四話「準備は整った」
「準備運動終わり!各自訓練に入れ!!」
場所は、ツカサ達召喚者が住んでいる教会が所有している訓練地。ここはルナー教専属の聖騎士が訓練を行なっている場所だ。
聖騎士とは教会信者による騎士団で、高位の司祭様の護衛や異教の討伐、神の敵である魔族を殲滅させるために存在している組織である。
ツカサが一度目に居た時は聞いた事のない組織なので、魔神討伐後の長い歴史の中で生まれたものだろう。役割としても、テンプレ通り。世界的な武力実権を握っている訳でもなかった。
話は戻る。何故ツカサ達がこの様な場所にいるかと言うと…
「皆様、本日は理論ではなく実際に魔法を発動させてみましょうか。スキルがあるので大丈夫だと思いますが、大切なのは制御です」
細身の男がツカサを含んだ数名の召喚者に向かって話していた。
彼はルナー教聖騎士団魔術部隊長であり、名はエリック・ルパーソンという。召喚者の中でも、魔術師系の適正がある者の担当となった人だ。
実力は人界ランキング第20位で、かなりの上位。全属性に適正を持っていて上級魔法も扱える凄腕魔術師。
まぁ、人界ランキング第2位であるツカサからすれば20位は格下も同然なのだが。
ツカサが居るのは訓練地だ。目的は訓練をするため。
何故?と問われると、召喚された目的を達成させるために教会側が用意したから。要するに、魔王の復活を阻止する為には幾らでお使い様でも訓練は必要だよね?なら用意するから頑張って強くなってね。的なテンプレ展開が起こっている訳だ。
初回訓練は座学で、この世界の事やステータスの説明を受けた。2回目は基礎訓練で、体力作りみたいな事色々とやらさせて、3回目の今に至る。適正の職業毎に分かれてそれぞれの特徴を伸ばす事が今後の方針。
前回のステータスが引き継がれているツカサは、スキル『ステータス偽造』を使って誤魔化しているものの、ある程度周りに教える必要があった。適正職業などが当たる。
全く方向性の違う職業を言ってなんやかんやなるよりも、嘘偽り無く魔法使いと報告した。レベルが高いだけで、こちらが気を使って手加減すればバレないと思ったからだ。
「……怠ぃ~」
ツカサはエリックが一人一人教えているのをボーッと眺めながら呟いた。というのも、情報集めのためにまだ教会から離れて居ないが、今更戦闘訓練など意味をなさない。と余裕を持っているから。
エリックが担当する者たちでツカサ以外が自主的に練習している間、ツカサは教えて貰ったことを復習する。
初回訓練で教えて貰ったのはインデックスに付いて。
インデクスというのは、目録という意味がある。目次の様なものだ。
元の世界では目録と言う意味があるのだが、この世界では意味が無いらしい。インデクスはインデクス。それ以外に意味があるのか?とオリーティアは言っていたことから、スキル『言語理解』が元の世界の言語に当てはめているものだと推測する。
インデクスには基本的には本人しか見ることが出来なく、特殊な機械かスキルを使ってしかそのデータを覗くことは不可能ならしい。
要するに、適正職業やレベル、スキルにステータスは自己申告。ステータス偽造を持っていると言えど、助かった。
基本的には自己申告なら、街に犯罪者が難無く侵入する事が可能ではないのか?と思うが、そこは異世界らしく、街に入る時に調査されるらしい。と言っても、犯罪職ではないかを調べる程度の事だ。
最後に、機械やスキルを使わなくても正確に知ることが可能な手段がある。それは本人が見せる相手に許可を出せば見ることが可能だと言う。
それを知った時、召喚者全員がお互いにインデクスを見せ合っていたのは記憶に残っている。ツカサ?勿論、スキル『ステータス看破』を使って覗き見をしまくっていたが?
