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「結構進んだと思うが、……ここはどこだ?」


「わたくしに聞かれてもわかりませんわよ」


「そんな事は知っている。独り言だ」


 インディロ様とマルヘリート様はそう言葉を交わしている。

 確かに、今どこにいるかわからない。通路を進むと赤い矢印を見つけ、その印の通り進んできた結果、今この場にいた。この赤い矢印は先行隊のものと思われる。なので従って進めば誰かに会えるかもという話になり進んでいたのだ。しかし、歩いているうちに倒れている人を何人か見つけたが、誰も息はしていなかった。

 それでも進み、今何層にいるかわからなくなっている。下り坂や、上り道がいくつもあったせいだ。どこで1層下がっているかの把握ができなくなってしまったのだ。


「魔物だ」


 1番前を歩いていたインディロ様が言うと、他の方々は、「わかっていますよ」とでも言うように戦闘状態についていた。私も一歩遅れで武器を構え、戦闘態勢に入った。

 魔物を視認、敵はスケルトン3体だけ。持っている武器は剣が2人に弓矢が1人だ。

 どうやって使い方を覚えているのか、弓矢持ちのスケルトンが一番に弓を引き、矢を射る。

 射抜かれた瞬間、インディロ様とフスラヴァ様が走りだした。

 矢は2人の間を抜け私のとこに飛んで来る。

 私は盾を構え、難なくその矢を弾くのと、インディロ様とフスラヴァ様がスケルトンを1体ずつ倒すのはほぼ同時だった。更にマルヘリート様が握りこぶし程の水球を複数出現させ、弓矢持ちのスケルトンに当て倒した。そのマルヘリート様の横でルナ様は、「おー、さっすが~」と言っていた。


