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雫輪舞(しずくロンド) 水の都の精霊王  作者: 優緋
水霊王の世代交代
20/62

vsガロン

 雫が南門につくと3人が頭にターバンを巻いた商人と一緒にいた。合流すると3人組は既に話を通してくれていたらしい。

 おかげで面倒な説明をしなくてすんだ。ついてる。

「それじゃ、よろしく」

 適当に商人に挨拶をすると荷馬車に乗った。荷馬車はすぐに門を出た。

 始めて出る街の外。

 白中心の人工的に造られた街。それが雫の今までの世界だった。

 その世界から出て、見たのは緑の木々に茶色の大地。不規則な形をしたそれらは街中には少ない。

 街中に会ったのは平らで滑らかな形のものだ。不規則な形のそれらが雫の興味をそそる。

「おぉ~」

 感嘆に声が漏れ、目をキラキラ輝かせて、興味深げに見ていた。見ていたんだ、最初は。

 荷馬車が舗装されていない道を進むため、ガタン、ガタンと揺れる。

「うぅ~気持ち悪い、ん、ん!」

 バっと両手で口を押さえる。その後、荷台から顔を出す。もう、景色を気にする余裕は残っていない。

「うぇぇ~」

 口元を拭って、また元の位置に足を投げ出して座る。

「もう絶対、馬車何て乗らねぇ」

「お前、帰りも乗るだろが」

「……」

 さぁ~っと音を立てて雫の顔は青くなった。

「まぁ大丈夫っすよ、すぐ慣れるっす」

「寝る」

 答えを返さず、不貞腐れたてそう言うと、すぐにスゥスゥと寝息を立て始めた。


『雫様、そろそろです』

 暫く荷馬車に揺られていた、雫がフリーデの声でパチっと目を開けた。

 布団にくるまって寝ると熟睡できるが、それ以外の時は眠りが浅いのですぐに目を覚ました。

 馬車の左右には森がある。荷馬車の前の方を向くと港町ハフェンスダートの白い建物が小さく見えてきている。

「止めて」

「は、はい?」

(こんな所で何を言っているんだ?)

 商人はてっきり港町ハフェンスダートまで行くと思っていたのだ。不審に思って荷台を見る。

 よたよたと四つん這いで御者台の商人に近づいて横に行く。

「止めて」

「……わかりました」

 手綱を引き、馬を止めた。

 しかし何故?と商人が問おうとすると、雫はトっと、小さい音を立て荷台から跳び降りていた。

「送ってくれてありがと」

「は?あ、あの、ここまででいいのですか?本当に?」

「ああ」

「それは、この森に入ると言う事ですよね?森の中は魔物が出て危険です。止めた方が……」

「心配してくれるんだ。……ふふ、ありがと。でも、あたしは行くよ」

 無邪気な子供のような笑顔で言われた。

「じゃあね」

 雫は、ひらひらと手を振ってスタスタと歩いて行ってしまった。


「子供1人で行くのは危険すぎる!」

 呆気にとられて、はっと我に返ると叫ぶ。忠告を聞かずに行ってしまった雫を止められなかった。

(どうしよう、あの子を助けられなかった)

 森の中には魔物・ウルフが出る。小鬼ゴブリン単体相手なら逃げられるかもしれないが、ウルフから子供が逃げるのは無理だ。小鬼ゴブリンも単体で活動する事は少ない。森に子供が入って帰ってこれるはずはない。

「俺が、あのオチビちゃんに着く、それなら安心だろ?」

「ああ、それなら、まぁ」

「お前ら2人は港町まで荷馬車を頼む」

「了解っす」

「わかったっす」

 ガロンが指示を出すと、荷馬車から降りた。

「行け」

「はい」

 商人が荷馬車を出した。

 ガロンはそれを見送ると森に入る。

 ザッザッと速足で進む。ゆっくり歩いていたら逃げられてしまう。

(都合良く1人になってくれてラッキーだぜ。ありがたく、お前の耳飾り頂くぜ)

 腰から波打つ刃のダガーを抜くと刃を舐めた。


(見ぃ~つけた)

