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エピローグ

 174年12月30日

 俺たちは未だに中央都市ファンセントで暮らしている。


「明日も早いし、そろそろ寝ましょうか」


 リーゼがそう言った。リーゼは会った当初のように髪を伸ばして、今では腰のあたりまで伸びている。


「そうだな」


 ここでの生活は俺が簡単な依頼をこなしたり、リーゼが討伐依頼をこなしたりして生計を立てている。なので、今ではリーゼの方が稼いでいると思う。

 リーゼも確実にできる依頼を選んでいるから報酬は少ないもののそれでも一回分の報酬は俺より多いのだ。体を張っている違いだろう。リーゼの依頼報酬1、2回分が俺の月の報酬と同じくらいという時もあった。もちろん俺は、長丁場の依頼がない限りは、月10回以上は依頼をこなしているぞ、簡単なのだけど。

 まぁこんな感じだが結婚生活は円満だ。

 結婚は帰ってきてからすぐにした。式をあげる風習はないようで、お金持ちの人はパーティーなどをやるみたいだが俺たちはやらなかった。

 そして俺たちには新たな家族ができている。


「ほら寝るぞ、シュリ」


「ベッドまで行きましょうね、シュリちゃん」


 ショートヘアで赤髪の、明日で5歳になる女の子。正真正銘、俺とリーゼの娘だ。


「ふぁ~い」


 既に眠くなっていたらしく欠伸をしながらシュリは答えていた。


「んじゃ、行くぞ。捕まってろよ」


 シュリの体を掴んで俺は言う。


「うん」


 と言う返事があったので。軽い体を持ち上げ、リーゼと共に寝室のある二階へと向かった。



 ベッドに入り、数分でシュリは寝てしまう。

 寝る時はいつも川の字だ。俺、シュリ、リーゼと言う順で。


「もう寝ちゃいましたね」


 薄暗い中だが、月明りでリーゼがシュリの頭をなでている動きが見えた。


「そうだな、昼間騒いでいたからな」


「明日、久しぶりに会えますもんね。私も楽しみです」


「寝坊しないように早く寝ないとな。……まぁ夜からだからそれは流石にないか」


「ふふっ、そうですね。明日は腕を振るいますよ」


 楽しそうに言うリーゼ。


「楽しみにしてる」


「はいっ。ではコウさん、おやすみなさい」


「うん、おやすみ」


 会話は終わった。

 シュリの事だが、シュリはどういう事か生まれた時から髪は赤かった。医学にも精通しつつある、出産に立ち会ったハンナですら、生まれる子は普通父親か母親の髪色になるんですけど、どうして違うんでしょう。と言っていた。俺の髪は黒だし、リーゼの髪はブロンドだ。

 どうしたって赤にはならなと思う。だが生まれてきた子は赤い髪だった。

 最初はなんかの病気かとも考えたが、考えているうちに1つの仮説が浮かんだのだ。もしかするとシュリカの生まれ変わりかも知れないという仮説が。

 以前、と言っても数年前だが、リーゼには俺が死にかけた時シュリカと会ったと話していたし、そこで生まれ変わったら俺のとこに来い的な事は言ったと話していた。俺が仮説を言うと、そうかも知れませんね。とリーゼも納得してくれたのだ。

 答えは神さんしか知らないが、会いに行くには死んでしまう確率の方が多いので行きたくない。それに2人で話していると、そうかも知れない、そうであってほしいという思いが強くなった。そしてシュリカの名前を貰い、シュリと名付けたのだ。……正直に言うと女の子ならシュリと名付けると俺は決めていたんだが、その事はリーゼには言っていなかったりする。なんかほら……ねぇ。

