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雫輪舞(しずくロンド) 水の都の精霊王  作者: 優緋
水霊王と名乗らぬ出会い
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地下水路入口

 噴水広場を離れようとして、ライアットがピタっと止まる。

「どうした?」

「いや、今人の気配がした」

「こんな時間に?気のせいじゃないのか?」

 信じられなかったが、そう言いながらもフランツは、目を凝らして辺りを伺う。実力のある近衛騎士が言うんだから、嘘ではないと思うが、そんな人を見つけられない。

「見つからないけど。焔さんは、見た?」

「見てない、けれど……」

 横にいた焔も辺りを探していたが、フランツに答えると、焔は意識を集中させ目を閉じた。人の感覚ではなく精霊の感覚による知覚で探してみる。これをすると、精霊としての訓練が甘いため、焔は人の感覚を離れるため五感を使った知覚能力が落ちるという欠点がある。

 今は、戦闘になるような事はないし、例え戦闘になったとしても傍にライアットがいるので、なんの心配もなかった。

「何やってんだ?」

 その様子を見たライアットが気になって聞いた。

「あ、はい、精霊の感覚による知覚です。私の場合は、火の半精霊なので熱による知覚です」

「そんな事、できるのか」

「はい、ですが、欠点もあります。精霊自身が属性を持つので私自信が火属性になります。そのためか泳げませんし、水属性の攻撃を受けると大きな怪我がしてしいます」

「成程な……」

「!」

「どうした?」

「いました、あっちの方から人の気配が確かにします」

 焔が走って行くと、12~13歳くらいのコートを着た少女が地下水路の入り口に入って行くのが見えた。

(あれは……)

「泉さん?」

 見覚えのあるコートを着たあの後ろ姿は、間違いなく雫だった。

「知り合いか?」

「はい」

「追うぞ!!」

 フランツと焔は地下水路に向かって走っていったライアットを追いかけていった。

(事件の手掛かりがあるかもしれないだ)

 そんな不審な人物が、こんな夜中の公園でしかも地下水路に入って行くという怪しい行動をしているのを見つけた。少なくとも人に言えない何かがある証にはなる。ここで、ほっとくことはできない。


 3人は、小さな長方形の白い四角い形の簡素な建物――地下水路の入り口の前に来た。

 扉の横には『立ち入り禁止』の立て札。

「本当にここに入っていったのか?」

 ガチャッ。

 焔が取手を回して、扉を押すと開いた。

「開いてる」

「はっ?」

 ライアットが信じられないと聞き返した。

 扉のドアノブには、鍵穴がついている。普段は閉まっていて、鍵がないと入れないはずだ。入るには、鍵その物を持っているか、鍵を開ける技術を持っているか盗賊シーフ技能スキルを持っているかだ。

 あの少女が鍵を、持っているはずはない。

 フランツは、取っての鍵穴をじっと見る。

「どうした?」

「ここ」

 フランツは、ドアノブを指す。正確には鍵穴の周囲にある模様だ。

「これ、鍵穴の周りにある模様。何か意味あるがらなんじゃないか?魔法だと思うけど」

「んー、でも見た事ないな、こんな模様」

 少しの間、かつて冒険者をしていたライアットは記憶を辿って見るが、この模様に見覚えはない。

「たぶん魔法の鍵か封印だと思う。でも、あんな小さな子が鍵を開ける技術も鍵も持っているとは思えないんだ」

「確かに、そーだな。焔は何か知ってるか?知り合い何だろ?」

「いえ、わかりません……。でも、そもそもここは誰も入れないようになっているはずです」

 焔にも、雫が不審人物に思えてきた。

「ですが精霊王から王に下賜された水刃の杖が盗まれたって知ってるし、泉さんも1人で探しているじゃ?」

「それを何処で?」

「街にいた衛兵に泉さんが聞いてきました」

 極秘事項を簡単に喋った衛兵にフランツは頭を抱える。衛兵としてどうなんだと呆れるフランツの横でライアットが難しい顔をしている。

「ライアット?」

「水刃の杖が精霊王か王に下賜されたとは、知らないぞ。お前は?」

「知らない……嘘であれ、どうであれこれは話を聞いてみないとな」

「焔、泉って何者なんだ?」

「同じ学校のクラスメイトです。成績の悪い劣等生で、何か変わった事と言えば……朝から晩まで踊り続けて狂乱の舞手という通り名がついたくらいです」

「何か変わった所はなかったか?」

「う~ん、そう言われても長期休暇に入ってから会ったのは昨日が初めてだし、仲が良いってわけじゃないけど……私が見る限りではそんなところはなかった……と思います」

(そう言えば私はどれくらい泉さんの事を知っていたんだろう?)

 焔は今更ながらそんな事に気がついた。

「そうか……とにかく追いかけよう」

 2人は頷いて、3人は中に入って行った。


 中には四角く穴が開いていて、そこに古びた鉄の梯子がかかっていた。他には特に何もなない簡素な場所だった。

「下が暗くて見えないな」

「ええ」

 焔達は、下を覗くが暗くて何も見えず、ぞっとした。

「じゃあ、行くか」

 そう言って、ライアットは梯子に手を掛けた。

「待ってください。先に梯子を降りさせて下さい」

 自分の服を見ながらもじもじする。

 焔が着ているのはスカートだから先に下りられて上を見られたらスカートの中を見られてしまうのを嫌がった。

 焔の様子を見て、先に降りたいと言っていて理由を2人は察した。

「って言われてもなぁ」

 この下に雫という不審人物がいるなら、その仲間もいるはずだ。幼い少女が1人でこんな危険な場所に来るとは思えない。

 それなら、焔より先に下りたほうがいい。

 ぽん。

 フランツはライアットの肩に手を置く。

「お前がいるんだ、大丈夫だろう?」

「はぁ、……わかった、焔先に行け」

 面倒な役目を押しつけられてライアットは溜息をついた。

「はい」

 焔は集中し手の平の上に火の玉を1つ造って、それを浮かせて明りを作った。

「便利だな、外灯ストラベンラテルンの精霊能力版か」

「そうでもないです。この力は完全に精神力と集中力に依存しているんです。さっきみたいに飛ばすだけならともかく、出している間は、温度、明るさ、大きさ、位置何かを制御し続けなければなりません。精霊の力だと私が気絶すれば消えてしまいまし、これを出しているとそれだけで手一杯になってしって精霊の力を他の事に使えないですし」

 精霊の力も便利なだけではないと説明をする。

「って事は、もしかしてその火の玉を出したまま戦闘もできないのか」

「はい、訓練しだいで克服はできると思いますが」

 一通り説明すると、焔は梯子を降りて行った。

 カンカンカン……

 梯子を音を立てながら2人も続いて下りていった。

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