リストカッター
「またか・・・」
もううんざりしていた。
暗闇の中で目が覚めて、明かりをつけると予想通りの光景。
「いい加減にして欲しいなぁ・・・」
とつぶやいては見たものの、多分この惨劇は俺がやったものだ。
「多分」というのは、俺にはその時の記憶が全くない。
だから確証が持てない。
「明日捨てに行くか・・・」
記憶がなくなるようになったのは、物心ついてすぐだった。
しかし、俺は生まれつきどこか冷めていたせいか、
『どーせ話しても信じてもらえねーだろ』と思い、
子供の頃から、記憶がない時間帯の出来事を
口八丁で辻褄を合わせていた。
バレないようにバレないようにと努めているうちに、自然と1人でいることが多くなった。
そんな人生を送ってきているのだから、もちろん深い友達がいない。
淋しいと言うほどのことではないのだが、なんとなく夜中たまに外に出て散歩をする。
そんな時に記憶がなくなるようになり、いつの間にかこの惨劇が日常となっていた。
「しかし我ながらうまいことやるなぁ。」
証拠となるような状況が残されていないのだろう。
誰に疑われたこともなく、もう10年になる。
「時効になる前に自首した方がいいかな。なんだか申し訳ないし。」
そういって、とりあえず目の前の死体に視線を落とす。
重そうだ。いつも通り、手首から手が切り離されている。
「この手を忘れないように捨てないと。裏山ももういっぱいだ。
たまに友達も来るから、明日の真夜中には行かなきゃな。」
そう言いながら、慣れた手つきで死体を丁寧にビニールでくるんだ。