 明日は新年。里帰りもリーゼを紹介しに行った時以来行っていない。手紙のやり取りは、主にリーゼがだが、楽しそうにやっているが。

 シュリも5歳になるのだ、少しの長旅くらいならもう大丈夫かな。……今年の夏頃行こうか。と眠たくなる意識の中、考えていた。



 ----



 175年1月1日

 起きると2人の姿はもうなかった。

 時間を見てもまだ9時だ。新年会は夜やるので、朝は割とのんびりなのだ。


「……起きるか」


 そう呟き、ベッドから這い出る。

 冬になった今日、昨日と同じくらい肌寒い。でも、雪が降っている所よりは断然温かい。

 階段を降りてくとキャッキャッとシュリの楽しそうな声が聞こえる。

 リーゼと遊んでるのか。俺も起こしてくれれば良かったのに。

 ちょっぴり寂しい気持ちになりながらも俺はリビングに顔を出した。


「あっ、おはよー」


「おとーさん、おはよ」


「おう、起きたのか」


「おはよう……早いのな」


 リビングにはシュリと、シュリと一緒に遊んでいるルナの姿、それを見ているインディロの姿もあったのだ。


「コウさん、おはようございます」


 キッチンの方から声がする。俺の声が聞こえたのだろう、挨拶をしてくれたリーゼは絶賛料理中のようだ。

 リーゼにはちゃんと、「おはよう」と言葉を返す。


「早いのな。とは何だよその言い方はー。オレたちだって楽しみにしてるんだぞ、この集まり」


 酷いよなリーゼー。そうイーロは付け足した。

 俺はシュリの頭をなでながら、空いていた隣に腰を下ろす。


「そうだーそうだー。昨日来なかっただけありがたく思ってほしいよね」


 リーゼの困ったような笑い声が聞こえてきた。

 どうやら2人は昨日この街に着いたが、遠慮して昨日はアリナさんの宿に泊まり、今日朝一でうちに来たらしい。別に昨日来ても良かったんだけどね。


「そうそう、アリナに聞いたんだが、この家買い取ったそうだな」


 唐突に話は変わる。これといって執着するような話題でもないから気にはしない。


「そうなんだよ。毎月お金払うのより買い取った方が、ずっと住むんなら安いんじゃないかと思ってな。もちろん一括で払えるわけはないから借金だ」


「あのアリナがよくそんな事をしてくれたな」


「まぁイーロよりは良い付き合いをしているからな。時々雇われるし……薄給で。その分、良い待遇にしてもらったと俺は勝手に解釈している。因みに金利はなしだ!」


「そうかいそうかい。という事は、この土地はコウの物か」


 俺の冗談は軽く受け流された。


「そうなるな。俺が戦えればお金もすぐ返せるんだけどな」


「貸してやろうか?」


「それじゃあ今と変わらないだろ」


 それもそうだ。と、ひと笑い。


「それならさ、家事全般をコウがやってリーゼに稼いで来てもらえばいいじゃないか」


 イーロの提案は俺も言った事があった。だけど女心は良くわからない。


「そうなんだけどさ、俺が家事をやるって前に言った時、私もやりたいです。やらせてください。ってお願いされたんだよな。お金も大事だけど家事をする事も好きなんだそうだ」


 なんとなくリーゼには聞かれたくなかったので、ちょっと声のボリュームを下げて俺は言った。


「……じゃあなんだ、コウはヒモなのか?」


「そ、そんなわけないだろ、俺だってできる限りの事はやってるしー」


 洗濯とか、ご飯だってたまに作っている。左手だけで、右手は軽く添えるだけでも人生何とかなるのだ。


「はは、冗談だ」


「おう、知ってる」


 ルナとシュリは2人で話していた。少し耳に入ってきたが、どうやら冒険の話をしているようだ。ルナは身振り手振りもつけて話ていて、それを見ながらシュリは「それでそれで」と楽しそうに聞いていた。


