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 翌朝、起きた俺たちは朝食を取りにギルド前のご飯処に来ていた。昨日みんなで集まっていた店だ。

 情報収集もしなくていいのに何故ここなのかというと、ただ慣れていた店だからという理由。寒いのに朝から店を散策する労力がなかっただけ。あと、祐たちに合えるかもしれないという理由もあったりする。


「今日はあんたたちだけなんだね」


 店員さんが注文を取りに来た時に言われた言葉。

 お客を相手する言葉ではない気がするが、これはこれで心許されている感じがしてよいと思っている自分がいた。

 店員さんは、何にする? と聞いてきたので昨日と同じやつを俺は頼む。

 あれ体が温まって良いんだよな、美味しいし。

 みんなも好きなものを頼み、料理が来るまでどうでも良い雑談をしていた。



 ご飯を食べ終え次に向かったのは祐たちの宿だ。

 なんせ食事中には会えなかったし、ヴィートさんはこっちに移動するわけだから当然として、俺はハンナと祐に用があるためにやって来ていた。

 各自自由行動で、とご飯中に言っていたのだが、リーゼは俺についてくると言って一緒に来ている。ルナとイーロはやる事ないし面白そうだからと言う理由でついてきているため、全員でお邪魔する事になってしまっている。

 昨日気絶していた人らを連れて来ているため道は把握している。……俺が、ではない。他の人たちが、だ。


 流石勇者パーティという所だろうか、ギルド近くにあるこの宿は、外観はそれほどでもないが、中は凄かった。宿に入ると受付がまず見える。これは普通だと思うが、宿内は朝だというのに明るく照らされていた。今俺たちが泊まっている宿は夕暮れにならないと明かりは点かないし、今まで泊まって来ていたところもそれが普通だった。更に、受付の横にはレストランのような食事処がある。どうやら食事だけの利用もオッケーのようだ。

 おぉ、と俺は声を漏らしていたら、ヴィートさんは受付にすでに向かっていた。

 俺たちはその後ろについて行くと、ヴィートさんは、「この人たちはおっちゃんたちの客人だ」と言っていたので、改めて受付の人に言わなくてもよさそうだ。

 話が終わったようで、ヴィートさんは、「こっちだ」と、レストランがある方と反対側の階段がある方に向かって行く。

 もちろん俺たちはついて行きます。

 回り階段を上がるとそこには一直線の廊下があり、突き当りには窓がある。廊下の両壁には等間隔で部屋があった。


「二階の204だそうだ」


 ヴィートさんはそう言い歩き出した。

 そういえば、昨日来た時は部屋の番号を見ていなかったな。

 部屋の番号は右側が201、左が205となっていた。という事は、予測できる。突き当りの部屋の右側だと。

 廊下を進むと俺の予想は正しかったことが証明された。

 どうだ! と言わんばかりの顔を誰にも見られないように決めていると、「こっちも部屋あるんだー」との声が。

 声の方を向くと後ろ側にも部屋があったのだ。

 階段を上り、見えた窓の所が突き当りと思っていたが、そこから左へと廊下は進んでいた。

 左に行くと、右側は等間隔に窓があり、この突き当りと、左側に数部屋あるようだ。


「……予想以上に広いな」


「そうですね」


 心の声が漏れてしまったようで、その言葉にリーゼが反応していた。

 昨日はこの部屋のひとつ横、203の部屋に案内されすぐ出てしまったため奥までは見ていなかったのだ。

 イーロも無関心そうにきょろきょろと廊下を見たり、窓の外を見たり……興味がありそうな行動だな。

 俺たちの行動を気にする事なくヴィートさんは部屋をノックし、ドアを開けた。


「おう」


 と中から一言聞こえてくる。


「おうよ」


 その言葉に対し、ヴィートさんはそう答えていた。

 この部屋にいたのはダンジオさんだけだった。3つのベッドが間隔を開けて横並びになっており、真ん中のベッドにダンジオさんは座っている。魔王も同室らしいが、さっきエルっちに連れて行かれたぞ。との事。

