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046

「すみませんでした。勘違いまでしてしまって」


 ペコペコと謝るリーゼ。


「ほんともう大丈夫だから。むしろ俺が悪いから、ごめんな」


「いつまでやってるの、2人とも……」


 俺がシュリカを買い物に行かせるために言った出任せの言葉のせいで、リーゼに俺が怒っていたような感じになってしまい、それを聞かれていてしまったためこんな状況になっていしまっていた。

 しかもルナがつっこんでくるとは……。でもナイスだ。


「そうだな。ほ、ほら掃除の続きやろう!」


 ルナの言葉に便乗して話を変える。シュリカたちが帰って来て、なにも進んでないと知られると怒られそうだし。という事は口には出さなかった。


「うぅ……はい。……すみませんでした」


「だから、気にしないでってば! 本当に悪かった。でもな、俺がリーゼの事を嫌いになるわけないだろ」


「……!? はっ、はいっ!」


 顔をぐしぐしと腕で擦りながら、返事をしたリーゼは、声のトーンが少し上がっていた。


「よしっ」


 気を取り直して、俺は箒を握りなおす。

 ……ところでシュリカとイーロが出かけてからどれくらい経ったんだ?


『164年 7月14日 14時17分48秒』


 行くときの時間見てないからわかんないや。まぁ気にしてもしょうがないか。


「じぁあ俺は玄関やってくる。リーゼ、俺はリーゼがいないと寂しいからな」


 最後のフォローとして、そう言うセリフを残し、リーゼの反応は見ずに俺はリビングから出た。

 シュリカとイーロが来る前に玄関の天井くらいは終わらせておこう。

 そう決めて玄関につくと箒が1本靴箱に立てかけてある。

 ……ここに置いたまんまだったか。

 再びリビングに向かい、キッチンに1本立てかけてから、玄関で箒を動かし始めた。



 箒を動かし始め数十分。


「これで大丈夫かな?」


 玄関のドアを開け空気を入れ替えながら掃除をしていたため、せっかく掃除した廊下にも風で少し埃が流れて行ってしまったが……。


「はぁ~、順番ミスったなぁ」


 廊下に乗った埃を見ながら独りごちる。

 玄関は考えてなかったよ、もぉっ。


「こんにちは~」


 そんな時、開けていたドアの外から声が聞こえた。

 うちか?

 そうではないかも知れないが一応見てみようと考え、振り向いた。

 家の先には整った顔をしている少女が立っている。どうやらうちに用があるようだ。

 少女の髪色は茶色で、後ろ髪は肩より下まで伸びている。パッと見、おっとりしている印象を受ける女の子…………!!?


