夜道を歩きながら
ハフェンスダートに入ったのは暗くなってからだ。ハフェンスダートは商人が多いため、馬車が使われるため石畳で舗装され道幅が広く、外国からのお客が多く来るため、宿屋の集まる宿屋通りは街灯が多く明るい。
馬車を降りるとすぐに宿屋を探す。
旅人や商人が多い街だけあって、宿屋の集まる通りで、すぐに宿は見つかった。
赤い柱に灯篭の飾られた宿だ。
「それじゃあ、あたしは別の宿を探すから」
フランツ達が中に入るのを確かめると、雫はそう言ってから、背を向けて手をヒラヒラと振りながら歩いて行った。
「悪い王子、泉の宿を見つけるまで付き合ってきてもいいか?」
フランツは外が暗いのを見る。夜の女性の1人歩きは危ない。
「わかった」
返事を聞くとライアットは、たたっと雫を追いかけて行った。
「待てよ、泉」
「……どうした」
ライアットが追いかけて、扇子を手に持って細い裏路地に入ろうとした雫に声をかける。
「……宿を探すんじゃなかったのか?」
宿が路地裏にあるわけはなくて、つい思った事を、そのまま尋ねた。
「馬車の中で寝溜めしたからな」
「……」
ライアットは呆れた。
「お前は今から探すつもりだったのか」
「そ」
ふと気づいて尋ねると、簡潔な答えが返ってきた。けれど、これは精霊王の答えだ。
「……また、敵対するのか」
「いや」
「なら、知っている事を教えろ。全部とは言わない、せめて、ここまで連れてきたぶんくらいは聞かせてくれてもいいんじゃないか?」
「ん~、そうだなぁ……」
本当はメイレを早く探したい。
けれど、それは感情論だと雫は、ふるふると頭を左右に振ってその考えを振り払う。
今回はフランツ達と目的がほぼ同じだ。フランツ達にも探してもらった方が早く見つけられる可能性が高い。
「そうだね、いいよ」
「……え?」
まさか教えてくれるとは思わなくて、聞き返してしまった。
「ゆっくり話せる喫茶店を探すか」
「わかった」
雫は考えてから、答えた。
コッコッコッ……。
雫は宿屋通りの宿を見ながら進む。その横をライアットが歩く。
「あ、そうだ、先に剣の使い方も教えておくよ」
「ほんとか!」
「ああ」
「その剣は鍔についている赤い円の中の宝石部分が魔力を剣に流す源なんだ。だから強化は剣全体に使うんじゃなくて、その中の宝石に使うんだ」
(これか)
ライアットは剣を手に持って確かめる。
「それと、剣に込める魔力が足りない。付加魔法なんかで恒常的に上げておくのも有効だけど、火属性付加だけじゃ足りない。数回、重ね掛けした方がいい」
「……数回、具体的には何度くらいが限界なんだ?」
「5~6回」
「多いな」
人に掛ける強化魔法を何度も掛ければ体に負担がかかるように、剣にも何度も掛ければ負担がかかる。しかも限界を超える強化を掛けても身体能力が限界以上に上がる事はない。だから、強化限界を知る事には強化魔法の使い手として大きな意味がある。
(回数を減らすためには、より高い効果のある強化魔法の習得、か)
「それから、たぶん、それ以外の『何か』が、まだある」
「え?『何か』って何だ?」
「さぁ?わからん。けど、今日の戦いの時、全く使えていない魔力の線があった。きっと何か特別な機能があるんだと思う」
「そうか」