「この武器、結構良いものだな」


「多分、ここで亡くなってしまった冒険者のものかと……」


「……だな」


 そう言い、スケルトンが落とした2個の武器をインディロ様が、もう1つをフスラヴァ様が拾ってボックスにしまっていた。


「では、次に進みましょう!」


 マルヘリート様がそう言い一番前を歩き出した。


「リートさんってば、勝手に進んだら危ないよ」


「大丈夫ですわー」


 そう言ってフスラヴァ様も2番手に進んで行く。


「お、おい、はぐれるぞ」


 インディロ様がその後を続き、私とルナ様が最後を歩き出した。



 少量の魔物が数回出現したが難なく倒し進んで行く。その間、魔物たちが持っていた武具は誰かが回収していた。話を聞くと、また魔物に使われると厄介だからだそうだ。

 そして、何回目かのちょっと広まった空間。


「あっ」


「あら?」


 中を見て安全を確認し、そこに入り真ん中ら辺まで行ったときに、ルナ様とマルヘリート様が同時に声を出した。


「どうかしたのか?」


「どうしたの?」


 インディロ様とフスラヴァ様もほぼ同時に質問する。


「何か来る」


「何か来ますわ」


 ルナ様とマルヘリート様が答えた。

 瞬間、広間に、真ん中を取り囲むようにボワッと濃い紫色の炎のような、煙のようなものが複数個立ち上る。


「な!?」


 私は思わず声を出してしまった。

 何か嫌な感じがするのが私でもわかる。

 みんなはどんな状況になっても良いようにか、武器を構え、いつでも動けるような姿勢だ。

 周りの状況を確かめていると、いつの間にかに濃い紫色の中に人影が出現していた。


「ヴー、ヴァー」


 と不気味な声が聞こえ始める。私たちが出している声ではない。あの人影が出しているのだろう。

 いくつもの立ち昇った濃い紫色の、炎のような、煙のような所から次々と人影が出現していく。

 声は徐々に大きくなり、人影は動き出した。

 何体いるかは把握できない。気づくと、最初に出現したときよりも濃い紫色の炎か煙かわからないものは増えていた。最初の数の倍以上だ。

 ゆったりと紫色の所から出て来たその姿は、人の形をしているが人ではない。全身紫色で、出て来た時にいたあの炎か煙かわからない濃い紫色そのものの色だ。

 不気味に、「ヴー、ヴゥー」と叫びながら、両腕を私たちの方に向け、手を垂らしながら、遅い足取りで進んでくる。


「……もしかしてこいつらゾンビか?」


 インディロ様が言う。


「こ、こんな色してましたっけ?」


「わたくしが知っているのは青色のゾンビだけですわ!?」


 フスラヴァ様とマルヘリート様が答える。


「囲まれちゃってるよ。……どうする?」


 ルナ様もこのダンジョンに入って来てから1番真剣な表情をしている気がした。

 という事はそれほど危険なのだろか。


「取り敢えず、次の道の方に向かって進みながら倒すぞ」


「了解ですわ」


「はい!」


「おっけー」


「わかりました」


 インディロ様の言葉を受け、1番にマルヘリート様が魔法を発動した。

 水球を3つ作りだし、手前にいたゾンビに全弾直撃させる。

 水球を当てられたゾンビは後ろへと吹き飛び、その後ろにいた何体かを巻き込んでいく。


「まぁ、所詮こんなものですわよね」


 余裕の表情を見せているマルヘリート様は、次には驚いた表情に変わっていた。

 巻き添えを食らって吹き飛んだゾンビなら分かるが、3発も直撃を食らったゾンビが何事もなかったかのように立ち上がり、再び私たちの方へと進んできたのだ。


「な、なんてことですの!?」


 そう言い、再び詠唱を始めていた。

 インディロ様とフスラヴァ様は同時に動きだし、近くにいたゾンビたちを斬り、潰していた。

 その間、私はルナ様とマルヘリート様に襲いかかろうとするゾンビたちを近づかせないように気をつけていた。気づけば決まっていたこの役割だったが、この役回りが一番良いのかもと私は思っている。


「なっ!?」


「ふぇ!?」


 ルナ様とマルヘリート様を後ろから攻撃されないようにと見ていると、2人は声をそろえて驚いていた。その次にインディロ様とフスラヴァ様も同じような声を出している。

 私は何が起こったのかと、周囲を警戒しながらも前方を見ると、インディロ様に斬られたであろうゾンビは切断された断面を覆うように、出現してきた時と同じ濃い紫色の炎のような煙のようなものを出していたのだ。