「えっ……」


「あっ……」


 最初に言葉を発していたのは俺だった。続いて似たような声が女の子から発せられた。


「えっ……あの、おっ、おに――」


「コウ様ー、リビング終わりましたーっ」


「終わったよ~。あっ、コウちゃん!? せっかく廊下掃除したのにまた埃が乗ってるじゃん! もぉ~」


 女の子の言葉はリーゼとルナによりかき消された。しかし、女の子と行動までは消せはしない。


「兄さん!!!」


 女の子は俺に向かって、そう声を上げながら走ってきたのだ。


「ハンナ!!」


 両手を広げ、この世界に来て初めてお世話になった、この世界での俺の家族の妹のような存在の1人。ハンナを抱きしめた。


「に、兄さん……お久しぶりです」


「ああ、久しぶり。元気だったか?」


 抱きしめて、ハンナの成長を実感した。前は俺の腹部辺りの身長だったのに今では頭が胸のあたりまできていたのだ。


「……もちろんですよ!」


 ハンナは顔を上げ満面の笑みで答えた。


「コウ様とハンナ様ってお知り合いだったのですか!?」


 俺の後ろから声が聞こえ、ハンナを両腕で軽く抱いたまま、体を横に向けた。当然ハンナも横を向く形となる。


「あっ……リーゼ……っ」


 リーゼはハンナの方を見て驚いていた。ハンナは俺に抱きついた行動を見られたせいか、恥ずかしくなったのだろう。小さく呟いた後、顔を隠そうとした。

 もちろん俺が捕まえてるため隠れることはできず、可愛く染まった顔を見て和んでいたのは内緒だ。

 リーゼの反応からすると友達になった子というのがハンナのようだな。


「そうなんだよ。ルナとも会う前にな、良くしてもらってたんだ」


 そう推測して俺は言葉を返した。ルナは何やらついていけていないようで首を傾げている。


「まぁ、俺が旅に出る前にお世話になっていた家族、と思ってもらえればいいかな」


「なるほど! あたしはルナっていうんだよっ。よろしくね」


 ルナは今の言葉で納得してくれたようで、詳しく説明はしなくて良さそうだ。


「は、はいっ、わたしハンナって言います。よろしくお願いします」


 体が俺に密着していながらも律儀にお辞儀をしていたハンナを見て、ミリアさんの教育の良さがみえる。

 ……ミリアさんたちは元気なのかな? 元気だよなぁ。あの家族が元気じゃない所を思い出せないぞ。大変なことがあっても乗り越え、笑顔でいれる家族だと俺は思っている。


「あっ、…………あわわわっ」


 ルナとハンナがお互い自己紹介をしていた中、リーゼが慌てた様子となっていた。


「どうしたんだ?」


 気になるのは当たり前だ。俺はリーゼに質問すると、リーゼは小さめな声で、「後ろです。後ろです」と言っていた。

 ……後ろ?

 リーゼの言葉が更に気になり後ろを向く。

 するとそこには愛想笑いとすぐにわかる顔をしたイーロと、満面の笑みを浮かべ俺を睨んでいるシュリカの姿があった。


「……あっ……、おかえりなさいませお2人様……」


 俺は察した。やばい勘違いしてらっしゃると……。


「こ、コウくんちょっといいかしら?」


「ははっ。何でございましょう」


 鋭いシュリカの声に辺りは静かになっていた。


「いいから来て」


「はっ!? あああっ、誤解! 誤解ッス!! ノォォォォォォッ――」


 恐怖に、軽く抱いていた状態だったハンナをぎゅっと強く抱き寄せたのだが、その手をシュリカはいとも簡単に外し、俺の首根っこを引っ張る。


「え? あっ……えっ!?」


 誰も釈明をしてくれる人はおらず、ハンナの困惑の声と、憐れんだ目で俺を見る3人の顔、俺が何とか脱ぐことに成功した廊下に落ちた一足の靴を見ながら、二階まで連行された。



