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雫輪舞(しずくロンド) 水の都の精霊王  作者: 優緋
恩恵を水霊の手に 石像破壊事件
43/62

喫茶店にて

 3人が、地下水路の入口だった噴水公園の建物から出ると、てんがすぐに駆け寄ってきた。

「ご無事ですか?」

「ああ。けど、どうしてお前がここに?」

「あ、はい王子がズブ濡れで戻って来たので、事情を聞いて、ここで待つ事にしたんで――」

 言いかけて後ろから現れた焔と雫を見て、固まった。より正確には雫の顔だ。

(え、あれは――?でも、そんな、まさか)

 てんは頭の中で、否定と肯定を何度も繰り返す。

 本の虫である博が持っていた誰も読まないような擦り切れた文献の1冊。それに雫のつけている花をあしらった簡素なヘアバンドの絵が載っていた。

 否定しきれず、てんは地面に膝をついて土下座した。

「せ、精霊王様、そ、その、ご挨拶が遅れて、も、も、申し訳ありませんでした」

「「精霊王!?」」

「っち」

 焔とライアットが同時に、ばっと勢いよく振り向き、雫は舌打ちをした。

 つい舌打ちをしてしまった。

 それは、自分が精霊王だと認めたようなものだ。それに気づいてまた、舌打ちをした。

「畏まらなくてもいいよ、普通に接してくれ」

「そうですか、わかりました……お話があります。お時間よろしいでしょうか?」

「ああ、いいよ」

 溜息をつくと返事をする。

 面倒だけど、知られたからには口止めしないといけない。

「それでは場所を移しましょうか?」

「ほいほい」

 てんと雫はサクサクと話を決めて、歩き出した。焔とライアットは何も考えられずついて行った。


 噴水公園の傍の喫茶店『まいるど』に入る。

 窓際の焦げ茶の席で焔と雫が隣に座りライアットとてんが隣同士で向い側に座っている。王都組と水の都組だ。

「まずは、何があったか聞かせて下さい」

「ああ」

 焔とライアットは、てんに宿を出てから今までの出来事を話した。

 てんは2人の話を黙って、じっと聞く。

 雫は、その間一言も話さなかった。雫は雫で2人の話を聞いて、精霊王をどう思っているか確かめている。

「ありがとうございました。だいたいわかりました」

「えーと、それで雫が精霊王っていうのは本当なの?」

「文献で見たんですが、泉さんのヘアバンドが精霊王の証であるティアラと同じ物として載っていました」

「そんな文献があったのか」

「あ、はい。私の上司の博教授が珍しい本を集めていて、彼に見せてもらった本に載っていました」

「そうか」

 その本にティアラが載っていたなら、500年以上は昔の物だ。それを個人で持っているという博教授に興味が出た。

「ところで泉さん、あなたはまだ、話していない事があるのではないですか?」

 てんのまぁるい眼鏡が光る。

「話していない事?」

「はい、彼女は精霊王です。私達と違い、精霊の側の事情を知っているはずです。ですが、その事には触れていません。私には故意に隠しているように感じました。もう精霊王だと私達は知っているのだから、少しくらい教えてくれてもいいじゃないですか?」

「そうか、聞かせてもらえるか?」

「ああ、いいよ。実は今回、精霊王が精霊ではなく人がなった事で、精霊王の精霊の力で封じていた扉や隠し通路が開いてしまったんだ。たぶん水刃の杖が盗まれたのも隠し通路が開いたからだと思う。同じ理由で地下水路の入口も封印が解けてて、普通の鍵を開ける技能で今は開けられるんだ」

「それは、まずいですね」

「何が?」

「この街に水の精霊の力を使った封印をあちこちに作れるなら、この街の設計にかかわった魔導士か精霊の事に詳しい魔導士のはずです。どちらにしても伝説の時代の魔導士です。そんな魔導士の遺品やら研究資料なんかが、今の人の手に渡ったらどんな事になるかわかりません」

「確かにそうだ」

「さらに不運な事にここは港町が近いです。国外逃亡も、そう難しくはない」

「って事は、やっちまったのか?」

「はい、王子の来訪のための治安維持という名目で少人数出すなんて甘い事をしないで、最初から封鎖するくらいのつもりでいなければならなかったんです」

「とにかく、この先はそのつもりで警備をさせればいいな」

「あー、それなんだけど、地下水路の入口を厳重に警備して誰も入れないようにしてくれればいい。あたしが地下水路から盗賊を追い出したかったのは再封印の時に中にいられると困るからなんだ。誰も中に入らせない状況が作れるなら3~4日あれば再封印できる。だからこっちよりも港町の警備に力を注いで欲しいんだ」

「わかった」

「あたしが精霊王だって言うのは王子にも誰にも内緒で頼む」

「そんな事言わないですよ。もし喋ったら後が怖そうですから。見えなくても精霊は何処にでもいるから、あなたに気づかれないとも限らないですし」

「わかりました」

 雫と3人は雫が精霊王だと言う事を話さないと約束をした。


「王子にも会ってもらってくれないか?」

「ん~、でも先に再封印が終わってから、時間ができたらだな。今は世代交代の影響であれこれ大忙し」

「そうですか、ではまだ暫くは滞在しないといけませんね」

「すぐに帰らないのか?」

「精霊王の世代交代と、それに関する事一切の対応が目的ですので」

「そっか」

 王子と会う約束をてんとライアットは雫に取りつけた。

「ねぇねぇ、それよりどうやって精霊王になったの?先代精霊王ってどんな精霊?」

 王都から来た2人の話が終わるとすぐに焔が雫の手を握って迫る。さっきからずっと、聞きたくてうずうずしていた。

「……」

 雫が面倒そうに焔を見る。

「精霊を見れるのは、精霊の血筋の1部の人か、巫女の1部だけだろ?あたしはどっちでもないぞ」

(少しくらい教えてくれたっていいじゃない)

 焔が頬を膨らませる。

「先代精霊王、カッコ良かったよ。威厳があって、低い声をした男だ」

 仕方がないので精霊王について少しだけ話す事にした。

 話しながら、目を閉じて竜であるバルガディアの姿を思い出しながら話す雫の頬は赤く染まっていた。


「もういいだろ?」

「はい、また精霊の事を聞かせてね」

「少しずつ、な」

 焔達が立つと店の外へ向かった。だから、1番最後に立った雫が、にやりと笑ったのに誰も気づかなかった。

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