第5章 ウィア・ゴーナ・ラン(4)
「………オマエはどうなりたいんだ?」
─彼はそんな問いをした。快晴の空の下、ボクたちは車で海岸線を走っていた。ボクは助手席にいて、彼が運転席にいた。
ボクは答えられなくて、ただ相手の顔を伺った。自分がどんな表情をしていたか、おおよそ見当はついている。
彼の方も、何か言う様子はなくて、そうするとボクの方も何も言えなくなって、しばらく互いに口を開かぬままになった。
そんな時に正面に目を向ければ、先の方に一台のトラックが見えた。進行方向はこちらとは真逆で、明確に何キロと分かる訳ではないけれど、少し遠目に見ても中々出ているらしかった。
彼にもそれが見えていたのだろう。急に、
「今……俺が何を考えているか、わかるか?」
と言った。ボクは何も答えられなかった。ただ、彼の方を向いただけ。
そしたら、彼は笑った。笑って、ハンドルをやや右に切った。車体は中央の白線を跨いで、逆側についた。
それから、
「ハァァァ」
とでも言うのだろうか、彼は深く息を吐き、グッと唾を飲んだ。そして、
……ハンドルから手を離した。足はアクセルを押している。
「何か……言い残しとくか?」
と言ってきた。その声は、無理に明るいテンションを作り出したいらしいが、恐怖からくる震えを抑えてはおけないようだった。その身を震わせながら、アクセルを踏む足の膝を両手で強く押している。押さえている。
ボクは何をすればいいのかわからないで、ただただその様子を見ていることしか出来ずにいた。
トラックが走ってくる。近付く程にわかる、その速さ。そしてボクは思った。この分だと、トラックとはあの角で鉢合わせすると。彼は分かっているのだろうか。ついにはボクもハンドルの方へ手を伸ばそうとした。
すると彼は、ボクの手を掴んで、
「……それじゃあ、意味がねぇんだよ」
と怒鳴った。うまく言えないが、凄い顔だった。
ボクの方は、とても情けない話だが、萎縮してそれ以上何もできなかった。
走ってくるトラック。予想からは少しだけ外れていて、向こうが角を曲がった先での衝突となった。その一瞬は、一瞬であっても一瞬ではなく、時間は止まったも同然にゆっくり流れ、頬を伝う汗がくすぐったい程にゆっくりと落ちていった。
ボクは否応なしに「死」を連想した……
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「隠しきれる筈もない、と」
─それが、寄神の応答であった。あのレストランでの話の続きになる。
「……残念です」
「……そうか」
黒ずんだこめかみの男が向かいの椅子へと腰を下ろした。それから、その身を傾け、
「誰か……」
と声を上げた。
そうすると、先程まで彼が時任と共に座っていたあのテーブルの上より、ワインボトルが取り上げて、グラスをも抱えて、ドタドタなどと荒い足音でもって今、彼らの座るテーブルの方へと歩いてくる。もっとも、人影などはそこになく、ボトルとグラスのみが宙に浮いていた。
寄神は振り返らないが、目線は後ろの方へ近かった。
そんな中で、こめかみの黒ずんだ彼が、
「……可哀想になぁ」
とボソリ。
喋る男の横で、足音が止み、ワインボトル、二つのワイングラスという順でテーブルに置かれた。
黒ずんだこめかみの男の方が、ボトルへと手をかけると、グラスの片方を寄神の側に寄せて、そこにワインを注いでいく。その片手間に、
「大方、交渉が上手くいかなかったときに俺を二人がかりで殺すとか、そんなとこだろうが」
と告げる。
言い終わる頃には、ワインもグラスを満たしていた。対して、友井のワインを注ぐ動きに合わせるように、寄神の視線が若干下がる。
「まあま……どうぞ」
視線を上げた寄神。何も言わず、ワインにも口をつけない。友井はダラリと椅子に身を預けてしまってから、こう言った。
「時任も口つけましたし……毒は入ってませんよ?」
「それよりも……」
寄神は深く息を吐くと、グッと唾を飲んだ。
「……ボクはどうなる?」
対して、黒ずんだこめかみの彼が、笑って、こう尋ね返した。
「………オマエはどうなりたいんだ?」
(To Be Continued……)