「コウくん、ここに座って!」


「はいっ!」


 迫力に即答して行動に移る。シュリカの前で即座に正座。


「あの子は誰? どうして抱き合ってたの!?」


 二階の一室に連れて来られていた俺はそう問われた。


「あの子はハンナと言いましてですね――」


 俺はハンナとの出会いからその後の関係について、リーゼとルナたちに話した時より詳しく説明した。あと、リーゼの友達だということも。



 ----



「……なるほどね。大体わかったわ、妹という認識なのね」


 説明をして数十分後、なんとか納得していただけたようだ。


「そう! シュリカさんラブのわたくしが浮気なんてする訳ないじゃないですか」


 言ってから自分が恥ずかしくなった。

 なに、ラブとか口走っちゃってんでしょうか俺は! 面と向かって言うとか恥ずかしすぎるだろっ。……やばいシュリカの方を向けない……。

 俯きながら、シュリカの足元を見る形で俺は固まっていた。


「~~~~っ。……わ、わかったわ。今回は私が先走っちゃったのね、ごめんなさい」


 その言葉に俺は安堵した。


「シュリカぁ~」


「あっ、上向かないで! ……なんか恥ずかしいわ」


 シュリカも照れていたようだ。顔を上げようとした俺の頭を押さえられ、動きを制される。

 嫉妬されるのはそれだけ俺を想ってくれているということなのだろう。純粋に嬉しいが、怒られるのは嫌だな。



「あっ、兄さん!」


 シュリカの誤解も解け、一階に戻るとハンナが一番に声をかけてくれた。玄関にハンナはいたのだ。


「おー。もう大丈夫だから」


「……良かったぁ」


 胸をなでおろす動作をハンナはしていた。


「あっ、掃除手伝ってくれてたのか、ありがとう」


 片手に箒を持っている姿を見て俺はそう思ったのだ。


「うん!」


「こ、コウくん、私を紹介してもらってもいいかしら……」


 一緒に降りてきたシュリカが、俺の後ろから小さい声でそう言ってきた。さっき俺をいきなり引っ張っていったから、ハンナに悪い印象を与えたと思ったのかな? それを俺から紹介する事で少しでも警戒を減らそうとしているのか……。

 なんか心の奥がホッコリした気持ちになる。


「あ、あのシュリカさんですよね」


 俺がハンナに紹介しようと口を開けたとき、俺が声を発するよりも早くハンナが喋っていた。


「は、はい!」


 名前を呼ばれるのは予測していなかったのだろう。シュリカの声が裏返っていた。


「話はリーゼから聞きました。兄さんと……お、お付き合いしているんですね。なのに抱きついてしまってごめんなさい」


 ハンナは俺の横を通り、俺の陰に隠れていたシュリカの横までいくと、礼儀正しく腰を折りながらそう言った。


「あっ、こ、こゅ、こっちこそごめんね! 勘違いというか、話も聞かずに先走っちゃって! 久しぶりに会ったんだもんね。わかるよその気持ちは、……うん、抱きつきたくもなるよ」


 最初焦っていたシュリカだが、最後に一瞬遠い目をしたように俺は思えた。


「こほんっ、改めて。私はシュリカと言います。コウくんと付き合わせてもらっています。これからよろしくね、ハンナちゃん」


「はい、こちらこそよろしくお願いします、シュリカさん!」


 俺の紹介なんていらなかったじゃないか。

 そう思いながら2人の姿を眺めていた。


「コウくんの妹ってことは私の妹にもなるのかな?」


「えっ、あ、あのっ、それは……シュリカさんがよろしければ……」


 頬を染めて、もじもじとしながら話すハンナの姿は愛らしかった。


「あっ…………可愛い」


 ぎゅっ、といきなりシュリカがハンナの体を捕まえた。


「ふにゅっ!?」


 小さい悲鳴は聞こえたが、嫌そうな声色ではなく驚いているだけだと俺の勘が言っている。

 大丈夫だな、もう。

 俺はいちゃつく二人の横を通り、リビングへと向かうことにした。



「あっコウ様! もう大丈夫なんですか?」


 キッチンに立っていたリーゼが俺に気づいた。キッチン、リビングにはリーゼの姿しかない。

 そういえばリビングの掃除は終わったとか言ってたっけ。

 俺がシュリカに捕まる前に聞いた、ルナとリーゼの言葉を思い出した。


「ルナ様とインディロ様はお風呂場を掃除してくださっていますよ」


 きょろきょろと辺りを見ていたからかリーゼはそう教えてくれた。


「そうか。じゃあ俺はキッチンを手伝おうかな」


「だ、大丈夫です! コウ様は綺麗になったリビングで座ってゆっくりしていてください」


「えっ、……いやー、でもな」


 俺1人座っているというのも申し訳ない。


「友達になったのってハンナだったんだな」


 俺はそう切りだしていた。


「はい。コウ様もお知り合い……じゃなくて家族だったなんて驚きました!」


「世間は狭いのかも知れないなぁ」


「はい?」


 リビングを眺めながら、思いついた言葉を独り言のように小さい声で言ったため、リーゼには聞き取られていないようだ。

 ……あっ、そうだ、家具買わないといけないじゃん!


