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雫輪舞(しずくロンド) 水の都の精霊王  作者: 優緋
捕らわれた四霊のメイレ
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雨に打たれて倒れていた雫

 建物から飛び降りる所を見られないように狭い路地に降りる。暗い夜に人通りの少ない倉庫街だから気にする必要は無かったかもしれない。

 灯台の入口を倉庫の影から顔を出して窺う。扉の横に置いてある木箱の上に、腹の出た、けれど腕が太い筋肉質の力が強そうな男が座っている。傍の壁に槍が立て掛けてある。

(正規の兵なら、揃いの制服があるはず。けど、あれ、どう見てもそんな風には見えない。雇われた冒険者くずれって感じだ)

「……あからさまに怪しいし」

 雫は、見張りの男を観察しながら様子を窺う。

「フリーデ、中に精霊がいるかわかるか」

『申し訳ありません』

「そうか」

(精霊が本当にここにいるか、とりあえず中を調べないと)

 雫は見張りの男に近づいていった。


「止まれ、何の用だ」

 トコトコと見張りの横を通ろうとしたら止められた。

(だよな~)

 口をむずむずとさせて、ピタッと足を止まる。小さい少女が1人、こんな夜に来れば、こっちだって怪しまれるのは当然だ。

「あの~中に入れない?」

 見張りの目の前に来て見上げながら、雫は尋ねる。見張りの男は小さな少女を不審げに上から見下ろす。

「駄目だ」

「そこをなんとか」

「駄・目・だ!」

 雫は、どうしても中に入りたいという演技をするが、まるでなっていない。しつこくも感じられないし、必死さも感じられない。だから、見張りの男にまともに取り合ってもらえていない。

「しっし」

 手を振って面倒そうに追い払おうとする。

「せめて何で入れてくれないか理由だけでも教えてよ」

「しつこい」

 どんっと胸を押されて、雫は尻餅をつく。

 立ち上がる時にフランツの姿が脳裏を過る。

 雫は突き飛ばされた姿勢のまま見張りの男を睨む。

(……くそ)

 目線を反らして立ち上がると、その場から歩いて離れていった。


 灯台の中の両開きの扉が開く。中はランプと燭台のゆらゆらと揺れる炎が照らし、仄暗い。

 扉から光が入り、人が入って来たのを感じて青い髪を後ろで結んで一括りにした白衣を着た男は、後ろを振り向かず、尋ねる。

「さっき誰か尋ねてきたようだが?」

「はい、幼い少女が来たようです。……それが、どうかしたんですか?」

「ああ、共に精霊がいたようだ。もし、精霊と意思疎通ができるなら少々邪魔だ。どうにかしてくれないか、ザザ」

「わかりました」

 後ろの男がスっと片手を胸に当て丁寧にお辞儀をした。ひょろっとした細い体型のザザのお辞儀は両端の口を橋を上げて口は笑っているが、目は笑っていないくてピエロのようで胡散臭い。

 ギィィィ、パタン。

 ザザは静かに部屋を後にした。

 男が顔を前に上げると古ぼけた、だが機能しているカプセルの中にメイレが入れられていた。

 カプセルの中は水で満たされていて時折、コポっと空気の泡が生まれていてメイレが、瞳を閉じて寝ているのがわかる。

「美しい精霊よ、共にこの国を出よう……ククク、ハァ~ハッハッハ……!」


 雫は倉庫街を離れ、商店の多い通りを歩きながら、さっきの事を考える。

 悪態をついてしまったのは、見張りの男にじゃない。自分に対してだ。

(王子だったら、有無を言わさず中を調べられたはずだ。精霊にしか通じない肩書きじゃ、人に対して使い勝手が悪い)

 雫は、前を向いて倉庫街を離れていく。

(あたしにも『王子』みたいな肩書きがあれば。なんとかなんないかな)


 昼間の貴族達の行きかうにぎやかな雰囲気と違って、夜は暗いはずだが、夜に働く男達が、酒盛りをするため、店の中から喧騒が聞こえる。

 コッコッコッ……。

 ブーツが立てる音を聞きながら、灯台から雫を尾行してきたザザは狭い路地の角の家に体を張り付け、雫の様子を窺う。

(やっと、警戒を解いたか。おかげでここまで近づけた)

 倉庫街の間中、かなり敏感に周りを警戒していた。警戒範囲も警戒の厳しさも高く、今までかなりの距離を取っていた。

 ザザは、音を立てないように気をつけながら、雫に忍び寄る。

 後頭部を狙い片手を振り上げた。

(ん?)

