表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雫輪舞(しずくロンド) 水の都の精霊王  作者: 優緋
恩恵を水霊の手に 石像破壊事件
54/62

決着、石造の大広場

 ザっ、雫は低い姿勢で横の回転を止めるとゆっくりと体を起こす。

(結構、数が減った)

 辺りを見回すと、かなりの数の石像が破片になって地面に転がっていた。

(試してみるかな)

 両腕を交差させて、肩の方の両手を袖に手を交差させて触れて、留め金を外す。シュルルっと絹が擦れるような音がして、帯状になったルナ羽衣ヴェールが服の袖から溢れ出て広がり、腕を下げると手の下で集まり、水の球になる。

無属性侵蝕付加アンエレメローシオン・エンチャント魔力活性化ミスティック・アクティベーション属性増強エレメンタル・ブートを使ってと)

 ただし、いつものように自分に掛けるのではなく、ルナ羽衣ヴェールに掛けて武器を強化する。魔法による武器強化は魔法戦士単体では複数掛けはできない。

 その状態で機械人形ゴーレムの前に来て、振ってぶつける。

(よし飛ばせるな)

 この街の機械人形ゴーレムは水耐性が非常に高い。だから、水属性の攻撃は効かなかった。けれど、無属性を加える事で効くようになった。

(ん?待てよ。って事はもしかして……ついでに試してみるか)

 さっきまでよりも身を低くして邪魔されないように攻撃を避けながら踊る。

(よしっと。無属性侵蝕付加アンエレメローシオン・エンチャント

 今度は周りの機械人形ゴーレム全てに掛ける。

 無属性侵蝕付加アンエレメローシオン・エンチャントは通常の無属性付加アナトリビューテッド・エンチャントは似ているが違うものだ。

 無属性付加アナトリビューテッド・エンチャントは元の属性の皿に、別の皿を持ってきて、たす感じで、無属性侵蝕付加アンエレメローシオン・エンチャントは皿の中身を混ぜてしまう感じだ。

 混ぜてしまえば皿の中身は別物になるから、水属性の精霊の力を糧として動く機械人形ゴーレムに対しては燃料の品質を落としたのと同じだ。雫の予想通り、機械人形ゴーレムの動きは鈍くなった。

 動きが鈍くなった事で攻撃の手数が減り、もう、雫を止める事はできない。決着がつくまで、そうは時間がかからなかった。


 ガシャン、最後の石像の機械人形が精霊王に壊された。

「終わり」

 ザッ……小さな音を立てて右足から地面につけ回転を止める。ルナ羽衣ヴェールが球になると、ゆっくりと体を起こして、フランツ達の方を見る。

「まだ続ける?」

「いや、やめておきます」

 精霊王が首を傾げて優しそうに尋ねてきたので、フランツは戦う意思はない事を示すために剣をスっと鞘に収める。

「そうか助かる」

 ルナ羽衣ヴェールをくるくると回して帯状すると、袖を抜けて服の中に消える。雫は留め金で留めてルナ羽衣ヴェールをしまう。

「貴女に話を聞かせてもらいたいのですが、よろしいですか?」

「まだ先代から頼まれた事があるから駄目だ」

「それは急がなければいけない事ですか?」

「ああ、四霊の1柱がハフェンスダートで突然、行方不明になった。それを探しに行く」

「それでも少しだけ、お願いします」

「ああ」

「今回の事は?どうしてこんな事をしたんですか?それだけは、教えて下さい」

「地下水路なんかの扉の再封印のためだ。今まで閉ざされていた扉の先には精霊さえどうにかできるような物もあった。誰の手にも渡さないためには早く、入れないようにしないとならなかったんだ」

「そうですか」

「じゃあな」

 答えて精霊王は、くるりと1回転すると跳んで闇に紛れて消えた。


「ふ~終わったぁ~」

 雫が帰るとライアットはドサッっとその場に胡坐をかくように座り込んだ。

「何をこんな所で座り込んでいるんですか?」

 パーシルが呆れたように声をかける。

「疲れたんだって、正直あんなの相手にもう2度と本気でやり合いたくない」

 長い時間戦ったわけではないのに、油断してはいけないし、周りにも気を配っていないとならないしで、精神に的なそれに等しい程の疲労が溜まっていた。

 他の4人は流石にもう雫と戦いたくないとは思わなかったが、他の3人も疲労が溜まっていた。

(あ、星が綺麗だ)

 偶然、見上げた空は綺麗だった。


 フリーデとの半精霊化を解いて夜の闇の中を屋根から屋根へ雫は跳ぶ。

『王子に言ったのが理由じゃないですよね』

 声を聞いて、雫は屋根の上で止まる。

「わかる?」

『なんとなく、そう感じただけです』

「本当は精霊の恩恵を精霊自身の個人の意思で与えるものにしたかったんだ」

『そうですか……それは、大変ですね』

 恩恵を精霊の意思に委ねると7割~8割なくなる。人が精霊を尊敬し敬意を示せなければならない。

「まぁな」

 雫は夜の街並みを見ながら、小さく答えた。


 焔を家に送ってから、宿屋への暗い帰り道、水路の横を街灯の明かりから出たり入ったりしながら4人は歩いている。

「ライアット、明日ハフェンスダートへ行こう」

「ん、何でだ?」

「精霊王は行方不明の精霊を四霊って呼んだだろう?だったら何か特別な精霊なんじゃないか?」

「そうだな。何かあると困るし、行ってみた方がいいかもな。けど、今日はもう遅いから、明日の朝飯の後にしよう」

(!)

 前を歩くフランツとライアットの話を聞いて、ピタッと、てんは止まった。

(もしかしてやられてかも)

 う~ん、と手を口元で握って、考える。

(いやでも考えすぎ?)

 結局、明日になればわかると考えるのを止めた。

 こんなつまらない事で悩むより、明日、ハフェンスダートについてから四霊の事を考えた方がいい。

(とにかく明日だ)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