076
寝心地の悪さに俺は目を覚ました。
「ふぅ」
体を動かし上を見る。上を見るがで空はない、ただの天井が見えるだけだ。
時間を見てもまだ6時。流石に早すぎる。
……どーしよーかなー。
ボーっとそんな事を考えていた時、タンタンタン、と軽い足音が聞こえてきた。
何事か!? とは思わない。二階で寝ている誰かが降りてきたのだろう。
トイレだろうな。
そう思い、気にする事なく、階段の方を向けた視線を天井に戻す。
ご飯でも作ろうかなとも思ったが、今俺のボックス内には食材が入っていなかった。
「おい」
リーゼなら何か持っているかも知れないが、起こしに行くとノナンさんに俺が殺されそうだしな。
「おいっ」
このまま寝ているか。腰が少し痛むがまぁ許容範囲内だ。野宿で土の上で寝ていたときより、木の椅子で寝ている時の方が、体が痛くなるとは思わなかったが。
「おいってば!」
「うぉっ!?」
掛けていた布団を剥ぎ取られ、声を上げてしまった。
「……なに?」
俺の布団を剥いだのは昨日の4人の内の1人、俺に唯一質問しなかった男だ。
「おれと戦え」
……唐突に言われてもな。
「ほ、本当にお前は強いのか!?」
嫌そうな目で見返したら生意気な事を……。
「そうだな……君よりは強いと思うよ」
右手の事はあるが、なんせ経験が違う。
「ならそ、それを証明してみせろよ!」
……! 良い暇潰しになりそうだな。そう閃いた。
「よしっ、朝ご飯前までで良ければやってやろう。家の前でいいよな」
「あ、ああ」
返事が返ってきたので、ベッド代わりにしていた椅子を戻し、少年と外に出た。
天気は、雲はあるが良い。これなら今日も雨は降らないだろう。
「周りに人が通るかもしれないから、その時は一旦戦闘中止にするからな」
ここは普通の住宅地だ。誰が通るかはわからない。
「おう!」
元気な返事と共にボックスから少年は得物を出した。腕に装着型の盾と一般的な剣だ、鞘は最初からついていない。
俺はそれを見てから自分の得物を取りだす。そして、鞘からは抜かず左手で持った。
「治療魔法が得意な人はいるか?」
「エイムがいる」
「そうか、じゃあ怪我したらその人を叩き起こすからな」
エイムが誰だかはわからないが、俺はそう言い中段に剣を構える。右手はただ添えているだけだ。
「鞘から抜かないのかよ」
との言葉に、売り言葉に買い言葉を。
「怪我させたくないからな」
「……そうか。アンタが怪我をしたときもエイムに治してもらえるもんなッ!」
少年は走ってきた。
腕を切断されたら治るのだろうか? そんな不安がよぎったが斬られなければ良い話だ。
少年が盾を前に剣を振るってくる。
慌てずに俺は盾に思いっきり鞘に入ったままの愛剣をぶつけた。
衝撃で少年は後ろにのけ反る。
その隙に俺は少年の首元に剣をつけた。
……あれ? 言いにくいが予想以上に弱い。駆け出しの冒険者でももう少しやり合えると思っていたのだが……。
「魔物の討伐とかってしてる?」
少年の首に剣を置いたまま問いかける。
「し、してるに決まってるだろ!」
鞘に入っているからか、少年は脅えつつも威勢は良く答えてきた。
「どんな魔物?」
「や、薬草モドキ……」
「他には?」
「……………………」
「………………薬草モドキか、懐かしいなぁ」
不意打ちはあれど、数人がかりだったら楽勝の部類ではあるな。それでも初心者の人はやられてしまう事もあるのだが。俺も死にかけたしな。
「な、なんだよ、悪いか! おれたちだって頑張っているんだぞ! でもみんな魔物と戦うのは慣れてなくて、弱い奴からちょっとずつ慣れていこうって話になっているんだ!」
「いや、悪いなんて言ってないぞ。俺だって最初のランク上げは採取や手伝いの依頼でだったしな」
少年の事を見ていると昔の自分を思い出すな。ロダとコルがこの家に来て、それからフェルと知り合い、一緒にダンジョンに行ったなぁ。……良く考えれば、フェルの奴は元から戦い慣れしてたし、最後ロダが危うかったがなんとかなったし、コルは援護が上手かったし、あそこで一番場慣れしていなかったのは俺だったのかも知れないな。ジャンさんの仕込みがなかったら俺もこうだった……のか?
