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045

 翌朝

 昨日と同じような朝を過ごし、朝食も同じ場所で取り再び我が賃貸(いえ)へ。


「おはよう!」


 俺たちが家につくと、玄関前で人差し指と中指の2本をそろえて、ビシッと俺たちの方を指しながらイーロは言った。


「……おはよう」


 その姿に俺を含めみんなの反応が薄かったことは置いておいて、来るの早いなぁ。と俺は思った。



「では今日は二階を終わらせちゃいましょう!」


 俺が言うと、おー、と言う声が数人から聞こえてきた。


「じゃあ俺は廊下掃いちゃうね。えーっと……、ベランダ掃くのと窓拭きお願い」


「はいっ」


「でも箒はあと1つしかないよ?」


「誰がやるんだ?」


「じゃんけんで決めよう」


「あっ、私は残ったものをやりますので」


 という話を聞きながら、俺は廊下の突き当りで天井に箒を当てていた。


「そうそう、部屋に入るときは靴脱いでくれ、昨日綺麗にしたからな」


「「「は~い」」」


「おう」


 1人だけ返事の返しが違ったが、理解してくれたようでなによりだな。



 ベランダ掃除はシュリカに決まったようで、各々動き始めていた。

 ベランダがあるのは壁越しに2部屋ある方だけだ。なので部屋移動はベランダからでもできる。廊下を挟んで1部屋ある方は窓があるだけだ。

 ……てか俺がベランダやれば良かった。そっちの方が楽じゃないか。

 そんな事を考えながら廊下を掃いていた。廊下の突き当りの窓を拭いているルナは身長が足りなく、窓枠に座ったり立ったりしながら拭いていた。なぜこういう分担になったのかは謎だが、見ていてもバランスが良く、落ちそうになって危ないと思う事はなかった。



「あっコウくん、ベランダ終わったよ~」


 1時間くらいが経ったとき、廊下を掃き終えて階段を掃いていると、上からひょっこり顔を出したシュリカが俺に言ってきた。


「おー、じゃあ次は廊下拭きだな……俺がやるからシュリカは階段掃いてくれないか?」


「えっ、いいよー、私が廊下やるよ」


 彼女に楽な方の仕事をお願いしようと考えたのだが断られる。……まぁいいか、うん。


「そっか、お願い。拭いた所からは土足厳禁って言っといて」


「りょーかーい」


 楽しそうな返事をしてシュリカは視界から消えた。


「あ、あと窓は換気のため開けといてくれー」


「わかったー」


 シュリカお姿は見えなかったが声が聞こえた。

 ……うしっ、階段やったら次はどこをやるかな。



 階段を終え、そこにつながる廊下を少しばかり掃き、今日の掃除を終える。

 シュリカが拭き始めてすぐ、窓を拭き終えたルナが、「拭くのやるー」と言い、二階廊下を雑巾がけで走り回っていた。もちろんこの時靴はちゃんと脱がしております。そうしないと拭いたそばから汚れるからね。そして、ルナに場所を取られたシュリカは階段の拭き掃除を始めたのだった。

 次に数ヶ所の窓拭きが終わったイーロは、二階で最後に残っていた窓を拭き始めたそうだ。そこに自分の場所が終わったリーゼも加わり、窓拭きを終わらせていた。

 ルナが廊下を拭き終えて、階段に来た頃には階段掃きは終わっていたので、ルナに箒を持たせ、一緒に階段を降りた廊下の掃き掃除をしている途中でやめたのだ。

 床だけならすぐ終わるんだけど、天井や壁にも埃がついているときがあるからなぁ。でも、


「お疲れさん。あと3、4日あれば終わりそうだな」


 俺は玄関でそう発言した。


「そうですね」


 返事をしてくれたリーゼの後ろでは、ドアに手をかけさっさと帰ろうとしているイーロが見えた。


「ちょいちょい、おにいさん」


 俺はリーゼの横を抜けイーロの腕を捕まえた。


「はぅっ、……ば、バレたか」


「今日は逃がしませんよ。で、何を企んでるんでんですか?」


「許可してくれるか?」


「……何を?」


 いきなり許可を取られましてもねぇ。


「内容によりますよ?」


「そ、そうだよな。……わかった! 俺も男だ、言うぞッ」


 一呼吸置いてからイーロは口を開いた。


「ここに俺も住んで良いか!?」


「……ここ? この家に?」


「そうだ! お願いします」


「え、ええっとー……」


 まさか一緒に住むという申し出だったとは。これは俺の一存で決めない方が良いのではないか?