「そういや、去年はどこ行ってたんだ?」


 ルナの方を向きながらイーロに質問する。


「ん? オレらが夏に遊びに来ただろ。その帰り、ハンナちゃんに持って来てほいしいものがあると言われてな、それを取りに東の方に」


「……そうか」


「ちゃんとコウとリーゼの事は言っておいたぞ。シュリちゃんの事も」


「ありがとう……」


 あれから俺は一度も東の大陸には行っていなかった。だからイーロの言葉を聞けて少しホッとする事が出来た。いつか、いつになるかはわからないが、リーゼとシュリと一緒に行こう。そう心に誓った。

 少し間を開けてから、俺は再び口を動かす。


「ところでさ、イーロ老けたよな」


「お前もおっさんぽくなったよな」


「「……ぷっ」」


 言って2人して吹きだした。


「何か言いたくなるんだよな」


 笑いながら俺は言う。


「毎年言ってくるもんな」


 イーロも笑いながら返してくれる。

 突然笑い出したせいでルナとシュリはこっちを向いた。


「どうしたの?」


 シュリは俺の膝の上に座りながら聞いてくる。


「面白い事でもしてたの?」


 ルナも首を傾げている。話すことに余程集中していたのか、俺たちの会話は全く聞いていなかったらしい。


「楽しそうですね。ご飯が出来たんで私も混ぜてください」


 お盆の上に朝ご飯の料理を何品か持ってきたリーゼは、そう言いながらテーブルの上に並べていく。


「ご飯だ、シュリ、お母さんを手伝うぞ」


「うん!」


 俺の膝から勢いよく立ち上がり、リーゼについて行きキッチンへと向かった。


「よいしょっ」


 俺も立ち上がりキッチンへと向かう。

 その途中、おっさんになったねぇというルナとイーロの声が耳に入ってきたが、本当の事なので意地を張らずに無視をした。



 ----



 日が赤くなろうという頃、誰かがうちにやって来た。


「はーい」


 特にやる事もなく、リビングで話しているだけだった俺たちの中で一番にリーゼは反応し動きだす。

 その後にシュリも続いて行った。俺とルナとイーロは待機だ。


「こんにちはー」


 という声で誰が来たかはわかった。


「いらっしゃい」


「いらっしゃーい」


 リーゼの真似か、シュリも言う。


「シュリちゃーん」


「うわーっ!」


 シュリの叫び声は喜びの声だ。


「ルナさんとインディロさんはもう来てるよ」


「じゃあとはエルシーさんとサムナさんたちだけだね」


 話し声は近づいてきている。


「やっほー」


「半年振りか?」


「お久しぶりです。そうですね」


 ルナとイーロの言葉に、シュリを抱っこしてきたハンナはそう答えた。

 ここ数年でハンナは成長していた。身長はリーゼとほぼ同じ。肌の色は白いが、体型は前に会ったときのカレンと似たような感じになっている。胸は……あまりだが顔立ちは我が妹ながら綺麗だ。髪も肩に掛かる程に伸ばしている。

 ハンナは今、うちから一番近くにあるギルドの、まぁいつも行っているギルドなのだが、そこの近くで1人暮らしをしていた。最初は俺たちと一緒に暮らしていたが、学校を卒業して、自分で色々考えた結果、そう決断したそうだ。最初は気を使っていたのかと思ったが、1人暮らしを始めて最初の方は暇なときは良くうちに遊びに来たり、リーゼや俺をハンナんちに招待してくれたりと遊んでいたのでそうではないのかも知れない。ここ数年は忙しくなったのか遊びにくる頻度は激減しているが、それでも暇なときは来てくれていたりする。

 そんなハンナも混ぜ、ちゃぶ台のようなテーブルを囲むように座布団を敷いて床に座る。椅子とテーブルもあるにはあるが如何せん数が足りない。それに普段もこっちで食べているので、あまり使っていないのだ。


