五里霧中(前編)
もう何日も山の中を歩いている。
1m先も見えない霧の中を。
たまに疲れてその場に寝てしまうこともあったが、
風邪もひかずこうして無事に生きている。
しかし、これだけ下ればもうふもとについてもいいはずなのだが・・・。
何か異次元の世界にでもハマってしまったのだろうか、
という馬鹿な考えまで浮かんでくる始末。
しかも、友人の幻を見たり、とっくに亡くなった祖父母を見たりと
妄想も満載。我ながらかなり極限状態になっていると思う。
それとも、下りているつもりでも、登ったりしてしまっているのだろうか。
そうだとしたらお手上げだ。この霧が晴れるのを待つしかない。
幸い、食料はかなり持ってきていたので、餓死することは当分ないだろう。
少しづつ食べていけば、二ヶ月は大丈夫だと思う。
しかしこの霧の中にそんなにいたくない。何より帰りたい。
無常にもいつまでたっても霧は晴れない。
こんなことってあるのだろうか?不思議でならない。
そのうち、三途の川でも見えてくるんじゃないか・・・。
などと思っていると、何やら本当に川が見えてきた。
おいおい・・・俺死んでるのか?
目の前の川岸に、舟が停まっていて、船乗りが話しかけてきた。
「乗ってくかい?六文だよ。」
地獄への橋渡しか?勘弁してくれよ。
「乗る気がないならとっとと帰んな。」
「でも、帰りたくても帰れないんです。」
「なんだお前、道に迷っているのか。こんなところに来てはダメだ。
送り返してやるから、目をつぶれ。」
言われるがままに目をつぶると、何かの光に包まれた。