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雫輪舞(しずくロンド) 水の都の精霊王  作者: 優緋
恩恵を水霊の手に 石像破壊事件
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激突、石像の大広場

 コッコッコッ……

 石畳を小さく鳴らしがら、雫は夜の暗い石像の大広場に入る。

 街灯に照らされた場所にフランツ達が待ち構えていた。

 雫は歩きながら辺りを見回して石像の配置とフランツ達の場所を確認する。

 配置は石像の機械人形ゴーレムに狙われるライアットとパーシルがフランと焔よりも前にいて、機械人形ゴーレムの囮になるために左右に広く別れている。その2人にそれぞれ2人ずつ槍を持った衛兵が護衛に着いている。当然、衛兵には石像の機械人形ゴーレムを壊さないように注意するよう言ってあるはず。

 後ろのフランツ、焔、てんは女神像の機械人形ゴーレムの前傍だ。

(いい配置だ。距離も適切だな。……上手くこの場所に誘い込まれたみたい。やるな、てん)

 暗闇から前に進み、雫の姿が街灯に照らされる。


(来た)

 フランツが剣を抜き、横でゴトっという音。焔が剣をしまっていた箱から取り出して地面に落した音だ。

「貴女は、いったい何故こんな事をするのですか?ここの石像は文化的価値が高いんですよ?それを壊そうとして、大勢の人に貴女は迷惑をかけているのですよ?」

「……はぁ」

 フランツが精霊王を窺いながら尋ねると、溜息をつくと、精霊王は霞んで消えた。

(何処に――!?)

 反射的に探そうとして、右を向こうとした瞬間、目の前に現れる。探そうとしたから、姿勢も僅かに崩れ、剣先も泳いでいる。

 驚いた直後に胸に強い衝撃を受けた。

 ドサッ。

「って」

 尻餅をついて顔を上げると、精霊王は上げていた片足を降ろす。どうやら蹴り飛ばされたようだ。それから両手を腰に当てこっちを見ている。

「お前、何か勘違いしてないか?いつ、あたしが人の味方になったんだ?」

「え?」

「精霊の為になるなら人の迷惑なんて知った事じゃない」

 フランツは精霊王を見上げる。すぐ横にいる焔が困ったように尋ねる。

「何を言っているの?」

「焔……、人は誰もあたしを救ってはくれなかった。救ってくれたのは精霊だよ。それでもお前は私に人の為に味方をしろって言うのか?」

「……!それは……」

 目を伏せて辛そうに深く青い瞳が揺れる。

 焔は彼女がどんな目にあってきたか、思い起こしてしまって言葉が出ない。

「あたしはもう人に期待はしてないんだ」

 フランツにはやや後ろにいる焔がどんな顔をしているのかわからない。


 膝を手で押して立ち上がって再び剣を精霊王に向けて構える。

(……やり難い)

 相手の構え何かで、だいたいわかるのにそれが全くわからない。

 既に2度、雫の戦いを見て、強いのはわかっているし、その時ライアットを軽くあしらっていた。それ程の強さを持っているのに、隙だらけで簡単に勝てそうな気がする。

 そう見えるのは雫が強化魔法を近接戦闘に使うため、普通の戦士系とは動きがかなり違うからだ。

 精霊王を観察していると、大広場の石像がギギギ……と音を鳴らし機械人形ゴーレムとして動き出した。

(これからが本番だ)

 気合を入れる。この精霊王に気を抜いたらその瞬間負ける。

 フランツは両手で握る剣を持つ右手を1度、開いて握り直した。


 フランツが走り寄って切りかかって連続で剣を振ると、避けていた精霊王が急に横に跳んだ。その場所に機械人形ゴーレムの飛ばした羽が刺さっている。昨日よりも反応が早い。

 精霊王の動きにかなりの余裕がある感じを受ける。これでは離れていたら、簡単に機械人形ゴーレムが壊されてしまう。

(こっちの目的は機械人形ゴーレムを守る事だ。なら、手数で機械人形ゴーレムを攻撃させないようにする)

 ちらっと焔に意識を向けて大剣を構えているのを確認する。手数を稼ぐには重い剣を持つ焔よりも、普通の剣を持つ自分の方が前衛に向いている。

「援護を頼む」

 フランツが距離を詰めて、連続で剣を振る。

(やっぱり、当たらない)

