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047

「二階の3部屋を分けたいと思います。2、2、1かな?」


「あ、あの!」


 一番に言葉を発したのはハンナだった。


「わ、わたしも、い、一緒に、く、暮らしてもいい、かな?」


 緊張しているのか、遠慮してるのか、それとも他かはわからないが、つっかえつっかえハンナは言った。


「へ?」


 いきなりの事で俺の頭には疑問が浮かぶ。


「あたしはいいよ!」


「うん。私も」


「オレは……言える立場じゃないな」


「わ、私は……」


 ……リーゼ以外はみんな良いようだ。イーロの時は嫌がったシュリカでさえも。まぁあれはイーロが悪いからしょうがないけどな。ハンナの場合俺の知り合いというのが大きいんだろう。リーゼとも友達だし、疑う理由がないんだろうな。

 リーゼは良いと言いたいけど、自分のわがままは言えないのだろうと俺は察した。

 俺はもちろんいいのだが……。


「今、住んでいる所は大丈夫なのか?」


「こ、コウ様ぁ!」


 小さい声でリーゼの嬉しそうな声色が聞こえる。多分ここにいる全員が聞こえているであろうが。


「う、うん。今は寮にいて、手続きをすれば引っ越しはできるから大丈夫」


「……あと、俺らはいつかまた旅に出ちゃうかもしれないけど大丈夫か?」


「っ! ……うん」


 ハンナは少し暗い顔をしながら返事をした。


「まぁ当分はここにいると思うけどな。家も借りたことだし」


「うんっ!」


 さっきよりも明るい返事が返ってくる。

 ……そういえば俺はもっと強くなりたいと思って町を出ようと考えたんだったな。

 ふと思い出した。アバウトな目標だがよくここまで来たものだ、と自分自身に苦笑する。

 この世界を見てみたいと思う気持ちもあったのかも知れないな。インターネットが普及していれば、イーガルの町でも世界がわかりで冒険なんてやらなかったのでは? とも思った。


「うん?」


 俺が独りでに笑ったからかハンナに首を傾げられる。


「いや、なんでもない。じゃあハンナも一緒に住むか」


 その言葉に全員が肯定し、ハンナも一緒居暮らすことが決定した。



「で、最初に戻るのだが、部屋決めをどうしようか」


 6人いるわけだから1部屋2人という事になるわけで、男2人に女4人だから、俺とイーロが一緒になり、あとはあちらで決めてもらうか。

 そう考えた俺は、この案を提案した。

 が、答えは却下された。

 なぜかというと、ハンナの放った、「コウ兄さん、シュリカさんと一緒じゃなくていいの?」という言葉に、シュリカは噛みながら、「わ、私はしょれでもいいわよ!」とおっしゃったからだ。

 ハンナはリーゼとが良いと主張し、リーゼも、「はい、喜んで」と言っていたので決まったも同然だ。

 なので俺とシュリカ、ハンナとリーゼ、という2組が決まり、必然的にルナとイーロが組むことになってしまう。恋路を応援する俺からしては良いのだが……。


「……思うんだが、2人1部屋じゃなくてもいいんじゃないか?」


「…………確かに!」


 イーロに指摘されて納得した。

 気持ちの問題もあるのだろう。


「ルナとリーゼとハンナは一緒でもいいか?」


「あたしはいいよ!」


 リーゼとハンナも頷く。


「じゃあこれでいいか」


 俺とシュリカ、ルナとリーゼとハンナ、イーロという分け方で。


「でもよ、提案しといてなんだが、オレが1人で部屋使っちまってもいいのか?」


 まぁ、なんだ。色々しちまったしな。とイーロは付け足す。


「私はもう許したからいいわよ」


 とシュリカは言う。

 イーロと一緒に住むという事で反対していたのはシュリカだけだったから、シュリカが良いと言えば良いのではないか?

 残りの3人の顔を見るが、嫌そうな顔をしている人はいない。


「……良いみたいだ」


「そうか、ありがとう」


「んじゃ次は部屋の場所だ、どこが良いとかないか?」


「うッス」


「はい、イーロ君」


「コウたちはベランダが無い方の部屋の方が良いんじゃないか?」


 ん? なぜだ?


