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 コウくんへ


これを読んでいるという事は、私はもういないんだね。

どうして書こうと思ったとかというと、ドラゴンと戦ったときあったよね。あそこで、私は何もできなかったんだ。矢を当てても、ちょっと刺さってるように見えたけどすぐ地面に落ちちゃう。役に立ってなかったんだよ。コウくんのパーティの中で一番私が弱いから。だから、役に立たないならコウくんのために体を張りたいと思ったんだ。どうして死んじゃったかはわからないけど、コウくんのためになってたら嬉しいな。あっ、魔物にやられちゃってたとしても自分を責めちゃだめだよ、私が弱いのがいけないんだから。


コウくんと一緒にいれて楽しかったよ、幸せをありがとう。ルナちゃんとリーゼちゃん、ハンナちゃん、イーロとも一緒で楽しかったって伝えといてね。

他にも書きたい事は色々あるけど……書いていたら長くなりそうだからここで止めておくね。


最後に、私の事は早く忘れて新しい恋愛をして、結婚して、幸せな家庭を築いてください。一足先に2人の所に行って今までの旅の話をして来ます。本当にありがとう。さようなら。


 164年11月3日

 元恋人 シュリカ



 ----



 ……目頭が熱く感じると同時に手紙に水滴が落ちていた。


「コウ様!?」


 誰かの驚く声が耳に入ってくる。

 いや、だいぶ前から聞こえていたんだ。だけど俺は心を閉ざしていた。誰とも話したくなかった。シュリカがいなくなってしまったという現実を受け入れられずに。



 俺は気づくとダンジョンに出ていた。シュリカを抱いていたはずなのに、気づくと違う場所にいたのだ。そしてシュリカは傍にいなかった。

 ぽっかりと胸に穴が開いたような感覚だけが残っていた。

 次に気づくとシュリカは横たわって穴で眠っていた。これが埋葬だと知覚するまでには時間がかかった。そして、埋葬された瞬間まで俺はまた元気で可愛い顔を見せてくれるのではないか。土に埋まってしまっても、土を掘って出て来てくれるのではないか? そう考えてしまった。


 そう、シュリカは本当になくなってしまったのだ。


 あの笑顔、あの声、あの仕草。全てがもう見れないのだ。叫びたくなるのを堪えたせいか、変わりに意識が薄れていった。

 そして今、見覚えがある字を見て、体が勝手に動き出した。

 それを取り、開き、中身を見る。

 中には1枚の便箋が。

 俺は一字一字をゆっくりと呼んだ。

 気づくと泣いていた。

 リーゼの声が近くに聞こえる。

 こんな姿は情けない、恥ずかしい、でも止まらない。

 手紙をぎゅっと握りしめ、俺は背中を丸めて嗚咽をもらした。

 背中に温かいものが当たり、上下に動いているのがわかる。

 次に体を包まれるような感覚があった。

 その中で俺の意識は次第に薄れていった。



 ----



「あっ、ヴィーちゃん、どうだった!」


 ルナとインディロはギルドに来ていた。

 インディロは変装していない。ルナが聞いた所、「流石に大陸をまたぐほどの事はしてないぞ」と言っていたので、中央の都市ファンセントで行っていた追剥ぎのせいで嫌われていたのかも知れない。

 どうして2人がここに来たのかというと、ルナがヴィートと話しがしたいと言ったからである。ダンジョン探索は半日ちょっとで終わるはずだからコウたちが帰って来た次の日頃には戻って来ていると踏んで、ここに来ていたのだ。そして、ルナの鋭い感知能力で見つけたというわけだ。


「おう、ルナ坊か! それに……えーっとあんちゃん名前は何だっけ?」


「……インディロだ、イーロとでも――」


「そうだったディロ坊か! 悪い忘れてた」


 インディロの言葉の途中に思い出したように言ったヴィートは、あっはっはっは、と豪快に笑う。その姿に呆れた眼差しを向けながらも、ルナの友人という事でなぜか納得してしまうインディロがいた。


