七話「助けた者を街に届けるのはテンプレ?」
巨大な何かが自分を覆いつくそうとしていた。
何かは段々と大きくなり、自分では対処が出来ないでいた。いや、そもそも体が動かない。
それでも何かは自分を侵食していき、激痛を引き起こす。激痛から逃げることも出来ず、段々と、じわじわと侵食されていく。
手足の先から体の中心に向かって………身体を飲み干すと、最後は頭だけになる。そして、頭さえも侵食されて……。
意識が浮上すると、ガバっと身体を起こす。
「ハァハァハァハァハァハァ…………な、何が」
悪夢を見たように呼吸が荒い。しかし、あれが夢だったと思えば次第に冷静になっていく。
女の子は柔らかい毛布に包まっていたのだと理解した。辺りを見渡せえば、夜空にはお月様が地上をシンシンと照らしている。
そんな中、この辺りだけが以上に明るく暖かい。くるっと首を回すと焚火があった。その横には簡単なマントを来ている細い男の人……。
そうだっ!!ドラゴンは!!?
あれ?全身火傷で動けなかったはずの身体が軽い。
何が起こったの?
と、ここまできてようやく女の子は眠る前の状況を思い出した。
ドラゴンに襲われた。そして、理不尽に奪われる命に憎しみを覚えて……それでもやっぱり勝てなくて、もうダメだって思った時にあの人が現れて……。
私は助かったの?あっけなく誰かに救われて………。
とりあえずお礼を言わないと、と女の子は毛布の中から抜け出す。途端に肌寒くなるが、焚火に近づくとじんわりと身体に浸透してくる。
男の人は読書をしてした。焚火を灯りにして、見たこともない文字ととてもきれいな状態の本を読んでいた。
男の人はとても集中しているのか、私が近づいても本から目を覚まさない。
「あ、あの……」
「ちょっと待って、今良いところだから」
「は、はい?」
何と、男の人は女の子の存在に気づいていました。
待つこと数分、ようやく男の人は本に栞を挟むと、本を虚空に放り込んで消しました!!?
「あ、あの……本が消えて……」
「アイテムボックスだ。こっちでは……収納魔法に似たようなものだ」
「あの収納魔法ですか。魔法使い様はとても魔力のある方なのですね」
村では沢山の本を読んだことのある女の子。多分、村の同世代の中で一番読んでいたと自負している女の子は、収納魔法の事は知っていました。
使い手が魔法使い1,000人の中で一人居るくらいというほどレアなスキルです。
「その、この度は助けて頂いてありがとうございました」
「気にしないでいいよ。助けられるから助けただけだから」
呆気ない言葉です。命を助けて頂いたのに、何の見返りも求めない。
女の子は男の人の言葉に言葉が出せません。
「それよりも、身体の調子はどう?一応治っているはずだけど……」
「えーっと…………あれ?酷い火傷だったはずじゃ……もしかして貴方が治してくれたのですかっ!!?」
「そう言ったんだけど……。この様子だと大丈夫だな」
女の子は目を開いて驚きます。ドラゴンを討伐できるほど強力な魔法を持っているだけでなく、高位の神官様にも引け取らない回復魔法の使い手、レアスキルの収納魔法を本と言う嗜好品の為に使っている。
これはとんでもない方に救ってもらえたのかもしれません。
女の子はただただ、自分を救ってくれた男の人に対してキラキラとした目を向けるのであった。
お腹が空いているだろうということで、ツカサはアイテムボックスに溜めている料理を取り出して女の子に分け与えた。
回復魔法をかけたからと言って、回復に少なからず自分の体力を消耗するはずだ。ご飯を食べたらある程度回復するだろう。
「わぁ!!ごはんまで!!出来立てですけど、食べてもいいのですか!!?」
「勿論。いくらでもあるから、食べたいだけどうぞ」
「助けて頂いただけでなく、食事まで………ありがとうございます」
「き、気にしないで……」
余ほどお腹が空いていたのか、ツカサが取り出す料理を片っ端から食べ尽くす女の子。
ツカサは元の世界に残してきてホノカを思い出しながら、その様子をじーっと見つめる。
「あの?私の顔何かついてますか?」
「あ、ごめん。つい彼女に似ていたから……」
「彼女さんですか……きっとその方も素晴らしい方なのでしょうね!」
ツカサの彼女というだけで素晴らしい認定。女の子はそれほどまでにツカサの事を信頼しきっていた。
まだ出会ってから一日も経っていないと言うのに……。命の危機を救ったと言うフラグがあるにしても、少々懐かれ過ぎではないだろうか?