『ステータス看破』を使ったのは、単に好奇心だけでない。この世界の人、同じく召喚された者がどの程度のレベルなのかを調べるためだ。
結果分かったのは如何に自分がバケモノレベルだということだった。
教えて貰った情報を基に、整理していった結果、
数値が1,000だと一般人。冒険者や兵士などの鍛えている人は5,000。10,000になると、人界ランキング1,000位以内に入っている者。
歴代最高値は、人界ランキング15位の剣聖。全てのステータスが50,000は超えており、物攻と物防は100,000を超えているらしい。
ツカサは魔法使い集中型なので、一部ステータスが兵士と同格なのは仕方ないにしても、他のステータスが桁を余裕で超えている。
人界ランキングでも圧倒的に上。とりあえず、自分がおかしいことは分かった。
肝心な召喚者のステータスだが、レベル一の時点で基本値5,000。勇者の高崎に至っては10,000付近だ。ステータスを見た教官が歓喜していた。
数値の設定は分かった。次にLevelだ。
MaxLevelはなく、上に上がれば上がる程ステータスも上昇していく。
ツカサ以外の者は全員がLevel1で召喚されており、将来が楽しみだと言っていた。いずれ全員が1,000位には入るだろう。
ツカサのLevelは、前回の異世界召喚時に倒した敵の経験が入っているから可笑しいだけ。そりゃあ、魔族数百人に幹部数人、魔王に魔神。カンスト機能があったら絶対にカンストしているよなぁ。
普通に生きているだけの人はLevel20くらいが最大値で、冒険者や兵士などの戦闘を生業としている者は最大で100近く。もっと上のエリックや剣聖(笑)は1,000を超えたくらい。
伸び方は人によって異なり、目安も分からない。が伸びないということは有り得ないらしい。
ツカサのLevelは5,000越え、単純計算で一般人の250倍。一番強いらしい剣聖と比べても5倍以上。
ただし、Levelが高いと強いのは確かだが、人によって物差しが違うらしく、単純に高い方が強いわけでないらしい。
では誰目線での物差しか?と問われると、生きている者のステータスを作っている神様だそうだ。
ボーっとして、これまでの内容を振り返っていると、エリックがツカサを呼んだ。如何やら出番が来てしまったらしい。
「次、ツカサ君行こうか」
人の良さそうな顔をツカサに向けるエリック。
ツカサとしては、戦闘に関しては嫌というほど実践済みなので、エリックには悪いと思うが、どうも気合が入らない。まぁ、ツカサが気合を入れて望む場面なんか来ない方がいいのだが。
「じゃあまずはスキルを発動してみようか」
「あ、はい。水でいいですよね」
「うん。スキルを持っているなら問題なく発動できる。水属性初級魔法だったら、『ウォーターボール』がいいなか?さ、やってみて」
スキルの発動は簡単だ。前提条件としてスキルを持っている事。
水属性初級魔法を発動させようとしたら、まず、『魔法適正』を持っていて派生の『水属属性適正』からの『初級水属性魔法』が必要。
『初級水属性魔法』を覚えたら後も行うことはある。詠唱だ。ツカサの場合は『無詠唱スキル』を持っているので必要ないが、普通は必要ならしい。
この辺りは一度目の世界と変わっていないと、ツカサは思った。そこも注意して、ツカサは詠唱を唱える。
「我此処に在りて水の精よ応えたまえ、我がマナを喰らいて此処に清らかな水の玉よ 『ウォーターボール』」
「おぉ!!一発目で成功とは凄いね。どうかな?慣れて行けそう?」
「えぇ、まぁ何とか……」
感心しているエリックに歯切れの悪い返事を返すツカサ。何故なら、ツカサは慣れた動きで魔法を放ったからだ。
イメージ魔法。それがツカサの能力。イメージするだけでそれが魔法として機能するチート能力。
昔は一々イメージしなければいけなかったが、今では無意識のうちに放つことが可能な魔法で、慣れるも何ももう慣れているからツカサは歯切れが悪くなってしまう。
ただ、この時は長ったらしい詠唱を唱えないとだめなのがネックだった。これでも『省略詠唱スキル』レベルのことをサラリとやり遂げており、エリックを感心させているのだが、ツカサは知る由もない。
その後も、幾つかの魔法を発動してエリックを感心させた後、ツカサの番は終わった。
後ろの方に下がって、ツカサは又もやぼんやりと他の者の訓練を眺める。
やはり高崎優斗が一番目立っている。
何かするごとに周りの物を驚かせていた。が、あいつほどではないな。とツカサはため息を零さずにはいられなかった。
他に目立っている者と言えば、女子のリーダー格たしか名前は……媛蹈鞴伊須乃。飛行機に一緒に乗っていた別高のリーダーだ。適正職業は魔術師。ツカサと同じエリックさんに指導を受けている。
他の人に比べれば、エリックさんの言う事以上をこなしている。チラッと聞こえた話だと、高崎優斗よりも魔力値や魔攻は高いらしい。
が、どちらもツカサからすれば、Cランク冒険者と同じくらいだった。二回目の訓練と言えども、これが限界では魔王討伐など到底無理だ。
ま、俺がCランク冒険者の時はワイバーンくらい一人で狩れたからな。多分、今まこいつらがワイバーンと戦闘しても、ギリギリの戦いになるだろう。
さてと、これからどうするか?どうやってこの街から抜け出してやろうか?
