14.簡単に覚悟が定まりゃ苦労はない
武器は用意できた、心構えもした、後は目の前のゴブリンを殺して、もう一体も殺す。それだけでいいというのに足も手も動かなかった。見様見真似の構えの為か剣先は安定せず、剣が重いわけでもないのに息が乱れ深呼吸を繰り返すがまったく意味がなかった。本当は分かってる。ただ俺はゴブリンと命のやりとりをするのが怖いんだと。そんな俺を見てマリアが穏やかな声で話しかけてきた。
「もういいよ。そんな状態のツバサには任せられないよ。」
光の壁の範囲が狭くなってきたので立ち上がりながら、マリアはこっちを見る。穏やかな笑顔だった。
「ありがとう。そんなになるまで自分を追い込んでまで私を助けようとしてくれて。でも、もういいよ。ツバサはどうしたのか分からないけど、武器も手に入れたんだからよくやったよ。」
「ま・・・まりあ?」
ひどく震える声しか出てこなかった。あれだけ言い切っておきながらこの体たらくだ。何を言われても仕方ないよな・・・と思っていた俺にマリアはさらに続ける。
「お願いがあるんだ。この壁が壊れたら私は嬲殺されてしまうだろう。でもツバサが逃げることはできると思うんだ。だから何としても逃げ延びて生き続けて。そうすれば君が生きている限り私の死も無駄にならないだろう?たったさっき出会ったばかりの私に君が命を懸ける必要はないよ。二人とも死んでしまう意味もね。」
そういって微笑むマリア。とても綺麗で透き通った儚い笑顔だ。ああ、この土壇場で心が強いのは彼女の方だったのだろう。未だに殺す覚悟も殺される覚悟も定まらず、彼女の言葉に抗えない魅力を感じている自分が居ることに反吐が出る。何の涙か分からないが次から次へとあふれ出してきていた。
「自分の最期に人がいるっていうのは今の時代的にはいいことなんだろうけど、それがぼろ泣きしている同年代男子ってのは私くらいかな?酷い顔をするだろうから見ないでくれたらうれしいな。」
茶目っ気たっぷりにはにかみながら言い切るマリア。光の壁は点滅を始め今にも消え去ってしまいそうだ。この期に及んでまだ震える手足。だが時間は待ってくれない。光の壁がついに上から空気に溶けるように消えていく。
「バイバイ、ツバサ。」
そういった彼女の目からは涙。声は震えていたが鮮明に聞こえた。その向こうでゴブリンが笑い声を上げながら剣を振り上げていくのが見えた。




