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005

 

「おはよー。今日は遅かったね」


 一階に降りるとノナンさんに話しかけられた。

 時間はもう昼近くになっていた。昨日の疲れのせいか、寝過ごしたみたいだ。


「ふわぁーあ。おはようございます」


「はは、眠そうだね。今日はどうするの?」


「一応ギルドには行こうと思います」


「そっか。ご飯食べていく?」


「ぜひ!」


 ノナンさんの料理の方が、ミリアさんのより美味しいのは秘密だ。


「いってきます」


 ご飯を食べて家を出る。


「気をつけてねー」


「はーい」



 歩いて10分。もうギルドまでの道では迷わなくなりましたよ。

 ギルドに入ると昨日より人がいた。


「よう、にいちゃん」


 受付のおじさんが声をかけてきた。

 俺に注目が集まる。


「あれが期待のルーキーか?」


「ガキだな」


「あいつ、初めてのくせに北の森から帰ってきたんだろ。1人で」


「運よく魔物に合わなかっただけだろ」


 などと聞こえるが、俺は気にせずおじさんのところに向かう。


「おい、おめーら、こいつは森で薬草モドキ2体、倒してきてるぞ」


 やっぱり俺の事だったのか!? おじさんこれ以上騒がせないで。目立ちたくないの!

 そんな思いとは裏腹に、俺は目立ってしまった。


「まじかよ。なかなかやるな」


「ヒュー、すごいじゃん」


 ……視線が痛い。


「おじさん、期待のルーキーってなんなのさ!」


「え? にいちゃんのことだぞ? 初めての依頼で北の森に行って、帰ってくる人なんて滅多にいないんだぞ。だから毎回俺は止めているんだ」


「そうだったのか!? てか、止めるって言っても1回しか言われてないぞ」


「冒険者は自分の命くらい自分で守らなきゃな。判断力が問われるな」


 ワッハハと豪快に笑いやがる。


「この前も初めての依頼で北の森に行き、帰ってきた人がいたが、最近は優秀な奴が多いな」


「先月?」


「ん? そうだぞ」


「……ちなみに先月北の森に行って、帰ってきた人数は?」


「G、Fランクのみで16人行って帰ってきたのが5人だったかな」


 そんなに危ないのか! FランクでもGから上がったばかりだと、戦闘経験ないからやられるのか。


「もっと本気で森に行くのを止めたほうがいいと思うよ」


「情報収集不足の人が悪いんだよ。オレはちゃんと言ってるし、どのくらい危険なのか聞かれれば教えるぞ」


「……そういうものなのか?」


「そういうもんだぞ」


「そうなのか……」


 おじさんとの会話切り、依頼を見に行く。

 そのころには、俺に向けられた視線はなくなっていた。



 今日はどうしようかな。ノナンさんを待たせるのは悪いし、早めに終わるものないかな。


「うーん……。おっ、これでいいか」


 依頼 店番をお願いしたい 依頼を受けた翌日から3日間 朝から夕方まで  報酬 銀貨1枚+売れた商品の1割


 3日間もあるが銀貨1枚は割が良い。北の森に3日間行っても銅貨75枚だからな。

 売り上げの1割も魅力的だな。やる気が上がるってもんだ。

 この依頼の紙をはがし、おじさんに持っていく。


「これお願い」


「あいよ。おー、これか……」


 おじさんが言葉に詰まったぞ。何かあるのか?


「この依頼は危険なのか?」


「命の危険はないぞ。ただな……」


 ただ、なんなのだ!?


