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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

最強を目指した剣士がエルフの少女に転生して再び最強を目指すお話

作者: 笹 塔五郎

 この世界には《災厄》が存在する。

 嵐や地震、大雪などもその一つに数えられるが、もっとも有名な《五つの災厄》がこの世界にはあった。

《黒騎士》と呼ばれる災厄は、その一つである。

 漆黒の鎧に身を包み、赤黒い《魔力》を噴出しながら大地を闊歩する。その者が森を歩けば、周囲の木々は枯れ果て、地面は腐食する。

 小動物であれば近くにいるだけで命を奪われる――そして、人間であれば《黒騎士》の視界に入った時点で死が確定する。

 一つの町に入れば、その町はただちに放棄しなければ全ての人間が殺されるというほどの存在。それがいつからこの世界にいたのか分からない――だが、間違いなくそれは災厄と呼ばれる存在であった。

 そんな《黒騎士》に挑もうとする者もまた、決して少なくはない。命知らずな冒険者や、国を守る使命を背負った剣士もいる。

 男――アール・フレイズもその一人であった。

 剣の道に生きて三十年。数多の剣客と戦い勝利してきた彼は、やがて《災厄》を打ち倒すという大きな目標を立てた。

 それは決して、正義感からくるものではない。自らの限界への挑戦――そこが死地になるなど疑いもせずに、剣士として最強でありたかったのだ。


「――ふはっ、それで、このザマ、か」


 自嘲気味に、アールは笑う。

 左腕はすでに斬り落とされて、大地と共に腐食している。《黒騎士》の持つ《漆黒の長剣》が、彼の身体を切り刻むたびに、命の削られる感覚を味わった。

 戦いが始まって数十分――これほど長い期間、《黒騎士》の前に立っていた者はアールをおいて他にいないだろう。


「だが、まだだな。まだ……俺は負けていない」


 震える手で、剣を握る。

《黒騎士》がそれに呼応するように、剣を構えた。災厄と呼ばれる存在だが、剣で戦うことに関しては、どうやら応えてくれるらしい。

 なるほど、それならば腕に自信のある者が挑むのも理解できる。この世界において、最強の剣士は間違いなく目の前にいる《黒騎士》なのだ。

 それが《魔物》か、あるいは《神》か――それをアールは理解するつもりはない。

 ただ、己という剣士と目の前にいる剣士の、雌雄を決する戦いに挑むだけだ。


「いくぞ、《黒騎士》。俺は、お前を斬る」


 はっきりとそう宣言して剣を構える。

《黒騎士》が動き出し、アールも地面を蹴った――お互いに振るった一撃。アールの剣はへし折れて、身体を切り裂く。痛みよりも何よりも、敗北したという事実を実感させられた。

 だが、アールはそれでも心の中に願う。


(俺は、まだ……)


 戦いたい――これほどに強い存在を相手にして、手も足も出ずに敗北した。

 もっと上にいけるはずだった。《最強》の存在に、なりたかった。


(俺は――)


 地面に倒れ伏し、身体が溶かされていくのが分かる。

 闇の中に意識を呑み込まれるように、やがて静かに眠りについた。


   ***


《エルフ》という種族は長命で知られ、同時にとても希少価値のある存在だった。

 森の奥地で静かに暮らしているというが、広大な森でその存在を発見することすら難しい。

 そんなエルフを前にすれば、非合法だったとしても手に入れたくなる――傲慢な貴族の性というものが、そこにはあった。


「傷つけずに捕らえよ。私のモノにするのだからな」


 偉そうにふんぞり返りながら、馬車に乗った貴族の男がそんなことを言う。

 その視線の先にいるのは、一人の少女。

 特徴的に尖った耳。銀色に輝く長髪。

 可愛らしい顔立ちをしているが、周囲に立った男達への視線はどこまでも冷たい。

エルフの少女の名はリア・ウェンドルフ――腰に剣を下げて、周囲の様子を窺いながら、彼女は小さく嘆息をした。


「はあ、相手にするだけ無駄なレベルしかいないな」

「なんだと……?」


 反応したのは、リアを取り囲む男の一人。貴族の男が雇った傭兵なのだろう――屈強な身体つきをしているが、どれもゴロツキという言葉の方がよく似合う格好であった。

 安く雇っているのか、金があってもそういうところまでがめついらしい。

 リアにとって、貴族は別に嫌う存在ではなかった。だが、最近は違う――こうして姿を見せるたびに、性根の腐った連中が釣れてしまうのだ。


「傷つけるな、と聞いて強気に出たか? お前はこれから買われる人生にあるんだ」

「買われる、か。別に私の目的を達成した後であれば、それは構わない」

「目的だと? エルフが森の奥地から出てくるということは、大抵何かしらの理由がって追い出されるものだと聞くがな」

「そうだな、私もその一人だ――」


 ヒュンッと不意に風の切る音は響く。

 傭兵達がそれに気付いたのは、リアがいつの間にか抜いた剣先から滴り落ちる鮮血を見てからだ。


「――」


 先ほどまで話していた男の、首がずるりと落ちる。ざわつく傭兵達に対して、リアは変わらず冷酷な表情で言い放つ。


「血の気が多すぎる……そんな理由で村を追い出されたよ。だが、私にとっては丁度いい。《黒騎士》ともう一度戦うために、私はもっと強くならねばらないのだからな。まあ、お前達は肩慣らしにもならないだろうが……私の邪魔をしたんだ。その命は置いていけ」


 どのみち屑なのだから、と付け加えて、リアは剣を振るう。

 地面を蹴ってすり抜けるような一撃。その間に斬った男の数は三人。

 次いで、踵を返して再び剣を振るう。あっという間に、リアを囲った傭兵達は地面に倒れ伏した。その勢いのままに、リアは馬車の上に乗って貴族の男の首元に剣を突き付ける。


「ひっ、お、お前……エ、エルフの癖に。な、なんだ、その強さは……!?」

「エルフの癖に? 別に、種族自体が平和主義なだけで、元々人間に比べたら身体能力も魔力も高い――鍛えれば、誰よりも強くなる存在だ。ふっ、実にいいものになった」

「な、なん――くべ」


 リアは男の返答を待たず、喉元を剣で貫く。生かしておいてもメリットなどないだろう。

 今男の持っている金目のものと馬をもらって、リアはその場を後にする。

 彼女には前世の記憶がある――かつて《黒騎士》と戦い、成す術もなく敗れ去った剣士の一人。願ったのは、もう一度生があるのならば、今度こそ奴を斬るという、妄執にも近い願い。

 そんな願いが、エルフの少女に転生したことで再び叶える可能性が出てくるとは、まったく思いもしなかったことだ。

 だが、別にそんなことはどうでもよかった。今はとにかく力をつける。以前はまるで歯が立たなかった災厄を殺すために、リアは再び最強を目指す。

 ――やがて《銀姫》と呼ばれるようになる彼女は、誰よりも英雄として名を馳せ、英雄にもっとも遠い存在となっていくのだった。

久々?のTS短編です。

TSエルフちゃんが最強を目指して望んでもいないのにやってくる悪者を斬りながら、自身がかつて敗れ去った本当の最強を打ち倒す感じのプロローグです。

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― 新着の感想 ―
[一言] 連載期待してます。
[一言] これも連載したら読んでみたいですね
[良い点] 血の気が多すぎて追い出されたってところにシビれました! ぜひ続きが読みたい! [一言] ・・・ところで触手系の魔物は出てきますか?(ゴクリ
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