女の子食べる勢いが落ち着いた頃、ツカサは隙を見張らって自己紹介をする事にした。少なくとも名前だけでも交換していた方がいい。
「えーっと、自己紹介がまだだったな。俺は『易波司』面倒だからツカサでいい」
「ツカサ様……ツカサ様…ツカサ様ですね!!わかりました!!」
「様はやめてくれ。そこまでのじゃないから」
「私にとっては恩人様ですが…………では、ツカサさんで」
「まぁ、そっちのほうがありがたい」
何度も復唱し、絶対に忘れないでやるっ!!という意気込みを持つ女の子。様付けで呼ばれるのはこそばゆいツカサであった。
女の子に「やめてくれ」と言ってどうか「さん」で落ち着いた。これが妥協点だろう。
ツカサは自己紹介を行った。ならば、余程の物知らずでなければ、今度は女の子の番なのは必然だ。女の子は箱入り娘だったらが、常識を知らない程世間知らずでは無かった。
「改めてもう一度、助けていただいてありがとうございます。私の名前はテーミスです。村の皆はテミと呼んでいましたので、どうぞテミと呼んでください。それと……暗くて分かり辛いかも知れませんが、犬の獣人族になります」
「テミね。分かった」
「…えっ?」
ツカサは何でもないように女の子ーテミに返した。それにテミは少しだけ驚く。
今でこそ人族の友好を結んでいるが、大昔の対戦では敵であった種族の一つが獣人族だ。今でも人族以外の種族を嫌って居る者は存在しているし、それでも人界では他族は珍しい。奴隷商会に身を売って荷台に乗せられた時でも、蔑んだ目線まではいかなくても、奇妙な物を見る目で見られていた。
しかし目の前の恩人はどうだ?普通だ。至って普通。種族が違うのに何も変わらない。どうして?
驚きと、ちょっとした恐怖が湧いてきたテミはツカサに尋ねてみた。理由が知りたかったからだ。
「あの、どうして怖がらないんですか?」
「怖がる?何で?」
「何でって……馬車に乗っていた時は皆さん私を変な目で見てましたし、村でこの姿は人族の方には奇妙に見えると教わりました……だから…」
「だから俺もそうだと?」
「……はい」
至って普通の反応をしただけなのに、逆に奇怪な物を見るように怯えられるツカサ。内心で少しだけ傷ついていた。
ツカサは村では常識だった反応を待っていたテミに、ため息をついた。深く深くだ。呆れもある。
「俺は人族でないからといって蔑んだりしない。寧ろ敢えて嬉しい…かな?」
「嬉しい……。ツカサさんは身分や種族なんか気にしないんですね。ほっとしました。自分を助けてくれた人が、こんなにもいい人で」
「……そうか」
納得したテミを見て、ツカサは昔の事を思い出した。
ツカサがこの世界の普通の人みたいに、他種族を見ても何も思わないのは、一際に一度目の異世界生活が関与している。
一度目の召喚でドワーフ、エルフ、獣人族、魔人族、と色んな種族を見てきた。どれも、異世界を夢見ていた時に憧れだった存在だ。
そんか彼らを見て、興奮することはあっても蔑んだり、奇怪な物を見るような目で見ることはない。
寧ろ嬉しい。獣人族と言ったらケモ耳やモフモフがお約束。テンプレに則って、触りたいと思っているが、ホノカ以外の人物を触る事を嫌っている異常な気持ちが邪魔をしていた。
さて、自己紹介も簡単だが終わった。次にすることは、予定確認だ。報連相。これ大事。前回の召喚で嫌というほど味わったことだろう。
「じゃあ…今後の確認なんだけど」
「はい!!」
「クイホンって街、知ってる?」
「……すみません。村から出たことなくて……」
ツカサの質問に答えられないテミはシュンと犬耳を畳む。獣人族は耳や尻尾で感情が分かり安い。
ツカサは知らないなら……と思考を巡らせていく。そして、決断が出たのかテミに報告だ。
「よし。先ずは一番近い町か村に向かう。そこで何かしらの情報を集めてクイホに改めて出発」
「あの、クイホンで何をされるのでしょうか?」
「ん?テミを奴隷商会に引き渡すのさ」
「………え?」
クイホンでの用事を聞いて、テミは呆然とする。
悪い人ではなさそうだったのに……。それなのに自分を売るというのだろうか……。
呆然としているテミを見て、ツカサは焦った。これは自分が悪い。言い方の問題だろう。
これではまるで、助けた者を売り払う悪人みたいではないか。急いで弁解を解く。
「ご、ごめん。言葉を間違えた」
「……」
「一応俺が助けたんだけど、テミはまだ奴隷商会の商品だ」
「……そう、でした…」
「だから、クイホンにある奴隷商会に届ける必要がある。分かった?」
「……はい」
沈黙が場を支配する。
テミは絶望の中に叩き落とされた気分だった。
変わらない日常が盗賊によって奪われ、何も出来ない自分を拾って(買って)くれた奴隷商会もドラゴンによって蹂躙された。
でも、そこで奇跡に出会えた。生きたいと死の淵から心から願い、あっけなく奪われる寸前に出会えた奇跡。
テミはそれだけで堕ちていた。彼と一緒に居たい。別れるなんて嫌だ。
村で読んだ物語のヒーローの様に自分を救ってくれた。これは運命なのだろう!!
