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雫輪舞(しずくロンド) 水の都の精霊王  作者: 優緋
恩恵を水霊の手に 石像破壊事件
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調査開始

 翌日、石像が壊されたという事はすぐに衛兵に知らされ、現場を封鎖して調査が開始された。

 最近、事件が立て続けに起こっているが、すぐにこの石像破壊事件は街中の噂になった。

 それは当然王子にも伝わる。

「ライアット起きろ!調査に出るぞ」

 扉を勢いよく開けて、フランツが部屋に入ってくる。

「ん~調査?」

 王子の大声で目を覚ましたライアットが体を起こす。手を伸ばして目覚まし時計の数字を見ると6:00を少し過ぎた所だ。

(何もこんな早い時間に起こさなくてもいいのに)

「街の石像が何者かに壊された、我々も調査に向かう」

「はぁ、仕方ないですね。わかりました」

 根っから真面目な奴。そう思って呆れながらフランツを見て、溜息をついてから立ち上がると身支度を始めた。


 下に降りると階段傍の木の椅子とテーブルに、フランツの向いにてんとパーシルの2人が座っていた。ライアットは、席に着くと王子に事件のあらましを聞いた。

「なるほど、地下水路の入口を封鎖に衛兵を出しているから、そこまで多く石像破壊事件の調査に衛兵を回せてないのか」

「はい、だから我々も調査に出ようと思います」

「ん~じゃあ、精霊王の世代交代の方はどうするんですか?」

「ああ、事件がこんな連続で起こるのはおかしいと考え直したんだ。精霊王の世代交代が原因で起きているのではないかと」

「そうですね。確かにその可能性はあります」

 パーシルがその意見に賛同した。

「あなた方はどう思います?」

 パーシルが意見を窺って2人を見ると、てんは明後日の方を向き、ライアットは片手を額に当て頭を痛めた。

「あたしも一緒に行っていいですか?」

 いつの間にかライアットの後ろで聞いていた焔が尋ねる。

「いつからそこに?」

 フランツとライアットが後ろを向く。

「ついさっきからです」

「ダメだ!危険すぎる……絶対に焔さんを連れてはいけないよ」

 フランツが叫んでから、優しい声で説得する。

「わかりました」

 しゅんとして素直にすごすごと宿を出て行く。

 フランツは良かったと胸を撫で下ろし、その向かいでライアットがてんと目を合わせる。

 もう1人、精霊王という事件を解決できる可能性のある人物を2人は知っている。焔は彼女の友人だ、彼女に頼んで事件を解決しようとするかもしれない。それでは、フランツが止めた意味がない。

「私が見てる」

 てんはカタンと両手でテーブルにつけて立ち上がると、焔を追いかけて行った。


 昨日の地下水路探索で夜遅くまで起きていた雫は昼過ぎまで眠っていた。

 自身の訓練のため地下水路に入るのは人目を避けるため、夜の遅い時間が常だったため雫は夜型になっていた。

「泉さん入りますよ」

「失礼します」

 コンコンとノックをして中に入った焔に続いて、てんが部屋に入ってきた。赤いドレスのような服の焔も国の使いとしてこの街に来ているてんの高級な服も、貧民のこのボロ屋の簡素すぎる部屋には似合っていない。

 ベッドの横に来た2人の前で雫はまだ、眠っていた。

「……」

 焔は首にかけていた斜めに交差する剣に縦に槍の彫られた金の懐中時計を取り出して、開く。針は3時を指している。

「泉さん、いい加減に起きて下さい!」

「ん~、むにゅ~」

 そんな声を出して体を起こすと、目を擦っている。

「どうしたの~?」

 寝ぼけながら聞く。

「どうしたのじゃありません!事件です!」

 大きな声が頭の中に、ぐわんぐわんと響く。寝ぼけている頭にはきつい。

「ちょっと待って、とりあえず着替えてから下に行くから、下で待ってて」

 頭を押さえながら、片手を焔達に向けた。

「わかりました。行きましょう、てんさん」

 2人が出ていくのを確かめると、雫はのっそりと起き上がり、着替え始めた。

 着るのは昨日、地下水路で見つけた巫女服の袖のついたコートだ。変わった服で目立つが、どうせ狂乱の舞手として知られているから気にしなかい。それから帯状にしたルナ羽衣ヴェール袖の内側に隠して留めた。細くて簡素な姿見鏡に自分を映すと、袖を振って隠したルナ羽衣ヴェールが見えないか確かめた。


 着替え終わって下の階に降りて雫が扉を開けると、テーブルで向かい合うように何も敷いてない固い木の椅子に座っていた焔とてんがこっちを見て、変な顔をした。

「……何です、その格好?」

「ん?別にあたしがどんな格好をしてても、焔に関係ないだろ?」

 焔の声に抑揚がなく棒読みで尋ねられたので、雫は思った事をそのまま答えた。

「うぐっ……それはぁ……」

「……どうしたんだ?」

「事件を調べに泉を連れてこうとしてたの」

「……」

 雫が呆れた表情で焔を見る。一緒に外に連れ出そうとしていたから、気にしたのだ。

(バルガディアの所で過ごそうかと思ってたんだけどなぁ)

 はぁ~やれやれと頭を掻きながら席に着く。

「それで、事件っていうのは?」

「はい、石像を破壊して回っている人物がいるようなのです」

「へぇ~、それでどんな奴なんだ、それ?」

「聞いた話だと、色の剥げ落ちた茶のボロボロのローブを着た人物で、屋根から屋根へ信じられない距離を跳ぶらしいです」

 何も考えずに答えた後に聞いた、その人物の容姿の人物なら心当たりがあった。心当たりがあるというか自分の事だ。

 あの後、落ちるのが水路だったから何もせずに落ちて、流されて家の傍で上がって帰ってきたのだ。

「この街にある石像はどれも歴史的価値が高い遺産です。それを壊すなんて許せません。捕まえに行きましょう」

(捕まえるのは無理だ。捕まる事はできるけど、そんなつもりないし)

「ん~、まぁいいか」

「やった、それじゃあ、早速行きましょう」

 焔は勢いよく立ちあがると雫を急かして、雫の家を出て行った。

 焔は精霊王が入れば、犯人を捕まえる事もできると思っていた。それがどれだけ甘い考えだったかこの後、知る事になる。

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