「ハンナちゃんに頼まれてたのこれで良いんだよね」


 ルナはそう言うと、ボックスから何か草のような緑色の物を取りだして渡していた。


「……そうです! ありがとうございます。お礼は後で支払います」


「いいよそんなの。ハンナちゃんのおかげで目的地が決まったし、楽しかったしね」


 後半、イーロの方を見て言うルナに、「そうだな」と即答したイーロ。


「そう、ですか。ありがとうございます。今度何か奢ります……今回はどのくらいここにいるんですか?」


 この2人、いや、ルナに奢りますとか言うと報酬金よりも持っていかれることが多々あると思うのだが、そんな事を気にした様子もなくハンナは言った。

 ハンナは今やこの都市の医療に大きく関わっていた。病気や怪我を診て、更には学校で講師のようなこともしているそうだ。なので俺よりお金を持っているのかも知れない。教える事は、座学ので治療、治癒魔法についてだとか。他にも治療魔法の実技もやったと聞いた気がする。

 確か治療魔法は怪我などの外傷や内傷を治したりする魔法で、治癒魔法は病気や呪いを治す魔法だそうだ。でも病気を魔法で治すのは難しく、時間も掛かる。薬などで治した方が簡単なのだそうだ。呪いは呪いでどういう原理で生まれているのか解明はできていないらしい。魔物が使う呪いは、上級の魔法使いなら解除できる人は多い。だがその他に、今では全種族間で禁止されている呪いの魔法もある。様々な呪いの魔法があったらしいが、これを昔に受けた人の子たちで現代でも呪いの影響を受けている人がいる。他にも摩訶不思議の絶対的な力で呪われる人、その呪いが良い方向にでる人がいるそうだ。「こんなのわけがわかんないよね。調べても成果は出ない、他の方法で病気は治る。だから治癒魔法は廃れていっちゃったのかも」とハンナが前に言っていたな。


「特に決めてないよ。少しここの依頼見て、面白そうなのをやってから出掛けようかな」


 ルナはもう一流の冒険者だった。ランクはA。ギルド内では身長が低いせいか放浪少女という変な異名があったりする。イーロはその付き人みたいな立ち位置だ。イーロも冒険者としてギルドカードを貰って活動していたらルナと共にAランクであったと思う。未だにこの都市のギルドは毛嫌いしているけど。


「好きなだけ泊まっていっていいからな」


 な。と、もう一度リーゼの方を見て言う。


「はい」


 とリーゼからは返って来た。


「ありがとう」


 ルナからのお言葉。

 イーロからも「どうもな」と言うお言葉を頂いた。


「そういえばあの2人は最近どうなんだ?」


「ちょくちょく駆り出されて遠くに行ったりしてるんですよ。わたしも何回か連れて行かれてます」


 ハンナのもう1つの顔。それは勇者パーティのメンバーだ。

 何と祐は魔王を消滅させたという事をこの都市のお偉いさん方に話したそうだ。魔王と呼ばれていた人を仲間と呼んで一緒に話しに行ったというのは笑いものだが。

 討伐の証拠はなかったが魔物被害もなくなっていた。お偉いさん方は祐の功績を評価し、勇者パーティメンバーには報奨金が入った。そして祐には選択が。元の世界に帰るか、この世界に留まるかの。

 シンとミュラは中央大陸のどこかに土地を貰い移り住んだそうだ。ハンナは学生の身という事で数量のお金という事だったそうだが、数量と言っても大金だったのだけれでも。エルシーさんは要りませんと言ったそうだ、魔王の分もまとめて。

 聞いてはいないが、多分自分たちのせいでとか思って辞退したんじゃないかと俺は思っている。

 そして祐は選択した、この世界に留まる事を。その時、両親宛てに1通の手紙を送ったそうだ。内容はわからないが。こっちで元気に暮らしてるから心配しないで。とかそんな所ではないだろうか。

 私がいなくなったらサムナの馬鹿野郎の魔法が解けたときどうするの? また呼ばれるのは勘弁だし、人が死ぬのも勘弁だわ。なら残っていなきゃいけないじゃない。との言葉を勇者パーティのメンバーに言ったそうだ。