「慣れは大事だよな。少し本気で教えてあげよう。武器が違うからちょっと違うかもしれないけど、俺が思っている盾と剣の戦い方を!」
剣が違うがリーゼと似たような装備だ。リーゼから聞いた方が良いのかも知れないが、まだ起きていないし仕方ない。
「まず、さっきの突撃で最初から盾を自分の前に出していただろ」
返事はなく、頷く動きを少年は見せた。
「自分の顔に被っちゃうと相手がどういう動きをするか見えない。だから、ガードする直前までは胸の辺りに構えておくと良いぞ」
少年の首元から剣を外し、少し距離を取る。
「あとはやりながらの方が良いだろう」
教えるのも少し楽しいかもしれないな。そう思いながら俺は少年と第二戦を開始した。
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「いやー、朝起きたらまさか戦っているとは思わなかったよ」
新人4人に町の入口まで見送ってもらった俺とリーゼとノナンさんは街道を歩いていた。
町を出る前にノナンさんが4人に「規則正しい生活をしとくんだよ」と言っているのを見て、今日はリーゼに起こしてもらっていたノナンさんがそれを言っちゃうのかと思ったが口にはしない。リーゼも熟睡していたらしく10時頃に2人は起きてきたわけだが。
「俺もですよ」
まさか、寝起きで模擬戦をやるなんて思ってもいなかったんだから。
「いつもはフェルド君たちがちょこちょこ教えてくれるんだけどね。今忙しいみたいで、あの子たちにはまだ1、2回しか会ってないんだよねー」
「コウさん、フェルド様? はどんな方なんですか?」
「様じゃなくてさんな」
俺やルナ、イーロにはさん付けが慣れたらしく様は言わなくなったが、初対面の人にはまだ様と言ってしまうことがあるリーゼを注意しつつ、説明した。
俺は前にこの町でパーティを組んでいて、その1人がフェルドであると。あとは兄妹でロダとコルって人たちと4人で短い期間だったけど、一緒にやっていた事を。……というか、あのダンジョンだけだな。4人で行ったのは。
そこから「昨日はコウ君の話しかしなかったし、私たちの事も踏まえた話をしようじゃないか」と言うノナンさん。どんな話をしたかは気になる所だが、聞くのは何か気恥しいので流す。
「でもその前に、右手どうしたんだい?」
するとノナンさんはそう聞いてきた。
最近では左手での食事も普通に行えてきていたが、ノナンさんにはばれてしまったようだ。まぁここにいた頃は右手だったし変に思うのは当たり前かも知れない。まして一緒に食事をしていた仲なのだから。
俺は毒でやられた事と、ハンナに治してもらった事を言うと、「そうか、じゃあその話はあっちでの方が良さそうだね」とノナンさんは言い、昔話に戻り話に花が咲いた。リーゼは終始聞いているだけだったが楽しそうに聞いていてくれている。
そして気づけば、目的地に到着した。
「変わってないですね」
「そりゃそうよ」
足を止めて言った俺の言葉に気も留めず、ノナンさんは進み出す。
昔もこんな事があったような……。
リーゼを見ると両手を胸に置いていた。
「行こう」
何をしているのかは良くわからなかったが、俺はリーゼと共に歩き出す。
「あーっ! おばっ、お、お姉ちゃん!」
「おー、」