 なので、今度はダンジオさんと一緒に連れて行かれたというへ部屋に行くことに。

 部屋は2つ隣の202だった。

 今度はノックをして返事を待つ。なんせ女性部屋だからな。


「はーい」


 という声が聞こえ、次にドアが開かれた。

 部屋を開けたのはエルシーさんだ。その奥に祐とハンナ、あとは連れて行かれた魔王さんがおどおどした様子で座っている。


「きたぞー」


 ヴィートさんはそう言いながら部屋に入っていくので俺たちも続く。

 好きにくつろいで。とエルシーさんに言われたので俺は部屋にあった椅子に座ることに。

 椅子は4脚ある。部屋の真ん中のベッドとは反対側の壁。そこに長方形の机がくっついている面があり、他3面の、短い所に1脚が2ヶ所、長い所に2脚の椅子が配置されていた。

 リーゼとイーロも空いていた椅子に座っていた。ルナなんかは遠慮なくベッドにダイブしているが俺にはそんな事はできないからな。

 3人部屋といっても、今部屋にいる人数は俺を含め10人だ。これだけの人数が入ると狭く感じる。

 そう考えていたら後ろからノックの音が。


「はーい」


 エルシーさんが言い、一番後ろにいたリーゼにジェスチャーでドアを開けてとお願いしていた。

 リーゼはそれに気づき頷くとドアに手をかける。

 ドアの外にはシンとミュラの姿が。戦闘服じゃないから一瞬誰だかわからなかったというのは胸に秘めておこう。

 計12名が一室に集まった。各々が好きに座り雑談を始めている。

 特にやることがなくても集まれるって良い事だよな。

 そんな感想を思ったりしながら、部屋も手狭になったし良い機会だなとも考えた。


「ハンナ、ちょっと話があるんだがいいか?」


 ベッドに座り祐と魔王の話に顔を向けていたハンナだが、振り向いて俺の方をを見る。そして俺が手で、外で話さないかという意味の行動をすると、理解してくれたのか言葉はなかったものの、うんと言う意味の頷きをくれた。


「あっ、これ持ってっていいぞ」


 俺が立ちあがるとダンジオさんがそう言って何かを投げてくる。

 俺の手ぶりを見ていたのだろう。飛んできた物は鍵だった。どうやら気を利かせてくれたようだ。細かい気遣いって嬉しいよね!

 本当は下の、ご飯を食べるとこに行こうと思っていたのだが、先程の204の部屋を遠慮なく借りることにしよう。

 ありがとうございます。と俺が言うと、いいよいいよと手を振ってダンジオさんは答える。

 んじゃ行くか、と俺はハンナにアイコンタクトを取るとハンナは頷き歩き出した。

 そんな矢先、


「わ、私も行ってもいいですか……?」


 とリーゼが不安そうな声で聞いてきた。

 場慣れしているのか、それとも性格か、イーロは気づけば色々な所に潜り込めているが、リーゼはそうではない。遠慮しているのか、はたまた性格か、俺たち以外の輪に自分から入って行くことが少ない、いやほぼないかも知れない。

 なので一緒に行くことにした。……これって過保護なのだろうか?



