052
朝、俺たちは装備を整え集合場所に来ていた。
北東の集合場所、芝が一面に広がっているこの場にはテントが点々と立っている。後方は都市を覆う外壁。前方は木が見えるが、森や林が近いというわけではなく見渡しは良い。少し先に人が、多くないが、ちらほらと集まっているのが見えた。
「では、そういう事でお願いします」
「了解」
本部と書いてあるテントで、ここに来たことを伝えた。
ハンナは医療班として違うテントに向かわされ、別れることとなる。俺たちはハンナと別れて草原を進んだ。
「おう、お前たちもここか?」
見た目より予想以上に距離があったが、人が集まっている所まで進むと、鉄の兜をかぶっている大斧を持った男が話しかけてきた。
「はい、ここで待機しててくれとのことです」
受付で言われたことをそのまま口にする。
「そうか、俺たちもなんだよな。さっきランクたけぇ奴らが歩いて行ったから当分は暇になりそうだ」
豪快に笑って男は他の塊の輪に入っていった。
男以外にもこの場にはいろんな種族の人たち数十人が、話したり座っていたりご飯を食べたりとリラックスムードだ。さっき聞いた話だと、昼以降にドラゴンはくる確率が高いと言っていたからかも知れない。
「……緩いな」
「ドラゴンを舐めちゃダメだよねー」
イーロが小声で俺に聞こえるように言うと、ルナも聞こえていたらしく軽い感じでそう言った。
「あの、今更なんだけど……ドラゴンに弓矢って効くのかな?」
シュリカは不安げな顔を見せている。
ずっと立っているのも疲れるし取り敢えず座ろう、邪魔にならなそうな場所を陣取り腰を下ろした。
「そういえば、ドラゴンの皮膚は硬いらしいんだよな……」
「それじゃあ私たちの攻撃は効かないんですか!?」
俺がそう言うとリーゼは驚いたように目を見開く。
「ドラゴンにも色々種類があってね、魔法が効きにくいとか、物理攻撃が効きにくいのがいるんだよ。今回のはどんなのかわからないけど……でも、急所とか狙えば大丈夫だと思う」
「ルナはドラゴンと戦った事があるのか?」
ルナの博識さに戦闘経験があるのかと思ったのだ。
「うん? うーん……戦ったというより一方的だったかな?」
一方的にやられたのだろうか? 逃げるために反撃をして弱点を見つけたのかも知れないな。流石大陸を回っていただけある。まだまだルナの事は知らないことが多そうだ。
「良かったよ」
生きていて。という言葉は口にしなかった。
隣に座っていたルナの頭に手を置き耳と共にクシャクシャと動かす。
「うにゃ~」
久々の耳の感触を楽しんでいると、体が殺気とは違う威圧感に反応した。
感じ取った方をゆっくり、ロボットのごとく振り向くとその先にはシュリカがいたのだ。
「そ、そうそう、フォーメーションなんだが――」
シュリカから目線を外し、ルナの頭から手をどけて俺は切りだした。
その様子を見ていたリーゼとイーロは笑いをこらえているような気がしたが、気にしない。
「――でいこう」
何とか話をドラゴンとの戦い方にずらし、作戦会議を終えた。
作戦は俺、リーゼ、イーロが前衛でルナ、シュリカが後衛という簡単なものだ。
あとは細かいものだった。シュリカに弱点として、「目を狙うと良いよ」とルナは教えていた。目は誰もの弱点になり得ると思う、と心で俺はつっこんだ。
他にも前に出過ぎない事、だが、引きすぎても火を吐かれるから注意だそうだ。最後に周りの人とも叫び情報を教え合う。これはイーロが大切な事だと言っていた。
『164年 10月23日 9時55分13秒』
人も結構増えていた。百人は超えているのが見た限りでわかる。時間を見ると10時にもなっていなかった。俺たちが家を出たのが8時過ぎだったと思う。時間指定もされなかったので早めに来たのだが意外と時間にルーズだったのだ。それか、高ランクの人は決まっていて俺たちは好きなときに来ていいシステムなのかも知れないが、そうだとしたら一言ほしかったな。