 祐はこうして、この城で兵士とは違う自由に動かせる部隊、のようなポジションになっていた。今は北部に祐と魔王さんとエルシーさん3人で暮らしている。


「この前も凶暴な魔物が出たそうで、行って来てくれと言われて連れて行かれたんですけど、冒険者の人がすでに倒し終わってましたからね」


 苦笑いでハンナは言う。

 城の主は魔王討伐を発表したときの民衆のお祭り騒ぎが気にいってしまったのか、魔王討伐の後、冒険者と似たような事をやる部署みたいなのを作ったそうだ。それの一番初めの参加者が祐たちとなる。


「今では反対派が増えて、ユウさんたちの仕事は無くなりつつありますね。ユウさん自身も冒険者になりましたし」


「へー、色々大変そうだな」


 他人事のイーロ。

 まぁ俺もそんな感想を抱いてしまっていたので人の事は言えないな。そう思っていると呼び鈴の鳴る音がした。


「お邪魔する」


 次に声もする。


「いらっしゃーい」


 ルナが動かずそう言った。

 入ってきたのだから迎えに行かなくとも来てくれるだろう。そう思って誰も動かない。リーゼだけは飲み物を出すためかキッチンへと向かって行ったが。


「開いてたから入って来てしまった……おおっ、ハンナももう来てたのか」


 いらっしゃい! シュリがエルシーさんの姿を見てから言った。俺もそれに合わせて挨拶をする。


「今日は全部休みだからね。昨日は飲み会があったせいで寝過ごしちゃったんだけど」


 飲み会。もう大人とはいえハンナの口からこの言葉が出るのは何か違和感があるな。


「エルちゃんも久しぶり」


「お好きなとこ座ってください」


「あ、ああ」


 テーブルの輪に1人加わった。

 良かったらこれを。とコップを置いたリーゼにエルシーさんは何かを渡している。


「美味しそう……。ありがとうございます! 最後に食べましょう」


 俺からではどんなものかは見えなかったが、食べ物のようだ。


「なにーそれー?」


 シュリも気になったらしい。


「デザートですよ。最後に食べましょうね」


 リーゼはすぐにボックスにしまっていた。


「そうだ! こんなとこで言うのもあれなんだが、ハンナに頼みがあるんだけど……」


「なんですか?」


「……これからハンナの家で暮らしてもいいかな?」


 ……んむ、唐突だ。


「け、喧嘩でもしたんですか!?」


「喧嘩は良くないねー」


「いくないっ」


 ハンナの言葉にルナは言い、ルナの言葉にシュリが続いた。


「いや、喧嘩ではい。昨日な、あの2人が出掛けて、ユウだけが先に帰って来たと思ったら、こ、告白されちゃったんだけど! さ、サムナにッ!! ど、どどど、どうしよう! どうしようエルシー!? ……とまぁこのような感じで私に言って来てな。私はあそこには居づらくなってしまいそうなんだ」