「よし、やる事を思いついたから俺はそこらへん座ってるぞ。何かあったら呼んでくれ」


「わかりました」


 俺はリビングに座りボックスから財布を取り出した。財布といっても布袋に入れて紐で口を縛っているだけなんだけどな。

 その財布をひっくり返し、中身をすべて床へと、遠くにまで散らばらないように出す。


「……そういえばシュリカからさっきの買い物の残りを返してもらってなかったな……」


 独り言ちる。

 まぁいいか、親睦を深めている今は言いにくいしな。

 取り敢えず、今あるだけのお金の確認作業に入った。



「えー、全部で金貨18枚、銀貨25枚に銅貨4枚か」


 結構なくなったなぁ……それもそうか、移動中は道中に出て来た魔物が落とした物の換金しか収入がなかったもんな。出費の方が多かったし、特に食費に。

 ……10ヶ月くらいか、ヴィンデルの街を出てから。

 ふむ、色々あったな。雪が積もらなければもっと早くついていたんだけど、そしたらハンナとの再会もなかったかもしれない。嬉しい誤算ってやつか? それに生命の誕生にも立ち会えたしな。あの村に、ガヴリさんの家に泊めてもらえて良かったなぁ。


「………………」


「コウくーん、掃除終わったよ~」


「っ!? はいっ」


 思い出を思い出していたら突如声をかけられる。やっぱり名前を呼ばれると反射的に返事しちゃうよな。

 呼ばれた方を向くとシュリカとハンナの姿が見える。掃除が終わったという事は玄関をやっていてくれたのだろうか。「ありがとう」という感謝の気持ちを心で送る。


「お金睨んでなにやっているの? あっ、そういえば返してなかったね。はいこれ余ったの」


 そう言いシュリカはお金の入った布袋を渡してくれた。


「おお、ありがと」


「ふふ、お礼を言うのは私の方だよ。お金ありがとう、使わせてもらったよ」



「みんなのお金だからな、シュリカも気にしなくていいぞ」


 使ったのか。イーロの奴が払うって言ってたのに。

 そういえばどうだったか聞いてないな。見た感じ……というか、帰って来てからも2人は話をしていないような気が。け、結果は後で聞こうかな。


「そっか。あっ、リーゼちゃん手伝うよ~」


 キッチンを見たシュリカは笑顔のまま、ハンナを置いてリーゼの方に向かって行った。

 リーゼの遠慮する声が聞こえるが、シュリカは強引に一緒に手伝い始めていた。最近、シュリカはリーゼに強引に手伝いをしに行っていることがある。リーゼも遠慮しているのは奴隷という身分のせいだと思う。だから一緒にやるのは本心では嫌なのではないだろう。何回も言われていると大抵リーゼが折れるのだ。そして、2人でやっている姿を見ると何か微笑ましい。でも、俺に対してだけは、俺が強引に手伝おうとするとあからさまにしょんぼりとしてしまうのだが……なぜだ? 