特にやる事もなくなったので骨休めとその場に寝転がった。
――刹那、空が赤く染まった。
「え!?」
「なっ!!」
「おおおっ!!?」
周りからは驚きの声が。
「なんだ!?」
俺は横になった体を即起こす。
「あ、あれだ!」
イーロが指をさした。その方向には炎が上がっていた。
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後ろから鐘の音が鳴り響いていた。思いっきり叩いているのだろう、俺たちのいる都市外にまではっきりと聞こえている。
「やべぇ、ドラゴンが来やがった!」
「早すぎじゃねぇか!!」
「高ランカーたちは何やってやがるんだ!!!」
慌てふためく人たちが見ているのは、悠々と飛んできていた飛行生物だ。藍色の皮膚が、燃え盛る火の灯りを受け赤く染まっている。
先行した冒険者など気にも留めず、ドラゴンは翼を大きく動かしこちらへ近づいてきていた。
「な、な何でこっち来てんだ!?」
「もしかしてさっきので……!」
「そ、そんなの無理だろ!? お、オレは帰るぞ!」
「おまっ!? 逃げんのか!」
「自分が一番大事なんだよ!!」
「わ、わたしも!」
「……チッ、だらしない奴らだねぇ」
「くそがッ、やってやる! 援軍が来るまで耐えろって話だしな!!」
「コウ、どうした?」
最後の聞きなれた声に、俺はドラゴンから視線を外さず答える。
「……凄いな」
そう言葉が出る。怖いのに、恐ろしいのに、体は不思議と恐怖していなかった。
「逃げるか?」
「いんや、やるぞ。ここで逃げたらハンナに顔向けできないからな」
「ハハハ、それもそうだな。んじゃ、いっちょやりますか」
「ああ。人は減ってるが、今いるのは勇敢な人たちだからな、なんとかなるだろう」
数秒ドラゴンから視線を外し周りを見ると、先程までいた人数の半数程はいなくなっていた。後ろを振り向けば走っているのが見えるかも知れない。
「コウくん、勇敢なのは良いけど無謀な事はしないでね?」
「……はい」
シュリカに釘を刺される。無謀と言えばこの戦いそのものが無謀とも取れるのだがそれは心にしまっておく。倒せないものでも倒せる思っていけば倒せる事もある!
「そういえば今日は全く声がしませんでしたね」
声のした方を向くと、リーゼはすでに細剣と小盾を装備していた。
「……そういえばそうだな」
今日は朝からドラゴンの声は聞いていなかった。昨日は両手で数えられるほどだが聞いていたのにだ。
俺も愛剣をボックスから出し、腰に装備しながら考える。
「朝早かったからじゃないのか?」
イーロは顔を覆った布の位置を直しながら言う。
「……そうかも知れないな」
なんにせよ、もうこうして来てしまっているんだから過去の事を考えても仕方ない。
「まぁ本当の理由はわからないが今はアイツを止めるぞ!」
シュリカは矢を取りいつでも撃てるように、ルナは杖を取り出しているのが視界の端に映る。全員準備万端だ。
「やるぞ!!」
「「「オーッ!!!」」」
気合を入れ直した。
「誰かアイツを落とせないか!?」
その直後、誰かが言葉を発した。ここに残っていた勇敢な人の1人だ。
「俺たちのパーティは無理だ! あの距離は届かねぇ!」
「届かなくてもいい! 誰か! ドラゴンが近づいてきたら遠距離装備の者はやってみてくれ!」
「……そうだな、駄目で元々だ。わしはやるぞ」
そんな声と共に、最初に話しかけてきた男のパーティメンバーらしいローブを纏った男が、ドラゴンの方を向き数歩前に進んだ。
「ルナとシュリカもお願いしていいか?」
それを見て俺は2人にお願いした。
2人は黙って頷くとローブの男の横につく。
「他の遠距離持ち共! 女にやらせて自分たちは後ろから応援か? 良いご身分だな! それでも男か!? 冒険者か!!?」