 そして次の瞬間、にゅるり、と言う擬音が合うだろうか、そのような感じで斬られた部分が再生した。

 フスラヴァ様に潰されていたゾンビたちも同様に、原形をとどめていない体が紫色のものを纏い数秒後、ぶにょん、という感じで体は元に戻っていた。


「……こいつらスライムですか!?」


 フスラヴァ様はそう言いながらも、再生したゾンビをもう一度叩き潰した。

 しかし再び、元の形状へと戻っていく。


「――ヴァー、ヴォー」


 前方に気を取られていると、後ろからゆっくり動いていたゾンビたちが間近に迫っていた。


「はっ!」


 動きは遅い。私は来ていた数体を斬り伏せる。四肢をばらばらに、2体ほどは首と胴も斬り離した。

 しかし、ゾンビたちは発火するように紫色の光を纏う。

 切り離した部位は崩れ土に帰り、1体は胴体の方から顔や手、足が生え、もう1体は顔が残り首から下が生えてきた。

 ……コアが体のどこかに? そう思った時、


「きりがない! 再生する前に駆け抜けるぞ!」


 と言うインディロ様の言葉を受け、私は一旦言葉を呑み込んだ。


「それが賢明ね……」


 マルヘリート様の呟きが聞こえる。


「自分たちが道を開きます! みんな早く!」


 大鎚を振りかざしながらフスラヴァ様は言う。インディロ様とも目配せをしていた。


「了解ですわ」


「ありがとっ」


 と言う2人の声に遅れて私も返事をし、走りだす。


「抜けれる!」


 先頭で道を切り開いて下さるフスラヴァ様が言う。


「行け行け!」


 しんがりを務めてくれたインディロ様が叫んだ。


「よしっ、少し走るぞ」


 インディロ様も通路へと入り込みそう言った。

 返事は返さずとも、私たちは通路を走った。その間、魔物は出て来ない。



「このくらい距離を取れば、良いだろう」


 どのくらい走ったのか、一本道の通路の途中で後ろから声がした。インディロ様の声だ。


「も、もう大丈夫ですの?」


 走る足を緩め、私たちは止まった。

 後ろを見ても、もちろん前を見ても敵影は見えない。一安心だ。


「あいつら、何だったんですかね?」


 誰も言わないが、休息という雰囲気で立ち止まっているとフスラヴァ様が言葉を発した。


「ゾンビってあんなに強かったかしら? わたくしたち前にも違う場所で戦いましたよね?」


「おかしいですよね、あの時は自分が潰したらそのまま倒れてくれましたよ」


「もしかして新種のゾンビですの!?」


「それもあるかも、魔力にあてられ続けて体質が変化したとか……?」


「ってことはなんだ、あいつら無敵なのか?」


「あ、あの!」


 みんなが色々話しているなか、私はさっき思った事を口にした。


「……なるほど、スライムみたく体のどこかにコアがあると思ったんだね」


 真剣な表情で私の話を聞いてくれたルナ様に、私は頷き返す。


「それだったらスラが潰した時、一緒に潰れてなくてはおかしくありませんの?」


「潰した時、体がクッションになってコアまで潰せてないのかも知れないぞ」


「スラちゃんとディロちゃんは、今度ゾンビにあったときはコア探しをお願い。あたしたちは出て来た魔物を引きつけてておくから」


 という結論になり、呼吸を整えてから私たちは足を進めた。

 この道、緩やかなカーブが多い。そのせいか方向感覚を狂わされる。更には上りや下りの坂まであるのだ。だが、分かれ道はなかった。そして魔物もいない。スタミナとルナ様マルヘリート様の魔力の自然回復を図りながらゆっくりと歩いて行く。


 何分歩いただろうか、最初は話しながら歩いていたが、いつしか会話はなくなっていた、が、それも突如聞こえた、「う、うぁぁぁぁぁッ!」と言う声により沈黙はなくなる。


「なんだっ!?」


「前から聞こえました!」


「誰かいるんだよ!」


「もしかしてライノがいるかもしれませんわ!」


「あっ、勝手に行かないでください!」


 マルヘリート様が1人で勝手に走ってしまった。それを追いかけてフスラヴァ様が続く。


「オレたちも行くぞ」


「うん」


「はい」


 その後を私たちが続いた。

 緩やかなカーブが続き、視界は開けた。部屋に出たのだ。

 前を走っていた2人が部屋の入口で足を止めていた。

 隙間から部屋の中を見ると、ゾンビとスケルトンと冒険者の姿が見えた。スケルトンの姿が薄紫色をしている気がする。……気のせいかしら。


「ば、ばけものぉぉぉぉぉ」


 そんな事を思っていると、叫びが奥から聞こえた。


「あのゾンビには近づくな! 近づかなきゃ襲って来ない! 他のゾンビを斬り刻め! スケルトンは粉砕だッ」


 おーッ、と言う声が部屋に響く。


「ライノはいませんわね……」


「は、ははは」


 マルヘリート様の言葉にフスラヴァ様が空笑いをしていた。


「……ここも乱戦だな」


 そして、インディロ様は呟く。

 そんな中、微かに見えた奥にいる体格が違う紫色の人影。あれはさっきいたゾンビの仲間かも知れない。


「助太刀するか。……どう入るかが問題だな、みんなに気づかれとかないとオレ達も間違って攻撃されるかもしれんし……」


 インディロ様が悩んでいると、ゾンビが消滅する瞬間が見えた。ゾンビを倒した冒険者はゾンビを斬っても尚、斬り刻んでいたのだ。そして手応えがあった顔をするとゾンビが消滅していた。


「ゾンビも倒せていますし、リーゼさんの意見はあっていたみたいですね」


 フスラヴァ様に褒められた。


「あ、ありがとうございます!」


 役に立てたのなら本望だ。


「……あっ、もしかして」


「あっ、ルナ! どこ行くんだ!?」


 ここに着いて今まで黙っていたルナ様がぼそっと言葉を発したと思ったら、いきなり部屋の中へと走りだしてしまう。

 ルナ様を追いかけインディロ様も行ってしまった。


「ど、どうしましょう」


 私がそう言うと、マルヘリート様が、「しょうがないわね、わたくしたちも行きましょう」と、私たち3人で部屋へと入った。


「おっ、増援か! 助かった、良いタイミングで来てくれ――っておいどこに行くんだ!?」


 先程みんなに指示を出していた男の人がルナ様とインディロ様に顔を向けて言っていたが、2人はそんな言葉聞こえていないとでも言うように素通りして行ってしまった。


「おお、お前たちも増援か! ありが――ってうぉーい!? そっちは危険だぞ!」


 そんな言葉をかけられたが私たちは気にせず走った。……一応会釈だけはしておきました。

 ルナ様とインディロ様が進行している方向の魔物を蹴散らしてくれているおかげで、魔物はほとんど私たちとは接触していない。稀に襲い来るが、フスラヴァ様が飛ばしてくださるため比較的安全に移動ができた。



