雫ちゃんの初めての迷宮探索
昨日貰った水明の紋をさっそく使ってみようと翌日の深夜、雫は噴水公園にある地下水路入口の建物の前に来た。
どうすればわからず雫は扉を調べ始める。
まずはとりあえずじっくり見て見る。扉は茶色く錆びていて長方形の凹みが2つある良くある形だ。
鍵穴の付近に見た事のない文字が2重の円になるよう書かれている。魔法に関わるような文字だと思うが読めない。
(魔法……か)
もしこれが魔法装置で魔力が流れているなら、魔力真眼で見れば何かわかるかもしれない。
「世界構成要素、属性を見せよ魔力真眼」
普段使っている音程が跳び跳びで聞き難い訓練で使っている声ではなく、落ちついた声で詠唱を唱えて魔法を発動させる。
すると水の波紋のような紋様と水連の花に鎖と魔法に関する文字らしき羅列が見えた。
(む~見えたからって、どうすればいいかわからないな)
近づいて手で触ってさわさわと調べる。
(特に何も――)
手を話そうとした時右手の水明の紋が浮かび上がった。それがくるりとゆっくり、そして僅かに回るとカチャリと小さな音がした。
(あ、開いた)
雫は扉を押して中に入る。
中は四角い正方形の部屋で、正方形の穴に梯子がかかっていた。
下を覗くが暗くて底が見えない。
(まぁ、いいけど)
カンカンカン……。トン。
雫は梯子から降りる。
魔力真眼の効果がまだ残っている。雫の目に映る色は、青系統が多い。
(全属性に対応しなくても良さそうだな)
属性を絞れるなら、魔力の消費を抑えられる。
雫は奥に進み始める。
少し進むと十字路になっている別れ道があったので、始めてきたので迷うのは避けたいなと、軽く考えて壁伝いに左に進む事にした。
青い塊が複数、壁に沿って蠢いている。
「魔物かな?」
(それにしては、伸びたり縮んだり、何だ?)
動きはそこまで早くない、というか遅い。何かあったら逃げればいい。
とにかく進んでみる事にした。
その青い塊に近づくと、鞭のように体を伸ばしてきた。
(!!)
咄嗟に半歩下がって避けた。体全体の動きは遅いが鞭の攻撃は、そこそこ早い。全部避けるのは無理だ。
怪我をできるだけしないためには、数を減らすのが一番だ。
そのためには攻撃あるのみ。
強化魔法、腕力増強を使って青い塊を殴る。
ズップ。
手が沈んだ。手応えがおかしい。
「え?どうなってるんだ?」
咄嗟に手を引き抜くと、すぐに下がって距離を取る。
雫は手にべとつく液体を指で取って伸ばす。
「……」
(そっか、暗くて見えないから魔力真眼が頼りだけど、見え方が、普通の目と違うんだ)
もう一度、今度は確実に倒す。気合を入れ直して、向かっていった。
今度は色の最も濃い部分に拳を叩き込む。
青い塊である水溶生物はそれで動かなくなった。その後、光の粒子になって消えた。
(何だ、これ?……いや、まぁいいか)
強くなるためには関係ない。
雫は探索を続けた。
奥に進むと、違う色のが見えた。色は紫。動きは青いのと同じだ。
(どうせ、死ねばそこまでだし、試してみるか)
「くらえ!」
殴打の衝撃で紫の液体がかかったが、問題なく倒せた。
(何だ、特に何も問題ないじゃない――か?)
ドサッ。
雫は倒れた。
(えっ、何で?体がうまく動かない)
ぐぐっと力を入れて立とうとするが、上手く力が入らない。
(これ、もしかして毒?)
とにかく距離をとるために壁に寄りかかりながら戻った。
入口の階段の所まで戻って来た。
(きつい、これ以上歩けない)
ぺたんと座り込んでしまった。
すーすー。
それで体を休めるつもりで目を閉じたら寝てしまった。
「ん~あ~?寝てたのか。あれ?襲われてない?」
(ここには入って来ないのか)
スっと目線を落とす。たぶん原因はこの魔法陣だ。
毒の方は時間がったって抜けたみたいだ。そこまで、危険な毒じゃなかったみたいだ。
少し休んでから、また探索に戻った。
雫は紫のそれの前に立つ。再挑戦だ。
とにかく今はこいつを倒すのに全力を尽くす。後の事は考えない。
ドッ。
紫のそれを思いっきり叩く。その後、飛沫がかかるよりも早く引く。
それでも、多少液体が付着してしまう。殴った右手に着いたのを振って払った。
飛沫のかかる量を減らせば毒にかかり難くはなる筈だからだ。
(必ずしも毒にかかるわけじゃないのか)
それから紫の塊が複数出てきて逃げたり、青い塊を殴って倒したりしながら探索を続けた。
(奥に行くほど魔物が強くなっているのか)
どこまで行けるかわからないけど、紫の塊から逃げている程度では、その先には進めない。この当たりでの戦闘に慣れておくべきだな。
雫は奥に進まないように周辺を探索する事にした。
ぐ~。
暫くし探索すると腹が鳴った。
その音にピクっと水溶生物達が反応した。
(聞こえてるのか)
使ってみてわかったけど、腕力増強はエネルギー消費が大きい。つまりは、使いまくれば、腹が減る。軽く入って出てくるつもりだったから、生憎食べ物は持ってきていない。
(帰ろう。お腹が鳴って、魔物に襲われ殺されたなんて、さすがに恥ずかしすぎる)
雫は探索を切り上げて帰って行った。
翌日、魔力真眼に魔力を使うのを避けるためにランタンを持って入ってきた。
マッチで火をつけて蓋をして灯りをつけると、ランタンを掲げたまま、慎重に奥に進んだ。
すぐにぶよぶよとした水溶生物を見て、雫は心底気持ち悪いと思ったのだった。