久しぶり~。と、先に入ったノナンさんが誰かと話している。その声には聞き覚えがあったが、その見た目には覚えは無かった。褐色の肌に茶髪の短髪。動きやすそうなタンクトップと短パンという姿だ。今が夏だからこの格好なのかも知れない。
「良く途中で言うのを止めたね。エライエライ」
「おっ!? おば、お姉ちゃ、ん!? 痛い! 痛いよ!? ちゃんとお姉ちゃんって言ったじゃん!!?」
「今もおばって言ったよね。もう少し教育してあげよう」
……うん、あれはカレンだな。体格は変わっていても性格は変わっていないようだ。
最初はカレンの肩に腕を回したノナンさん。いつの間にかにカレンにヘッドロックを始めている。
あれ? 今、ノナンさんとカレンの身長の差があまり感じられなかったような……。
「まぁこれくらいにしておいてあげよう。今日は私以外にもいるんだよ」
「――いたたっ……ほえ?」
ロックはされたままだが、締め付けが弱くなったのだろう。カレンは顔を自由に動かせるようになっていた。
「どこどこ?」
と、辺りを見回しているカレンに、ノナンさんが器用にカレンの顔を動かす。
「あっ、あああっ!!!」
俺と目が合った。
取り敢えず手を振った俺とリーゼの目掛けて、ノナンさんから抜け出したカレンは動きだす。ヘッドロックはいつの間にか解除されていたらしい。
「こ、コウさん! 来ますよっ。私はどうしたら……!!」
隣で狼狽えるリーゼに、大丈夫だよ。と呟いた。
カレンは多分俺に突撃してくるから。
「コウ兄ちゃぁぁぁん!!」
「なっ!?」
何というダイナミックさ。
カレンは全身をバネのように使って、俺に向かってダイブしてきた。
「うおっ!? あっ、くっ……うぐっ」
予想外の威力に、受け止める切れるはずもなく後ろに倒れてしまう。
「兄ちゃん! 久しぶりっ」
たいそう嬉しそうに言うや否や、「うんーーっ」と俺に乗っかったまま懐いて来ていた。
そんなカレンの頭に手を置く。柔らかい感触が俺の腹辺りに乗っているが、気にしたら負けだろう。
リーゼが隣で大丈夫ですかと驚きながらも心配してくれている、その声はカレンには聞こえていないんだろうな。
ひとしきり懐いてきたカレンは、数分後、一旦満足したのか離れてくれた。
「本当に久しぶりだね」
俺の前に座りながら元気そうに言うカレンの肌は日焼けの影響だろう。なんせタンクトップの肩紐の部分がずれると肌の色微妙に違っている。それにしてもカレンは至る所に成長が見れる。身長はもちろん、顔も少し大人びているし、胸にまで。ハンナよりも全てが大きいような気がする。胸に至ってはリーゼよりも……。
ちろっとリーゼの方を向いたが、首を傾げられるだけだった。
俺は立ち上がり、カレンに左手を差し出して立たせる。
「お兄ちゃん的にはその格好はいかんと思うぞ」
座っている時、どことは言わないが間が丸見えだ、無防備すぎる。
「ぶーっ、お父さんにも言われたよー。いいじゃん家の中なんだから」
ぶつくさと言いながらも立ち上がらせたとき握っていた手は離されていない。
「で、そちらは? まさか兄ちゃんの……?」
ここでリーゼに話しの対象が移る。
「か――」
俺が紹介しようとしたのだが、その前にリーゼが喋り始めてしまった。
「あ、わ、私リーゼロッテと申しますっ。こ、コウさんの妻です?」
自分で言って疑問形。……ん? 妻? だって……?