「そうそう、あのダンジョンにSランクの奴が使っていた武具も落ちていた。しかもボス部屋にだ」


 流石にそれはギルドの人に渡したけどな、とやや低めの声で言い、辛気臭い話をしてしまったからか次に明るめの口調でヴィートは話し始める。


「で、どうしたんだおっちゃんに用事か? 武具なら売るぞ、良いのがいっぱい手に入ったしな」


 スキンヘッドの頭が一瞬光ったように見えたのはおっちゃんことヴィートが、商売だ! と輝いていたからだろう。


「ううん、そうじゃないの、聞きたい事があって」


「そうか、んじゃ場所替えるか?」


 ルナに言われちょっとしょんぼりした様子のヴィートであったが、すぐにいつも通りに戻りギルドから出ようと促した。


「ところでルナ坊よ」


 小声で、ルナだけに聞こえるようにヴィートは話す。


「ディロ坊はおっちゃんたちの事は知っているのか?」


「知らないけど、信用できるしもうみんなに話しても大丈夫だよ」


 屈託のない笑みでルナは答えていた。



 ----



(まじかよ!?)


 インディロに衝撃が走った。衝撃といっても痛みの方ではない。驚きの方だ。

 今はヴィートと別れて、ルナと共に宿に帰る途中である。

 その途中、インディロは先程聞いた話を思い返し、改めて1人で、脳内で驚いていたのだ。それほどの話を先程聞いてしまったのだ。


「ディロちゃん、何か買って行く?」


 ルナがインディロにそう問いかける。


「おう、そうだな、美味しいもん買って行こうぜ。コウが食べるかもしれねぇし」


「そうだねー、何かおっかなぁ」


 上機嫌そうにルナはインディロの隣を歩いている。


(うーむ……、でもオレの気持ちは変わらないな。うん、今まで通りだ)


「安かったらついでにオレたちの飯も買っとくか。あの宿、ご飯は別料金だったしな」


「おおー! 美味しいものあるかな?」


「や、安かったらだからな……?」


 ルナの言葉にちょっと不安を覚えつつも、2人は市場へと足を進めるのだった。



 ----



「ふふっ」


 ――はっ! つい笑ってしまった。

 コウ様の寝顔を見ていた私は窓へと視線をずらす。

 いけないわ、不謹慎すぎる。

 そう思っていても顔がにやけてしまう。あの感情の変化はきっとコウ様が復活されたのだから。

 そして今、私の膝を枕代わりにすやすやと寝息を立てている。

 目元は少し赤くなっているが、それでも、あれから今までの寝方に比べると穏やかな感じがした。

 ……コウ様……。

 心で名前を呼び、優しく髪をなでる。

 この部屋に今誰もいないからできるのであって、本当は、こんなことをしたら奴隷失格だろう。だけど私はしたくなったのだ。してしまったのだ。愛くるしいコウ様の寝顔を見ていたら体が動いてしまったのだ。

 こ、これもシュリカ様に任された事の1つよ!

 そう自分に言い聞かせる。

 コウ様がここまで取り乱さなければ私も危なかったかもしれない。

 奴隷の私を、友人として接してくださっていたシュリカ様がいなくなってしまう事は私だって悲しい。

 ダンジョンから抜けた後、無意識にシュリカ様を探している自分の姿があった。そして改めていなくなったという事実を突きつけられてしまう。でも、コウ様は無気力になってしまい、私たちがしっかりしなくてはいけないと気持ちを切り替えることができたのだ。ルナ様とインディロ様は普段通りに接してくださっていたが、内心はどうだったのだろうか?

 ……考えたところでわからないわよね。

 自問自答に苦笑し、私は改めてコウ様の顔に目を向けた。

 私が落ち込まなかったのはシュリカ様の最期の言葉とコウ様の状態のおかげかも知れない。そしてそのコウ様はシュリカ様の残された言葉で戻ってくれた。嬉しいことだけれど……私は何にも力になれていないわ。その事だけは悔やまれる。私だってコウ様の力になりたいのに……。


「ただいまー」


「戻ったぞー」


 そう考えていた時、後ろから声が聞こえた。予想以上に思いふけっていたようでドアの開く音が聞こえなかった私は、ビクッと体を縦に揺らし、コウ様の頭の上で動かしていた手を止め後ろを振り向いた。


「あっ」


 振り向いた時後、手を動かしていたのは無意識だったことに気づくがもう遅い。


「お、お帰りなさいませ」


 ど、どうしましょう。

 焦りが心音を大きくする。


「話があるからちょっといい?」


 ルナ様がそう言う。

 話とは今の行為のことだろうか? もしかして解雇!?


