深夜聞こえる列車の音
イジーリスという国の郊外で、とある不可解な出来事が起こっていた。
深夜になると、メインストリートに、列車が走っている音がするのだ。
もちろん、音を聞いて驚いて飛び起き、窓の外を確認するものは多数いた。
しかし、何故か音はすれども姿が見えない。
しかも本当にメインストリートに列車が走ってるのと同等の音が聞こえるのに、だ。
誰の目にも確認することが出来なかった。
この噂は瞬く間に広がり、警察が動かざるを得なくなっていた。
ほぼ毎晩、同時刻に列車の音だけが通り過ぎるのだ。
そして、科学者を交えた調査団が結成された。
サーモグラフィーや赤外線カメラ、ビデオカメラがあらゆる位置に設置された。
地元のゴシップ誌もカメラを片手に駆けつけ、閑静な郊外は一夜にしてお祭り騒ぎとなった。
午前三時になると、いつもの奇怪な音が通り過ぎた。
そして、通り過ぎる瞬間、調査団は首をひねった。
あらゆる位置に設置したカメラの、何処にも何も写らない。
サーモグラフィーですら、温度の変化を捉えることが出来なかったようだ。
地元ゴシップ誌の記者は音のする方向をフラッシュを焚いたカメラで撮りまくった。
しかし、記者の目にもカメラのフレームにも、何も見えなかったようだ。
・・・後日、ゴシップ誌の一面トップに、ものすごい写真が掲載された。
何枚も撮りまくった写真の一枚だけ、列車の姿が写っていたのだ。
その写真には、凄惨な列車の姿が写し出されていた。
一見すると何の変哲もない列車の窓の中の車内の光景。
その中には、びっしりと不自然に詰め込まれた、
血だらけの、人、人、人。
死体であるように見えるその人間?たちは、
屋根に届くほど積み上げられているようだった。
この雑誌を見て泣き叫ぶもの、発狂してしまうもの、
あまりの光景に声を出せなくなったものもいた。
この写真を撮った記者はあまりの恐怖に発狂し、自殺した。
なぜ動画の方には残らなかったのか?
いくら調査団が科学の粋を結集して調べても、わかるはずもなかった。
コマ送りに調べてみたって、一枚もフィルムには写っていないのだから。
この出来事はタブーとされ、雑誌は廃刊、あまりの気味の悪さに
郊外に住んでいたものはみな移住し、ゴーストタウンと化してしまった。
現在では、その騒動が起こってからというもの、一切列車の音は聞こえなくなったらしい。
調査団が歴史を遡って調べてみても、その近辺に列車が通っていた記録も残っておらず、
写真に写っていた列車の型を調べたところで、同じ車両は世界の何処にも見当たらなかったという。
ただし、誰が見ても、どこかで見たことのあるような気にさせる何かがあったという。
現在では、イジーリスの地図には載っていない、知られざる街の事件。