輝き移る星と星詠みの学者
王都、星詠みの塔の最上階。
床を丸く凹ませて水を張った水面に星の輝きが多く映る。ドーム状の天井に開いた小さな穴から入った光にレンズの魔法がかかり水面に映す。
夜空には、雲1つなく満月が輝き星は瞬いている。おかげで水鏡にも美しい夜空が映っている。
そのため今日は、星詠みの学者が8人も集まった。夜空が曇ったりするとこの半数も集まらない。
8人が水面に映る宇宙を覗きこむ。
すると水鏡に映る星の大きく最も強い蒼の輝きが薄れていく。変わりに離れた位置にある星の輝きが色を変え、蒼い輝きが強くなっていく。
「これは……」
「まさか……」
その水面を囲んで見ていた7人いる青い僧衣のようなローブを着た人達がざわつく。
ローブを着てはいても彼らは、僧侶や魔法使いとは違う。彼らは星を見てこれから起こる事、今起こっている事を詠む学者達だ。
あまり知られていないが占いの中にある占星術は、占いではなく学問とされている。占星術は魔法でもない。
「あの、どうしたんですか、博教授?」
そう聞かれて1人他のローブと違う深い黒のローブを着た博は、すぐ斜め後ろにいる赤味がかった髪をポニーテールにして、書類を両手で抱えた白衣の女性――てんを見る。
てんは、星詠みの塔の教授付きの助教授、つまりは見習いだ。
「てん、お前はこれをどう詠む」
てんは、水鏡に近付いて屈んで覗きこむ。
「あ、はい……光が別の場所に移ったみたいですから、ええと、転生、交代、搾取ですか?」
てんは、丸い眼鏡を片手で上げて水鏡を見て少し悩んでから、教授に上目遣いで尋ねるように答えた。てんの答えは教科書通りのものだ。
胸元が僅かに覗いているし、スカートが短いので足も腿まで見えている。
いつも博教授は、はしたないと怒るのに今日は何の反応もない。
(どうしたんだろう?)
博教授はこんな当たり前の事は聞かないし、怒られないのでおかしい気がして、てんは不思議に思って博を見上げると、彼にしては珍しくどうやら悩んでいるようだ。
「やはり、そう思うか」
博は、てんを見ないで、顎に手をやり眉間に皺を寄せて水鏡を睨む。
転生だとしたら精霊王が死んだ事になる。普通の精霊なら寿命の可能性があるが精霊王は、1000年近く生きている。可能性は低い。
精霊王の力を搾取できる者など早々いたりはしない。最も可能性が高いのは交代だ。つまり水の都の精霊王が世代交代したという可能性。
もし本当にそうならこれは一大事だ。例え、どの可能性でも大事件だ。
信じたくなくて博は他の詠み方がないか模索する。しかし、他の答えが見つからない。
例えあったとしても水の精霊王に何かあった事だけは、間違いない。
「ところで、あの輝いていた星って、いったい何の星なんですか?」
「水の精霊王を示す星だ」
即座に答えが帰ってきたが、何かの聞き間違いかだとてんは思った。
「え?」
聞き返した時には博教授は、すでに踵を返していた。
てんが答えを反芻している間に博は慌ただしく部屋を出て行った。
パタンッ。
扉が閉まる音。
「それってつまり、精霊王に何かあったっていう事じゃないですか~~っ!!」
博教授の言ったことを理解したてんは、国が傾くかもしれない重要な内容に大声で叫んだ。
部屋の外に出た教授は、扉の横にいる星詠みの塔の守衛に声をかけた。
「至急、国王に連絡を取りたい」
状況が状況なだけに普段冷静な博教授も、つい大声になってしまう。
「何事です?」
驚いた顔で守衛が問い返す。ここに勤めて長いその兵士は、普段から温厚でゆったりとした感じの博教授が大声を出す所を今まで見た事がなかった。
「水の精霊王が代替わりした、その報告のため明日王宮に赴くと伝えろ」
「精霊王が?一大事じゃないですか。わかりました、今すぐに伝えてきます」
守衛は慌てて、王宮に駆けて行った。
(さてと、私も少しでも何かわからないか調べないと……)
博は螺旋を描く階段を下り、自室へと向かった。
博は、本だらけの自室で本棚の本をひっくり返して読んでいる。
それどころか床に積み上げられた本まで、関係ありそうな本を読んでいく。
読んだ本を元の場所に戻す時間ももどかしく、床に放り投げている。おかげで床には、散乱した本が足場をどんどん減らしていく。
しかしどれを見ても精霊王の世代交代に関する記事は乗っていない。精霊王の記事でさえ殆どないのだから仕方がない。
「これにも手掛かりがない」
結局いくら探しても該当するような事が載っている本は1冊もなかった。
 




