくれた……! それが、どれだけ嬉しかったかわかりますかッ?」
心臓の鼓動が速くなる。
それは余すことなく伝えられる想い。
「ミライさんが……ッ」
ユリア・フォン・ブラウンシュヴァイク・エーベルハルトという、1人の女の子の人生全部を乗せた渾身の叫び。
わがまま上等、誰かに罵られようと決して止まらぬ砲弾が如き咆哮。
「ミライさんが会長に告白したのはわかっていますッ!! でも、わたしだって想いは負けてない! わがままなのは千も承知ッ! 人生最大のエゴとされても––––これだけは言いたいっ!!」
普段の冷静さなどかなぐり捨てて、ユリアは真っ赤にした顔で大きく口開いた。
「わたしも––––ミライさんと同じ、会長の“特別”にして……っ、欲しいんですッ!!」
一瞬噛みかけても、ユリアはその言葉を言い切った。
俺は返事が口から出るより早く、彼女の小さな身体をグッと強く抱きしめた。
「ったく……。ウチの役員はホント物好きばっかだよな」
「おまけにとってもわがまま……、けれど、愛してしまった人へ告白できないまま過ごすなんて––––わたしはきっと耐えられないから」
「全然いいよ、俺で良ければ……ユリアの想いは全部ぜんぶ受け止める。それに––––」
頭を撫でてからソッと離したユリアに、目で後ろの車両を差す。
「お前のことだ、アリサを通じてミライからとっくに告白の了承貰ってんだろ?」
「あうっ。ば、バレて……ました?」
「会長舐めんな、俺らだけ隣の車両行ったら、普通アイツらも興味津々でついてくるだろ」
コツンと、ユリアのおでこを軽く小突いた。
「むーっ」っと少し不満気にした彼女だが、しかし憑き物の落ちたような清々しさを放っている。
俺はふと、アルテマ・クエストで言われたミライの言葉を思い出す。
『アルスはさ……、何か自分の目標とかないの?』
もし許されるなら……家族に恵まれなかった俺が、みんなと一緒に幸せになるなんていう道。
俺はそれを歩みたい、突き進みたいっ。
いつか持つ、”家族“という目標へ––––
「さて、帰ったらまた生徒会の仕事だ。遊んだ分溜まってるぞ……期待してるぜ––––ユリア」
俺の言葉に、”新たな関係“となったユリアは自信満々の顔で涙を払った。
「はい! お任せくださいっ、会長」
イラスト:篁天音様作(ユリア・フォン・ブラウンシュヴァイク・エーベルハルト)。
この素晴らしいイラストに、ぜひ「いいね!」をお願いします!!




