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059

「――くん、――ん。コウく――、コウくん!」


 ゆさゆさと体を揺すられている感覚がある。


「あっ、よかったぁ」


 体を動かすと安堵の声が聞こえた。

 目を開けると、辺りは暗い。


「っ!?」


 体を起こそうとすると背中に痛みが走った。痛い、そして熱い。熱を持っているようだ。


「だ、大丈夫!?」


「……ああ、なんとか」


 この痛み……俺は生きているみたいだ。シュリカも声からして無事のようだ。


「……ここ暗すぎじゃないか?」


 俺はゆっくりと、痛みをこらえながら上半身を起こした。その時、下からカラ、コロ、という音と、体を支えるためについた手が、地面がでこぼこをという事を教えてくれた。


「私が気づいた時からこんな感じだったよ。コウくんが目を覚まさないからあまり気にしてなかったよ」


 シュリカの声の後に生暖かい風が俺の顔をにあたる。

 何だろう、どこからか風が流れてきているのか? と疑問に思いながらも俺は言葉を続けた。


「シュリカは怪我しなかった――っうお!?」


 目が暗闇に慣れてきたのだろう。微かにだが周りの感じを掴めてきたので、風が流れて来た方を見ると、俺の顔の目の前にシュリカの顔があったのだ。


「むっ、なによ人の顔を見るなり驚くなんて」


 さっきの生暖かい風はシュリカの吐息だという事がわかった。


「い、いや、目が慣れてきたと思ったらいきなりシュリカの顔があったからさ……」


「……ふふふっ」


 柔らかく笑ったシュリカは俺の首元に手を回し、俺は抱擁された。


「無事で良かったよ」


 そう言われたので、俺も腕をシュリカに回してから、片手をシュリカの頭の上に置いて言葉を発した。


「シュリカこそ……もうあんな無茶はしないでくれよ」


「それはわからないわ、コウくん次第ね」


「そ、そうですか」


 1分程そのまま動かなかった俺たちだが、どちらからともなく体を離した。


「取り敢えず……どうしよっか?」


 シュリカの問いかけに、俺はちょっと待っててと答える。

 ここが暗すぎるのだ。動くとしても明かりが欲しい。

 そう考えボックスから薪と布……はなかったので服を取りだした。

 服を薪の先端に巻きつけ、服に生活魔法で火を点けた。本当は油も欲しかったが持っていなかったのでしょうがない。


「これで少しの間は周りが見えるだろ」


「こ、コウくん……」


 シュリカの顔を見ながら俺はそう言ったが、シュリカの表情は良くない。


「し、した」


 シュリカは指をさしながら言った。

 明かりに照らされた地面を見ると白かった。そしてその白いのは地面ではなかった。地面に敷かれているように何かが沢山落ちていたのだ。

 何だろう、と何気なしに1つ拾うと細長い物だった。


「……!?」


 俺は理解した。そしてとっさに拾ったものを放り投げてしまった。

 世の中知らなくて良いことが多いのな。そう、この地面は骨で白くなっていたのだ。

 恐る恐る腕を動かし辺りも観察する。

 この部屋はそれほど大きくないという事がわかった。それと同時にこの部屋一面に骨が敷き詰められていたのもわかってしまった。

 壁側には、背を壁につけ座ったまま白骨化している姿も見える。ボロボロになっているが、服もまだ残っている。


「もしかして、この骨がクッション代わりになつて私たち生き延びたのかな?」


 シュリカがそう言ってきた。

 確かにそれも考えられる。

 上を照らすと、壁側の天井近くに1ヶ所穴が開いていた。そこから滑るようにしてこの場所に落とされたのだろう。あの高さで気を失って落ちていたら、死ぬか大怪我だと思う。なのに生きていたというのはそういう事かも知れない。