「……その根拠は?」


「えーっとだな、耳を貸せ」


 顎をぽりぽりと掻きながら俺に近づいて来たイーロは耳元で、「隣が部屋だと声が漏れて夜な夜な聞かされるのは嫌だし、聞かれるのも嫌じゃないか? 廊下を挟んでだったら聞こえにくくなると思うぞ」と言ってくれやがった。

 なるほどな、ありがとうございます。


「という事で、俺らが窓のある部屋でいいかな?」


 女性陣には理由は話さず問いかけた。


「どこでもいいよー」


 というルナの声により部屋の場所はすぐに決まった。

 階段側がイーロでその横がルナ、リーゼ、ハンナ。廊下を挟んで反対が俺とシュリカの部屋だ。


「よし、明日は家具を買いに行こう。ハンナは明日時間あるか?」


「午後からなら大丈夫だよ」


「そうか、じゃあ明日は13時頃ここに集合で今日は解散だな」


「おう」


「おー」


 イーロとルナの返事が聞こえた。ハンナも頷いているので大丈夫だろう。


「じゃあ帰ろう」


 そう言い立ち上がる。俺に続いてみんな立ち玄関へと向かい、鍵を閉めてそれぞれの帰路へとついた。



 ----



 次の日

 借りていた掃除道具は昨日のうちにアリナさんに返した。返すとき、「もう終わったのかい」と驚かれたので、「イーロも手伝ってくれましたから」と言う。すると、「まさかイーロの奴が手伝うとはね。あんたたちをここに連れてきたのも驚いたけど、それ以上だ」と言っていた。その後、俺たちが部屋に向かう時、「……これで昔見たいに戻ってくれるといいんだけどねぇ」と言う言葉が微かに聞こえたが、独り言に突っ込むのも良くないと思い、気になるが聞き返しはしなかった。


 そして今、俺とルナ、シュリカ、リーゼは家に来ていた。

 時間は12時30分前後だ。少し早めに来たのだがいつもの通りイーロは外で待っていた。


「早いな」


 そう言いながら家の鍵を開けた。


「朝、住んでたとこ解約してきたからな、行く場所がなかったんだ」


 笑いながらイーロは答える。


「なら宿に来ればよかったじゃないか」


「いやー……あそこ行くとアイツに何か言われるからなぁ」


 アイツとはアリナさんの事だろう。まぁ言われるだろうな。からかわれるに1票だ。


「ははは、てことは、家具はもう持っているのか」


「当たり前よ!」


「そうか。じゃあ手伝うよ」


 そう言って、みんなで二階へと上がった。



 して5分後

 部屋の雰囲気は変わっていた。木目調の床はそのまま、部屋に入って左にベッド、右にはタンス。そして2つのロウソクスタンドが置いてあった。


「終わった。うん、ありがとな、みんな」


「……おう」


 いやいや、俺ほぼ何もしてないんだけど。家具の数は少ないから早く終わるかも知れないが、ちょっとベッドの位置ずらした程度しかしてないわよ!

 模様替えもすぐ出来るんだよなこの世界。一旦ボックスにしまって違う場所に出せばあら不思議、もう終わりだからな。

 ボックスの空間に触れたものはどういうわけか重量がほぼ消え去る。だから入れるときだけちょっと力を入れる必要があるが、引きずりながらでも良いわけで、出すときも大体の場所に置けるわけで、微調整は必要だが、……魔法ってやっぱ凄いな。

 ここ数ヶ月魔法練習をしていないのだが、またやろうかなと考えさせられる。……まぁしても極小しか魔力は増えないわけで、すぐあきらめるのは目に見えているのだけどな……。

 というわけで、魔法練習はやらないとして、やることがなくなってしまった。


「そういえば、イーロは俺たちがどこか行くとしたらどうするんだ?」


 昨日ハンナには聞いたが、イーロには聞いていなかったと思い俺は質問する。


「どこかって……、冒険者稼業か?」


「うん、そんな感じかな」


「みんなが良ければオレもついて行くぜ」


「イーロって冒険者なの?」


「いんや、今は違うな。ただのこの街の住人さ」


 シュリカが聞いたことに対しイーロは答えた。


「じゃあさ、じゃあさ、登録しちゃえばいいんだよっ」


「……いや、やめておくよ。前に冒険者ともめたことがあってな、ギルドすら入りにくいんだ。この街にはそれぞれの区に1つずつあるんだがどこにもたぶん注意人物と認識されちまってるからな」