「にいちゃんなら大丈夫だろう」


「何がだ!?」


「それは言えない」


「聞けば教えるってさっき言ったじゃんか!」


「あれはあれ、これはこれだよ」


 大人は汚いぞ……。


「承認と」


「ちょっと!」


「今日は打ち合わせに行ってきな。これを見せればわかるから」


 おじさんは封筒を差し出してくる。


「……行きたくなくなったんですけど」


「もう承認しちゃったからな。諦めな」


 笑顔で言いやがって。このやろう。


 おじさんの手から乱暴に封筒を奪い、行くことにした。

 やってやろうじゃないか。


「場所はここを出て右に歩いて行くとあるベギっていう店だ。看板あるからわかると思うぞー」


「おー……」


 本心とは裏腹にやる気のなさそうな返事を返し、ギルドを出る。



 ----



 ……ここか。


 ギルドから歩いて5分。

 意外と近いな。しかもここで買い物したことあるぞ……。

 ベギは八百屋だった。


「すいませーん」


「いらっしゃーい」


 奥から人が出てきた。

 ガタイのいいスキンヘッドの男が出できた。


「兄ちゃん、なにをお探しで?」


「あ、あのギルドから来ました。これを渡せと……」


「おー、来たか。内容は、この店を3日間お願いしたいんだ。野菜は朝届くからそれを並べて、お客が来たら接客だ。いいか?」


「わかりました」


 思ったより簡単そうじゃないか。


「これが店のカギだ。なくすなよ」


「はい」


「値段はそこに書いてある。お金の数が高ければ、これを使って数えてくれ」


 店主に何か渡された。

 見ると銅貨と銀貨を入れるくぼみがあり、数字が書いてある。これで枚数がわかるという仕組か。銅貨と銀貨、どちらも50枚が入るくぼみが2ヶ所ずつあり、計100枚数えられる。