「あー、えっとな、オレたちは別に奴隷どうこう考えてないからな?」


 という言葉に私はあっけらかんとインディロ様を見た。


「オレも奴隷という人たちを何人か見ているが、何が良い、何が悪いは人それぞれだからな。コウは別に何も気にしてなかったし、オレたちも気にしていない。強いて言えばリーゼ自身が気にしているといった所だな」


 な、ルナ。とインディロ様が隣にいるルナ様に言質を取ろうとしてくださる。

 ルナ様は、「うん?」と最初首を傾げていたが、インディロ様が「リーゼは何だ?」と言う質問を投げかけると、「友達だよ!」と即答された。

 私は考えすぎていた……のかしら。

 前からコウ様たちに休んで良いとはよく言われていた。けど私は、何かやらなきゃという使命感にその言葉を断っていた事の方が多い。休んでしまったら私以外の誰かの手を煩わせてしまう。それは奴隷としてどうなのだろうかと思ってしまったのだ。だから無理やり休まさせられるとき以外、雑用、家事などをやっていた。時々シュリカ様も手伝ってくださったけど、その時は楽しかった。


「そうだったんですね……」


 私は皆様に想ってもらっていたのですね。

 愛されている。と思うのは大げさかもしれない。でも嬉しいことだ。


「あ……ら?」


 コウ様の頭の上に置いていた手の甲に雫が落ちる。


「インディロ様、ルナ様、ありがとうございます。これからもよろしくお願い致します」


 コウ様を膝に乗っけたまま私は2人に首だけだが会釈をした。


「泣くほどのことじゃないだろ」


 と笑いながら言うインディロ様の声。


「何で泣いているの?」


 と言うルナ様の声が同時に聞こえた。



 ----



「――する……な?」


「うご――――ん」


「む……やり?」


「いや、かわい――だろ」


「どうしましょう……」


「まぁいいか」


「すみません」


「リーゼちゃんのせいじゃないよ」


「そうそう」


 まただ、近くで声がする。しかも徐々にはっきりと聞こえてきた。


「で、話と言うのはだな」


「あら? コウ様」


 俺が体を動かすと名前を呼ばれる。


「コウちゃん起きた?」


 ゆっくりと目を開けると視界は白かった。


「う……む?」


 なので転がり仰向けになろうとすると、滑るように体が斜め下へと動き出す。


「あっ」


「コウ様!?」


「あらら」


 そんな声と共に、体の支えがなくなった俺は重力に従い真下へと落ちた。


「いつつっ……」


 そうぼやきながらも落ちた状態から上を見るとリーゼ、ルナ、イーロの顔が視界に入った。シュリカの顔は見えない……やっぱり現実か。

 むくりと上半身を起こし、少し下がって3人の顔をが見える位置についてから俺は言った。


「えーっと……迷惑をかけてごめん。俺は復活したようです。所々記憶がないけど今は大丈夫。ほんとごめんなさい」


「お帰りなさいませ」


「お帰り」


「おかえり、コウちゃん」


 3人に笑顔でそう返されたのだった。


 どうやら俺はリーゼの膝枕で寝ていたようで、転がった時そのままベッドから落ちたようだ。ということは、目を開けた時みえた白いものはリーゼの服か、腹部の……。うんつまらないな、言葉にしなくてよかった。