「……に、兄さん。なにをやっているの?」


 そんな事を考えていると、ハンナが俺の隣に座り、そう聞いてきた。


「この家さ、家具がないでしょ? だから買おうと思ってさ、お金の確認だよ」


 俺は再び手を動かし始めた。

 さっき数えたお金と混ざらないようにちょっと離れた所にシュリカから返ってきたお金を出す。


「……銀貨が8枚と……」


「わたしも手伝う!」


「おう、お願い。銅貨数えてもらっていいか?」


 適当に区切った銅貨をハンナと数え始めた。



「こっちは37枚だよ」


「こっちは43枚だ」


 ということは。


「全部で銀貨8に銅貨80枚か。……8が多いな」


 っと、そんなことはどうでも良いだろう。これを合わせると、


「計、金貨18、銀貨33、銅貨84となるな」


「……兄さん、お金持ちなんだね」


 感心したようにハンナは言う。


「そうなのか?」


 金銭事情に未だ結構疎い俺からしたら、少なくなったからそろそろ稼がなくてはダメかも知れないと思う感じなのに。蓄えは少し多めの方が安心できるからね。


「そうだよ」


 だが、ハンナは屈託のなさそうな笑顔で言った。


「そう……なのか?」


「うん!」


「そう、なのか。……そうだ、ハンナはこの辺り詳しいか?」


 金銭感覚の事は置いといて、俺は良い店があれば紹介してもらおうと考えた。


「一応はわかるよ」


「じゃあさ、今度…………」


「ど、どうしたの? 兄さん?」


 途中で言葉を止めた俺に、ハンナは疑問を投げかけてくる。


「ところで、ハンナは学校に通っているのか?」


「えっ、う、うん」


「もしかしてカレンも?」


 ハンナと一緒に通っているのではないか? 唐突だが、そう思ったのだ。


「カレンはおうちで手伝いをしてて、……わたしだけ学校に通ってるの」


 さっきとは変わって、ハンナは申し訳なさそうな表情になる。


「そ、そうなのか」


「うん。わたしが魔法の事をお母さんに教えてもらっていたら、この学校の事を進められて。家の仕事が手伝えなくなっちゃうって言っていたんだけど、そしたらカレンが、わたしがやるから大丈夫だよ! ハンナはハンナの道を進んで! わたし応援してるから! って言ってくれて、それで」


「ここまで来たのか」


「……うん」


 俺はカレンが、「ハンナに好きな事をやらせたい」と言っていたのをふと思い出した。有言実行か、カレンはしっかりお姉ちゃんをしていたようだ。


「今度会った時、学校で習った事をカレンに自慢してやればいいさ。ありがとう、おかげでこういう事が出来るようになったってさ」


 ハンナの頭をポンポンと軽く叩きながら俺は言った。


「……カレンなら喜んでくれそう」


 そう言うハンナの顔は少しにやけているように思えた。

 きっと想像したのだろう。俺もカレンなら純粋に、凄い。と言うと思う。

 そっかぁ、ハンナとも会えたしカレンとも会いたいなぁ。元気に「兄ちゃん」と俺を呼ぶカレンの姿を思い出す。

 あっ、でもハンナのように成長してるだろうし、あの性格……髪を伸ばしてポニーテイル何かにしていたら似合いそうだな。


「? コウ兄さんどうしたの」


「うん?」


「なんか笑ってたから……」


 想像して楽しくなっていたのが表情に出ていたらしい。


「いやぁ、な、なんか懐かしくて嬉しくてな。そういえばここまでどうやって来たんだ?」


 ハンナ1人で来たというわけではあるまい。こんな可愛い子の1人旅、ジャンさんが許すとは思えんのだが……しかし、ジャンさんも冒険者だった身。ハンナから言われたのでは断れないか……。


「フェルドさんとロダさんとコルさんが送ってくれたの」


「おー、懐かしい! フェルたちはまだこの街に?」


「先月まではいたんだけど、違うとこにも行ってみたいって言って、確か……北の方に行っちゃったの」


「あらら……」


 会えないのは残念だけど、


「元気だった?」


「うんっ、もちろんだよ。あっ、そうそう、今ね、フェルドさんとコルさんがね、ラブラブなんだよ!」


「へ、へぇ~……」


 1年も経たたずにラブラブとはうらやま……凄いな! でもな、俺だってシュリカとラブラブしているからな!

 内心で対抗してみる。今頃(フェル)はくしゃみでもしているはずだ、はっはっはっはー。


「掃除終わったぜー、って何してるんだ?」


「おぉー、あたしも混ぜてー」


「ふぉ! つめたっ!?」


 イーロとルナが廊下の方からやって来て、ルナはなぜか俺に突撃してきた。


「る、ルナさん、なぜ濡れているのですか……?」


 ルナを見ると服の至る所が湿っているのがわかる。


「あー、風呂掃除してる時ちょっとな」


 そう言うイーロは濡れていなかった。


「そうですか……」


 ルナの事だ、遊んでて水を自分にかけたのかもしれない。


「ルナは着替えておいで、風邪引くぞ」


「あーい」


 俺が言うと素直にルナは返事をして廊下へと向かった。隣の部屋で着替えてくるのだろう。ボックスがあるとこういう事が出来て便利だよな。

 改めて生活魔法というもののありがたさを実感する。


「あっ、トイレも掃除しといたからな」


「ああ、ありがとう」


 トイレもやってくれたのか。


「という事は……掃除は終わりか!」


 ひゃっほー!

