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5分11秒の回想  作者: 仁科学
第一部 ヴィクトリア朝の亡霊
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第4章 オン・マイウェイ・ダウン(4)

─その日の夜のこと。

式場から程近いレストラン「Lutetiaルテティア」に、一台の車が停車する。

この車というのが、赤く塗装されたメルセデス・ベンツ・W220。運転席にはショートヘアーの女性。そして後部座席にはあの男の姿があった。こめかみの黒ずんだ、壮年の男性の姿が。

店内の薄暗さを見るに、レストランというよりは、バーと呼んだ方が近そうだ。

ドアを押し開け、少し歩き、一つのテーブルの前へ。男性はそのイスの前で一礼し、


「……いやぁ、待たせてしまったようで」


と告げた。目前には、時任がいた……


─ここに至るまでの時任の話を少し。

式場に向かう前、時任宅の書斎には、彼自身、それから寄神の姿があった。


「それって……大丈夫なのか、時任」


とは、その寄神の言葉である。

向かいに座る時任は何も答えないでいれば、相手の方が続けて、


「断れないのはわかるが……」


とも言った。

時任は尚も答えない。それどころか、その顔は下がっており、相手の顔を見ようともしない。そんな中でその相手が、


「たとえば……」


と言いかけた。

顔は下がったままの時任であったが、その一言に視線は相手の方へと向けた。それに驚いたのか、相手は一度黙ってしまう。


「……たとえば、なに?」


時任が口を開く。


「ああ……」


逆に相手の方が伏し目がちになる。


「……ボクが一緒に行くとか」


「それはベストじゃない」


時任は断言する。


「後々のことを考えても……もう疑われているかもしれないとはいえ、まだ関係性を明らかにするのは、リスクが高い……面会には1人で行く。現時点で、疑われているかはわからないが、誠意を見せておいて損はないだろう」


「だが、仮に……君を殺す気だったら?」


時任は、


「今日……呼んだのは、その話をする為なんだよ……」


と言った。机上に両肘をつき、両手の指を互い違いに絡ませて……


─奇しくも時任は、レストランでも同じポーズを取っていた。だが、目前で頭を下げる男を見て、


「いいえ……」


との言葉と共に、手を下ろして頭を下げ返す時任。

そのあとで、イスを引き、腰を下ろした男。その背後には、先程まで運転席にいたあの女性がいたが、


「悪いが、外してくれ」

と言われ、店を出ていった。

もっとも、時任は彼女の首に残った縦一本線の傷を見逃しはしなかったが。


─首にスカーフを巻いた店員が盆に乗せて運んできたのは、ボルドーワイン─銘柄はシャトー・ラフィット・ロートシルト─のボトルと、二杯のワイングラス、それからソムリエナイフ。無言でテーブルに置いた店員の後ろ姿を目で追う時任に、


「……申し訳ない」


とまた頭を下げた男。


「いえ……そんな……」


─こんなやり取りの後で、友井はボトルの首へナイフを当てた。左手で押さえて、右手でナイフを右から左からそれぞれ半周ずつ回し、最後は上へと持ち上げる。これで上部を切り外すと、見えたコルクの中央にスクリューを差し込む。それからコルクを抜くまで、然程時間はかからなかった。


「……お見事です」


時任が言えば、当人は、


「これぐらいしか、取り柄のないもので……」


と返した。


「ささ……どうぞ」


ボトルを持ち上げ、時任の前に置かれたグラスへと傾けた。


「接客はああでしたが……もの自体はそれなりのものでして……」


「それは、それは……ありがたいことで」


そう言い、時任は会釈した。


「こうして会うのは……先日のパーティ以来ですかね?」


とは相手の男の弁。


「……そうですね」


同意する時任。


「元気そうで何よりです」


「いや、いや……私などは……」


相手の会釈。それから、ワインに口をつけてからボソリと呟いた。


「ここ何日など……どうにも気が休まらなくて……ですねぇ」


それを聞いた時任の表情が曇る。


「あぁ、いや……こちらの話なんですが、ね」


「いえ、いえ……どうぞ。続けていただいて……」


「……よろしいので?」


「自分でよければ……」


この男、再び頭を下げると、


「では……お言葉に甘えて」


と、ぽつりぽつりと話を始めた……


(To Be Continued……) 


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