焔vsライアット 火の魔導剣士同士の激突
噴水の前でライアットが腰に差した剣を抜く。
焔はケースを両手で取手横の留め金を両手の薬指で弾じく。開いたケースから剣を取り出し、背に担ぐとケースを地面に置く。
立ち上がると向き合う。
「おいおい、そんな細腕でそんな大剣使えんのかよ」
「ええ、もちろん」
ゆっくりと剣をライアットに向けて構える。
「行きます」
そう言って焔は、ライアットに近づき剣を横薙ぎに振う。
大型剣を使う場合、初太刀は威力があるが読まれやすいため、避けられにくい横に振るうのがセオリー。縦だとギリギリでかわされた時、カウンターを受けやすい。
ライアットは剣を両手に構えなおして防御しきる。
重い一撃を止めるのは、衝撃だけでもキツイ。大型の剣の攻撃を避けるのが普通だ。
(これを、止められるの!?)
直後、反射的に焔は剣を手元に戻し、入れ替わるようにライアットが攻撃に転じた。
セオリー通りに進む2人の戦いをフランツは感心しながら見ていた。
ライアットが強いのは知っているが、想像より焔も強い。
戦闘は少しずつライアットが押してきているが、焔がきっちりと丁寧に対応するためすぐには、押しきれないでいるのだ。あの丁寧さは女性ならではのものだろう。
先にセオリー外の行動に出たのは、押し切られそうになった焔だ。巨大な剣を地面にぶつけ、地面を爆ぜさせて、ライアットが距離を取らざるえない状況を作る。
「……熱気纏いて、火よ、彼の者燃やす球をなせ」
焔が詠唱を始めると足元に炎をあしらった魔法陣が現れ右手に火が生まれ、呪文の詠唱に従い球状になっていく。
「なっ!」
焔が魔導剣士だと言う事に驚いたが。焔の詠唱に続き、僅かに遅れて同じ詠唱をライアットもする。
「火球」
離れたら魔法で対処するのは当然で、ライアットも同時に同じ魔法を放った。
2人が放った火球が衝突し焔の放った、火の玉を砕いてライアットの火球は焔を燃やした。
フランツが叫ぶが、ライアットは焔のいた場所を見続けている。
「火球同士がぶつかって、威力は殆どなくなっている」
そうフランツに告げるとライアットは呪文を唱える。
「剣用火属性付加!」
詠唱をして剣の刃の部分を手でなぞる様にすると真紅の模様が現れた。
ブンッ。
焔が剣を横薙ぎに振って炎を払った。
振った剣にはライアットの剣に浮かんでいるのと酷似した文様。焔も剣用火属性付加を使っていたのだ。
焔は、剣でも魔法でも到底ライアットに勝てない事を実感してる。ライアットもそれに気がついていて、魔導剣フレイム・ブリンガーや自身の付加効果等の技能も使っていない。
ガンガン!
甲高い音をたて、2人の剣が赤い軌跡を残し、火花を散らす。
もう慣れたのか、すぐにライアットが一方的に攻撃をしだす。
(このままじゃ、駄目だ。何か、何かないの?)