 部屋を出て、最初に寄った部屋にカギを開けて入る。

 この部屋も思えばハンナたちの部屋と同じ形だ。家具までもが同じだったのできっと統一しているのだろう。

 さっきと同じ場所にあった椅子に腰掛けた俺は、


「ハンナに聞きたい事があったんだ」


 と言うと、


「わたしも……聞きたい事があるの」


 とハンナは言ってきた。


「俺の話は長くなりそうだから先にいいよ」


 この間、リーゼは無言で椅子に座り俺たちを見ていた。


「うん。………………」


 返事はしたもののハンナは口を噤んでしまう。

 俺も急かすことはせずハンナの言葉を待った。


「…………聞きにくいんだけど、」


 と前置きするハンナに、何でも聞いてくれて良いぞ。大丈夫だ。と答える。

 それが良かったのかはわからないが、ハンナは少し驚いた表情をして、次には寂しそうな表情に変わり、口を動かした。


「シュリカさんは……どうしたの……?」


 と。

 俺の思考は一瞬停止した。その動揺を感じ取ったのだろう、ハンナは「あっ、い、言わなくても大丈夫! ところで兄さんは何が聞きたかったの?」と言ってくるではないか。

 ……気を使わせてしまった。兄、失格かもな。

 ハンナとシュリカは赤の他人ではない、仲が良かったと俺は記憶している。なら当然知る権利はあると思う。なのにハンナは身を引いたのだ。


「……シュリカはな――」


 俺はシュリカの身に起こった出来事を話した。途中、記憶がない場面はリーゼが説明してくれる。もう大丈夫だと思っていたが、やっぱり思い出すと駄目みたいだ。

 鼓動が早くなっているのがわかる。体も熱くなって来ている気がする。

 それでも、俺の意識が戻ったところからは自分の口で、リーゼに補足をしてもらいながらもハンナに話した。


「そう、ですか」


 なぜか敬語になっていたが意味はないだろう。


「コウ兄さん、ありがとう」


 そう言いながらハンナは俺に近づき頬に溜まっていた雫を拭った。


「……、すまんな」


 鼻をすすってから俺は言う。


「ううん」


 ハンナはそう答え、


「兄さんは何のお話があったの?」


 と聞いてきたのだった。

 一呼吸。

 気持ちを落ち着かせ、俺は右手の事をハンナに話す。

 この話は、心配させたくないから本当はリーゼにも聞かれたくなかったのだが、秘密にしてほしいと言えば黙っていてもらえるだろう。


「えっ!? 昨日見たときは何にも感じなかったよ」


 驚いた様子でハンナは言う。

 そういえば昨日は死にかけたんだったな。おかげでシュリカに会えたから俺に取っては嬉しい事だったんだけど……っ!

 急にハンナに右手首を掴まれ俺は体をビクつかせた。


「ちょっと待ってね」


 俯き両手で俺の手首を掴むハンナ。

 そのまま動かなくなり10秒程すると、顔を上げた。


「うん、やっぱり大きな問題はないよ」


 よくわからないが、怪我や病気をすると血液や魔力の循環がおかしい箇所が出るそうだ。その流れを見て体の調子はわかるらしい。人それぞれ、部分部分で違いがあるから小さい異常を見極めるのは難しいんだよ。とハンナは付け足した。

 問題ない。そう言われたので、俺は最近右手の調子が悪い旨を話した。リーゼもいた事により、俺の話は気のせいではないことは証明される。


「うんー……右手、なんだよね?」


「そう」


 俺はハンナの手を右手で掴み思いっきり握った。


「これが俺の今の握力なんだ」


 力一杯握っているのにハンナの顔に痛みの表情はない。あったのは驚きの表情だ。


「ほ、本当に?」


 疑われているようだ。

 でも、それもそうかも知れない。昨日ハンナと戦った時、無理をしたからか握力が著しく低下していたのだ。ご飯を食べるときだって皿の方を口元まで持ってきていたのだから。箸だったらご飯は食べられなかっただろう。


「これが起こり始めてきっかけってわかる?」


 これとは握力低下の事。

 俺は過去を振り返った。が、思い当たる事はこの街に来てからだ。


「もしかして寒さのせい?」


 冗談めかして言うと、真面目な表情でハンナに「そんなわけない」と言われてしまう。

 シュン、と気持ちが少し沈んだがリーゼにフォローされ立ち直る。言った本人は至って真剣になにやら考え込んでブツブツと口を動かしている。

 ……うん、俺が悪かったな。


「でも、わたしと、け、喧嘩しちゃったときはまだ大丈夫だったよね?」


 あれは俺が原因だというのに、ハンナは顔を上げて申し訳なさそうに聞いてきた。そんな姿を見て、ポンと左手を頭の上に置く。


「あの時から少し悪かったな。俺がおかしいと自覚したのだってこの街に来てからだし……という事はもっと前か?」


 俺の言葉を聞いたハンナは視線を下げる。

 この街までの道中、変なものは食べてないよな? 仮に食べたとしても他のみんなも何かしら不調があると思うし……まさか異世界(こっち)の食べ物は俺には毒だとかか!?