「そっかぁ」


 ルナは残念そうに尻尾を下に垂らす。


「ま、まあ登録しなくたって一緒に行動はできるし、依頼は手伝うから気にしないでくださいッ。ダンジョンも全然行けますぜ」


 ルナの反応にイーロは慌てたように言う。ルナにも砕けた言葉使いになってきていたのに、今回は少し戻ったな。


「そうか。わかった」


 にやけながら俺はそう言った。

 イーロはこれからも共に行動するという事がわかったからだ。


「……武器は何を使ってるの?」


 そう聞いたのはシュリカだ。さっきのダンジョンも行ける発言で気になったのだろう。シュリカが質問したことで俺も気になりだす。


「武器は……コイツだ」


 そう言って、ボックスからイーロは2本の剣を取り出していた。2本は長さが違い、1本は刀身が手の先から肘くらいの長さだ。こちらには柄がついている。もう1本はそれより長く、腕くらいの長さだろう。こちらには柄はついていなかった。


「二刀流だ!」


 ルナは興奮したように叫ぶ。


「そうッス、二刀流!」


 イーロはそれに答えている。

 二刀流はこっちでもかっこいいと思う人が多いのかな?

 ルナの姿を見てそう思った。実際、使いこなせるようになるに相当な練習が必要になると思うし、扱うのが難しいと思うのだが……。片方の剣に集中し過ぎて、誤って自分に刃があたる危険性もあるわけだし。個人の自由だから何も言わないけどね。俺も使いこなせていればかっこいいと思うし。


 ――そんなこんなで、5人で他愛のない話をしていると、ほどなくハンナがやって来た。いつ来ても良いようにカギを開けておいたのだ。


「お、お待たせしました」


 ハンナは息を切らしていた。走ってきたのだろうか? そんなに急がなくても良かったのにな。


「よし、じゃあハンナが息を整えたら行きますか」


 それから2分後に家を出たのだった。



「こっちに大きい家具屋があるんですよ」


 そう言って案内してくれているハンナの後をみんなで歩いて行く。

 歩いている正面には学校が見える。この道はずっと行くと学校に繋がっているようだ。だからか学生のような人たちが多く見える。みんな私服で制服ではないため学生なのかは完全にはわからないが。ハンナも私服のように、この世界に制服はないようだ。

 また、今この道を歩いている種族も様々だ。人族はもちろん獣人族、エルフ、ドワーフは見てわかる。龍人族は見たことがないので良くわからないが数人はいるかもしれない、特徴は体に龍の鱗があるらしい。エルフは予想通り耳が尖がっており、ドワーフは身長が低いのが特徴の種族なのでそれとなくわかるのだ。大きい人も稀にいるそうなのだが。


