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水
平凡な日常を願った。
至極普通の暮らしができれば良かったのに。
何もかもついてなかった。運がなかった。
こんな不幸な生活の中でも何か、いつか良い事あるって信じていたのに。
私を産んだ親がどんな身分で私を作ったのかを責めるつもりはないのだけれど、
どうして私が「私」として生まれてきたのか。
それだけは教えてほしいの。親なんだから知っているんでしょう?
私は親になったことがないから父さんや母さんがどんな気持ちで私を育ててきたのか分からないけれど、
子供を作ったのならば、責任を持って幸せにするべき。
だと思う。それがどれだけ困難なことかは理解しているから、それが子供を作る代償だと思う。
身分とか責任とか。そういうのを考えてから事を起こして欲しかったと思っているよ。
何もない。
苦しくない。
どうして苦しくないのか。それは虚無感しかないから。
平凡で良かった。…平凡が、良かったの。
「父さん、母さん。生んでくれて有難う。」
有名な自殺スポットの橋。
そこから身を投げてみると、先に立った人達の無数の手が、
私を水の中へ優しく誘った。