「ほあぁ……ほえぇぇぇぇっ!! お、おかぁーさーん! お兄ちゃんが――っ」
カレンは走って行ってしまった。ノナンさんの姿も見えない。先に家に入ってしまったのだろう。
「それにしても妻って」
「す、すみません何て言えばいいかわからなくなって、それでとっさに……」
言った本人も恥ずかしかったようで顔を赤く染め上げていた。
聞いた俺も嬉し恥ずかしかったが。
俺たちも玄関に向かうと、呼び出されていたカレンの母、ミリアさんが待ち受けていた。横にはノナンさんもいるからここで話していたのかも知れない。
「お、おか、お母さんっ!」
「カレン慌て過ぎよ」
「だってお兄ちゃんが嫁さん連れてきた!」
うん、入りづらい。
「こ、コウさん」
声が小さくなっているリーゼ。俺の腕を後ろから掴んでいる。恥ずかしくでもなったのだろうか?
「今、ノナンにも聞きましたよ、入ってらっしゃいコウさん」
そう言われ、見えている所にはいたのだが、玄関に入ることに。
「こ、こんにちはお久しぶりです」
ぺこりと一礼。何か恥ずかしい。ノナンさんやカレンの時はそうでもなかったのに。
「お帰りなさい。そちらがリーゼさんね。私はミリアと言います。コウさんの母です、よろしくね」
「は、はいよろしくお願いします」
俺の一歩後ろからリーゼは頭を下げた。
ん? は、母だと!! ミリアさんは母と言ってくれていた。それも迷わず言われたせいで俺の脳に言葉が届いてから、その意味の理解に多少のラグが生じたようだ。
「あ――」
ありがとうございます。そう言おうと思ったがみんなの前では照れくさくて言いだせなかった。
「ふふっ、ジャンももうすぐ帰って来ると思うからそうしたらいろいろ聞かせて頂戴ね」
そう言うと、ミリアさんは家の中に戻っていってしまった。
ノナンさんもミリアさんについていき、「数日泊めてねー」と軽く言っている。
「お兄ちゃんたちも泊まるよね」
カレンがノナンさんの言葉を聞き、俺たちに聞いてきた。
「良いならもちろん泊まりたい」
「良いに決まってるよ! じゃあ2人ともあそぼーっ」
俺とリーゼの手をカレンは掴んだ。
案内されたのはリビングだ。見渡しても前と変わりはないように見える。少しの変化で俺が気付いてないだけかもしれないが。
ミリアさんとノナンさんは椅子に座りテーブルを挟んで2人で話をしていた。
ミリアさんとノナンさんが座っている所はダイニングだ。俺たちはリビングにある長椅子に腰掛ける。前には長方形の背の低いテーブルを挟み、もう1つ長椅子が置いてある。だが誰もそっち庭座らなかった。カレンを挟んで俺とリーゼは1つの長椅子に座っていたのだ。
カレンは確か来年成人になるはずだ。その前にこんな色っぽい体つきに……ハンナと差は何なんだ? 双子だというのにこんなに成長の仕方が変わるものなのか。
「あ、そうそう、ハンナにあったぞ」
「ホント!? ハンナ勉強頑張ってた?」
「おう、魔法も上手くなっていたし、知識も凄かったぞ。ちょっと俺に異常があったときも治してくれたしな」
「へー、ハンナ凄いなぁ。わたし、勧めたかいがあったよ!」
「……学校に?」
「うんっ」
と元気に返事をする。
「コウさん、ハンナの話はご飯の時にでも色々聞かせてくださいませんか」
椅子から立ち上がりながらミリアさんが俺に言ってきた。
「もちろんです」
そう答えると、「では美味しいご飯を作りましょう! ノナン、手伝って」と笑顔でキッチンに向かって行く。
「えぇー」
「あなたの方がおいしい料理を作れるんだから。店でも開けばいいのに」
「めんどくさーい」
そうは言いながらも、ノナンさんもキッチンに向かって行った。
「わたしもね、お父さんの手伝いをして色々覚えたんだよ」
最近は一緒に町まで行って仕事を教えてもらっていたりするらしい。
「町にもこの格好で?」
「そ、そんなわけないじゃん! 恥ずかしい。おうちだからに決まってるよ。町ではもう少しお洒落な格好でね、……行きたいんだけどお父さんが汚れても良い服って言うから普通の服で行くんだ」
遊び行くときはお洒落するんだよ! と言うカレン。