 便利なアイテムもあるんだな。


「これくらいかな。まあ、わからないことがあってもなんとかしてくれや。自由にやって構わないから」


「……わかりました」


「じゃあ今日はお開きで。明日の朝はいるから。兄ちゃんが来てからいなくなるので、そのつもりで」



 家から出て3時間ほどで帰宅した。


「ただいまー」


 誰もいなかった。

 ノナンさんはお出かけかな。


 俺は椅子に座りテーブルに突っ伏した。



「――きて。コウ君、起きて」


「うぅん」


「おはよう。今寝たら夜、寝れなくなるよ」


「……おはようです」


 いつの間にかに寝てしまったみたいだ。

 こちらに来てから起こされることが多いな。


「今からご飯作るから待っててねー」


 キッチンに向かうノナンさん。


「手伝いますか?」


「だいじょぶよ。のんびりしてて」


「はーい……」


 ノナンさんはキッチンに行ってしまった。

 やることがないな……お風呂でも沸かしてこよう。

 風呂場に行き水を入れる。入れ終わったら外に出て、火を焚く。火をつけるのは、俺の魔法でもできるので簡単だ。

 魔法練習はしているが、未だに一瞬しか火は出ない。一瞬でも薪に火をつけることくらいできる。


「魔法は全然だな……」


 火を見守りながらのんびり待つ。

 空は赤くなってきている。


 待つこと数十分。

 そろそろいいかな。

 火も弱まっていたので、水魔法で消そうとする。


 ……水滴が5滴ほど飛ぶだけだった。


「だめか」


 火のついた薪を新しい薪で、新しい薪に火がつかないように取り出し、足で踏んで消す。

 このくらいの火は魔法で消したかったな。


 ノナンさんに報告するため一度リビングへ。


「お風呂沸かしたので、入ってきますね」


「おっ、いいねー。私も食べ終わったら入ろうかな」


「そのときはまた温めますね」


「お願いするよー」


 俺はお風呂に向かった。


「ふぁー。いい湯だなー」


 温かいお湯に肩まで浸かり、リラックス。

 して、10分くらいで上がる。


「良いお湯でした」


「あと5分くらいでできるからもう少し待ってね」


「はーい」


 手伝わなくても大丈夫と先ほど言われたが、皿を運ぶことくらいは手伝うことにした。


「では、いただきます」


「はい、いただきまーす」


 今日もご飯は美味しいです。


 食べ終わりノナンさんのお風呂タイム。

 その前にお湯を温めなおす。


「お湯いい感じになりました」


「ありがとー。これ洗い終わったら入るね」


「皿洗いくらいなら俺やりますよ」


「そう? じゃあお願いしちゃうね」


 ノナンさんはお風呂に向かった。

 ギャルゲーの主人公ならここでイベント発生だろう。

 しかし、俺はそんな主人公ではない。むしろ脇役がいいところだろう。


 洗い物を終わらせ、席に着きお茶をすする。

 決して、覗きたいなんて、これっぽちも思っていませんよ。ええ。

 そうして、そわそわしていたらノナンさんが上がってきた。


「いいお湯だったよー。ありがとね」


「……いえいえ。じゃあ俺は明日早いので寝ますね」


「ん、おやすみ」


「おやすみです」


 自室に帰る。

 なんとか自我を保てたみたいだ。

 風呂上がりだからといってあんな薄着で来るとは思わなんだ。


 こんな時はベッドに潜りさっさと寝るに限る。



 ----



 朝早く起き、サンドイッチを作る。

 前作ったのと同じ感じのやつだ。


「ノナンさんはやっぱりまだ寝てるな」


 昨日の風呂上がりの格好を思い出してしまった。


 いやいや、いつもあんな感じなんだろう。気にしちゃだめだ。

 頭の整理をつけ、家を出る。

 今日の仕事場に向かった。



 ベギに着き、裏口から借りている鍵で入る。


「来たな、おはよー」


「おはようございます」


 昨日のスキンヘッドの人がいた。そういえば、朝はいるって言ってたな。


「ここにある野菜は店に出すやつだ。出せなかったのは売れてから出せばいいからな」


「はい」


「明日もこうやっておいてあると思うから頼むぞ。休憩は客がいないときに自由にとりな。客が来たらすぐ対応できるように、遠くには行っちゃいかんぞ」


「わかりました」


「よし、俺は出かける。あと頼んだぞ!」


 そう言い残し、店主は店を出て行ってしまった。


「……まだ開けるの早いし、野菜出すか」


 そう言えば、野菜の名前分からんぞ……。なんとかなるのか?

 幸先が不安だ。


 少し経ち、良い時間になったのでシャッターを開ける。

 開店だ。さて、どうなるやら。


 品出しも終わっていたので、レジみたいなところにある椅子に腰かける。


「……暇だな」


 開けたばかりとはいえ、誰も来ないのは暇だ。

 そのまま時間は過ぎていく。

 この世界は時計がないのだが、みんな体内時計や日の方向で時間がわかると聞いた。

 俺にはそんなスキルはない。朝、起きれているのだって奇跡に近い。

 ……カレンとハンナに起こされていたおかげで、早起きの習慣がついているだけだが。

 あの1年間はほんとに助かった。この世界のことを、いろいろ知れたからな。


「すいませーん」


「いらっしゃい」


 そんなことを考えていたら、初のお客様が来た。


「あら、今日はベギーさんじゃないのね」


 あの人、ベギーって言う名前なのか。そういえば聞いていなかった。


「はい。今日から3日間、私がやることになったんですよ」


「そうなの? じゃあ、そこにあるやつを3つと、そこの赤いの2つ戴こうかしら」


「ありがとうございます。えー、合計、銅貨26枚になります」


「はいこれ」


 銅貨を渡される。


「少々お待ちを」


 銅貨を数える。


「ちょうどです。ありがとうございました」


「ありがとね」


 お客さんは帰って行った。

 お金を数えるの大変だぞこれ……。一気に来られたらやばいな。

 そのあとも、ちらほらとお客さんが来る。


「やっほー」


「いらっしゃい」


「なかなか板についているじゃない」


「ノナンさん!」


 お客さんはノナンさんだった。


「全然ですよ。お恥ずかしい」


「そんなことないよ。エプロン似合ってるよ」


 そんなこと言われましても、知り合いに見られるのは恥ずかしいですよ。


「どうして俺がここにいるって知ったんですか?」


 店に来ていきなり「やっほー」とは、仲の良い人がいないとできるものじゃないと思う。ノナンさんがここの常連さんだったのなら別だが。


「ギルドに用事があってね、そのとき聞いたんだ。期待のルーキーなんだってね」


 常連さんじゃなかったみたいだ。そして、なぜその話を……。


「違いますよ。あれは俺が無知だったから、そう言われるようになっただけですよ」


「前に聞いた話では、そんなこと言ってなかったのになー」


 ニヤニヤしながらいじめてくる。ノナンさんはSなのか? 勝てる気がしないぞ……。


「わかりました。少し安くしますので、その話は聞かなかったことにしてください」


「……しょうがないな。ベギーさんはいつも銅貨2枚くらい安くしてくれるけど、コウ君はどのくらいしてくれるの?」


 笑顔だ。この人悪魔か!?