 ----



 紫色に体を染めた男がいた。

 男はこの部屋に一番最初にいたのだ。

 突如湧いてきた紫色のゾンビと薄紫色のスケルトン。数はわからない、だが沢山の、だ。

 そして、こいつらと戦っていると、あとから来た冒険者たちが戦闘に入り込んできたのだった。

 沢山、だがこの程度の魔物なら男は1人でも対処はできた。なので冒険者の事は気にせず戦っていた。しかし、冒険者の1人が男に攻撃を仕掛けたのだ。

 男は反射的にその男を返り討ちにする。

 なぜ襲われたのか? 魔物と戦っているのがわからなかったのか?

 と考えた時、ふと自分の腕が紫色に染まっているのが視界に入った。

 体も見る。服は紫に染まっていた。


「な、何だこいつ!」


「ぞ、ゾンビの特異こた――」


 2人目に叫ぼうとした冒険者の声が途中で途絶えた。

 見ると、冒険者は後ろからスケルトンに胸を貫かれていたのだ。


(……あのスケルトン、良い武器もってやがるなぁ)


 そう思考し、男は動き出す。隣にいた冒険者は、急に向かって来た、紫に染まった男の動きに驚いたのだろう。体は硬直し、男の行動に反応しきれていない。


(こいつ、これでも冒険者なのか? よくここまで来れたもんだ)


 男は冒険者など気にせずスケルトンを一撃で粉々に粉砕した。


「ひ、ひっ」


 その破壊力に驚いたのか、今度は腰を落とす冒険者。

 後ずさりゾンビにぶつかっている。


「あっ……」


 その後、その冒険者から言葉はでなかった。


 冒険者が来てから1時間以上は経っただろう。冒険者の数は徐々に減っていた。

 だが、魔物の数は減っていない。倒しても気づけば増えているのだ。男にとってはこの状況は最高だった、冒険者がいなければ、だが。

 上質な武具を装備しているスケルトンが大量に出てくれているのだから。

 ゾンビは何も装備していないが一撃で葬れるから問題ない。スケルトンに関しては優良防具を装備されているとそうではないが、それでも数撃で倒せる。時々武具も一緒に破壊してしまう事もあるが、それは残念だが仕方がないと割り切っている。


「おーい!」


 そんな中、男は聞き覚えがある声を聞いた。


(……まさかな、こんなとこにいるわけ――)


「おおーい!」


 声が近くなっていた。

 男は襲い来る魔物を粉砕しながら周りを見る。

 すると小さい魔物とは違う薄紫色の耳と髪が見えた。そしてその姿が男の視界へと映っていく。


「……おおっ、ほんとにルナ坊か!?」


「うん、ヴィーちゃん! 久しぶりだね!」


 再会を懐かしみながら、ルナは男の腕をぺちぺちと叩いていた。


「……顔まで、全身紫になってるよ?」


 ルナが男の体をまじまじと見て言う。


「みたいだな、おっちゃんもさっき体を見てびっくりしたよ」


 紫に染まった手で頭を掻いた。その頭もスキンヘッドのせいか紫に綺麗に染まっている。全身紫だからゾンビと間違われていたのかも知れない。


「ルナ! 大丈夫か?」


「ルナ様! インディロ様! 待ってくださいー」


「勝手に走りださないでほしいですわよね」


「リートさんには言われたくないんじゃ……」


「何か言いまして?」


「い、いえ」


「あっはっはっは、こんな所で緊張感のない人たちだな」


 男は笑いながら、近づいて来るスケルトンを葬った。


「みんな強いからね」


 ルナが言う。


「そうか、良い仲間に巡り会ったんだな」


 スケルトンが落とした武器を拾いながら男は答えた。


「うん! 聞いてたけど、ヴィーちゃんも相変わらずなんだね」


「もちろん! 商売は楽しいぜ」


「あ、あのー、すみません、自分話が見えないのですが……」


 フスラヴァがそう発言した。


「そうだな……ここじゃなんだ。安全な所で紹介よろしくなルナ坊」


「おっけー」


 その言葉を聞いてみんなが迎撃に思考を変えた。


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