焦った焔はライアットの横薙ぎの一閃を受けて、下がろうとして、足を取られた。
焔は尻餅をついた。
「それ、は……?」
フランツがその姿に、ハラハラと落ちた髪に隠れていた尖った耳に気づいた。
「!!」
焔はすぐに、耳を隠して何も言わず、俯く。
「私は、……その、半精霊…で……」
目を反らしながら、小さな声で途切れ途切れに言う。
「そうか」
フランツの言葉にライアットの嘲笑が混じる。
「ハハ……半精霊ってだけで、近衛騎士になれると思ってるのか?ああ、精霊騎士ってのを目指してるのか?この程度じゃあ、精霊騎士たかが知れる」
焔がその言葉を聞いて、立ち上がる。
(信じられない――)
それは、かつて会った翠の半精霊の騎士を思い出して――自分を通してその半精霊を馬鹿にされるのは許せなかった。
「では、あなたに精霊の力を見せてあげます」
「?」
ライアットが何の事か分からないといった直後、焔の赤味がかった髪が真紅に染まって輝く。茶の瞳も赤色に変わり、目の瞳孔が引き締まる。
業火のような殺気を纏う。ライアットは不用意な言葉で火山を噴火させたのだ。
焔は無言で手元に火の玉を作り、ライアットに飛ばした。
ライアットは驚いて避けるが、すこし炎に掠めた。
避けたライアットとの距離を詰め、炎を纏わせた剣の初太刀で縦に振る。
ライアットは冷静に避けて反撃に転じようとしたところで、焔の剣の炎が地面にぶつかって膨れ上がり、ライアットを燃やした。
すぐに炎の本流から抜けて、ライアットは焔を睨みながら腕で汗を拭う。
(こいつ、魔法が苦手なんじゃなく、魔法の代わりになる力を持ってやがったのか)
焔は、使う必要がないから、使わなかったから魔法が上達しなかっただけだ。
それも魔法並みの力を詠唱なしで使ってくる。
(なんつー、反則技だよ。……っち)
同じような事を魔導剣フレイム・ブリンガーで、できるのを棚に上げている。
「どうですか?」
落ちついた焔の声がした。
(やりづらい。そして、これが、精霊の力)
僅か数手でライアットは精霊の力の認識を変えさせられた。
「私の力は、まだ中級精霊と比べて拙い力です。本来中級精霊でさえ、人がどうこうする事はできないんです。私のこの力もまだ下級精霊の域を出ていないんですよ?」
(……これでかよ)
これで、下級精霊なら、本物の中・上級精霊はどれだけ強いのかライアットでさえ検討がつかなかった。
それからは、始めとは逆で徐々にライアットが押されていく形になった。
荒い息のライアットが、焔と距離を取った時に聞く。
「お前は精霊騎士になって何をする?」
「分かりません。とにかく、今はなる事だけ」
すっ、とライアットが表情を引き締める。
なりたいというのもわかったが、そこで何をしたいとか具体的なものが決まっていないのをライアットは、感じ取った。それが、まだ憧れの域を僅かに出ていない事も。
(そんなこいつに、負けてやる事はできない!)
魔法を用いた遠距離戦闘で勝てないならば、勝てる剣技だけで勝負をすればいい。
王に振れてを守り続けたいと思った。例え騎士としての身分を失おうと、どんな身分であろうとも誓うと決めた。
王の姿が思い浮かぶと、覚悟が決まった。
とっ。
ライアットはゆっくりと足を前に出す。
何になりたいかではなく、何をしたいかはっきりと決まっている俺が、何をしたいか決まっていない相手に負けるわけにはいかない。
とっと、と歩む足に力が加わり、焔に向かって走って行く。
焔が、手から生み出した火の玉を打ってくる。
顔の前に腕を出して、盾代わりにして飛んでくる火の玉の中を無理やり進んだ。何度も飛んでくる最後の火の玉を腕を振って振り払った。
「それじゃあ、俺には勝てねえよ!!」
焔が驚いて瞬間に剣を振りかざした。
焔の防御が間に合わなくて、剣は喉元に突き付けられた。
「まいりました」
「ほら」
ライアットが手を差し出す。
「有難うございます」
(強いな……)
ライアットに勝つには1年じゃ足りない。2~3年っていうとこか。
ライアットは焔の手を取ると、立たせる。
「ええ」
「精霊の認識を改めさせられた……感謝する」
「それはよかった」
焔はふふふと笑う。
「ここまで、来いよ」
「ええ、必ず」
ライアットが、くくくっと笑った。焔もふふふと笑う。
2人が何か通じ合ったようで、見ていたフランツは良かったと思う。同時に2人が何故笑ったのか、理解できない自分がそこにいて、少し寂しくも感じた。
「……あの、まだ私もご一緒していいですか?」
「もう、夜遅いし、帰った方がいいんじゃないかな?」
「いや、構わねぇ、一緒に来い」
「ちょ……、何を言っている」
フランツは女性をこんな時間時連れていく事はしたくなくて、すぐに止めた。
「ん?当然だろ。今はパーシルがいないんだ。魔法系の使い手の護衛は必要だろうが」
「……確かにその通りだ、わかった」
本当は嫌なのだが、ライアットの言っている事が正しくてフランツは諦めて頷いた。
「行くぞ」
「はい」