 という気持ちは内心で、俺は家具の事を考えた。


「そうそう。今、家具を買おうと考えていてな、持ち金を見ていただけなんだ」


「なるほどな。オレの分はもちろんいらないからな。自分で持ってくる」


「おうよ」


 最初からイーロの事は考えていなかったな。持って来てくれるのなら何も言うまいが……ん? という事はシュリカはおっけーをしたという事か!

 そうかそうか。一言いってくれればいいのに。

 そんな事を考えていると俺の袖が引っ張られた。

 それと同時くらいにルナが着替えて戻って来た。


「兄さん、……みんなでここに住むんだよね?」


「うん! そうだよっ」


 俺が答えるよりも早くルナが答えていた。掃除中、イーロから話を聞いていたのだろう。ハンナの声は小さかったがルナには聞き取れたらしい。流石猫耳だな、うん。

 俺の関心をよそにハンナはビクッとしたものの「そうですか」と答えていた。

 そういや2人とはまだ話したことがないかもしれないんだな。そう思った俺は改めてハンナを紹介することにした。


「あー、一応紹介しとくとだな……」


「大丈夫だ。コウがシュリカの姉御に連れていかているときにしてもらったからイデッっ!?」


 俺の言葉を途中で遮ったイーロは、どこからか飛んできたものが頭にヒットしていた。

 イーロに当たり落ちたものを見ると泡がついた、たわしである事がわかる。


「姉御は嫌って言ったわよね」


 声が聞こえてきた方を見るとシュリカが腕を組んで立っていた。


「冗談ッスよ、冗談!」


「あん? もう言わないわよね?」


「い、イエス、マム!!」


 なにコントをしているのだろうかこの2人は。てか、仲良くなり過ぎじゃないか?


「お、おいおい、コウ! ありゃ怒り過ぎじゃなか?」


「……ふふっ、そうか? 気のせいだろ」


 シュリカの照れ隠しがわからないなんて。今のは恥ずかしいから攻撃したんだろう。イーロもわかっていないな、まぁわからなくていいんだけどね。

 俺に芽生えた嫉妬心はすぐさま無くなった。


「で、えーっと……なんだっけ?」


「コウちゃんがハンナちゃんの事を紹介しようとしたけど、あたしたちはもう聞いたよってところらへんだよ」


 ルナが説明してくれたおかげて俺は思い出す。


「そうそう、そうだった。でも大丈夫なんだよね?」


 ルナとイーロを見ると軽くうなずいたのでハンナに目をやった。


「よし、ハンナ2人の名前を呼んでみよう」


「えっ、う、うん。ルナさんとイーロさん」


「では、あっちの2人は?」


 キッチンを指して俺はハンナに聞く。


「シュリカさんとリーゼ」


 あら、リーゼは呼び捨てなのか。


「ではでは、俺は?」


「コウ兄さん」


「うむ、大丈夫そうだな」


「終わりました! コウ様」


 安心安心、と思ったその時、キッチンの方角からリーゼの声が。


「おう、ありがとう2人とも」


 シュリカは俺らの傍に腰を下ろしたが、近くでリーゼは立ったままだ。


「リーゼも座って良いんだよ? てか座ってくれ、なんかやだから」


 1人だけ立っているっていうのもなぁ。


「は、はい。すみません嫌な気持ちにしてしまい……」


 少しシュンとしてリーゼは、その場に座る。


『164年 7月14日 16時33分06秒』


 そんなことは気にせず、時間を確認する。


「んじゃあ、家具を買う前に部屋割りをするか」


 まだ時間もあるし俺はそう提案した。


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