お洒落に興味を持ち始めているようだ、女の子だもんな。
「そうだ! 見せてあげる」
そう言ってカレンは立ち上がった。
「え? わ、私もですか」
「もちろん」
リーゼの手を引っ張って、カレンはリビングから出て行くのだった。
「おまたせー」
10分程してカレンは戻って来た。
「おおー」
カレンを見て、感心の声が出る。
膝丈までの淡いピンク色のワンピースに白い|カーディガンを短くしたような服を羽織っている。
どこかのお嬢様のような感じだった。
「どう?」
一周くるっと回って俺に聞いてきた。
「似合ってるよ」
回り終わった時、キラッと光るものが胸元にあるのに気が付いた。
よく見るとそれは昔、お揃いで買っていた指輪だ。未だに持っていてくれた事に嬉しく思う。俺も肌身離さず持ち歩いているが、基本首にかけ、服の中にしまっているので見せる事はほとんどない。
「リーゼお姉ちゃんも」
俺に見せて満足したのか、リビングに入って来ていなかったリーゼを引っ張りだしているカレン。
「な、何か恥ずかしいです」
「大丈夫。お兄ちゃんなら可愛いって言ってくれるから」
「……は、はぃ」
観念したようでリーゼはリビングへと入ってくる。
「ぶふっ」
俺は吹いた。
カレンがお嬢様のような恰好だったからリーゼもそんな恰好かと思ったのだ。
しかし違った。リーゼの格好は長いトレーナーのような服で、裾が太股まできてる。ズボンは短いのをはいているのか、そのトレーナーのせいで見えない。
もはやこのトレーナー1枚でいるかのような恰好だ。
「や、やっぱり変なんですよぉ」
トレーナーの裾を下にさげるように抑えるから、胸が強調されてしまっていることに気がついていないリーゼさん。……うんエロい。
「えー、可愛いよねお兄ちゃん」
「ん? あ、ああ」
「少し疑問が入りましたよぉ」
涙目で俺を見てくる。
「あ、あれだよ。見惚れちゃってね」
リーゼの涙目な顔が徐々に赤くなっていった。
「これね、わたしが考えた服なんだよ。毛を刈ってる時なんかピンときたんだ、裾が長ければワンピースみたいになるからいいかなぁーって思って。それでお父さんに提案したらやってみるかっていう話になったんだけど、売れ行きは良くなかったみたいでもう売ってないんだ」
残念そうにカレンは言った。
「外に来ていくのは恥ずかしいかもだけど、部屋着としてはいいと思うけどな」
俺は素直に服の感想を言った。言ってしまった。この服を着ているリーゼを前にして。
「や、やっぱり恥ずかしいですよね! 着替えてきます」
言うなり速攻でリビングから出て行ってしまった。
「あらら、お兄ちゃんが変な事を言うから」
もう、とほっぺを膨らませながらカレンは言うがあまり怒ってはいないようだ。
「カレンはリーゼの事を見てどう思ってたんだ?」
そう聞くと、
「エロ可愛い」
と、即答だった。
「何かね、もじもじしてる姿がたまんないよね。むぎゅーって抱きつきたくなる感じ! お兄ちゃんもそうだったでしょ」
「うん?」
「ただいまー」
「あっ、帰って来たみたいだぞ」
俺は玄関へと向かう。
反応に困る問題が追ってきたが、ジャンさんのご帰宅によりなんとか回避できた。
いつもの服装に戻ったリーゼをジャンさんに紹介した。紹介が終わってからはカレンの話になっている。
「最近、町でウギの乳を渡すとき若い子が入ったんだ。その小僧とカレンの奴楽しそうに話しをしててな、何か寂しく感じたんだよな」
とジャンさんは言った。
カレンとリーゼは今カレンの部屋で、2人で遊んでくる。と行ってしまったのでリビングには俺とジャンさんしかいない。
「まさかカレンに恋人が!」
「そんな事はまだない! 両手で数えられるほどしか会ってないんだ」
「人を好きになるのって、時間はあまり関係ないかも知れませんよ」
「……ハンナも出て行って、カレンも出て行ってしまったら、俺はどうすればいいんだ!?」
「でも、カレンはここを継ぐ気はあるみたいですよね」
「そうか! あの小僧がうちに来ればいいのか! 良い考えだ。それなら俺もやる気が出るってもんだ」
娘の事で一喜一憂。ジャンさんってこんなキャラだったっけ?