 軽く走って雫に追いつく。例え距離があっても、盗賊の技能を磨いてきたガロンは足跡を調べられるので逃がす事はない。

『雫様、後ろです』

「ん?」

 後ろを見ると、スィと位置を横にずらした。殺気立ってて、あのままだと、通り抜けざまに斬られかねなかった。

「助かった、サンキュ。フリーデ」

 本当に助かった。戦闘経験が、そこそこあったから、どうにでもできると安心していたんだ。けど、戦闘以外が全然足りてないと自覚できた。

 ガロンが近づいてくるのに全く気づかなかった。戦闘に入れば五感強化のどれかは使っているから索敵し損なうなんてヘマはしない。精度で言えば、精霊でさえ対象になるほどだ。範囲も抑えているが、戦闘領域内は網羅できる。

 何故普段からしないのかといえな、理由は2つ。

 1つは自身が純粋な魔導士タイプではないからだ。魔力の最大保有量(ゲームでいう最大MP値)がギリギリでB程度と多くはない事だ。

 1つは魔法の維持を不得手としている所だ。訓練すれば、長く維持できるようになるが、それをやってしまうと体が耐えられないので避けている事だ。

 戦闘以外の訓練が今後の課題になりそうだ。

「どうしたんだガロン?」

 足を止めて、ガロンと向き合う。

「その耳飾り、貰えないかな~?」

「やだ」

 そう答えて腰の扇子を1つ取ると、腕を前に伸ばし広げて水平に持ち、ゆらゆらと僅かに上下に揺らす。

 こっちが構えたのに気づいて、ガロンも足を開き僅かに腰を落として構えをとった。

 2人はお互いにお互いを爪先から頭の天辺まで見て観察する。


 ガロンは雫を観察する。

 服装は茶色のブーツに白のコート。小さめのバックとウエストバックをつけている。中身は不明。

 腰のベルトに扇子が1つ。今手に持って広げている扇子と合わせて2つ。あれが武器なのだろう。

 それから俺が狙っている耳飾り。

 とここで、じっくり観察した事でヘアバンドにも目がいった。簡素な物だが、かなり成功に造られているのがわかる。値打ち物だ。

(ついでにそれも頂くぜ)

 新しい金づるに舌なめずりをする。

 身長は150cmもなく低い上に体つきも幼い。筋肉があまりついているように見えない。

 武器が扇子という事ともあり魔導士型かもと思うが、それにしては距離が近い。この距離なら魔法の詠唱中に相手を叩ける。

 なら、近接戦闘型かと問われれば、ゆるゆると扇子を僅かに上下に振っているが隙だらけだ。

 どちらかわからないが、どちらでも対応できるから問題ない。

 見ていると急に頭をブンブンと振った。その後、だらだらと大量の冷や汗を流し出した。

(余裕じゃねーか)

 そう思いほっとガロンは胸を撫で下ろした。


 雫はガロンを観察する。

 灰色の逆立てた髪で長身。筋肉質だが、マッチョではない。蛇を彷彿させる男。

 会った時とは違い、森の中で活動するためか、霞んだ深緑のコートを着ている。ジーパンに茶色のブーツ。ベルトには幾つか縦長で釦で開け閉めできる革袋をつけている。

 普通に見ればあたしとの力量差では隙がないように見えるが、あたしから見れば隙だらけだ。

 ふとそれに気付いて、いやいや、それじゃ駄目だろ、ブンブンと頭を左右に振った。

 もう1度相手を見て、ダラダラと冷たい汗が流れ始めた。

 相手がこっちの様子にほっと胸を撫で下ろして、僅かに警戒を緩めたのを見て、木の裏に隠れるように横に回転しながら飛んだ。


(?何だ)

 木に隠れた雫の行動に警戒をガロンは強める。

 だが、暫くしても何もしてこない。

 おかしいと思い、警戒しながら雫の隠れた木に手をかけ裏を確認する。

 しかし、そこにはいるはずの雫はいなかった。

 あるのは、当たり前の木や草だけだ。

(逃げられた!?)

 バっと顔を振って辺りを見るが見つからない。足跡を調べるがどこに行ったかわからなかった。

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