 後ろもちらっと見ると、3人も驚いた表情をしていた。


「と、ところで、何で昨日は逃げたんだ?」


 決定を後回しにして、俺はどうして隠そうとしていたのかを聞いた。


「それは、……恩を売ってからだと断りにくくなると思ってな」


「……ははっ、なるほど」


 その正直な答えに俺は思わず笑みがこぼれた。


「わかった。今日、宿で話し合ってみるよ。ここに来てから結構お世話になってるからな。出会いの時は除いて」


「お、おう! よろしく頼むっ」


「オッケー、じゃあ、改めて帰りましょうか」



 イーロとは途中で別れ宿へと帰り着いた。晩ご飯はいつもの通り外で食べてきている。


「ではでは、緊急ミーティングを始めます」


 宿の部屋にはベッドは4つあるが、椅子が2つしかないため、平行に並んでいるベッドに2人ずつ腰掛け、向き合うような形になっている。


「議題はイーロと一緒に住んでもいいか、です。何かある方、挙手を」


「「「…………」」」


「……えー、では、イーロと住んでも良いよという方手を上げてください」


 ルナだけが手を上げる。


「シュリカとリーゼは嫌という事でいいのかな?」


「あっ、いえ、私はコウ様のお考えを尊重します!」


「私は、……反対かも」


 リーゼはいつも通りか。シュリカはよろしくないようだ。


「シュリカ、理由を聞いても良いか?」


「うん、……最初に会った時、コウくんの剣取ったでしょ。だから」


 なるほど。


「だからあまり好きになれないということ?」


「うん、ルナちゃんには悪いと思うけど」


「うん? 何であたしに悪いと思うの? 別に大丈夫だよ!」


「そう? なら良かった」


 シュリカはルナに微笑み、それにつられたのかルナも笑っていた。


「……わかった。みんなの考えはわかりました! まだ数日あるし家の掃除が終わった時最終確認をまたします。各自考えとくように! では今日は寝ましょう」


「は~い」


「……おやすみ」


「おやすみなさいです」


「あっリーゼ」


「はい、なんでしょうか?」


 ロウソクの灯りを消そうとしていたリーゼは、俺が呼んだため消さずに振り向いてきた。ルナとシュリカはいつも寝ているベッドに潜り込んでいる。


「ゴミ袋買ってくれたときの余ったお金の中から、自分のお駄賃分取ってたか?」


 お金を返してもらった時、友達ができたという言葉が大きすぎて聞くのを忘れていたのだ。リーゼの事だから取っていないと見ている。


「い、いえ取ってはいません。頼まれた事をちゃんと――」


「いいんだよ、気にしないで。俺も多く渡しすぎたと思っているし、これはいつものお礼も込めた……お給料みたいなものだからさ。気にしないで受け取ってくれ」


 リーゼの言葉を最後まで聞かずそう言うと、俺はリーゼの片手を取り、掌へと銀貨2枚を乗せた。こうでもしないと受け取らないもんな。


「……は、はい、ありがとうございます」


「うん、じゃあ今度こそおやすみ」


「おやすみなさいませ」


 リーゼはロウソクの灯りを消し辺りは暗く染まった。

 ……あとは、イーロの問題か。そういえばシュリカとイーロが話している姿を見たことないかもしれないな。

 布団に入り考える。

 俺は一緒に住んでも良いと思っていた。剣も帰って来ているし、俺自身あの時の事はもう相殺できているという結論が出たからだ。あれからは本当に色々世話になってしまっている。結構いい物件を紹介してもらったり、街案内してもらったり、掃除の手伝いと。これが恩を売る策略だったのかも知れないが。

 あのルナに惚れるというイーロを見ているとおもし……影で応援している俺はそう考えていた。もしその言葉が嘘だったとしても、わざわざ捕まった人の所に戻って盗むなんて事はしないだろうしこの考えは排除した。

 でも、シュリカが嫌となると考え直さなくちゃなぁ。………………あと数日でイーロの印象を良くすればいいのか?

 ……うん、それしかないな。明日、イーロとも話してみるか。

 そういう考えにまとまったので俺は目をつぶり眠りについた。



 ----



 次の日もいつものようにイーロは来ていた。


「今日から一階の掃除だ! リビングと1部屋、廊下に風呂場、キッチン、トイレ……とにかくやるぞー」


「「おー」」


「うん」


「はい」


 その言葉で掃除は始まった。

 簡単に話した結果、まずは部屋から始めることに。

 一階にも荷物、というか家具は何もないため掃除は簡単だ。二階同様掃いて拭いてお終いなのだから。

 部屋をやり、廊下に流れリビングへ――


「……ふぅ、掃きはほとんど終わったかな」


 昨日でコツを掴んだようで、掃除の効率が上がっているみたいだ。ものの4時間程でここまで終わったのだもの。


「キッチンは私がやるからコウくんは玄関お願いしていいかな?」


 シュリカにそう言われる。俺はもちろん、シュリカも掃き掃除担当なのだ。あとの3人は窓兼拭き掃除担当。そう、昨日と同じだ。


「……あぁ、玄関か! すっかり忘れてたな。やってくる」


「うん。お願い」


 シュリカの言葉を受けながら玄関へと向かう。


「おお、コウ、終わったぞ。次どこやるか?」


 その途中、部屋の窓を拭き終えたであろうイーロと出会った。


「お、ありがとう。次はー……」


 廊下はルナが走りながら拭いて終わらせていたし、リビングは今ルナとリーゼがやってくれているから……風呂か?


