第6章 ガット・トゥ・ソルジャー・オン(1)
彼には見えていた。確かに引き金を引く望月の姿が。
確かに捉えていた。ほんの何秒かに過ぎなかった時間がひどく緩やかに流れる中、空中をまるでそこが水中であるかのような波紋を広げつつ、自身の方に向けて走っていく一発の弾丸を。
弾の動きは然程速くは見えない。
ほんの少しばかり身をよじれば、あるいは避けられるかもしれないと思わせた程だった。
しかし、彼の認識とその動きには大きな差異があった。
そう「速くない」弾丸以上に、その身の動きは遅く、動かしている自分でさえ、それが動いているのか自信が持てない程であった。
だからその一撃は、当然のごとくその身へとぶち当たり、男の左脇腹の肉をを抉った……
「…………ッ」
悶絶、という言葉が恐らくは最も適切といえたろう。
脇腹を押さえたまま、両膝をついては頭を下げ、歯ぎしりとも呻き声ともつかぬ音を漏らしている。男のこめかみの黒ずんだところなど、今にも床へ着いてしまいそうであった。
─こちらに動きがあったのも、同じ頃。
あれから数分は勿論のことトイレに面するあの廊下でも流れていた訳で、今となっては、そこに仰向けにされた虫けらのようにうち震える男の姿はなかった。男は覚束ない足取りながら確かに歩き、開いたままになったドアから部屋へと入ろうとした。
彼は、足立翔、その人である。
しかし、ドアまで残すところほんの数歩というときになって、外より聞こえた声が一度足立の足を止めた。
「……動くな」
との望月の声である。
恐る恐るもう1歩を踏み出せば、割れたドアのガラスの合間から、金城と、その後頭部に拳銃を突きつける望月の姿が見えた。
金城は特に怯えた様子はないが、少なくとも微動だにしない。
数秒後、銃口が頭から離れたかと思えば、天井へと向き、間もなく火を吹いた。
対する足立は、思わず、
「……ひゃっ」
などという甲高く、また情けのない声を漏らした。
当然、それが望月の耳にも届かない筈はなく、こちらとて思わずのことであったろうが、振り返った。振り返ってしまった、といってもいい。これといった表情のない彼の顔が、その無意識を物語る。
なお、銃口は依然空を向いたままで、首より先の他、望月の身に動きはない。そして拳銃は、望月から見てドアが左側、握る手が右側との都合上、丁度彼の視野の外になっていた。
「金城、押さえろ!」
金髪の男がそう叫んでいたときは、もう金城の動いた後であったが。
両手を肩の上から通して、上を向いた銃口を掴まんとする。望月は望月で、視界の端に動く金城の姿を捉え、咄嗟に拳銃を持ち直そうとはした。
けれど、結局は金城に軍配が上がった。
望月は拳銃を数センチ後退させるのがやっとであり、対する金城は先に近い右手が銃口を掴み、ついで左手で拳銃のより遠いところを握った。
望月は引き剥がそうと抵抗し、揉み合いの拍子に天井へと飛んだ1発、そして照明に命中して真下のテーブルへ割れたガラスをばら蒔いた2発と放たれるも、金城には当たらない。それどころか、またも姿勢の悪い状態での発砲は、痛みという副作用でもって望月へと帰る。
とはいえ、金城も火を吹く銃の反動には苦悶の表情を浮かべるが、それでも拳銃から手を離さなかった。
「……クソッ」
なんて呟きながら、やっとのことで金城の顔へと銃口を合わせた望月。
引き金に手をかけ、3発目を撃ち出した。
すると……
(To Be Continued……)