 迫真のモノマネだった。


「ふぇっ!?」


 驚いたのはリーゼだけだ。


「まぁいずれそうなるとは思っていたよな」


「だよなー」


「うん」


「はい」


「……そうだったんですか」


「……?」


 ガクンとリーゼは首を折り、シュリは首を傾げた。


「ユウさんとサムナさんいるでしょ。あの2人が結婚するかもしれないって話だよ」


 リーゼがシュリに説明している。


「お父さんとお母さんみたいになるの?」


「んー、そうだね」


「おおー」


 むぎゅ、シュリはリーゼに抱きついた。


「ふふふっ」


 その行動は俺には良くわからなかった。意味はないのかも知れないが、リーゼは嬉しそうにシュリの頭をなでているしまぁ良いか。


「喧嘩してなければうちに来ても大丈夫ですよ。じゃあ今日は2つに意味でのお祝いですね!」


「ありがとう。で、でもまだ決まったわけではないぞ」


「あんなのはたから見ればわかりきってる両想いだったじゃないか。大丈夫だろ」


「エルちゃんはユウちゃんに何て言ったの?」


「おめでとう。良かったじゃないか。と」


「それじゃあ美味しいご飯をいっぱい作らないとですね。あっ、だからエルシーさんはあれを買ってきたんですか?」


「いや、ま、まぁそうなんだが」


 恥ずかしそうに答える。だがその言葉でリーゼが受け取ったものを俺は閃いた。祝い事、それに不可欠なものそれは饅頭だ。この世界ケーキがないが餡子はあり、饅頭がある。饅頭を大きく作り、祝いの場に出してみんなで切り分けたりするのだ。


「あっわたしも手伝うよ」


「私も」


 リーゼがシュリを俺に託し、キッチンに向かったのを見てハンナとエルシーが言う。


「ありがとうございます」


 そう言い、料理を開始した。


「ヴィーちゃんは今どこいるのか知ってる?」


 キッチンにいるエルシーさんへ、ルナの質問が飛んだ。


「知らない。いつも通りどこかで露店やってるんだろうな。ダンジオも相変わらず西にいるようだし」


 ヴィートさんは風来の商人を続けていた。この都市に来た時、うちに寄って俺たちに対しても商売をしてきて来たりする。初めてうちで「これ買って行かないか?」と笑いながら言われた時、ある光景と一致した。そう、俺が指輪と短剣を買った時に。

 その事を話してみると、やっぱり気づいてなかったのか。と大笑いされたが。

 ダンジオさんとは魔王城での一件以来、俺とリーゼは会ってはいない。話ではたまに聞くので元気そうなのはわかっている。リーゼの生まれ故郷、西の都市ウェルシリアで冒険者をしているそうだ。

 ……なんか昔の風景のようだ。今の場を見て思う。俺とルナとイーロがいて、そこにシュリが増えているが、キッチンにリーゼがいてハンナもいてエルシーさんもいる。この輪の中に後2人加わるのだ。

 気づけば毎年やっているパーティーだ。最初は俺とルナ、リーゼ、イーロ、ハンナでやろうと俺が考えて言ったのだが、そこにハンナが祐、魔王、エルシーさんを連れてきた。ヴィートさんも2回ほどこのパーティーに来ている。