心臓がドキドキして止まらない。この感覚はなに?
テミは堕ちていた。物語のヒロインに憧れるテミに、ドラゴンという災悪からの救出は簡単にテミを堕とさせる事が可能であった。
夢見るテミ。彼女は知らない。自分に芽生えた感情が何のかを。
自分が何をしでかしてしまったのかを。
「あの…ツカサさんはどうして危険な夜道を歩いていたんですか?」
夕食を食べ終え、空になった容器を消したツカサは、本を読んでいると隣から声がかかってきた。
沈黙に耐え兼ねて絞り出したテミの質問だ。
「危険ね……」
「あ、いや。あのドラゴンさえ倒してしまうようなツカサさんに取っては全然危険ではないと思いますが……」
「いや…俺がこの世界で規格外なのは分かってるからいいよ。えーっとその答えだけど、ある場所から逃げ出してな……少しでも遠くに行きたかったんだ」
「逃げ出した……」
ありのままではないが、かなり真実に近い事を話と、テミは「逃げ出した」という言葉に反応した。
ドラゴンを討伐できるほどの強さと言い、逃げ出さなければならない事がある。と言うツカサに疑問を抱いたのだ。もしかしたら、犯罪者なのでは……?
「ごめん。犯罪者じゃないから安心して欲しい。ちゃんとインデックスを見せて街に入れるから」
「ですよね~!!ツカサさんが犯罪者なんかじゃありませんよね!!」
「で、目的というか、今後の予定はとりあえず世界中を旅する?かな」
「旅ですか……何かお探しなので?」
「まぁそうなるな」
「そうですか……」
明らかに落ち込む様子を見せるテミに、ツカサは何も言えない。ホノカや元の仲間で会話能力を鍛えたツカサであったが、つい数分前に自己紹介を行ったばかりの相手と仲良くなれるほどの能力を獲得はしてない。
気まずくなったツカサはアイテムボックスから本を取り出して読み始める。やはり読書は自分の世界に入り込めるから好きだと思う。
一方でテミはと言うと。
(わ、私が話題作りしないから、ツカサさん読書に入っちゃった!!?)