それを見てか、大剣を背中に装備した褐色肌の筋肉質な女性が叫んだ。
「なっ!?」
「ムッ!」
「最初に逃げなかったから骨のある奴らだと思ったが、そんな事もないみたいだな!」
更に煽るように言う女性に反応して、次々と前に立ちドラゴンを迎え撃とうと準備を始めた。
「ワタシ含め、後ろの奴らも油断するなよ! アイツが落ちたとき攻撃を与えにいくからな!!」
おうっ!! という野太い声が各場所から飛び交った。
ドラゴンはこっちに向かって飛んできている。いきなり方向転換して難を逃れるということはないようだ。
「で、伝令! 怪我をしたら下がれ、何としても抑えてくれ!」
後ろから聞こえてきた声は息が上がっていた。
ギルドからの伝令なのだろうが、それにしてもなんて人任せなんだ。自分じゃできないからやってくれ、か。
頑張っているなら助けたくもなるが、やってもらって当然の考えの奴は助けたくないな。……まぁそんなのは本心を聞かないと分からないと思うがな。伝令を持ってきた人のように頑張っている人もいると思うし。
「城の兵士はどうしたぁ!」
自分の体を覆うほどの大きな盾を持った1人の男は荒く叫んでいた。
「ま、まだ準備が整ってないとのことです!!」
「チッ、使えねぇ」
脅えつつも言葉を返した伝令に、冷たい言葉を吐き捨てていた。
「医療班を少しこっちに寄せてもらうことはできないのか!」
今度は筋肉質な女性が、そう伝令に叫んでいた。
「や、やってみます!!」
そう言い、足音が遠ざかっていく。
「全く」
女性のため息が聞こえる。
この一部始終、俺はドラゴンから目を離しても、即目線を戻していた。
いつ何をしてくるかわかったもんじゃないからだ。
徐々に近くなってくるにつれ恐怖が増えていた。先ほどの気持ちが嘘のように、体に汗が流れる。だが俺より前に立っている人たちの方が何倍も怖いはずだ。
唾を呑み込み気持ちを落ち着かせる。
「そろそろだ!」
1人の男の声がした。
「まだだ! アイツが攻撃モーションに入った瞬間にやってくれ!!」
筋肉質の女性の声。気づけばこの人がリーダー的ポジションに立って先頭の指示を出していた。
待つ時間というのは怖いものだ。一瞬でも目を離したら全てが終わってしまうかも知れないのだから。だから焦る。けどそれを阻止したこの女性。いくつもの修羅場をくぐってきているのかも知れない。
俺の足も微かに震えていた。ドラゴンの威圧感。ただ飛んでいるだけなのにだ。いや、飛んでいるからこそ、なのかも知れない。陸を動いてくれれば対抗する余地もあるのだが、空を飛ばれると、近接武器の人は手出しができないのだ。
みんなもこの恐怖に襲われているのかも知れない。そう思う事で少しは気持ちを整理できた。
そんな事を考えていると気づけばドラゴンは俺たちの真上に到達しそうだった。
「…………あっ」
このまま通り越される。そうも考えたがしかし、ドラゴンは頭上を通り過ぎる前に変化を起こした。藍色の皮膚に真紅の細い線が、ドラゴンの中心部分から幾千も伸び始めたのだ。
「いまだッ! やれえぇぇ!!」
大剣をドラゴンに掲げ女性は吠え、俺の前は光に包まれた。
待機していた遠距離部隊が一斉に色とりどりの攻撃を放ったのだ。
光の発信源は魔法だが、その中に矢も幾本か見える。
魔法、矢、その全てが吸い込まれるようにドラゴンへと向かって行っていき爆発。
「やったか……――――なっ!!?」
その声はみんなの心を語っていた。
爆発の中から炎が俺たち目掛けて飛んできていたのだ。
「ダメだッ、さっきのほとんどあたってねェぞ!」
大盾持ちの男はそう叫んだ。
「なにっ!?」
「ほとんどがアイツに届く前にぶつかり合って消滅、爆発しやがったんだよ!」
そう叫んでいるときも炎は迫っている。体を照らす炎の灯りは熱く眩しい。
「やばいぞッ」
隣にいたイーロはそう呟き、リーゼは俺の前に出て小盾を構える。
そんなのでは防げない!