 で、今から丁度今後の作戦会議だそうだ。なので俺たちは2つのベッドに向かい合うように2人ずつ座っている。

 この部屋には椅子やテーブルはなく、ベッドだけだったのだ。その2つのベッドの間には当然距離がある。そこでベッドに腰掛け話し合いをするということだ。


「あたしはこれから北に行きたい。ううん、北に行かなくちゃいけなくなったの」


 ルナがそう話し始めた。


「昔の友達がちょっとピンチになりそうだから、ヴィーちゃんと一緒に行くことにしたんだ」


「ヴィーちゃん?」


 誰ですかそれは? それに行くことにした。ということは決定事項じゃないですか。うむ、病んでた俺が言えることではないか。

 その事で思い出した。

 握り絞めていたシュリカの手紙を丁寧に戻しボックスへとしまう。この間わずか5秒程。


「ダンジョンで大活躍した方なんですよ、ルナ様の友人なんです!」


「へー……」


 リーゼの説明に俺はそう返す。リーゼさん、なんかテンション高くないですか?


「まぁ友達が危ないなら行くしかないな。よし、もう行くことが決まっているようだし行くか。あっ、でも流石に今日じゃないよな……?」


 その言葉にか、3人が一斉に俺の方を向いた。


「え、えっ? 変なこと言ったか?」


「いいの?」


「別に行きたいところあるわけじゃないしな。ほら、中央行こうと決めたときだって行ってみたいからとかじゃなかったっけ?」


「そうだっけ?」


「……違ったっけ? まぁいいや、ようは次行く場所決まってないからいいよ、と言うことだ」


「……ルナ、あの話はいつするんだ?」


 ニヤニヤとしながらインディロは話しかけた。

 ……ん? ルナ? いつの間に呼び捨てに! 全く気づかったな。だとするとルナの呼び方も気になる所だ。……そのうち聞けるか。


「それはねー、ヴィーちゃんが来てからだね!」


 そう言うと同時にドアからノックの音が。


「はーい!」


 元気に返事をするルナの声に反応して、ドアをノックした人は部屋へと入ってきた。


「2つ部屋借りているなら言ってくれよ、先にもう1つの方行っていないから受付に聞いちゃったじゃないか」


「そうだった! あたしたちの方の部屋しか教えてなかった」


 ごめんねと謝るルナ。

 部屋に入ってきたその人は、スキンヘッドで筋肉質な体つきだ。見た目から格闘家だとうかがえる。合っているかはわからないが。


「ど、どうも」


 取り敢えずの会釈。


「おう、えーっと……コウちゃん、だっけか?」


「そうだよ! コウちゃんだよ」


 来訪者の言葉にルナは一番に反応した。


「良かった良かった。おっちゃんはヴィートっつうんだ、よろしくな」


 この人が、ルナの言うヴィーちゃんだそうだ。

 良かったというのは俺の復活のことだろうか? 言葉を濁しているような感じがするが気遣いなのかも知れないので気にしない事にする。


「俺はコウです。よろしくお願いします」


「コウか、……コウ坊だな!」


 だな! と言われましても……ねぇ。


「で、ルナ坊、話したのか?」


 この人は、坊を人の名前の最後につけたがる人なんだな、うん。ルナの、ちゃん、と同じようなものか。


「北には一緒に来てくれるって! あの話はこれからだよ」


「そうか! 来てくれるか! ディロ坊も強いし助かる。コウ坊もアイツを――ッと何でもねえぞ、な」


 ? 俺がどうかしたのだろうか?


「コウ坊も強いって聞いてるから、頼むな」


 俺が疑問の表情を浮かべているとそうヴィーちゃんもといヴィートは答えた。

 ……そういえば俺は何と呼べばいいのだ? ヴィーちゃん? いや、それは俺がなんか嫌だ。呼び捨ては年上そうだし止めておこう。無難にヴィートさんか。


「では、あたしたちの正体を教えます」


 ルナがそう言い、俺の意識はルナへと向く。

 正体? ルナはルナだろ。そう思ったとき予想外の言葉が俺の耳に入ってきたのだった。


閲覧ありがとうございます!


11月、何故か忙しくて更新遅れました。申し訳ないです。

次の更新でこの章終了です。そして、エピローグを除く、最後の章に入る予定です。どのくらい長くなるかは未定ですが、お付き合いいただけたら幸いです。

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