ツカサがそう考えていると、一人の女がツカサに近づいてきた。
「…………………」
「こんにちは。えっとお名前は何だったかしら?」
先ほど話題に上がった媛蹈鞴伊須乃だ。
この様な人気者であるスクールカースト最上位者が自分に話しかけてきたことに、ツカサは内心で舌打ちをする。
何でもこっちに来るんだよ!!リア充はリア充らしく高崎と絡んでおけよ!!
と言う思いとは裏腹に、名前を聞かれたからには反応しないといけない。したくないが、しなかったら雰囲気さんが真っ暗になる。
「……易波司です」
「エキバ君ね。私はヒメタタライスノ。苗字の方は好きじゃないからイスノって呼んでくれたら嬉しいわ。よろしくね」
はぁ、だから何の用でしょうか?イスノさん?
「で、そのイスノさんがどうして自分なんかに?正直言って自分は能力値普通ですよ?」
「そうなの?エリックさんとの訓練を見る限り、かなり高い能力値を持っている様に見えたんだけど?」
「まさか。こんなものですよ」
俺は疑われないように、『ステータス偽装』を使って色々と隠したインデックスをイスノさんに見せる。
エキハ ツカサ Level1 種族、人族
適正職業魔法使い
体力 4,500
魔力 6,454
物攻 5,463
物防 5,674
魔攻 6,316
魔防 6,646
俊敏 6,461
幸運 4,971
装備 見習い魔法使いのマント
スキル
『言語理解』『中級魔法適正』『省略詠唱』
殆どの能力値を平均レベルに、スキルは殆ど見えなくして偽造したやつだ。ツカサは教官の中ではこの能力値で通っている。
平均よりほんの少し高いだけの能力値だ。低すぎると普通よりも出来ているはずの魔法に怪しまれるし、下手に低いよりも少しだけ高い方が怪しまれないはず。そう考えてのステータス偽造結果だ。
「全部のステータスが平均レベルで、魔法使いだから魔力が高い………。別におかしな場所はないわね。ありがとう」
「あ、はい。もういいですか?」
ツカサはインデックスを消すと、イスノから距離を置こうと会話をぶった切る。
が、
「もう少しお話しましょう。私も魔法使いだから、色々と話し合える事があるでしょ?」
「話し合うって……。そう言われても別に話すことなんか………」
グイグイ寄って来るイスノに、ツカサは「うわぁ~めんどくさい奴に絡まれたわぁ~」と迷惑顔。
そのことに気づいていないのか、それとも気づいていて孤立気味なツカサに気を使っているのか、どちらかわからないが引かない。
ツカサの気分なんて知ったことではないとばかりに、マシンガントークを披露する。
「さっきの才能を見る限り、頑張れば高崎君率いる勇者パーティーに参加出来るかも?ってエリックさんは言っているわよ」
「さいですか」
「えぇ。勿論、私の方がステータスは高いから、補助メンバーとしての可能性が高いけどね」
人格者と言えばそうだけど、自分に自身があるタイプか。高崎と同じだな。
一回圧倒的強者と戦って負けると、心が折れてしまうんじゃ?
ま、俺からすればどうでもいい事だけどな。
イスノの話に適当に相づちを返しながら、ツカサはイスノの性格を観察していた。
と同時に、周りの視線も気にしていた。
イスノは女子グループのリーダー核だ。そんな人が男子グループでも底辺と話していると、色々と目立つのは当然だろう。
「何でお前が」「イスノさんは優しい」「ほら、最も嬉しそうにしろよ」などと言った声が聞こえる。どれもツカサを非難している声だ。
周りの視線に気付かないイスノは、最後までツカサに話しかけていた。
やっと解放されたのは今日の訓練が終わった頃だった。
「じゃあ、また明日ね。お互い切磋琢磨してていきましょう」
「…出来るレベルじゃないんだけどな」
「ん?何か言ったかしら?」
「別に。 明日があれば……」
ツカサはイスノから離れると、深いため息を吐いた。
もう茶番は終わりだ。
知りたいことはある程度調べ尽くした。だから、ここも用済み。
となると、
「後は自分の足で世界を回って見るか……。自力で帰れるならそれで良し。帰れないなら、魔王とやらをぶっ殺すだけだ」
今日でこの場所ともおさらば。今決めたことだが、前々から準備はしていた。
事前に知るべきことは大体教わった。なら、後は現地に向かって調べるのみ。
さて、どうやってこの場所から抜け出そうかなぁ?と考えていると、自室にたどり着いた。他の連中はまだ後ろ。ダラダラと歩くわけでもなく、サッサと歩くツカサが一番なのは当然だろう。