「それにしても良く帰って来たなコウ。しかも嫁さんまで連れて」
「ま、まだ結婚はしてないんですけどね」
「そうか」
……そういえば結婚って何をしたらできるんだ? どこかで書類でも書くのか?
「ところで何ですけど、結婚ってどうやるんですか?」
「ん? 誰からも聞いてないのか。まぁわかんないよな。俺も最初はギルドで出来ると勘違いしていたほどだ」
笑いながらジャンさんは教えてくれた。まちの役所で書類にサインやらを書けば即完了らしい。村の場合は村長がその役割をこなしているとか。
へー。と感心しているとミリアさんが料理を運んできている。
「もう出来るからカレンたちを呼んで来てくれる?」
「はい」
俺は言われた通り2人を呼びに行く。
部屋に入る際、どこかの漫画のようにお着替え中とかではなかった。カレンも普段着なのかタンクトップと短パンに着替えていて、普通に2人で談笑していたのだった。
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食事は賑やかだった。
ハンナの事や右手の事を話したり、リーゼとの出会いを話したりと、何かほとんど俺が喋っていたような気がする。右手はミリアさんにも見てもらったが治りそうにないと言われてしまった。もう右手の事は受け入れているので気にはしない。むしろミリアさんの方が気を落としてしまったような感じがした。……何とかみんなでフォローしたから大丈夫だったけどね。
リーゼの事は元奴隷とは言わない。変な奴らに追われていた所を助けたという事にしてある。カレンに「そんな奴倒しちゃえばよかったのに」とリーゼが言われていたが、その時はまだ冒険者じゃなくて、戦闘もしたことなかったんですよ。と返していた。
手紙が途中から来なくなって少し心配していたわ。と言うミリアさんの言葉に、酔いが回ってきているジャンさんが、「コウは大丈夫って言ってただろ」と言ってくれていたが、カレンに「心配してたくせにー」と更に言われていた。手紙を出すことはすっかり忘れていた。出そうとは思っていたんだけどな。って言っても言い訳にしかならないから素直に忘れてました。と謝っておく。
騒いで食べてを繰り返していたら時間はあっという間に過ぎていた。
お酒をがぶがぶと飲んでいたジャンさんとノナンさんはダウンし、食事は終了したのだ。
俺も飲んだが少しだったので問題はない。リーゼもコップ1杯ほど飲んでいたが酔ってはいないようで、普通に会話をしていたな。
酔ったジャンさんをミリアさんが、ノナンさんをカレンが引きずりながら部屋へと運んでいく。その姿を見ながら俺とリーゼは食器を片付けていた。
「私、洗っちゃいますね」
そう言い食器洗いに入るリーゼ。俺は頷いて食器運びを続ける。
「あら、洗うのは私がやるから良いのに」
少ししてミリアさんが帰って来た。
「い、いえ美味しいご飯を食べさせてもらえましたのでこれくらい」
早口で言うリーゼ。まだ少し緊張気味なのかもしれない。
「あらあら、ふふふっ、ありがとう」
その言葉にリーゼは返事をしていなかった。何か動きで返したのかも知れないが俺は見ていなかったのでわからない。
皿を運びに行った時、リーゼとミリアさんの雰囲気は良かったのでリーゼは何かしらのアクションは起こしたのろう。
「これで終わりです」
「あら、ありがとう。コウさんがいた時使っていた部屋にお布団準備しておきましたから」
「ありがとうございます」
皿は運び終わったが洗う方はまだだ。
「先に行っててください」
待っていようとしたのを感じ取られたようで、リーゼに言われた。
「部屋わかる?」
「私が連れて行きますよ」
