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溢れ出す随液  作者: 耕助
第4巻
36/103

社長の葬儀

社長が突然亡くなった。


そこそこの規模である、ウチの会社を引っ張ってきた社長の経営手腕は、

同業者の別会社の社長からも評価されていた。

それだけに、突然の訃報でありながらも、葬儀にはたくさんの人たちが訪れた。


僕はただの平社員だったが、下っ端から見ても社長は凄いヤリ手だな、と思っていた。

当然僕も葬儀に参加した。皆口々に「惜しい人を亡くした」とつぶやき、

それが嘘でないことは一様にして読み取れた。


・・・しかし、ちょっとした違和感に気付いた。


訪れている人は、皆悲しんではいるのだが、泣いていない。

もちろん、僕もだ。家族ですら涙を浮かべはしているものの、

何だか冷静ですらあった。奥さんも同様だ。


「おじさんの会社の人ですか?」


1人の青年が話しかけてきた。・・・知らない顔だ。おじさん?社長の甥なのか?


「あ、いきなりビックリしますよね。すいません。

僕はおじさん・・・亡くなった社長の息子のいとこです。」


「ああ・・・このたびはどうも、惜しい方を亡くされて・・・。」


「会社の方ですか?」


「ええ。」


「不思議に思っていたでしょう?今。葬儀にしては皆が悲しんでいないな、と。」


・・・なんだ?心でも読めるのか?

驚いて呆気に取られていると、青年は言葉を続けた。


「伯父は、誰に対しても自分を優位に持っていこうとする人でした。

ここに参列している人の半分以上は・・・いや、もっとかな。

伯父を尊敬していながらも、常に自分を優位に持っていこうとし、

人を見下したような態度に嫌悪を示していたと思います・・・。」


青年は、葬儀を見つめながら言葉を続ける。


「その蓄積が、この葬儀の違和感の答えだと思いますよ。」


反論するつもりはなかった。家族のほうがはるかに僕よりも身近に接しているだろうし、

社長であるからには、そういった威厳と言うのも必要になってくるだろう。

事実、その社長の態度を疎んでいた人間は少なくはないはずだ・・・それが、家族であっても。


「別に伯父が間違っていたというつもりではありません。

ただ、伯父の態度からこういった状況を生み出しているとしたら、

本人が原因とはいえ、寂しいですね。誰に対しても優位に立とうとしていましたから・・・

それが自分の会社をここまで大きくしたんでしょうけど。」


言葉がなかった。僕も別に社長が嫌いなわけではない。

かといって、甥である彼の言葉を遮ったり、否定したりする理由が見つからなかった。


「そんなことを考えると、天はそう簡単に二物を与えないんだなぁと思いましたよ。」


そう、誰ともなく苦笑する彼の言葉は、葬儀中の夜空に消えていった。

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