心の中で物凄くてんぱっていた。
ツカサの事を知りたい。しかい、テミは元々箱入り娘で友達と会話するときも友達の方から話題を降っていた。自分から話題作りという物をした事がない。
故に言葉が出せないままに慌てているのだが……。
(何か話題を……でも、読書の邪魔をしちゃったらいけないし…)
自分も読書をする事が多かったからか、他人の読書を邪魔することはとても悪い事だと知っている為、中々声をかけにくかった。
だが、自分も読書好きというのが功をなして、一つの話題を思いつく。思いつくと同時に、自分でも思っていなかった声が零れた。
「この本……」
「……ん?この本がどうかした?」
「あっ!」
話題……気になった事が声に出ていたと知った時はもう遅い。ツカサの耳にもキチンと入っており、逆に気に気になったツカサが聞いていた。
テミはツカサの読書を邪魔したことに申し訳ないと思うと同時に、ツカサと話せることを歓喜する。
感情を出来るだけ抑えようとしても笑みが零れてしまう。それでも、変に思われない様に努力しながら話かける。
「あの、その本ですけど……とても綺麗な本ですね。書いてある文字も見たことない文字です。人界語ではありませんよね!?」
「人界語……あぁ、そういう事」
人界語。それは人界で共通的に通じる言語の事だ。
人界にもいろんな国、地域、部族による言語があるが、この人界語だけは人界では共通の言語に当たる。
元の世界風に言い直せば、英語がそれに当る。ただ一つだけ元の世界と違う点を述べるとすれば、人界で生まれた者ならば学ばなくても修得している点だろう。
元の世界ならば、英語が第一世界標準語として学校で習う。が、それでも覚えられない人や覚えようとしない者が居て、英語が国語でない国では習得できてない者の方が少なからず存在している。
だが、この創作世界の人界語は格が違う。人界神ビエントルナー様の守護により、言語を理解出来る年齢になると、人界語に限って脳に刻まれる。故に人界語は人界に住む者の共通の言語なのだ。
もっとも、話せる聞き分けられる、と言うだけであって、実際に文字が書ける読める、かは別であったが……。
その人界語とは全く違う言語で書かれている本に、テミは非常に興味を持った。ツカサが読んでいる本だから……という理由も無きにしも非ずだったが……。
やがてツカサは考えがまとまったのか、テミの質問に答え始めた。質問を質問で返しながら。
「……この文字は普通の人には読めないんだな」
「はい。人界語ではありませんし、獣人族に伝わる文字でもありません。というか、この本とても綺麗な状態ですね。紙質も何だか見たことない感じです」
村での過ごし方の大半が読書だったからこそ気づける違いである。
普通の村民なら、高価そうな本とは分かっても、それがこの世界で既存の物とどう違うのかは理解出来ないでいただろう。
テミから指摘を受けて、ツカサはまた止まってしまう。思考の渦に入ってしまうのだ。
テミの言う通り、ツカサが持っている本は人界の物ではない。テミが読めないのも当然のことだろう。
ならば、何処の物なのか?元の世界の物?否、書かれている文字は元の世界で使われている言語ではない。
それそのはず。このアイテムボックスには一度目の異世界生活が終わってから一度も開かれてないのだから……。
もうここまで来れば大抵の予想は着くだろう。そう、ツカサが持っている本は前回の時に買った本なのだ。アイテムボックスの中は時間が止まっている為、中に入っている物は劣化しない。そのおかげでツカサのアイテムボックスの中には大量のアイテム、装備品、素材、その他生活用品、生きる上で最重要な本が、魔王を討伐した時のそのままの状態で残っているのだ。
故に、この本は現在のこの世界では古代文字と呼ばれる物で書かれている本。
テミが読めなくても全くもっておかしくはない。むしろこの本が公になると、困るのはツカサの方だ。
全界大戦時代よりも昔も文明の物はとても貴重な物として扱われる。
それは、人界の文明は幾度なく崩壊し、人々の記録から失われてしまったものだからだ。
今でこそ中世ヨーロッパ風の文明まで発達しているが、そこに来るまで数千年もの時間を必要とした。
どれ程の被害を被った戦争なのか、この文明崩壊の文字だけでも分かるだろう。それが、人間だけでなく、複数もの世界に生きる生命全てを巻き込んだ戦争だと伝わっているなら、なおさらの事。
この世界に二度目の召喚されてから、本を読みまくって情報を集めていたツカサは、以上の情報を入手することなど容易い事。
そして、その情報から手に持っている本の重要度がどれほとのものか理解できる。
たしか、元の世界の小説でも似たような内容の本があったなぁ…と記憶を思い出す。二度目に渡った世界では、一度目で手に入れていたアイテムがとても貴重な物に様変わりしていた、という設定だったはず。
似ている。似ているどころか、丸っきり同じ場面だ。