「……かも知れないな」


 簡易松明を持たない、体を支えている方の手の先を見た。

 その手は頭蓋骨の頭の部分に手をつき、俺は体を支えていたのだ。


「うおっ!? ――っ」


 驚いて手を離した反動で背中に痛みが……。

 やっぱり不気味だ。助けてもらったのかも知れないが、不気味なものは不気味だ。


「そろそろ行こっか、ここにいても誰とも会えなそうだし、誰かが降ってくるかもは知れないけど、それを待つのもあれだしね」


 言いながらシュリカは立ち上がった。


「そうだな……肩を貸してくれると助かります」


 俺も立とうとしたが、背中の痛みに片手じゃ立ち上がれなかったのだ。

 松明をシュリカに持ってもらおうとも考えたが、これが結構熱い。木が短いからなのだけど。だから肩を貸してもらおうと思ったわけだ。


「うん」


 シュリカは俺の肩の下に首を入れ、「せーのっ」と掛け声を上げた。

 それに合わせ俺も体を動かしなんとか立ち上がる。


「ありがと」


「いいよ、このまま進む?」


 そう問いかけられたが俺は、立てれば歩けると言い遠慮する。

 軽く腰を捻る。痛みはあるが動かせない程ではないな。という事はだ、骨折はしてなさそうだ。そう考え俺はシュリカの手を取った。


「行こう」


「うん」


 片手に松明、片手にシュリカの手を持ち俺たちは、この部屋に1つしかない、通路へと続くと思われる道へと進む。

 部屋を出て、俺たちは何も言わず後ろを向き一礼。そして前へと向き直し、足を動かした。



「私が魔法使えれば良かったんだけど……ごめんね」


 歩き出して2分程。今は通路の途中で座って背中に薬草を塗ってもらっていた。


「気にしないで、俺も使えないし。塗ってもらえるだけでありがたいよ」


 上半身裸の俺はそう言う。通路は少し進むと松明を使わなくても見えるほど明るくなっていたのだ。だからここで応急処置として、シップのような効果のある塗り薬を塗ってもらっていた。

 通路には魔物の影が見えなかったから応急処置をしようという話になったのだ。

 シュリカ自身も魔法は苦手だそうだ。俺よりも使えるとは思うんだけどな。まぁ使っているところを見たことはないけど。


「こんな感じかな? 他に痛む場所はない?」


「大丈夫、シュリカこそ痛い所はないの?」


 シュリカの方を見て俺は聞いた。


「私はコウくんが抱きしめてくれたおかげか怪我が1つもないみたい。ありがと、コウくん」


 ……その微笑み最高じゃないですか……。


「コウくん?」


「は、はい!」


「どうしたの?」


「い、いやー、なんでもないっす」


 横に置いていた防具を取った。その時、防具の背中側がすり減っていることに気がついた。

 ……摩擦で背中が熱かったのか……? 

 ありがとう、と、ひとなでしてから防具を着る。

 松明はもういらない。半分以上は燃えていた松明をここに置き、火を踏み消してから俺たちは更に進んだ。



 ----



「あれはゾンビの上位種のグールだな。それも魔力にあてられてパワーアップしてやがる」


 ヴィート様がそう言った。

 彼はルナ様の旧友で、格闘家で、今は商人を1人でやりながら世界各地を適当に動いているらしい。仕入れも武具類はほとんどダンジョンで拾うと言うから驚きだ。「儲かるぞ、一緒にやるか?」とも誘われたが、私にはコウ様がいるので、と丁重にお断りをしました。

 話によると、先にヴィート様が先にゾンビ……ではなくグールとスケルトンと戦っていると、後から先行隊の冒険者たちが入って来て、勝手に魔物と勘違いしてヴィート様を襲っていたそうです。

 誤解は解けたが亡くなった人は戻らない。

 この先行隊のリーダーの人は、「悲しいが、こっちが勝手に間違えたのだからしょうがない。その分までおれたちがやるしかない」と答えていた。

 冒険者たちは、あの広場から出て安全とわかった所でヴィート様に平謝りをしていたからわだかまりはないと思う。個人で思うところがある人もいるかも知れないが、ヴィート様の戦闘を見て敵討ちをする人もいないでしょう。

 先行隊の人たちはナンバー2の人たちで、合流して私たちは総勢14人となっていた。

 先行隊1番の人たちとは途中で二手に分かれたらしい。


 移動時、私たちは後方についていた。

 再会が嬉しいのか移動の間、ルナ様とヴィート様はずっと話している。その近くでインディロ様が拗ねているような雰囲気を感じ取ったのですが、……気のせいでしょうか?