「ここら辺は初めてくるなぁ」


 イーロは呟いていた。


「そうなのか?」


「この街に住んでいても全部行ったことあるって人の方が少ないんだ。特に北区は入りにくいしな。まぁオレがここに来なかったのは単に学校ってものがあるからなんだけどよ」


「…………」


 イーロの事を言える立場ではないが、からかってやろうと冷たい目線を送る。


「な、なんだよその目は!」


「いや、なんでも」


 俺もその気持ちは少しわかる。勉強する場所が近くにあるってのはなんか威圧感があるような気がする。うん、気がするだけなんだろうけどな。


「ここです!」


 そうこうしているうちに家具屋についたようだ。


「おお、ありがとう」


 外見からして大きいお店のようだ。店の横幅が近くにある家に比べて2、3倍はありそうだ。


「うんっ、ここならほとんどの家具があると思うから、必要なの全部そろうんじゃないかな?」


「そうか、何軒も回んなくて良いのは助かる」


 俺たちは店の中へと入っていった。


 店内は予想以上に広かった。横はもちろん奥行きもあったのだ。


「じゃあそれぞれ欲しいものを見つけてくれ」


「あっ、兄さん。買いたいのをこれにメモして買うの。商品の近くに番号があるから」


 ハンナは入り口近くにある白紙の紙を俺に渡してきた。


「そうなのか、じゃあこれに書いて後で見ながら考えよう。値段もついでに書いといてくれ」


「「はーい」」


 ルナとシュリカが返事をしてくれた。


「じゃ、解散。同じ部屋の人と一緒に回れよ~」


 そう言って俺たちはばらばらと店の中を散策し始めた。

 俺はシュリカと共に店内を回る。


「うへぇ~、色々あるなぁ」


「そうだね、……取り敢えず最初は寝る場所を確保しましょ」


 その言葉に反対はない。


「おう」


 俺たちはベッドが売っている所を探し歩いた。


「食器も必要だな」


 ふと思いついた。


「そうね、料理器具は私とリーゼちゃんと考えるからコウくんはいいわよ」


「う、うん」


 料理をする人が道具を選ぶのは至極当然だが、なんか悲しい気分……。


「あっ、ここね。ほらしょんぼりしてないで、コウくんはどんなのが良い?」


 この一画はベッドコーナーなのだろう、細長い、2回寝返りをしたら床に落ちてしまいそうなベッドから、4、5人くらいが余裕で寝れそうなものまである。


「い、色々あるな……」


「やっぱり一緒に寝れるのが良いよね」


 その言葉に心を揺さぶられつつも、慌てた素振りを見せないように振る舞う。


「ふふ。こういうのとかは?」


 心を見透かされたような笑いを見せ、俺の手を引きそのベッドの前へ連れて行かされた。

 そのベッドは一般的にダブルベッドという部類だろう。値段を見ると銀貨50枚という価格だ。

 他のダブルベッドは大体銀貨40枚より上の値段になっているからして、まあ10枚高いのは許容範囲なの……か? 銀貨だぞ。銀貨って……うん、あれ? 銀貨1枚は銅貨100枚だから、宿代は銀貨1枚以下だし……高いのか? でも家具は高いものからして、しかもほぼ毎日使う物だし、うん大丈夫だな。家具に糸目はつけないぞ、……よほどの物ではない限り。


「じゃあこれにしようか」


 触り心地も良好だし。


「うんっ!」


 シュリカも気に入っているようだった。

 俺はそのベッドの値札に書いてある番号を書き、他の家具を見に行った。



 2時間後

 部屋に置く家具を決め、たまたま鉢合わせたイーロと食器を見ている。

 店を回っていると、俺たちが入った方と反対側にも入口があったことに驚いたりもした。

 食器と料理道具もあらかた見終えたとき、ルナたちがやって来た。


「コウ様、これです」


 そう言ってリーゼに渡されたのは、番号と値段の書いてある紙だ。ぱーっと目を通すと1つだけ飛びぬけて高い銀貨85枚というのが目に入る。


「……これなに?」


「ベッドだよ!」


 そう聞くとルナに即答される。


「ベッド1つ?」


 他のを見ても銀貨40枚以下だったからそう聞いてみたのだ。


「うん! 大きいやつだからっ」


 また即答だ。

 大きいやつというのは3人で寝るのだろうか?

 そう聞くとまたまた肯定される。3人がいいなら良いんだけどな。


「わかった、一応選んだの見ていいか?」


「りょーかい!」


「シュリカたちはここら辺で料理道具を選んでてくれ」


「あっ、オレもついて行くぞ」


 ルナに連れられメモに書かれた家具の所を回る。


「そういえば、悪かったなイーロ」


「ン、何がだ?」


「いや、暇だっただろ」


 家具は持参してきたのだから、買うものがないのについて来ていたことになる。


「見てるだけもなかなか時間つぶしにはなるな」


 イーロはそう笑っていた。



 ----



「ありがとうございます。ただいまお持ちしますので少々お待ちを」


 お会計をすると、店員さんはそう言って後ろにある扉に入っていった。

 きっと大きい家具類はそっち側に在庫が置いてあるんだと思われる。食器類は店頭にあるやつを買って今は俺のボックス内だ。


 待つこと数分。

 扉から出てきた店員さんは会計をした場所の横にある、下に布がひかれた場所に俺たちを先導してそこに買った家具を置き始めた。

 布は置いたとき汚さないようにするためだろう。ルナたちが選んだベッドはそれを1つ置くと他の家具が置けなくなるほどの大きさだ。これはクイーンベッドくらいの大きさだろうと予測している。