自室に戻ると、ポンコツなのか優秀なのか良く分からない専属メイドが出迎えてくれた。
「お疲れ様です、ツカサ様!お体を浄めますか?それともお食事にしますか? はっ!私とベットにゴールインしちゃいますか!!?」
「……お前、まだ三日目だっていうのに結構図々しいな」
このメイド、仕事は優秀なのに時折ツカサを狙って来る。
ツカサとしては彼女のお陰で大分マシになったのだが、それでも自分がモテる様な人だとは思っていない。
故に、どうしてそこまでこのメイド、オリーティアが自分に言い寄って来るのか理解不能だった。
健全な男子高校生としてはドキマキしてしまうのが正しい反応だろうが、生憎ツカサは彼女以外には行為を向けられても困るだけ。
受け止めてしまったが最後、ハイライトが消えた彼女さんに折檻される。別にそれが無くても複数人と仲良くなるなんて事はしないが……。
「体を浄めるっていたて、どうせ変な事でも考えているんだろ?それに俺には……『クリーン』っと、生活魔法があるからな。必要ない」
ツカサが『クリーン』と魔法を発動させると、一瞬だけ水で洗い流される感覚が体を襲う。時間にして一秒程。たったそれだけの時間で、訓練かいた汗がスッキリする。
一度目の召喚でも、終盤で役に立った魔法だ。中々お風呂に入れなかった時期、「小説では生活魔法ってあったよなぁ」とイメージして作ったオリジナル魔法である。
二度目でも問題なく使える。インデックスには『生活魔法』→『クリーン』という風に、キチンとスキルとしてはあった。勿論、専属メイドのオリーティアにしか教えていない。
結構オリーティアには実力をみせているツカサだが、それでも一部しか見せていない。上級魔法に創造魔法、転移魔法この辺は人族でも使える者が限られているので、当然の様に見せていない。というか、使う必要性がなかった。
「それじゃあ、お食事で宜しいでしょうか?」
「あぁ。今日はご飯をいつも以上に沢山用意して欲しい」
改めて指示を聞いてくるオリーティアに、ツカサは必要以上の量を頼んだ。
「ま、またですか?一体その体型の何処に入るのか非常に気になります」
怪しい目をツカサに向けながら、それでも命令をこなすオリーティア。メイドとしては優秀なんだけどなぁ。
ツカサは人並み以下しか食事を取らない。なら、何故必要以上の食事を要求しているのか?それは、
「食べれる分だけ食べて、残りはアイテムボックスに収納っと」
便利すぎるアイテムボックスを使っていた。
アイテムボックス。それは、ツカサが一度目に異世界召喚された時から使えるチート能力の一つである。
よくある異世界に必ずあると言っても過言ではないアイテムボックス。この世界にも当然存在していた。スキル『収納』、アイテム『魔法袋』という別なものであったが……。
収納スキルは使用者の魔力に応じて容量が変わり、魔法袋は誰でも使えるが容量が決まっている。ツカサのアイテムボックスはその二つの上位互換だ。容量は今まで上限に至った事がなく、中にしまっている物は劣化しない。自分が倒したモンスターは勝手にしまわれる。中にあるものはソート機能で並び替え完備、思っただけで出し入れ自由。効果範囲はツカサの半径数メートル。
何故この様なシステムがツカサだけにあるのかは、本人にも分からない。が、考えられる限り最高の収納系魔法だ。
話は元に戻る。ツカサの中に入れている物は劣化しない、という機能を使って食事を貯めこんでいるのだ。
これから毎日宿に泊まれるとは限らない。野営の経験も嫌というほどある。一々作るのは面倒だし、味も手を振って美味しいとは言えるものではない。
しかし、ここではプロの食事が食べ放題。それを利用しない手はない。なので、詰め込めるだけ詰め込んでいるのだ。
流石にお皿ごと消えるのは不味い。ツカサはその辺も考えている。
ツカサが使える『創造魔法』は創造できるものは何でも可能にする魔法だ。ならば、この世界では『錬成魔法』と呼ばれる魔法も再現可能。
錬成魔法なら無から物を生成するのは不可能。だが、創造魔法なら創造だけで物質生成も可能にする。
イメージしているのはタッパ。プラスチックで出来ている密封容器だ。この世界にないものでも、創造だけで作れる。まさしくチートの魔法だ。ただし、魔力が続く限り。
無からの創造は、普通の魔法使いなら一個作っただけで魔力枯渇で動けなくなってしまうだろう。だが、ツカサが一回目の異世界で得た経験値は莫大で、それだけ成長もしている。人外な魔力量が数百個単位での生成を可能にしている。
