第4章 オン・マイウェイ・ダウン(6)
─通話の内容は、こう。
『ご連絡いただいた件についてですが……平生様にはいつもお世話になっており、出来ればお力になりたいとは思っておりますが……小山は仕事でして……』
それを聞いた、あのこめかみの黒ずんだ男は、ニヤリと笑ったかと思うと、
「それなら仕方ないですなぁ……」
と答えた。
『申し訳ありません……』
「いえいえ……彼女にはお仕事を頑張るようお伝えください」
『……ありがとうございます。それでは失礼します』
「はい」
話は、ほんのそれだけ。
─なお、ここからは電話相手の話になる。
彼がいたのはテレビ局の楽屋らしい。鏡の前で化粧をする女性が数名。その中に、逆に化粧を落としている女性がいた。
電話相手だった男は、彼女の側に行き、
「仕事で行けないと断っておいたぞ」
と告げる。対して彼女は、
「サンキュー」
と振り返りもせず、右手を挙げて応じた。
それから一文字が彼女に背を向けて歩き出そうとすれば、
「ついでにさ、家まで送ってもらえる?電車とかで声かけられるのとかダルいし……」
と言い、男の顔を歪ませるのである。
同じ頃、水島宅では電話していた彼が、
「小山のヤツ……平生さんをなめすぎだろ」
と苦笑しているとも知らずに……
─次いで、
「……あっ、あのぅ」
と口を開く人物。声の主は、ドアの左側に立っていた。
「生天目さんが……いらっしゃると聞いたんですが……」
これも彼の言葉。
しかし、それに返答する者は現れず、代わり、
「7人とは、そういう意味かい?」
と、黒ずんだこめかみの男が口を出す。
中央のソファーで相対する構図となり、正面に立つ金髪の男と顔を合わせながら。
対する金髪の彼の応答は以下のようなものである。
「……生天目には、護送を任せました。俺の判断です」
「そう……かぁぁ」
言葉の合間に溜め息を交ぜたようなクセのある物言いを返した、このこめかみが黒い男は、先程まで金髪の男が腰かけていた方とは逆側のソファーへと腰を下ろした。
「……ご不満でも?」
と若干笑いながら金髪の男が。
「人選としてはいいとは思いますが……私なら、そうはしないでしょうな」
と黒ずんだこめかみの男。こちらも多少の笑みを持って。
「そうですか?……理由をお聞かせ願いたいものですが」
そう言われて、こめかみの黒ずんだ男は、またも溜め息を加味するような息が漏れるしゃべり方でもって、
「……やめておきましょう。これ以上は」
と返した。
─廊下の方へと視点を移す。
「……何でおんねん。ワケをいわんかい、ワケを」
声自体はそう大きくないが、強い語調で再度そう言いつけた。
「あぁっ……あぁ……」
目の端に銃口を捉えている男─足立と呼ばれていたが─の口から漏れ出たものは、そんな、到底言葉とは言えないものだった。
「聞こえてないんとは、ちゃうやろ?……ずっとそんなんしとくんやったら……撃ってまうぞ?」
足立は首を震わせながらゆっくりと前向きに振った。
「聞こえてるんやったら、さっさと答えぇや……何でおるん?ええ?……自分、1人だけや?それとも、他にもおるんか?」
震える口で足立は、
「めい……れいで……あっ……アナタから、みず……しまさ……んを…………まもるよう……いわれて……」
と応じた。
「……何でそうなんねん、クソがッ」
銃口で足立の顔を押す腕。
「ヤツが……ここにおんのか?」
後方より聞こえる声は急激に語調を弱めた。足立が、
「……へ?」
と聞き返しつつ振り返れば、そこには男が中腰ぐらいの姿勢で立っており、
「平生や、平生……ここにおんのかって聞いてんねん」
そう語調をまた強めて言うのである。
「い……ないです」
「そうかい……そんだけ聞けりゃ十分やわ……」
銃口が彼のこめかみを離れた。
ホッとして力が抜けたのか、顔から床へと倒れ込む足立。
フローリングの床にはそれが意外に大きな音となって響いた。
……響いてしまった。
「……オマッ」
後ろの男がそう言って間もなく、
「足立さぁん?……どうしたんすか?」
とドアの先で声がした。
「この……アホがァ」
などと漏らした例の男ではあるが、酔って暴れたあの夜と違って多少なりとも冷静であり、強い語調ながらボリュームは抑えられている。
もっとも、その手に握った拳銃の先は倒れた足立の後頭部に押し当てられていたが。
「……足立さん?」
ドアのガラス部分に人のシルエットが見えた。
逆も然りで、相手からも男の姿が見えたのか、
「あれ?」
と一言。
「なにぃ?」
と部屋の方から別の声がする。
「いや……その……」
なんて言葉と共に、シルエットが横を向いたタイミングだった。
……腕を上げた男の銃口が火を吹き、シルエットの肩の辺りを撃ち抜いたのは。
(第4章・完)




