時間停止の最中で(後編)
職場についた。
予想していたことだが・・・ここでも全ての時が止まっていた。
怒ってくれるはずの課長も、同僚も、それぞれがおのおのの動きの途中で止まっている。
ここでも8時で時計は止まっていた。ここにいる奴らは宿泊組だな。
一体いつまで時が止まっているんだ?
そう思うと怖くなってきた。このままでは食事もトイレもロクに出来ない。
・・・?
不思議なことに気がついた。そういえば、歯を磨いた時
飲料水だけは普通に使えた。冷蔵庫も開けることが出来た。
時間が全て同時に止まったのではないのか?
布団だって普通に出ることが出来た。
大体何故俺だけが動いているんだ。
何が原因なんだ?一体この後、俺は、この世界はどうなるんだ?
気が狂いそうになりながらも、なんとか平静を保ち、
・・・とりあえず家に帰ることにした。
帰路の途中で、ふと空を見上げた。
「・・・・・・・!!!!」
戦闘機?爆弾?なんだアレは?
平和な日本には不釣合いな物物しい一団が、空で停止している。
何か・・・物凄いやばいものを見た気がした。
時間が動き出したら、一体あの爆撃機と爆弾は、この日本をどうするつもりなんだ?
脳内を何かが駆け巡る。
そして・・・気付いてしまった。忘れていた記憶を。
時間が停止しているんじゃない。これは俺の見ている
走馬灯のような現実逃避の妄想だ。
・・・・目の前に爆弾が迫ってくる。
そうだ、そうだよ。時間なんて止まってなかったんだ。
俺が今見ていた景色は、ほんの一瞬の間に見た・・・・・夢。
ものすごい衝撃と共に、俺は光に包まれた。
死の間際に呟いたのは、この一言だった。
「・・・そうだ。俺が爆心地だったんだな。」
そして当日放送されたアメリカでのニュース。
『本日、日本に水素爆弾が落とされました。
爆風は瞬く間に日本全土を飲み込み、生存者に関しては絶望的のようです。
爆撃を行ったのがどの国なのかはわかっていません。
現在、放射能などの影響で、調査することもままならない状況のようです。』