 ……まさかな。


「ど、どうかしました?」


 リーゼに声をかけられた。

 聞き返すと、言いにくそうに、変な笑い顔をしていましたので。との事。

 右手はまだハンナに捕まったままなので、左手だけを左頬にあて顔のマッサージ。

 そんな事をしていると、俯いていたハンナが再び顔を上げる。


「兄さん、依頼のダンジョン攻略に行った時、大きな怪我とかしてない?」


 言ってからハンナは「あっ」と言う顔をした。

 多分シュリカの事だろう。俺はハンナの表情を無視して口を動かす。


「怪我かー……ああ、高い所から落ちたとき背中を痛めたな。あとは……」


「二の腕辺りにも怪我をしていましたよ」


 思い出そうとしていたらリーゼはそう教えてくれた。


「ああ! そうだっ、そうだよ!」


 リーゼの言葉でシュリカからの言葉を思い出した。すっかり忘れていたがシュリカに教えてもらった怪我が原因だと言っていたじゃないか! 何で忘れていたんだ俺は!?

 

「どこら辺だっけ?」


 俺がリーゼに聞くと、驚いた表情をしていたリーゼは「失礼します」と断ってから、「ここら辺……かな?」と指をさした。

 示した場所は右の二の腕だ。怪我をしたのは思い出したが場所は覚えていなかったのだ。

 今度はハンナが二の腕を掴むと、集中するためか視線を落とす。

 そして1分程して素早く顔を上げたのだ。


「こ、これだ!」


 と言いながら。

 やっぱりそうなのか。と俺が内心思っていると、ハンナが原因を教えてくれた。神経毒で、しかも珍しい種類なのだそうだ。

 原因がちゃんとわかって取り敢えず一安心だ。今まで死ななかったんだからそう簡単に死ぬものじゃないだろう。

 ハンナはボックスから取り出した古びた分厚い本のページをめくり、調べてくれていた。先程感じ取ったのはこの分厚い本で読んだからわかったのだそうだ。

 読むだけでわかるとは、優秀なのだな。娘を自慢したくなる父親の気持ちがわからんでもない。


「あ、あった」


 ページをめくる手を止めてハンナはそのページを凝視していた。

 俺も横から見たが、小さい文字が大量に書いてあった。筆記体のように流れるように文字が書いてあり、絵も入っていたが俺には無縁の代物だ。と視線をずらす。


「アンデッド系の魔物がごく稀に持っているといわれる毒だね。症状は体の感覚がだんだん鈍くなっていくんだけど、毒を受ければ受けるだけ体の麻痺が早まるみたい」


 それでね、とハンナは言葉を一旦切って話し出す。


「この毒の怖い所が解毒しないと消えないのはもちろん、ちょっとの毒でも体の中で徐々に広がっていくんだよ!」


 …………ん? 毒って普通そういうものじゃないのか? この世界では毒の定義が違うのか?


「更に、気づきにくく、心臓をやられて死んじゃうことがあるの! 兄さんは右手だったから良かったけど……。あとは、解毒材料が珍しい物で、南の大陸じゃないと取れないんだ」


「そんなっ」


 リーゼが深刻な表情をした。

 ちょっと待って。毒を受けた本人よりもそんな顔されると俺はどうしたらいいのかわかんなくなっちゃうんだけど。


「取り敢えず、集められる材料探してくる! 兄さんはここにいて。体動かしすぎると毒の周りが早くなっちゃうから」


 ハンナは分厚い本片手に部屋から出て行ってしまった。

 この街に来るまで戦闘をほぼしなかったのが良かったのかも知れない。だから気づくのが遅れたが、毒の回りも遅くなったのかな。それでも体が鈍らないように動いてはいたのだが、毒がほんとに微量だったのだろうか。

 そんな事を考えていたらリーゼがあたふたしているのが見えた。

 どうやら俺の視線は、ハンナが部屋を出て行ったのを見送ってからリーゼを見ていたらしい。無意識に。

 俺は考え事をしていたから何とも思わなかったが、リーゼにとってはどうして私を見ているんだろうと思ったんだろうな。そういう感じが表情に表れていた。

 微笑ましくなり笑みをこぼす。

 すると、リーゼも笑って答えた。

 人恋しくなり体を動かそうとする。

 だが、それを感情が止めた。


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