王子の散策
大図書館の中で、並ぶ本棚の間を歩きながら必要な本を探して抜きだす。
彫刻・建築等の芸術関係の本、水の都の歴史の本、神話や伝承を記した本。それらを指で本を1冊1冊確認しながら抜き取っていく。
両手で抱えてかなりの数を持ってくると机の上に置く。もう何度か、いったりきたりして本の山を積み上げている。
一緒についてきた焔は火の魔道書を読み、ミナモは恋愛物語を読んでいた。
2人は席に戻ってきた雫が持ってきた量に驚く。
「それ、全部読むんですか?」
「まさか、そんなわけないって」
焔が文句を言おうとしたが、雫は机に水の都の地図帳を広げると、本を片手でペラペラと捲り始める。
確かにそれは読んでいるとは言えない。流し見をしているだけだ。それでたまにページを止めて、そのページだけ読んでいる。その後、地図帳に赤ペンで丸をつけている。
「何をしているのですか?」
「調べ物だ。来る前に言っただろ」
「……宿題はしないのですか?」
「こっちの方が重要」
「……」
今やっているのは、精霊王としてすべき事だ。宿題と比べるなんて馬鹿げている。
だが、それを知らない焔には、たた宿題をサボろうとしているようにしか見えなかった。
焔とミナモはとっくに帰っていった。
雫はそれからも、本を戻しては持って来て、同じ事を繰り返した。
「ふ~」
息を吐きながらパタンと本を閉じる。
気づくと夕焼けに部屋が赤くなっていた。図書室の利用者もだいぶ減っている。
(調べたい事はだいたい、調べたし、帰るか)
雫は荷物を片づけ始めた。
焔には、言っていないが今日は午前中、別の図書館で同じ事をしていた。ここは2か所目だった。
高級宿の部屋からフランツが出て行く。
「どちらへ?」
「散歩」
階段前にいたライアットが立っていた。
「俺も行くぞ」
「わかってる」
精霊の伝説に溢れるこの街なら精霊に会えるかもしれない。そんな珍しい場所に来たのなら探したいと思うのもわかる。責任感が強いから、少しでも早く見つけたいんだろう。
(まぁ、そんな簡単に会えるわけないと、わかっているだろう)
宿に入ってから、そわそわしていたからすぐにわかった。
安全な所で、ぬくぬくしていてはわからない事も多い。いつか国王になるかもしれないのだから、少しでも多くの経験をさせてやりたい。
「止めないのか?」
「ああ」
階段を下りるフランツについて行きながら答えた。
家の物に言われてフランベルツ王子に挨拶するように言われて、フランツの止まっている宿の前に来た。
高級住宅街にある焔の自宅からなら、王子の止まっている宿までそう離れていはいない。そこで護衛をつける代わりに焦げ茶に銀の朝顔の花と蔦の装飾がされたケースに入れられた大剣を持ってきた。
ライアットとフランツの2人が宿から、ちょうど出てきた。
心の準備ができてなくて、どうしようどうしようとぐるぐると頭の中が回った。
何とか平静を装って、ドレスのスカートを摘み上げ、優雅に挨拶をして微笑んだ。貴族の娘としての嗜みを叩き込まれていたので、問題なくできた。
その姿にフランツは頬を染めた。
「あ、あと、何の用でしょうか」
「はい、レナントの娘が王子に会いに来たと言えばわかりますか?」
「そうか、君はガリアン郷の娘なのか」
「はい、それでどちらへ?」
「近くを散策しようと思って」
「でしたらご案内します。ライアット様もいますし大丈夫ですわね?」
「ああ」
3人は噴水公園に入って、話しながら歩く。
「そのケースに入ってるのは剣ですか?」
「はい」
「そんな大剣、女の細腕で振れるのか?」
「はい、……そうですね。お見せした方が早いかもしれません。ライアット様、お手合わせ願います」
「いいぜ。お前最初からそのつもりだったろ?」
「やっぱりわかりましたか?」
悪戯がばれた子供の焔は、ペロッと舌を出した。
「私は近衛騎士を目指しているので、本物の実力に触れられる機会があれば逃したくありません。それに王子に自分を売り込めるんですから、尚更です」
「それじゃあ、もうちょい広い場所へ行こう」
「ええ、でしたら噴水前がいいと思います」
「わかった」
3人は噴水前に向かった。