 それでもひたすら振り続ける。

「焔さん、王子を援護して下さい。精霊王に機械人形ゴーレムに攻撃させないようにします。手数重視でお願いします」

「はい!」

 手数を稼ぐなら、魔法ではなく精霊の力だ。焔は剣を逆さにして地面に立てると手を前に翳して、火球ファイアホールと同じ火の玉を思い浮かべる。詠唱を必要としないため、精霊の力ならすぐに飛ばせる。

 焔が飛ばした火の玉が来るとフランツは右下に身を低くする。精霊王は同時に左に避ける。

(やっぱり避けるか。けど、とにかく攻撃するしかない)


 人魚の機械人形ゴーレムが腕を掲げると水の槍が生まれる。機械人形ゴーレムを造った人物の使える魔法である魔法のウォータースピアと同じものだ。

 雫が立ち位置を確認すると、今避けると機械人形ゴーレムの攻撃がフランツに当たる。

(っち)

 仕方なく、雫はフランツを蹴り飛ばして火の玉とウォータースピアの両方を受ける。魔法や属性攻撃は高い魔法防御を持っているため、火傷1つ負わなかった。

 雫は、人の味方をするつもりはないが、人の敵になるつもりもない。だから、王子に怪我をさせるつもりはないし、唯一自分を気にかけてくれた焔も怪我をさせたくはない。

(とりあえずお前は邪魔!)

 雫を後ろから攻撃しようとしていた戦士の機械人形ゴーレムを壊した。


(今、何で当たった?)

 何度か攻撃を続けていたら、精霊王が焔の火の玉に当たった。その後も、たまに精霊王が攻撃を当たる時がある。

 けど、何で当たったのかわからない。さすがに戦っている最中に石像の機械人形ゴーレムを壊させないように庇われているとは、さすがに思わない。

(当たったのはいいけど、効いてるように見えないし……)

 少しずつ機械人形ゴーレムのっ数が減っていって、どんどん精霊王に当たらなくなっていく。半分ほど減って、ほとんど当たらなくなってから、こっちを庇っているのに気がついた。

(もっと早く気づけば……)

 今頃そう思っても後の祭りだった。


 フランツが息切れをして焔と前衛を代わった。

 焔の攻撃を避けながら防御できるように軽い攻撃を加えて、焔の体力を削っていく。焔は大剣のため、攻撃の威力は大きいが避けやすく、防御が固い。

 その上、動きが基本に則っているため、読みやすく、雫からしてみればフランツよりもずっと戦いやすい。

 今は機械人形ゴーレムではないただの石像を挟み対峙している。

(間の石像が邪魔!)

 剣が大きい事もあるが、たったそれだけの事で自由に剣を振れていない。

 焔の縦切りを石像の右から左に行って避ける。その時、右手を石像に手を振れていて、雫はふと3m程の戦士の石像を見上げた。

(使える)

 呪文詠唱の代わりの踊りを終えると、右手で石像の腰に当てた左腕を掴んで台座ごと片手で持ち上げた。その石像を、そのまま振り回す。

「っな?え、危ない!」

 焔は慌てて距離を取とる。

「ちょっと、何をするの!それは貴重な歴史遺産何ですよ!わかっているんですか?」

 話を聞かずに距離を詰めて、雫は石像を振ってくる。

 突然の事態に対する驚きと、見かけ以上に重いはずの石像を片手で振り回すという信じられない事が起きたため、頭がついて行かず避ける事に必死になった。

(傷つけるわけにはいかない)

 振り回させる石像を傷つけるわけにはいかなくて、大剣で防御するわけにもいかない。

 そんな事を考えた直後、石像を右手から左手に持ち替えて、正面から石像の台座が迫ってきた。

(ん!いけない!)

 咄嗟に大剣で防御してしまう。焔が軽々と弾き飛ばされる。

 ザザーと石畳の床を滑って止まる。

 顔を上げると雫が1回転していて、石像をこっちに放り投げてきた。

「危ない!」

 横から飛び出しきたライアットに焔は一緒に押し倒された。さっき立っていた場所の方でガァンと大きな音がした。

「あ、ありがと……」

 焔はライアットの下で、顔を赤くしてライアットの腕を退ける。2人は立ち上がると、石畳に転がった投げられた石像が砕けていないのを見た。よく見ても、傷ついていない。

(やられた)

 最初から石像を傷つける気がなかった雫は強化魔法を石像に掛けて、石像を振りまわして使っても傷つかないようにしていたんだ。

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