ツカサがその時の対処方法を知らないわけがない。
「そうなのか……。まぁ俺には関係無いけど」
「では!!それを何処で手に入れたか教えてもらうわけには……。ほら!!私も結構な読書家ですので気になると言いますか……」
「……まぁ秘密だ。教える義理は無いしな」
「そうですか……」
こう言った時は何も言わない。ぼろッと情報が零れるのを防ぐためでもあるし、単に答える義理も無い。
だからツカサはテミに何も教えない。自分の事がばれる可能性は出来るだけ抑えるのだ。
………ドラゴンを無傷で倒せれる人物が普通なはずはない?だからといってわざわざ実力を隠して死ぬ目に会うのは違うはずだ。
ようは、その時は厨二さんが顔を覗かせており、そこまでの考えに至らなかったわけだ。
逆に軽くあしらわれたテミはシュンと落ち込む。
せっかく話のネタを見付けられたのに、特に広がらずに終わってしまったからだ。
しかし、強く我儘は言えない。助けてもらったのはこちらだ。町まで保護して貰えるアフターサービス付き。
何も言えない。これが、無邪気な年頃だったなら話も違ったかもしれない。が、テミは現在15歳。
ある程度の良し悪しは分かっている年頃だ。世間様では既に成人も迎えている。故にツカサの雰囲気を読んで話を続けられない。
場は沈黙が支配する。
パチパチと薪が燃える音が鳴り響く。静寂な夜だ。
普通の者なら夜は最も警戒するべき時間帯である。
お月様によってある程度照らされているが、太陽神様や日光様に比べると少なすぎる。だから夜なのだ。
夜とは善の象徴でもある朝の反対である悪。それが最も栄える時間帯。夜型のモンスターが活発になり、獲物を探す時間帯でもある。
灯りも少なく、目が効きにくい。普通の人間ならそうであって、だからこそいつも以上に警戒する。
しかし、ツカサの付近にはモンスターなど近づくわけがなかった。
それも、ツカサが辺りに小さな獣避けの結界を張っているのと、ツカサ自身が抑えずにいる気配を感じ取ったモンスターが本能的に逃げているからだ。
だから静寂な夜が訪れているのだ。
そんな静かな夜だからだろうか?
テミは見た目以上の焚き火の暖かさによってすぐさま意識を手放す。
無理もないことだろう。今日一日で色んな事が起こり過ぎた。
独りぼっちになり、奴隷商会の馬車に拾われる。ドラゴンに軽い地獄を見せられ、それに抗う為にまさしく死ぬ間際の力を振り絞った。それでも届か居ない生に、手を差し出して助けてくれた恩人に出会った。
ツカサが回復魔法をかけたと言っても、精神まで回復する訳ではない。だからか、起きたばかりでも直ぐに疲れ寝た。
この場が地面である事を全く気にしないでゴテンと寝た。
「あんまり触りたくないんだけど……」
いつまで経っても他人との接触に慣れないツカサに、今日会ったばかりの15歳の女の子を触れと言って無理であろう。
だから、多少面倒でも魔法を使ってテミの身体を浮かせることにした。
使っているのは勿論イメージ魔法。テミを浮かせるイメージを行うだけでいい。自分以外の生物を(特に人間)を浮かせるには無意識のうちにはできない。これでも成長した方なのだが……。
浮かせたテミを、それまで寝かせていた場所に移動させて毛布をかける。よし、これで風は引かないだろう。
任務を無事に達成したツカサはほっと一息。
そして、アイテムボックスからジュースの入った瓶を取り出す。これも教会本部からくすねてきたものだ。
元の世界のものよりも味が好みではないが、少なくてもその辺で売られている物よりはマシな物。それをグイッと一気飲み。
昔よりも普通に飲食を取るようになったもの彼女の影響だ。現実世界ではお金の心配がある為、彼女の前以外ではまだまだ厳しいツカサだが、この世界は元の世界と違ってお金を稼ぐ手段が簡単すぎる。
その辺のモンスターを適当に狩って冒険者ギルドに持っていくだけ。前の様に冒険者カードがあるのかは知らないが、似たような感じで残っているはずだろう。少なくとも、冒険者と言う概念が残っており、そこで討伐したモンスターを買い取っている事は協会で調べた。
パチパチ、パチパチと燃える薪をぼんやりと長めながら、ツカサはため息を吐いた。
元の世界に帰る為の旅の初日にして女の子を拾った。余りにもテンプレ過ぎる。……これはフラグなのでは?と思い始めるも、そんな考えをしていると余計に考え通りになってしまうぞ。と考えるのを辞めた。
これ以上本を読む気にもなれず、見張り番とはか結界のお陰で無意味だろう。そのまま寝ることにした。
水魔法を発動して焚き火を消化した後、アイテムボックスから寝袋を取り出してそれに包まる。久しぶりに魔法を多様したせいか、精神的な疲れが溜まっていたらしく直ぐに意識は夢の中に沈んでいった。
こうして旅の一日目は終了した。
誰も伝えずに抜け出した協会本部では数時間後、「お使い様が一人消えた!!!」と大騒ぎになことも人知れず、ツカサは夢の中を堪能する。