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雫輪舞(しずくロンド) 水の都の精霊王  作者: 優緋
捕らわれた四霊のメイレ
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喫茶店にて 2人の会談

 2人は見つけた喫茶店に入ると席に座る。すぐにメイド服の女性が注文を取りに来た。

「どうぞ」

 メニュー表をメイドは2人に渡す。

「奢るよ」

「いいのか?あたしは相当、食うぞ?」

「ああ、構わない」

「ほんとに?」

 念のためにもう1度聞く。

 これから調査に街を回るのに強化魔法を使うつもりだ。その強化魔法によっては、エネルギー消費をする。つまりは、使えば使うだけ腹が減る。

 だから、制限なく魔法を使おうとするなら、食い溜めをする。

「ありがと!」

 雫は子供のように笑顔になる。

「じゃあ、とりあえずメニューのホットケーキに大盛りパフェの盛り合わせをそれぞれ3つ。あとオレンジジュース」

「そんなに食べるのか?」

「まだ、とりあえずだぞ?」

「あとでまだ注文をするのか……さすがに太るぞ?」

 財布の中身に心配もあったので言い難い事を、あえて言う。

「あたしは、いくら食べても太らないからな」

「……紅茶を頼む」

 ライアットは諦めて注文をした。

 雫自身も気づいたのは最近なのだが、体の成長が完全に止まってしまっている。これが、強化魔法の影響じゃないかと、そんな気がしていた。


「じゃあ、今回の事について話してもらおうか」

(ここからは仕事だ)

 ライアットは雫に真剣な目を向ける。

「ああ。バルガディア――先代精霊王に四霊騎士のメイレが突然いなくなった、探して欲しいって頼まれたんだ」

「四霊騎士って何だ?何か特別な精霊なのか?」

「四霊騎士ってのは、1柱の精霊王に直接仕える4柱の精霊だ。人に例えるなら、お前と同じ王直属の近衛騎士ってとこ」

「へぇ」

「四霊騎士は普通、精霊王が自ら、大精霊の中から指名する。だから大抵、大精霊の中でも力の強い精霊が四霊騎士に選ばれる」

 説明の中で普通だの大抵だのとついてしまうのは、自分という例外を知っているからだ。

「大精霊と上級精霊は違うものなのか?」

「ああ、上中下は精霊個人の精霊としての能力の強さを段階分けしたものだ。大精霊っていうのは、地域の精霊をまとめる精霊の事だ。上級精霊もまとめる中に入っているから、上級精霊よりも大精霊の方が格上なんだ。そうだな、上級精霊が貴族で大精霊が地方領主みたいな感じだ」

「なるほど。で、それがいなくなった、と」

「そ。しかもバルガディアは、かなりの広範囲を知覚できて、この港町も知覚できるはずなんだ。にも拘わらず突然消えたと言うんだ。歩いていなくなったとかではないって」

「知覚できるのに、そんな簡単に消えれるのか?」

「バルガディアは水の精霊で、水を通して世界を知覚するんだ。だから、水のない所や水の力が及ばないとわからないんだ。水属性に多い魔力の青系でも水の魔法を使わない限り気づかれない」

「強大な力を持つ四霊騎士が1柱いなくなったのが問題なんだな。けど、そんな事ができると思っているのか?」

「あたしも同じこと思って聞いたわ。実は、前に水の都の封鎖された通路や扉が開いただろ?その時に持ち出された物の1つに霊封の水玉っていう魔法道具マジックアイテムがあるんだが、それなら四霊騎士でも、どうにかできるっぽい」

「そんなに危険な物が封鎖された場所にはあったのか」

「水の都の設計者の残した道具があるって聞いたろ。あの街は水の精霊の恩恵を国中に届ける装置になってるんだ。それを作った連中の作った道具だからな」

 王子が首を突っ込むかもしれないから一応、話を聞いていた。だから、精霊達の王である雫ほど、真剣ではない。

「精霊に関わる物はそれだけだけど、人間相手に脅威になる物も幾つか消えてるみたいだぞ」

「なっ――」

 雫の発言にライアットは驚く。

「何とかできなかったのか?」

「そっちと同じだよ。自分達精霊に被害がでないようなら、そこまで真面目に、どうにかしようとする必要もないって事だ」

 ライアットは苦い顔をした。


「失礼します」

 ホットケーキやパフェを持ってきたメイドがコトッコトッと小さな音を立てながら並べていく。

 それをパクッパクッと雫が美味しそうに食べていく。

 メイドがライアットの前にティーカップを置き、紅茶を注いでいく。注がれた紅茶からは湯気が立ち昇る。

「どうぞ」

「ありがと」

 ライアットが手に取って一口飲むのを見て、メイドは微笑みかける。見目がいいライアットだから微笑みかけたのだろう。

 メイドは雫をチラっと見てから去っていった。雫もチラっと見たが微笑みかけないメイドに少しだけ呆れる。

「まだこの町にあると思っているのか?四霊が消えてから何日か経ってるんだろ?」

「ん?ああ、お前等がこの前、規制かけただろ。なら簡単に、この街から持ち出せてないだろ」

「それもそうか。もし、持ち出されてたらどうする?」

「決まってるだろ?見つけて地の果てまでも追いかけて、必ずメイレを奪い返すだけだ」

「あたしはあたしで探すから、そっちは、そっちで探せ」

 雫がホットケーキにパクつきながら喋る。

「精霊王が探している物を、俺達が見つけられると思っているのか?」

「王子とてんがいれば探せるだろ?規制に参加した衛兵や海兵なんかに話を聞いて、人間側から探せばいい」

 雫は目線を横にずらす。

(そして、自分は精霊側から探す)

「……何で、俺達に力を貸す?この前は敵だっただろ?」

「速度だ。両面から探した方が早い。精霊の苦しむ時間をできるだけ短くしたいんだ」

 雫の瞳が、深く深く沈む。

「もし、なかなか見つからないようなら、ありそうな場所を端から瓦礫にするだけだしな」

「そこまでするのか……」

「別に驚く事じゃない。お前が驚いてるのは、あたしが人間だからだ。あたし以外の――そうだな、大地の精霊王が地震で街1つ潰しても、自然現象なのだから仕方がないで終わる。例え精霊王が起こしたとわかっても、どうしようもないから同じだろ」

 雫は真直ぐ、ライアットを見る。

「お前は、あたしという『人間』が、それをするのを疑問に思っているだけだ。自覚しろ、お前の目の前にいるのは『精霊王』だ」

(そうだった)

 ライアットは目を見開く。

 雫が戦う姿を見て、その姿こそが精霊王だと感じてしまった。だから普段の雫が、幼い少女の容姿と生意気な態度で、それが精霊王だと思えていなかった。

 今、初めてその事に気づいた。

「どうして、精霊にそこまで力を貸すんだ」

「バルガディアは、あたしを救ってくれたからだよ」

 雫は、目を閉じ優しく微笑む。さっきのメイドの比ではない誰でも見惚れてしまうような優美な微笑み。

(んぐ……)

 ついライアットも見惚れてしまう。

「そうか」

 苦しんでいた当時の雫を思い出し、小さく呟いた。


 雫はカタンと両手をテーブルについて立ち上がる。

「宿、決めるの手伝わなくていいよ。今からメイレを探しに行くから」

 言いながら、雫は店を出ていった。

 扇子を取って、くるりと異界移転をすると、その場から消えた。

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