俺はリーゼの方肩を持ち、一緒に前へとリーゼを潰すように倒れた。
次の瞬間――――炎は襲って来なかった。肌が焼け溶けるような熱さは感じたのにだ。
「……あれ?」
「まだいける奴等ッ!! 重ならないように! 自分の一番得意な攻撃をぶち込めえぇぇ――ッ!!」
俺が顔を上げると筋肉質な女性の声が聞こえてきた。
「こ、コウ様ぁ、重いですぅ……」
次に俺の下敷きとなったリーゼの声が。
「あっ、すまん」
リーゼの上から退き、辺りを見回す。
何が起こったか理解しようとしたが、場面は次へと動き始めてしまっていたようだ。前方からバラバラのタイミングで魔法、矢が撃ち上がっていた。
「か、庇って頂きありがとうございます」
「礼は後で良い! それより何が起こったんだ!?」
俺がそう聞いた瞬間、一際大きな稲光が轟音と共に発生した。それも不思議なことに空からではなく、地上から空に向かってだ。
「まさかッ!」
俺とリーゼの少し後ろにいたイーロは、そう呟くと稲光の発生源の方向に走って行ってしまう。
「あっ、おい!」
俺の声も聞こえなかったようで、他の人の姿が重なり見えなくなっていった。
「あっ!!? コウ様コウ様! 行きましょう、チャンスです!」
リーゼが焦ったように俺を引っ張る。
その時、空中から、黒い煙を出すドラゴンが降って来ていた。
さっきの稲光の攻撃が直撃したのだろうと予測はできた。イーロの事に気を取られ、ドラゴンを見ていなかったのは失態だ。
「出遅れた! このチャンスをものにするぞ!」
「はいっ」
他の冒険者たちも駆け足で向かう中に俺とリーゼも混ざり込む。
「遠距離部隊はなるべく上を狙って! 地上部隊にあたらないよう攻撃を続けてくれ!!」
他にも様々な声が飛び交う中、俺たちは脇目も振らず落ちてくるであろう場所を予測し駆ける。
そして、あと数十メートルで地上に落ちる。そんな時、今まで重力に任せて落ちてきていたドラゴンが動き出した。
身を捩り、体勢を立て直しているのだろう。体を通常の体勢へと戻し翼を羽ばたかせている。
その風圧に矢は跳ね返され、魔法も方向を狂わされあらぬ方向へと落ちていた。
俺たち地上部隊の人たちも風圧に足を取られる。
「うぐっ」
「キャッ!?」
なんとか耐えた俺とは違い、リーゼは後方へと飛ばされ尻餅をついている。
「大丈夫か!?」
「は、はい」
後ろを一度見てから聞くと、そう返ってきたので何ともないみたいだ。
「俺は行く! 無理そうならそこにいてくれ」
そう言い残し、俺は足を進めた。リーゼは何か言っていたみたいだが風の音で阻害され聞こえない。
ドラゴンは地上からほんの少し浮いてホバリングをしていた。そのためか、さっきの体勢を立て直す時より翼からくる風圧は小さい。だから風に邪魔されず突撃ができた。
ドラゴンはもう目の前だ。俺たちより先に走りだした地上部隊の面々はすでに攻撃を加えていた。常に遠距離攻撃も受けているドラゴンだが、雷撃以外のけぞったり、痛みを感じている素振りが全くない。ダメージを負っているのか疑問になる。
……ってマイナスの事を考えちゃダメだな。空に再び飛ばれる前に何としても。
作戦はない。思考は焦らされる。
とにかく攻撃!