「失礼しま~す!!ってもう無くなっているし!!」
「あ、もういいよ。自分のご飯食べて来たら?」
何回目かの往復を終えたオリーティアに、ツカサは夕飯を進める。
が、オリーティアは当然拒否する。メイドがご主人様よりも早めに切り上げるなんてあってはならないことだ。
「いえ、私は大丈夫ですので……」くぅ~~
断りを入れた瞬間、オリーティアのお腹がなった。恥ずかしくて顔を真っ赤にしてしまう。
「大丈夫じゃないじゃん……。命令だから座って食べて。そんな状態なら尚更」
「……うぅ~。では、失礼します」
チョンと座って料理を食べ始めるオリーティアを見て、ツカサも食べ始める。タッパを作って詰めてアイテムボックスにしまうことしかしてなかったので、実はお腹が空いていた。
昔はこのぐらいは我慢してたのになぁ。今じゃ、それなり食べる様になってしまったとは。これもホノカのお陰かな。
昔を思い出してしんみりとなってしまう。そして、絶対に元の世界に帰ってやるんだと言う気持ちを高めた。
ご飯も進み、残り僅かとなった頃。初めの方の恥じらいはどうしたのか、大口を開けてデザートを食べているオリーティアにツカサは口を開いた。
「そう言えば、オリーティアって魔力持ってったけ?」
「……魔力ですか? えっと、ツカサ様や魔法使いのステータスほどではないですが、あるにはあります。それが何か?」
「魔力があるなら大丈夫かな?」
良く分からない確認を取ったツカサは、アイテムボックスからネックレスを取り出して、オリーティアに渡す。
オリーティアからすれば、何もない空間から急にアイテムが出てきたので驚き戸惑っている。
「こ、これは?」
「どうしてこんな物を持っているかは秘密な。誰にも言ってはいけないし、見せてもいけない。身肌なさずに持っていたらいいよ」
「こんな物を頂けるのですか!?」
「まぁ、三日間お世話になったんだし、少しの情くらい移る」
昔なら三日程度で情も移らなかったし、こんなアフターサービスもしなかったのになぁ。とそっぽを向きながら呟いた。
三日間お世話になった。普段のオリーティアにはこの言葉の意味が理解できたかの知れないが、今は頬を染めて嬉しそうにしている。それどころじゃないらしい。
というかツカサ。自分がどんなことをしているのか、分かっているのだろうか?多分、分かっていない。まぁこの勘違いが引き起こす事件はもう少し先として……。
「今日はありがとうございました。おやすみなさいませご主人様」
「ん、お休み」
全て片付け終わり、そろそろ就寝時間になるとオリーティアも自室に帰っていく。ドアの前でお礼を言って頭を下げると、そのままドアを閉めて消えていった。
ドアが閉まると、ツカサはベットに転がって時を待つ。現在は就寝時間間際だ。まだ起きている者も多いだろう。
行動に移すのは深夜。皆が寝静まった頃。
見張りなどの兵士はいるだろうが、ツカサの前には無力。翌日の朝にオリーティアが部屋に入るまで誰も気付かないだろう。そしてその頃には、ツカサは数日かかる様な距離まで逃げ押せているはずだ。
時は経った。元の世界の時計に直して深夜二時。
電気が普通に普及しており、灯りを何時でも付けられる元の世界とは違い、この世界の夜は早く長い。
いくら世界一の教会であっても、灯りを無尽蔵に付けて警備をしているわけにもいかない。カンテラを持って巡回している兵が十数名いるだけだろう。
「さてと、食料オッケー。大方の歴史オッケー。地形や文化圏は変わっているらしいが、魔法の方は問題なく扱える。なら大丈夫だ」
ツカサは扉を静かに開けた。
ここは三階、飛び降りるには少々勇気のいる高さだ。その前に一般人なら骨折確定。
だが、身体能力強化を扱えるツカサには何ら問題もない。
窓のふちに足をかけて、軽く勢いを付けて跳ぶ。
一瞬、フワッとした感覚が飛んでいるような錯覚を感じさせるが、刹那、自由落下に入る。
時間にしたら五秒もないうちに地面に衝突するだろう。念の為に身体強化に加えて、常に多重の防御障壁を展開しているツカサには関係無い。
だが、それでも地面に衝突するというのは度胸のいることだ。
なので、ツカサは自由落下中に消えた。
透明人間や認識を阻害したのではない。完全にこの場から消えたのだ。
二度目の異世界召喚を受けて四日目。ツカサの二度目の旅は始まった。