 店員さんが置いていく家具を俺はボックスに入れていると、3個ほど入れたあとボックスが物を受け付けなくなった。


「……?」


 もう1回入れようとするが入らない。ボックスの空間は出せるのだが、そこに入って行かなず素通りするのだ。


「どうしたんですか?」


 店員さんに聞かれても苦笑いしかできない。


「兄さん、わたしも持つよ」


 固まっているとハンナが助け舟を出してくれた。

 残りはハンナが受け取り店を出るのだった。



「多分ボックスの中がいっぱいになったんじゃないのかな?」


 帰り道、ハンナに言われる。俺の状況を見てそう思ったのだそうだ。

 確かボックスって……


「どんくらい入るんだっけ?」


「64個だよ。同じ物でも他の場所に入るけど、それをまとめて袋か何かに入れれば1つ分になるんだよ」


 後半の事は俺も知っている。


「そっか、64個かぁ」


 そういえばそうだった……かもな。ハンナの家にいたときに読んだ本に書いてあったのを微かに思い出した。


「何でハンナはわかったんだ?」


「学校で習ったの。試しにみんなわざといっぱいにしてどうなるかやったんだけど、その時の状態に似てたから」


 なるほどな。学校ではそういう事を習うのか。

 そう思い視線をハンナの方から前へと戻す。

 すると前方に金色に染まった髪が目立つ少女が歩いていた。リーゼよりも濃い金色で少女の傍に一緒に歩いている2人の男女がいるが、2人とも、なんかたくましいガタイをしている人たちだ。身に付けているのは防具のようで金髪の娘を護衛しているようにも思えた。

 俺は少女の方に目をやった。後ろで髪を1つに結んでいるポニーテールだ。顔はどことなく見覚えがある気がする。

 どこかであったのだろうか? でも、あの色の髪は一目見たら忘れないような気がする。……う~ん。


「……ッぁ!?」


 背中に痛みが走り、後ろを振り向いた。


「コウくん?」


「な、なんでもありませんですぞ?」


 みんなに笑われる。シュリカも笑っている、顔だけは。


「あの娘がそんなに可愛かったの?」


 金髪の娘とすれ違い、少ししてからシュリカに問われる。


「あ、あの色の髪は目立つなぁーと思ってただけです! はい」


「本当に?」


「本当です!」


 付け足せば、見覚えがあると言えたが、あらぬ誤解を招くと感じた俺は黙っておくことにした。


「……そう、なら良いわ」


 じっと目を見つめられてから、シュリカはそう言った。

 許してくれたみたいだな。……ん? 俺なにも悪い事してなくないか? あれが駄目だったらもう女の人見れないじゃんか。


「じーっと見ていなければいいのよ、じ――っとね」


「は、ハイ」


 どうやら心を読まれたようだ……。



 そうこうして、家に帰り着いたのは16時になる前だった。


「ぱっと家具を置いて明日からこっちで暮らすか!」


「さんせー」


「はい」


「そうね」


「了解だ」


「…………」


 ハンナだけ返事がなかった。


「あれ? まだ何かあるか?」


「う、ううん、わたしは申請が通ってないからまだ駄目だけど、今月中には来れると思う!」


 自分だけ頷けなかったから黙ってしまったのかな。


「そうか、待ってるよ」


「うんっ」


 そうして、決めた自室に戻り、家具を置いてからリビングに行き、テーブルと椅子を、キッチンにも買った食器棚や、食器をしまいこみ宿へと帰るのだった。


 明日からと言っていたが、もう住んでいた場所の契約を破棄してきてしまっているイーロは、俺たちが家を出る直前に「そういえば帰る場所がない!」と言うので今日から家で暮らすことに。事実、みんなその事は忘れていた。イーロ自身が思い出さなければ宿代がかかっていた所だ。

 晩ご飯はみんなで外で食べてから解散になる。ハンナはイーロが送ってくれると言うので、言葉に甘え、イーロに家の鍵を渡し、俺たちは宿に帰る。

 帰り着き、暇そうに受付に座って欠伸をしていたアリナさんに、明日から借りた家で暮らしますと伝えると、「早かったな。あ~あ、もっと儲かると思ってたのに」と、本当に言っているのか、それとも冗談なのかわからない物言いをされた。この人の事だ、本気で言っていそうな気がするが、気にしない事にしよう。

 という事で、特にやる事もなかったのですぐ(とこ)に入ったのだった。


閲覧ありがとうございます!

最近、投稿後の見直しが雑になっております。誤字脱字あったらごめんなさい……。

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