芽生え-柚瑠 said-
「一緒に帰ろう」
俺は耳を疑った。今日初めて話したクラスメイトが少し世話したくらいで家まで送ると言い出したんだから。普通の女の子なら礼だけ言ったら帰るだろ?それなのに、れいは簡単にその壁を越えてしまった。初めて話したし、ちょっと変わった子なのかなと思うしか今の俺にはできなかった。
一緒に駐車場に向かう途中、やっぱり顔色が悪い気がして荷物を持ってあげた。さきほどよりは落ち着いたのは確かだと思うけど、これ以上悪化してはほしくない。車に乗り込むと運転手は親とかではなく、若い男性だった。誰なんだろう…。
「突然すいません、よろしくお願いします…」
「こっちこそ、申し訳ない。れいの面倒見てもらってありがとう。助かったよ。…あっ、俺の名前は望月って言うんだ、よろしく。れいの…まぁ、親戚の兄貴みたいな感じかな」
「そうですか…俺は橘柚瑠って言います、よろしくお願いします」
れいは車に乗ってすぐ、体調の悪さを我慢して疲れたのか眠ってしまった。俺を家まで送ると望月さんはありがとうと言って足早にれいと去っていった。
帰宅した俺はしばらく…いや、相当長い時間をぼーっと過ごしていた。れいの体調は大丈夫だろうか。あの後、事故に遭っていないだろうか。明日は元気に学校に来られるんだろうか。気づくと、れいのこてばかり考えていた。
「もしかして俺、れいのこと好きになっちゃった…?」
俺はそこで初めてれいに対する感情を自覚したんだ。