 そして、ベギーさんも弱みを握られているのか!? ノナンさん、常連さんじゃん!


「……身内サービスで、全商品、銅貨1枚引きでどうでしょう」


「ありがと! さすがコウ君だね。お姉さんは嬉しいよ」


 抱きついてきた。うはっ、昨日の思い出が。

 煩悩を振り払い接客に戻る。


「誰にも言わないでくださいよ」


「それくらいは私だってわかるよ。だから人のいない時間帯に来てるんだもん」


 人のいない? 今まで全然いなかったぞ。


「……その顔は知らないのかな?」


「なにがです?」


「知らないなら大丈夫。これ頂戴」


「……全部で銅貨32枚です」


 受付のおじさんといい、ノナンさんといい、なんなんでしょうか?


「はい。じゃ晩ご飯作って待ってるから、頑張ってねー」


「了解です。ありがとうございましたー」


 謎はわからぬままノナンさんは帰って行った。


 そうして時間は過ぎ、もうすぐ夕日が出ようかという時間帯。

 お客さんが大量に来た……。


「お兄ちゃんこれでいくら?」


「この野菜もう無いの?」


「ベギーさんじゃないのね」


「――――なの?」


 一気に話されてもわけわかりませんよ。


「すいません! 1人ずつお願いします! 並んでください!!」


 だが、おばちゃんたちは強かった。


「早くー。まだー?」


「奥さん、今日旦那さん見かけましたよ」


「あら、そうですか」


「今日の店番さんかっこよくない?」


「そう? 私は可愛いとおも――」


 世間話まで始める始末だ。

 おばちゃんたちの声がでかくて接客がままならない。

 泣きたい。目から涙があふれ出そうだ。


 約30分後

 なんとかさばき切れた。


「大変すぎだろ……もうやだ」


 椅子に座り燃え尽きる。

 毎日こうなのだろうか? ベギーさん凄すぎだろ。

 ラッシュの後は朝と同じくらいのお客さんの量だったので助かった。


 夕方も終わりに近づいたので店を閉める。

 売り上げを計算したいところだが、改ざん防止のためそれはできない。だが、あれだけの売り上げならあと2日で報酬上がりそうだな。

 あの大変さは嫌だが、お金が増えると考えれば頑張れるかも……。



 家に帰る。


「おつかれー」


「ただいまです」


「お帰り。大変だったでしょ」


「……もちろんです」


「ははは、そうだよね。お風呂沸かしといたから入りな。汗を流してさっぱりして、また明日頑張れ!」


「ありがとうございます」


 お風呂には入りたかった。汗を結構かいたもの。

 風呂に入ってから、ご飯を食べる。

 ご飯は人を幸せにする力があるね。

 明日も頑張ろう。



 2日目。

 朝店に行くと昨日より仕入れが多くなっている気がする。

 そして、前日よりお客さんが来た。ラッシュのときに……。

 何でこんなに来るんですか。



 3日目。

 昨日よりさらに商品が多かった。品出しも大変なんですよ。


「おにーちゃーん!」


 店を開けて品出ししていると、カレンに腰辺りに抱きつかれた。


「カレン、久しぶり」


 声ですぐわかった。

 抱きつかれたまま、俺はカレンの頭をぐりぐりとなでる。


「えへへ。ハンナとおかーさんもいるよ」


 カレンの来た方を向くと、ミリアさんとハンナが歩いてきていた。


「久しぶりですコウさん。元気ですか?」


「もちろんですよ。みんなでお買い物ですか?」


「ええ。そんなところです」


「お母さん、野菜買っていこうよ」


「そうですね。お世話になるんですもんね」


「……何の話ですか?」


「ふふ、こっちの話です」


 最近隠し事されるのが多いような……。気のせいか?