ミリアさんにそう言われたので俺はおとなしく部屋に行くことに。
リビングを出て、どこからか微かに声が聞こえる。何と言っているかは全く聞き取れないが。
部屋に向かう前に声が気になり、調べることにした。
「だから――よ――って――」
「――じ――ん――――」
声が聞こえた場所はすぐに特定できた。ハンナが使っていた部屋から声は漏れていたのだ。
ドアに耳を当ててみると、ノナンさんの声とカレンの声がはっきりと聞こえるようになる。
どうやらカレンがこの部屋にノナンさんを連れて来て、出ようとしたところノナンさんに捕まり、一緒に寝ようとか何とか言われているようだ。
……触らぬ神に祟りなし。
俺はミリアさんが布団を用意してくれている部屋に向かった。
部屋に入ると2組の敷布団が敷いてある。そんなに狭くない部屋だ。なのに何故かくっついて敷布団が並んでいるのだが、気にしない方向で行こう。
距離を離すという事もせず、俺は寝間着に着替えて片側の布団の中に入り込んだ。
ジャンさんもミリアさんもノナンさんも変わってなかったな。昔と同じように俺を、リーゼも迎え入れてくれて。
カレンのやつは、体は成長していたけど、中はあんまり変わっていなかったな。むしろ精神面ではハンナの方が成長していると思うぞ。
双子なのにどうして違うのだろう。生活リズムとかが変わったから成長の仕方も変わったのか? パソコンとかがあれば調べられるのにな。と考えた。この家に帰って来たからか日本の事を少し思い出してしまう。
そういえば、親父と母さんは祐がいなくなってどうなっているのだろうか。俺の場合は神さんが記憶を消してくれているから心配はしなかったけど、裕の場合は勇者として召喚されたわけだし、神さんを通してないから記憶削除もできてないのではないのか? もしかして神隠しみたいなことになって騒がれたりしていないだろうか。
…………。
ブンブンと首を横に振る。
考えたって仕方ないな。俺はもうあっちには帰る気はない。一生こっちで暮らすのだから。
親不孝者だな俺は。
そう思ったとき軽くノックの音が2回。それからドアが開かれた。
「し、失礼します」
「お疲れ、別にそんなこと言わなくてもいいんだぞ」
「そ、そうですか」
月明りしか明かりがない部屋にリーゼは入ってくる。
「手伝ってくれてありがとな」
まだ目が慣れていないのかゆっくりと動いているリーゼに俺は言った。
「い、いえ。優しいお母さんですね」
「そうだよな」
布団に入ろうとするリーゼを見て気がついた。部屋に入る前に着替えたのだろうか、カレンが考えたという裾の長いトレーナーをリーゼは着ていたのだ。
……こ、これは何か言った方が良いのか?
「お父さんも、カレンさんも優しいですし、ハンナもいますし、良い家族ですね」
「良い人たちだよ。俺も可愛がってもらったし」
「コウさんは今も可愛がっていただいていると思いますよ」
布団に入り、俺の方を向いていたリーゼはクスリと笑う。
そういえばリーゼの母親はわからないのだったことを思い出した。父親も良いとは思えなかったし、こういう家族にあこがれを持っているのかも知れない。
「……その服だけど似合ってるよ」
そう言って俺は体の向きを変えた。何故なら恥ずかしいからだ。
「ふぇ!?」
ああいう家族に俺たちもなろう。
そうは思っても言えなかった。何故なら面と向て言うのは照れるからだ。
だから俺はリーゼがいる方とは反対の方に体を向けてから「おやすみ」と言った。
少し間が空いてから、リーゼからも「おやすみなさい」と声がする。
そしてまた少し間が空いてから、俺の背中の服が摘ままれた感触があった。




