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5分11秒の回想  作者: 仁科学
第一部 ヴィクトリア朝の亡霊
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序章 ロールド・ザ・ワールド(4)

「何もなくてもなぁ、怖いモンは怖いんだよ……」


そう漏らした俺は、無自覚に相手から目線を反らしていた。

振り返り様のことであるから、気付かなかった、ということもあるだろうが。


「……てかオマエ、そういうのは反対派じゃなかったのかよ」


そう言って俺は、もう一度振り返った。


「……何がぁ?」


「確か……核保有には反対してたろ?抑止力とかいっても、キューバ危機みてぇに危ないところまで行った例もあるからとかってよ」


男は少し笑った。微笑んだ、という言い方がより適切か。


「それとは違うって……というかぁ、よく覚えてたねぇ」


「んじゃ……どういう違う?」


「あれってさぁ……そんなに危ないもんなの?」


言った本人は今、オーバリアクション気味に首を傾げている。


「……は?」


言った拍子に、首とあごが下がるのが自分でも分かった。


「マスケット銃って確か、狙って当てるのはかなり難しいんでしょ?古い銃だから威力もあるか怪しいし……」


「……威力自体は古いからって弱いとは限らねぇよ。まあ……命中精度には言い訳できねぇけど」


「……そうなの?」


男はまたわざとらしく首を傾げる。

俺が何も言わずうなづけば、


「でも、でも……サーベル刀とか無駄じゃない?」


と返してきた。


「それだって……切れ味いいかもしんねぇじゃんよ」


俺の答えに若干だが笑いがちに彼は、


「いや、切れ味とかいう以前に、近付かなきゃダメな時点で役立たずだから」


と言うのである。


「……それは、そうだけどよ」


言いながら、ため息染みた音が漏れる。


「だから、とりあえず……拳銃だけ警戒すればぁ?」


またまた首を傾げる男。今度は逆方向であるが。対する俺の返答はこう。


「……2丁拳銃って実際意味ないらしいぞ?」


「へぇー」


と相手が言ったところで、俺は向きを変えて、テーブルの上の料理へと手を伸ばし始めた。

適当に盛って、一歩踏み出したタイミングでもって、


「……昔は拳銃に入れられる弾が少なかったから、隙が生まれないように2丁構えていたのが元らしい。だから、2丁とも一気にぶっぱなすモンじゃねぇし、そもそも今時の拳銃は、んなことしなくても弾がたくさん入ってっから……例えば、自衛隊の拳銃なら9発だ」


「詳しいねぇ」


相手がそう言っている横で、俺は次の料理を皿に寄せていた。


「……別に大したことじゃねぇよ」


そう言ったときでさえ、顔は、そして目は、机上の料理の方を向いていた。

ただ、数秒後に俺はトングを置くことになる。


「悪い……10発だわ」


相手の顔を向いて、そう言った。


「いや……わからんて」


当の本人はこう言って、笑っていたが。


適当に盛り付けて、席まで戻ってみれば、入り口の側に人だかりが出来ているのが見えた。


「……何してんの?あれ」


と横の男に聞いた。彼はまだモサモサ食っているところだったが。


「何か……小学生の子が来たから、面白がって話しかけてるみたい」


顔を上げて答える男。


「確か、生天目さんの妹だっけ?」


「あぁ……」


そう答えると、男は首を下げた。

そうして俺が少しの間、ぼんやりと人だかりの様子を見ていれば、突然、男はそのままの姿勢で一言、


「……睨んでるヤツ、わかる?」


と尋ねてきた。


「……えっ?」


これは俺が漏らした声。若干低い音になった。


「……後ろの方にピアスしたヤツいるじゃん?ソイツなんだけど」


言われて、よくよく見れば、それらしい男はいた。

髪型は、側頭部と後頭部が短くて、登頂部が長い、一種のツーブロックで、右耳には金色のピアスをしていた。彫りの深い顔立ちの男である。服の中に入っていて見えないのだが、どうにもネックレスもしているらしかった。スーツ姿で、ネクタイは暗めのピンクとホワイトの縞模様である。


「……位置的にそう見えるだけじゃないの?」


と俺が答えれば、


「いや……さっきからずっとそうなんだけど……皆があっちに集まる前から、ずっと」


と言い返されてしまった。

なので俺は、


「……そうなのか」


と答えるほか、なかった。

それから、数秒の沈黙を挟んでのち、


「そもそも……アイツ、誰?」


「ああ、と……オクツキとか言ってたぞ」


「オクツキィ?」


「ああ……」


俺がぼんやりとその “オクツキ” の顔を見ていれば、横の男がペンとメモ用紙を引っ張り出して、何かを書き出し、こちらに見せてきた。

見てみるとそこには、 “奥都城倫敦” と書いてある。


「これが名前……オクツキで、下の名前がこれでツネアツって読むらしいぞ。さっき説明してた……シナさんが来る前に」


「そうかぁ……いやぁ、縁起でもねぇ名前だな」


と苦笑した。


「うん?……そうなのか?」


隣の男は怪訝そうな顔でこちらを見てきた。


「その奥都城なら、確か……お墓の別名だぜ?」


「……えぇ」


隣で彼が渋い顔をした。


「……何か、不幸とか運んできそうだな……てのは、まあ偏見だけど」


と再び苦笑がちに告げた。

このあと、二度目の静寂を挟んで、俺は、


「トイレ……行ってくるわ」


と席を立った。


先程も目に入った場所だが、この男子トイレは部屋の出入り口の側にあった。

そうしてトイレに入ると、鏡台越しにここの先客と顔を合わせた。

髪型はショートボブで、黒いポロシャツにカーキ色のチノパン。色白で柔和な顔立ちをしていて、一見女性のような風貌だが、今男子便所にいることからもわかる通り、れっきとした男性である。


難波なんばァ……」


と咄嗟に彼の名を口にした……


(To Be Continued……)

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