 やっぱり、いくつになっても集まって騒ぐのは楽しいものなのだ。


「シュリちゃん、あの2人が来たらおめでとうって言ってあげよーね」


「うんっ」


「なんか騒がしくなりそうだな」


 ルナの顔は、面白い事を見つけたのでそれで遊ぼうとでも思っていそうな顔だ。


「そうだね。でも、まぁいいじゃん今日くらい」


「ルナの場合はいつもの気がするんだが」


「それもそうだな」


 イーロは笑う。


「ルナが笑顔じゃなかったらそれはそれで嫌でけどな」


 ドンドンッ、ドンドンッ

 噂をすれば影が差す。

 2連続が2回ほど叩かれた音がした。うちに、呼び鈴を鳴らさず玄関を叩いて来た事を知らせるのは祐だけだ。何故だかはわからない。


「きたよっ」


 シュリは楽しそうに笑っている。


「シュリちゃん行くよ。ディロちゃん、コウちゃん、リーゼちゃん、ハンナちゃん、エルちゃんも!」


 ルナはこの場にいる全員の名を呼んでいた。


「料理中なんだが……」


「あとで、みんなでやればいいんだよ。それよりも恥ずかしめ……祝ってあげないと!」


 恥ずかしめたい。みたいなことを口走ったルナはシュリと共に先に玄関に向かって行く。


「よし行くか!」


 イーロは言葉と共に立ち上がった。


「……そうだな」


 後ろで見ていれば良いか。面白そうだし。

 俺はそう考え腰を上げる。

 料理途中だった3人も一旦中断して、玄関へと向かって後ろから歩いてきた。

 ルナの言葉にみんなは従っていたのだ。

 ドンドンッ


「来たわよー、開けなさいよ」


 玄関につくとそんな言葉が外から聞こえた。祐の声だ。

 俺はみんなより一歩ほど後ろの場所にいる。なんかあっちが忘れているといっても、俺の実の妹なのは変わらない。祝いたいけど前の方で、というのはなんか気恥ずかしい。


「ん? あれ、開いてる」


 ドアノブに手を置いたのだろう。鍵は閉めていないので開くのは当然だ。

 ドアが動き祐の顔が見えた瞬間――


「おめでとーーっ!」


 元気よくシュリは跳びついた。

 シュリの跳びつきによろめいた祐だが、後ろにいた魔王に支えらえ倒れ、事はなかった。

 おめでとうっ!

 玄関の各所からその言葉と拍手が2人に見舞われた。

 もちろん俺もその中の1人だ。


「はっ? えっ!? な、なんなにょ!!?」


「語尾が可愛くなっているぞ」


「そ、そんにゃにゅうにゅ―――――」


 敵は後ろにもいたようだ。顔を真っ赤にしている祐。何を言っているかわからない程にテンパっているようだ。


「――。…………い、言ったわねエルシー」


 深呼吸をしてから祐は口を開いた。


「もちろん。私はハンナの所に行きますからお幸せに」


「な、なんでもう決定事項になってるのよっ!」


「あれ、違うの? サムちゃん」


「うん? それはな――」


「あ――ッ。駄目、ダメ!」


「……駄目、なのか。じゃああの言葉は……」


「そ、そうじゃない! 今は言っちゃ――駄目なのよ!」


 その言葉は何よりもの証拠だと思います。


「ゆうお姉ちゃん。さむなお兄ちゃん。おめでとう!」


 祐から降りたシュリは改めて2人を見てそう言ったのだ。

 良いタイミングだ! 俺は内心でシュリを褒める。


「んん~~~~っ、わ、わかったわ言うわ。言えば良いんでしょ。私は彼の事がサムナの事が好きみたいなの! だから結婚するわっ!」


 顔以外に手まで真っ赤になっている祐。


「よく言った!」


 イーロが冷やかしを入れている。

 良かった良かった。そう呟いて鼻をすするエルシーさん。


「何か良いですね。好きな人と一緒にいれるのって」


 リーゼは俺の片手を握り、隣でそう囁いた。他の人には聞こえないように小声での会話だ。


「なー。……リーゼは今幸せか?」


「はい、もちろんですよ」


 俺に微笑みかけて来てくれるリーゼの顔が眩しかった。


「そうか。俺もだよ」


 顔を前に向けて言った俺の言葉に、リーゼは手の力を強めて返事をしてくれる。

 祐は魔王の胸に顔を埋め隠していた。告白のことの恥ずかしさより、顔が赤くなりまくっている事への恥ずかしさが上回りでもしたのだろうか。


「いやー良かったねぇ。ね、シュリちゃん」


「うんっ」


「じゃあもう1人、いや、もう1組も改めて祝ってあげようよ」


 ルナの目が俺と合う。その目は獲物を刈る猛獣のようだった。





 ~おしまい~


これにて完結です! 最後まで読んでくださり、ありがとうございました!!


なんとか完結させることができました!

要所要所をの話を思いつきながら、成り行きで書いていたらこんなにもなるとは。

一年と七ヶ月ほど掛かりましたね。……自分でもこんなに長くなるとは思っていなかったです。軽い気持ちで書き始めてましたから(笑)

挫折せず、最後まで書けて良かったです。読んでくださる方がいなかったら途中で投げ出していたと思います。最後まで楽しんでいただけていたら嬉しいです。


それでは、ありがとうございました!!

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