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溢れ出す随液  作者: 耕助
第1巻
3/103

気がつくと、俺は何処かのビルの屋上に立っていた。しかも鉄柵を乗り越えて今にも飛び降りれそうなところにいる。何故だ?記憶が全くない。高所恐怖症でもないのにガタガタ身体も震えている。状況がうまく飲み込めないでいると、後ろから声がした。


「飛べよ」


誰だ?後ろを無意識に振り向くと、見たことない顔。


「鳥になればいいのさ。成功するかどうかは別として」


無責任なことを言いやがる。第一、俺はまだ死にたくないぞ。


「お前に何がわかる!」


・・・?あれ?

今の俺?俺が言ったの?


「何もわからないさ。だから君が飛び降りるのを止める権利もない。飛び降りたそうだけど決心がつかないみたいだから、言葉で君のやろうとしていることに賛同したまでさ。」


「・・・。」


あれー。何で俺の身体なのに俺の意思とは関係なく動いてんの?てか本当に俺の身体は飛び降りようとしてるのか?やめとけって。痛いぞー。物凄く痛いぞー。お互い痛い思いは嫌だよな?な?だから早まったことをするなって。・・・このセリフ、本来なら後ろにいる奴が言うべきセリフなんだけどなぁ・・・。


「あははははは!」


おいおい。今度は笑い出したよ。大丈夫か?俺の身体。


「・・・何故君はここに来たんだい?止める気もないのに。」


そーだ。そーだよ。いいこと言った。俺の身体。


「別に。屋上にタバコ吸おうと思って来たら、飛び降りようとするやつがいた。ただ、それだけ。別に大切な人でもないし、俺は偽善が大嫌いでね。君を止めるほど状況を知ってるわけでもないから。止める理由もないし。まぁ、疑われるのは嫌だから、もし警察にでも聞かれたらドアを開けたら飛び降りる瞬間でしたとでも言うかな。止めて欲しいなら、止めてやってもいいけど。あんま時間かかると俺が突き落としたって疑われるから、飛ぶなら早く飛んでね。意外とうまく飛んでいけるかもよ?」


こいつ・・・止める気ゼロだな。だめだこりゃ。


「最後に面白い人に出会えただけでもいい思い出になったよ。」


おいおい最後とか言ってるよマジやめとけって。


「死んだら思い出なんか残らない・・・死の先は無だ。」


「・・・ありがとう。素直に話をしてくれる人間は君が初めてだった。」


おい!やめろ!俺の身体!


「さよなら。」


物凄い風が身体にぶち当たり、落下特有の恐怖心で俺は気を失った・・・。


『ピーポーピーポー』


「お、救急車が来たか。この高さじゃ死んでるけどな。」


後ろにいた男は、鉄柵越しに下を覗き込む。


「俺は人間じゃなくて幽霊なんだけどなぁ。よく俺が見えたもんだ。話も出来るなんて初めてだぜ。」


タバコの煙を吐き出すと、彼は続けた。


「死ぬ間際の人間には見えるんかな。まるでオカルトだ。」


趣味の悪い苦笑いをする。


「俺が初めてここで飛び降りてから20年か・・・立派な自縛霊になっちまったな。でもあいつ、なんか新入りの浮遊霊が憑いてたみたいだけど。憑いてたやつも災難だったな。もののはずみで成仏できてりゃいいが。・・・それはないか。」


男は空を仰ぎ見る。


「ここも立派な自殺の名所になっちまった。俺もいつ成仏出来るかねぇ?神様、いるんだったら早めにお願いしますよ。」


もう一度趣味の悪い苦笑いをすると、男は鍵のかかったドアをすり抜けて、建物の中へ戻っていった。


-全ての故人が報われますように、御冥福をお祈りいたします。

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