 先行隊の面々は魔物を討伐して進んで行く。大量に出て来なければこの人たちは強いのだった。

 私たちのやる事はなく、ただただ後ろをついて行く。そしてどの位が経ったでしょうか、2回ほど小休憩してから通路を進んでいると、「うああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――!!!」という大きな叫び声がした。そして、私はその声に聞き覚えがあった――



 ----



 応急処置から歩くこと10分、この通路は長かった。一本道が長いのは何か道を間違えている気がして怖いな。でも他に道なんてなかったし……もしかして隠し通路があったりして。

 そんな事を1人で考えながら、シュリカと2人で歩いていた。


「あっ、あそこ! 部屋に出れるのかな?」


 シュリカのそんな声が聞こえ、俺の不安は消える。


「おー、誰かいるかな?」


「そんな簡単に会えないと思うよ。魔物に注意してね」


「そうだよな。了解」


「コウくんはあまり無茶しないで。私が頑張るから」


 と言う気づかいの声が。でも俺も頑張りますよシュリカを守るために。


「そうか、ありがと」


 気持ちとは違う言葉を口に出す。そして俺たちは部屋を覗き込んだ。


「なっ――!?」


「えっ――!?」


 俺たちは同時に驚いた。

 この部屋は凄く広かった。遠いせいか、ここから反対の壁が薄暗くてよく見えないのだ。天井も高い、というか天井は暗くて見えない。そして部屋の形は円のようで、壁は緩く湾曲になっていた。

 入口も沢山あるようでここから見えるだけでも数えるのに時間がかかりそうだ。等間隔で通路への道があったのだ。

 だが、俺たちが驚いたのはそこではない。なんと、この部屋には冒険者の人がいる――いや、いたんだ、さっきまでは……。

 俺たちが部屋を見た、その時、部屋の中で冒険者が胸を貫かれていた。

 今は呻き声は微かに聞こえている。しかし、叫び声は道中全く聞こえなかった。だから俺は、人は誰もいない。そう思って部屋を覗いたんだ。

 この部屋は地獄絵図となっていた。

 部屋には何人もの人が倒れていた。遠目から見たが、防具をつけたまま白骨化している人や、体が皮1枚のような細い人、普通に倒れている人たちがいる。普通に倒れている人の中にも微かに動いている人はいた。致命傷で動けなくなっているだけかも知れない。

 ぼすっ、という音が聞こえ俺はそちらを見る。腕で胸を貫かれていた冒険者が地面に落ちた音のようだ。

 貫いた本人。人型の黒い皮膚に、真紅に染まった腕に足。腰まである漆黒の髪をなびかせ、背中には、髪の間から、小さな黒い翼があるのが見えた。更には胸まで出ていた。

 女……の人? 魔物……? それとも……


「……悪魔?」


 俺が呟くと、それに反応してかはわからないが、シュリカが唾を飲む音が聞こえた。

 女性の形をした漆黒の存在はしゃがみ、今、倒した冒険者の上半身を起こす。そして首元に顔を近づけた。


「「…………」」


 俺たちは言葉も出さず、その姿を見ていた。

 ゴクッ、ゴクッという音が部屋に響いている。

 2分ほどで音が止み、貫かれた冒険者は青白くやせ細っていた。


「ち、血を飲んだの!?」


 小声でシュリカは驚いている。


「吸血鬼か?」


 俺も小声で言う。確かここのボスはヴアンパとか聞いていたがヴァンパイアの事だったのか?

