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雫輪舞(しずくロンド) 水の都の精霊王  作者: 優緋
恩恵を水霊の手に 石像破壊事件
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行方不明のメイレ

 清晶洞窟の前にメイレは姿を現して洞窟を森の中から見る。

 バルガディアに頼まれてメロウを迎えに来た。

(けど……)

 この洞窟には姉さんがいる。そう思うと足が止まる。まだ姉に会えるほど自分に自信が持てない。

(まだ行けないなぁ)

 メイレは目を伏せる。

 サァっと風が吹く。

 風が止むとそこにはもうメイレはいなかった。


(あら、今何か……)

 泉の先の水晶の台座で何かを感じたメルーティカが顔を上げた。

『どうした?』

 隣に佇むヴァッサーがメルーティカを見て聞く。

『ん~ん、何でもないわ』

(一瞬メイレが洞窟の傍にいた気がしたけど……気のせいね)


 水の都に良く似た白い街並み。けれど、街境の壁は水の都よりも低く、街座全体の形も海に面していて円形をしていない。

 その街の門の中に青色の少女は入っていく。

 精霊王国カントラタレッタで最も大きな港町であるため、人通りが多いのに、肌が水色をしているという人ではありえない異質な姿なのにも関わらず誰も見咎めない。

 彼女が精霊で、精霊を見える人がいないからだ。

 立っていつまでも待つわけにはいかないので、腿程の高さの花壇に腰かけた。

 清晶洞窟に入りたくなくて近くのこの街に来た。この街の入り口付近にいれば、メロウが清晶洞窟から出たかどうか水の気配で知覚できる。

 足をぷらぷらさせながら、空を見上げた。

 精霊の長い人生にとって1日2日程度、全然短い。メイレは数日そのまま空を見上げて待つつもりでいた。


 実験の間の気晴らしに街に出ると偶然、花壇に座って空を見上げている精霊を見つけた。

 この街にいる数多くいる精霊とは明らかに違う精霊だった。

(まさか、上級精霊?)

 もしそうなら、欲しい。

 男はメイレの後ろから近づいた。


 コッコッコッ。

 足音がメイレに近づいてくる。

 けれど、人が精霊に気づくわけはないと思っていて、気にしなかった。

「あの」

 声をかけられても自分に、かけられたとは思わない。だから誰か別の人に声をかけたのだと思った。

 ぽんっ。

『えっ?』

 精霊である自分に人に触られて、すぐに振り向いた。

 青い髪を後ろで結んで一括りにして、白衣を着た長身の男が笑っていた。

 違和感を感じて右腕を見ると、右腕が紐を解くように尾を引き、無くなっている。

 尾を目で追いかけると、男の持つ青い球に吸い込まれるよう入っていくのが見えた。

(えっ?何、これ?)

 青い球から得体の知れない悪寒を感じる。もう1度腕を見て、男の横に伸びた口元が見えて、怖くなった。

 ダッ!

 怖くなって振り向いて逃げ出した。


 コッコッコッ。

「ダメだな。逃がしはしない」

 ハフェンスダートから離れようとして、男がメイレを青い球で映す。

『ん、つぅああぁぁ!』

 メイレは糸を引くように青い球の中に入れられた。

「くくく……ハァ~ハハハ……」

 男は球の中の精霊を見る。予想よりも遥かに大きな力を感じる。

(まさか、ここまで力の強い精霊が手に入るとは!ついているぞ、俺は!)


 ピクッ。

 竜が何かを感じ取って水霊王の塔の最上階で目を覚ます。

『メイレが消えた……?』

 突如メイレの気配が消えた。目を閉じ意識を水に溶かして、水を通じてハフェンスダート周辺を見る。

(やはり、いない)

 精霊王の知覚をすり抜ける何かがあったんだ。

『オオォォオー!(すぐに会いにここに来い!)』

 雫を呼ぶために叫び声を上げた。


『オオォォオー!(すぐに会いに来い!)』

 街に竜の雄叫びが響く。

(ん?)

 街を歩く雫がその雄叫びに気づいて水霊王の塔を振り向く。妖精耳オレールハ(水)の効果のある耳飾りをしている雫にはバルガディアの雄叫びが声として聞こえる。

 雫は路地裏に入ると、くるりと1回転すると建物の上に跳び、水霊王の塔に向かって屋根から屋根へ跳んでいった。


 雫がバルガディアのいる精霊王の間に入ると竜の前まで行く。

「何の用?」

『メイレが消えた』

「メイレ?」

 知らない名前が出て首を傾げて尋ね返した。

『四霊騎士の1柱だ』

「心配なのか?四霊騎士ならフリーデと同格だろ。だったら、大丈夫だろ?」

 人が対処できるのは中級精霊の1部まで。上級精霊、それも四霊騎士をどうこうできるはずはない。

『いや、突如ハフェンスダートで消えた。その消え方も何処かおかしかった』

「……何か気になる事がある、のか?」

『霊封の水玉の話をしただろう。あれなら、四霊騎士でもどうにかできてしまうんだ』

「そこまでやばいものだったのか」

『メイレを探してくれ』

「わかった。けど、先にやらなきゃならない事がある。それが終わったらすぐに行く。それでいいか?」

『ああ、それでいい』

 次の章の事件のきっかけです。

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