第5章 ウィア・ゴーナ・ラン(1)
─少し難波の話をしておく。
そのとき彼は、ある部屋のベッドの端に座っていた。
ジャケットをそのベッドの上に脱ぎ捨てて、シャツも上から二つ目のボタンまで開けて、頬杖をついてテレビを見ている。
そのチャンネルから流れていたのは、グラビアアイドルのプロモーションビデオらしい。
場所はハワイか、はたまた沖縄か。南国特有の背の高い木々が並ぶ森の中を、どんどんと進んでいく。勿論、カメラワークの話である。
「あんな水着……着るヤツいんのかよ」
などと嘲笑する難波。
画面には、迷彩柄のビキニに身を包む、グラマラスな女性が写っていた。
『あぁ……蜘蛛の巣が絡まっちゃったぁ……』
といった風に、画面の女性は話しかけてくる。
それから少しすると、画面が1度切り替わり、ある曲が流れ始めた。
対して、難波はまたも嘲るような笑みを浮かべる。
『Moving…… just keep moving』
とのメロディに差し掛かったところで、難波はテレビを消し、ベッドの上で仰向けに寝転がると、
「……スーパーグラスかよ。どんな選曲してんだか」
そう漏らした。
そのうちに、彼の右手の方から足音が聞こえ出し、そちらに目をやれば、
「おおっ」
と漏らした。口角を上げて。
難波の目前にいたのは、セレモニーホール以来一緒だった、あの女性。
今は、首にタオルをかけ、バスローブ姿でそこに立っていた。若干手を広げて、
「どうよ?似合う?」
などと言う女。
難波も両手を広げて立ち上がって、サッと相手の体を抱き寄せると、相手の下唇に自身の唇を合わせ、そのままゆっくり右へ左へ動かす。その間、互いに目を閉じず、互いの顔を見続けていた。
しばらくして自分から唇を外したあとで、相手の耳元で、
「……チョー似合ってる」
と囁く難波。
「……ありがとう」
女がそう応じてすぐ、難波は回すようにして女の体をベッドへと押し倒した。相手は思わず、
「うわっ」
などと頓狂な声を漏らした。
女の身は難波が放り投げたジャケットを背中で踏んでいたが、女自体がそちらを向いて顔を歪ませたのに対して、難波本人は特に意にも介さないという表情だった。難波が女の上に覆い被さるような体勢で、もう一度キスをした。相手の舌に自身の舌を絡めるようなキスを。
10秒ばかりそんなことを続けて、難波がバスローブの胸元へと手をかけようとしたとき、女はその両手で難波の胸を押し、顔を背けて、
「……シャワー、浴びてきて」
と告げた。
難波は、
「焦らすなって……」
と返して、若干体重をかけた。女の両手は脆くも押し返されてしまう。
「……まだ、浴びてないでしょ?」
女がそう呟いた。
自身より目を反らす女を他所に、難波はそれから数秒ばかりは動かなかったが、やがて、
「わかった、わかった」
そう、またも相手の耳元で囁くと共に、徐々に上体を起こしていく。
立ち上がった難波は、その場でシャツを脱ぎ、ベルトを荒っぽく抜き、スラックスを下げた。そこから先は、丁度先に彼女が来た道を逆に辿る形となった。
残されたこの女だが、しばらく顔を上げなかった。
難波の足音が遠退いたところで、ゆっくりと寝返りを打った。
そうして向けた彼女の視線の先には、難波のカバンがあった……
なお、これは、時任が会食をしていたのと、ほぼ同じ頃の話である。
(To Be Continued……)