 血を飲み干した漆黒の存在は次に、動けなくなっていると思われる冒険者の方へ足を進め、さっきのように首に噛みつきゴク、ゴク、と喉を鳴らしていた。


「こ、コウくん」


 シュリカの声は震えていた。


「ど、どうしよう、ここを通り抜けないとリュフトさんたちと合流はできなそうだよ……」


「そう……なんだよな」


 この道は行き止まりで、隠し通路があった方が良かったと心底思う。


「少し下がろう。ばれたらあの人たちと同じ運命をたどりそうだ……」


「うん」


 俺の提案にシュリカは頷く。

 俺は震える足を無理に動かし体を反転させ、シュリカも後ろを向いた、その時だった。


「おや、戻るのですか? こっちにいらっしゃいな」


 ゆっくりと、はっきりとした妖艶な声が響いてくる。この声はシュリカのものではないのは明らかだ。

 俺の足は硬直した。いや、足だけではない。俺自身が硬直している。鼓動も早まっている。

 何だ? 誰だ? いや、まさかばれているのか。そんなバカな。部屋に入ってないんだぞ。幻聴か? そうか、そうだよな!


「え? な、なに? 誰?」


 というシュリカの声で、幻聴ではないという事が発覚する。


「ワタクシが行きましょうか? 少し待っていてくださいね。食事を済ませちゃいますから」


 背筋に冷たいものが走った。


「ま、まさかな」


 そい言いながら、勇気を振り絞り、ぎこちなくも後ろを振り返る。


「おや、来てくれるのですか?」


 血を吸い終わったのか口を拭いながら、漆黒の存在は俺たちの方を向いていた。

 本当に言葉を喋っていやがる……。


「こ、コウくん、どうするの?」


 シュリカも部屋側に向き直っていた。

 魔物はダンジョンの一定の場所以外動けないという条件が入っているゲームではないのだ。これは現実だ。なら後退したらアイツは追いかけて来るかも知れない。喋れるという事はそのくらいの知能はつけているということだろうし。


「い、行くしかないだろ、こっちに来られても行き止まりだし」


 声が裏返っていた。だがそんなことに構っている余裕はない。


「う、うん」


 俺は自ら先頭を歩き部屋に入った。

 奴の10メートルほど離れた場所で立ち止まると、「もっとおいでなさいな」と言われる。

 だが、俺はそれをなんとか断った。

 顎も振るえてやがる。体からも嫌な汗が滲み出ている気がする。


「そうですか、残念」


「と、ところで、貴女様は何者なんですか?」


「ワタクシですか? そうですね……ここのアルジとでも言っておきましょうか」


 主というのはボスという事でいいのか? どうして言葉を話せるのかは謎だが、ヴアンパで間違いはなさそうだ。


「オヌシたちは、ここにはなにようですか?」


「ちょ、ちょっと調査に来てたらトラップに引っかかっちゃいましてね」


 やはり異常発生の原因はこいつなのか? と頭をフル回転させ考えていたら、シュリカが俺の背中に手をあてているのが体温でわかった。


「なるほど……マモノの異常発生のですか?」


「そんなとこです」


 でも、どうしてこうなったんだ? 事前情報だと喋れるという事はなかったのに……。


「やっぱり、この人たちと一緒なんですわね……。貴方も貴女もワタクシの礎となってもらいますわ!」


 ……あっ! 失敗した! 違う事に頭を使っていたせいで質問に素直に答えてしまった。

 ヴアンパの表情が変わる。

 何でこんな簡単な引っ掻けに答えてしまったんだ、俺は!

 白目が黒く、黒目が真紅のヴアンパは俺たちを睨みつけた。


「――――っ!!?」


 それだけで俺の体は乗っ取られたように自由が利かなくなる。

 ヴアンパは10メートルという距離を埋めようと、翼を使い滑空するように地面すれすれを飛び、時に足を使い跳躍も入れて迫ってきた。

 だが、俺の体は金縛りにあったように動かない。

 残り1メートル。

 ――ヤバイッ!

 それでも体は、自分の意思で動かせない。

 喰らわれる。そう思った刹那、俺の体は斜めに倒れていた。

 受け身は取れなかったものの倒れた痛みで体の自由は戻った。


「キャッ――――あっ……」


 ガプッという音が後ろから聞こえた。俺はとっさに体を起こす。

 視界に入った光景は、シュリカがヴアンパに首元を噛まれているところだ。


「あ……ぁぁ…………うああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――!!!」


 プツリと何かが切れたような音がした。


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