そう考え剣を抜き開いている場所からドラゴンに斬りかかろうとした。
が、その前に地響きが走る。
「ぬぁ!」
ドラゴンを見ると少し浮いていた体が、地面についていた。少し落ちただけなのに周囲にいた人を驚かせたのだ。
「怯むな! 殺れーーッ!!」
そんな中、大きな声が響く。
うぉおおおおぉぉぉぉぉ。
一瞬の出来事で戸惑っていた人たちは、その声に反応し雄叫びを上げた。
1人が斬りかかり後退、すかさず次の人が思いっきりぶちかまし、また後退。そんな繰り返しの攻撃態勢ができていた。
だが、ドラゴンも黙ってはいない。尻尾を振り薙ぎ払い、足を動かし蹴り飛ばし、踏みつける。手を動かし暴れまわっている。
俺も斬っては戻りを繰り返しているが手応えはてんでなかった。
「……ダメージ通ってるのか?」
不安になる。しかし、なにもやらず見ているよりはましだと俺は攻撃を続ける。
そんな時ドラゴンに変化があった。
「体に色が入ったぞ!!?」
「さっきと同じ……火だっ! 火を噴くぞぉぉぉ!!!」
「に、逃げろーッ」
「あっ、そっちは危ない!」
「ど、どうすれば!!?」
「口を封じろーッ!」
「「どうやって――!?」」
口を封じるにもドラゴンの高さは優に俺の倍以上あるから無理だ。もしドラゴンによじ登ったとしても口を封じるすべが思いつかない。更に近接攻撃をしているため逃げるにもドラゴンに近すぎる。……なら距離を取らずに近づけばいいのでは?
「ど、ドラゴンに近づけ! 遠くに行くと恰好の的になるっ!!」
そう考えた俺は叫んでいた。
「なるほど」
近くから聞こえた誰かしらは納得してくれたみたいだ。
俺は人の間をくぐり、仲間からドラゴンへの攻撃の流れ弾に気をつけながら、もちろんドラゴンの攻撃のも注意し、尻尾の付け根の右側、右足の後ろへとたどり着いた。
「コウ様!」
聞きなれた声がした。
「やっとお会いできました! 私もついて行きます」
聞くとリーゼも前線で攻撃を繰り返していたそうだ。見た所、リーゼ自身が攻撃を食らっている感じはない。
「ああ、わかった」
無傷で良かったと思いつつ、置いてきたことを後悔した。危険だといってあんな所に置いてきぼりにしてしまったのだ。ここまで来ておいて、だ。
「ああ、……さっきは悪かったな。何か頭ん中ぐちゃぐちゃでさ、すまん」
「だ、大丈夫ですよ」
焦りながらも笑顔で返されると、俺も頬が上がってしまう。
「……戦場の中でこんな話をするのもなんかな。この炎を避けることに今は専念するぞ!」
俺は喋りながら気持ちを切り替えた。
攻撃を続ける人、逃げる人、俺のようにドラゴンの陰に隠れて炎を免れようとする人がいる中、ドラゴンの体中に真紅の線が入り、体が紅く光った。
刹那、ドラゴンが炎を吐いた。
「あ、アツッ」
「ちょっと、押すな!」
「えっ……あっ! まさかっ!!」
ざわめく中、リーゼの声が俺の内心を代弁したように感じた。
炎が飛んでいった方向は俺の予想とは違ったのだ。
飛んできていた矢、魔法が炎によって燃やされ消されていく。
「ドラゴンの顔の向きをッ!」
誰かが叫ぶ。だが、そんなことでいる人がいたらドラゴンはその人を先に狙うんじゃないか? という事は俺たちの攻撃よりも遠距離の攻撃の方がうっとうしかったというわけか?
いくつかの憶測が俺の脳裏をよぎった。ドラゴンに知性があると本には書いてあった。なら空から落とされそうになった攻撃をしてくる相手を先に倒し、脅威を消したいと思うのも道理だ。
あっちにはルナとシュリカがいる。イーロの姿がないからイーロももしかしたらあっちにいるかも知れない。
――どうすれば!
そんなこと言っても答えは決まっている。心ではわかっているんだ。でも、まだ何か。と考えてしまう。
ドラゴンの足を引っ掛けてバランスを崩せば……そんな事できるのならドラゴンはすでに何回か倒れているだろう。
口を塞ぐ……どうやって? 下から何かを投げて顔に当てれば……そんな事してももう遅い。炎はもう進んでしまっているんだから。
じゃあどうすれば? ……いや、答えはもう出ている。認めたくないだけ。
――そう、俺は何もできない。
閲覧ありがとうございます!
この話を投稿し始めて一年が経ちました。うむ、早いものです。
今の話含め、あと三章ほどで終わる予定ですので良ければ見ていってくださいまし。