「コウさん、これ下さい」


「はい。おまけして銅貨15枚でいいですよ」


「……コウ兄さん、勝手に値下げしていいの?」


「自由にやっていいって言われたから大丈夫だよ」


 いざとなれば、ノナンさんに頼めばなんとかなりそうだし。


「じゃあ、お言葉に甘えますね」


 銅貨15枚を貰う。


「お土産も買ったので行きましょうか。コウさんこれからも頑張ってくださいね」


「お兄ちゃんまたねー」


「……またです」


 手を振りながらミリアさんたちは行ってしまった。


「久々に会えて嬉しいなぁ」


 心がホッコリとした。


 そして、激闘が起こる時間帯となる。

 ……なぜだ? どうしてこうなった!?

 一昨日の倍くらいいるぞ。昨日よりも多いとは。


「これだけもらおうかしら」


「銅貨21枚となります」


「ごめんなさい、これもプラスして」


「おにいさーん、これは、もう無いのー?」


「裏にあるのでお待ちをー。……えーと、銅貨29枚になります」


「――」


「――――」


「――――――」


「――」


 会話を聞く余裕もない。

 一時間以上かかっただろうか。ようやくお客さんはいなくなった。

 最後の方に「また、あんちゃんが店番やるって聞いたら来るからね」と言われたが、もうやりたくはない。てか、やらない。


 後で聞いた話だが、おばさんたちの情報網によりお客さんが大量に来たそうだ。毎回、依頼で人が来るとこうなるらしい。

 おばさん恐るべき。


 今日で店番もおしまいだ。

 売り上げをしまい帰路に着く。



 ----



「ただいまー」


「「お帰りなさい!」」


「へっ?」


 また聞きなれた2人の声がした。ノナンさんではない。

 さらに、2つの影が俺に向かってくる。


 ドシン


「うぐっ!?」


 突撃を受けて体がくの字になる。


「お疲れ様」


 2つの影の後ろからノナンさんが歩いてきていた。


「カレン、ハンナいきなりビックリするじゃないか」


「……ごめんなさい」


「えへへー」


 素直に謝ったハンナには優しさを、笑っていたカレンには厳しさを与えよう。


「痛い! お兄ちゃんひどいよ!」


「はっはっはっ」


「もーう」


 カレンが攻撃態勢に入る。


「にぎやかなのはいいが、ご飯が覚めちゃうぞ」


「そうだった。お兄ちゃん早く食べよ。3人で作ったんだよ」


 カレンはリビングに戻っていく。

 収まりがつかなそうな場を戻してくれて、ありがとうノナンさん。

 俺はアイコンタクトでお礼を言ってみる。すると、ウインクを返してくれた。きっと通じたはずだ。


 4人で食卓を囲みご飯を食べ始めた。


「おば、お姉ちゃんのご飯、おかーさんより美味しい!」


「そお? ありがとう」


 カレンが「おば」と言った時のノナンさんの殺気はやばいぞ……。

 心臓が止まるかと思った。ノナンさん、只者ではないな。


「カレン、お母さんには言っちゃだめだよ」


「わかってるって。おかーさん、拗ねちゃうもんね。でも、ハンナも美味しいと思わない?」


「……今まで食べた中で一番かも」


「そんなこと言ったって何も出ないよー」


 という感じで食事は進んでいった。


「あ! ……兄さん今食べたの味どうですか?」


「うん? 美味しいよ」


「……よかったです」


「それね、ハンナちゃんが作ったんだよ」


「そうなんですか! ハンナ美味しいよ」


 俺はもう一口食べる。


「でね、そっちの黒いのがカレンちゃん作よ」


 ……あえて見ないようにしていた料理を指されてしまった。


「へぇー……」


「うぅ、いいよお兄ちゃん、食べなくて。わたしが一人で食べるもん」


 カレンはそう言い、口に入れるが表情が硬い。


「そんなこと言わずに、一口ちょーだい」


 一口食べる。

 うん。周りは固くて、中がパサパサ。


「うん、独特な味だよ?」


「……おいしくないもん」


 しおらしいカレンは珍しい。


 俺はカレンが作った料理の皿を奪い取り、一気に口に流し込む。


「ゴリゴリ、パリポリ、ゴクン」


「お兄ちゃん!?」


「ごちそうさま」


 カレンに決め顔をする。

 ぷいっと横を向かれてしまった。


 そんな様子を、ノナンさんは楽しそうに見ていたのだった。



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