 ピクっと、その気配に気づいて雫は振り向こうとしたが、間に合わなくて、その最中に頭に一撃を受けた。

「っが」

 声を漏らし、何とか踏みとどまる。僅かな間に相手の顔は何とか見れた。

 今は、それが限界。後は雫は走って裏路地に逃げ込んだ。

「はぁ、はぁ……はぁ」

 雫は壁に寄り掛かって息を整える。

『らしくないですね』

「人がいる所まできたからだ以上かと思って五感強化を解いてたんだ……失敗した」

 強化魔法がかかっていない雫は、年齢よりもずっと幼い華奢な体をしている少女だ。その状態で叩かれれば、こうなるのは当然だ。

(そうか、雫様はまだ幼い。経験が足りてないのか)

 戦闘は強いが、冒険そのものの経験が不足しているのだ。その戦闘が圧倒的すぎて印象が強かったから、気づかなかった。

(もっと、しっかり支えて差し上げないと)

 フリーデが見ると雫は複雑な印を連続して組んでいた。

 組み終わると、自身の幻影が現れ、裏路地を出ていった。ザザがその幻影を追いかけていくのを確かめると、その場所を、ふらふらと離れていった。


 少し離れた人の多い通りまで来た。

(もう、これ以上は、さすがに……)

 雫は、そこで意識を手放しドサッと音を立てて冷たい石畳の上に倒れた。

 ポッポッポッ……。

 雨が空から降り始め、すぐにザァーっと音が変わり、倒れた雫を濡らし続けた。


 フランツは精霊王を意識してしまって、朝早く目が覚めた。

 初めての出会いは敵として対峙した。その時、敵であるにも拘らず彼女の美しさに見惚れた。

 敵でさえなければ、もっと話をしてみたいと思った。

 それが、今回は決して味方ではないが敵でもない。この事件が解決したら報告の時にでも会えるだろう。

「まだ、早いな」

 起き上がって部屋の時計を見ると、5時を少し過ぎた程度だ。

(散歩でもするか)

 そう思うと箪笥の中にある服に着替えて、部屋を出た。


 宿の外を始めてゆっくりと歩く。

 港町をゆっくり歩くのは、初めてだ。隣国、聖竜王国と呼ばれる竜の守護を受けた国リバス・フライカに留学しているが、船で行ったわけではないため港町は見ていない。

 まだ開いていない商店のある通りを歩いていると、潮の香がした。

 危険な場所には、行かせてもらえなかったから、海を知識としてしか知らない。

(海、か。見える所まで行ってみるか)

 そう決めて歩いた。


 歩いていると商店の横の歩道の上におかしなものを見つけた。

(ん?何だ、あれは?)

 少し近づくと、それが人だとわかる。わかった直後、駆け寄る。

「大丈夫か?」

 声を掛けて近寄るが返事がない。近づいて、倒れているのが雫だと気づく。

(何で泉さんが、ここに?)

 そんな疑問を浮かべながら、抱き起こして、もう一度声をかける。

「大丈夫か?」

「ん、う~ん……」

 雫は微かに目を開く。

 フランツの顔が、ぼやけた視界に映る。

(ん?あれ、あたし……あ、そういえば前にも似たような事あったな)

 去年、噴水の前でライアットに起こされたのを、今頃思い出した。

(そっか、ライアットに忘れてた事、謝って、礼を言わないと、な……)

 ぼ~っとした頭で、そこまで考えて、また瞳を閉じた。

「泉さん!」

 1回起きた雫が目を閉じて、まずいと思ったフランツは、咄嗟に強く呼びかけた。

「スゥ~……」

「寝てる?」

 胸に耳を押し当て、心臓の音を確かめる。

 トクン、トクン……。

(はぁ~、驚かすなよ~)

 安心してフランツは脱力した。

 キーワードに主人公最強と打ってある泉雫が倒されました。

 何故なら最強ではあっても無敗じゃないし、無敵ではないからです。

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