「……風呂場お願いしていいか?」


「おう、わかった」


 手をひらひらと振りながらイーロは風呂場に向かってくれた。

 ――そしてすぐ、イーロと顔を合わせた。

 俺が玄関を掃き始めて5分もしなかっただろう。掃き掃除をしていると、水回りを掃除する道具がないと言われたのだ。

 ……リーゼさんにまたお買い物を……あっ、そうだ。


「イーロちょっといいか」


「おう。風呂掃除できないからな、大丈夫だぞ」


 俺はイーロについて来てもらい、外に出て家の裏へと回った。家と外壁の間にいるわけだ。ほんの少し後ろを見るとお風呂場であろう窓が見える。除き防止のためか、高めの位置についているからそう思ったのだ。


「ここなら聞かれないかな」


 首を振り、左右を確認する。外壁と家、土と草、あとイーロ以外は視界に入らなかった。

 ……うん、誰もいないな。


「ンで、なんの話だ? こんな所で」


 確認した所でイーロに質問をされる。


「もう少し声のボリューム下げてくれ、シュリカに聞かれたくない」


「ん? わかった」


 小声で喋った俺と同じほどの声量で返事をしてくれた。


「昨日聞いた結果だと、シュリカがあまり良く思っていない事がわかった」


「聞いたって……オレが一緒に住んで良いかどうかか?」


「そうだ。だからそのイメージ払拭のため一緒に買い物に行ってくるのはどうだ?」


「……なるほど。でも何でそこまでしてくれるんだ? きっとオレを良く思っていないのは最初のあれだろ? コウはなぜか許してくれたけど、シュリカ……さんの言う方が正しいと思うだが……」


 ……本人がそれを言うのか? まぁ正論だとは思うけどな。

 俺も本心をイーロに話すことにした。


「えっ? あー、それは油断してた俺も悪いと思ったからかな。ルナがちゃんと取り返してくれたしな。イーロもルナには嫌われたくないと思っているだろ?」


「ま、まぁな」


「だから信用できると思ったんだよ」


「…………それだけか?」


「おう!」


「……っぷ、あはははは、面白いな。そうだよ、オレはもう悪い事はしない! そう決めた。信用するもしないも自由だがオレはそう決めたんだ!」


 いきなり大きめの笑い出したイーロにビクッとしたが、それを悟られないように話し出した。


「こ、声、声っ! ……だから良いとこ見せて来てくれ、とは言わないが信用される奴になって来てくれ。あっ、買い物代は俺が出すから大丈夫だ」


「あー、悪い。そんくらい良いよ、オレが出す。挽回の場を作ってきてくれた礼だ」


「そうか、じゃあ俺はシュリカに言ってくるから頼んだぞ」


「おうよ!」



 イーロと玄関で別れ俺は家の中に入った。

 シュリカはキッチンの方を掃除していたよな。

 リビングに入るとキッチンを掃いているシュリカが見えた。


「シュリカ、頼みたい事があるんだけどいいか?」


「んー、なに?」


「買い物行ってきてほしいんだ。水回りの掃除道具がなくてさ。雑巾で擦っても水垢は取れにくいだろ?」


「……そうだね」


「イーロも案内でついて行ってくれるからお願いな」


「……イーロさんがいるのなら私行かなくてもいいんじゃない? 昨日だってリーゼちゃん1人だったし」


「で、でも、リーゼは時間かかっちゃっただろ? だから案内は必要かなぁーと思ってさ、それにイーロは掃除とか詳しくなさそうだろ? だからさ」


「ふぅ~ん、……わかったわ、行くね。他に買ってきてほしいものはない?」


「特にはないかな。何か使えそうと思ったものを買ってきてもいいよ、これお金」


 イーロが払うとは言っていたが、俺は昨日リーゼから返してもらったお金の袋を一応渡す。


「はーい、じゃあ行ってきます」


 シュリカは持っていた箒を俺に預け、玄関へと歩き出した。


「…………ふぅぅぅ~」


 何とか行ってもらうことはできたな。あとは、イーロが頑張るだけだ。

 さっきまではなかった、体に纏わりつく湿り気を乾かそうと上着をパタパタしながら俺はイーロを応援していた。


「こ、コウ様ぁぁッ! 昨日はすみませんでしたぁぁ!!」


「えっ、ちょっ、リーゼどうしたんだ!?」


 リーゼは大粒の涙を目縁に溜めながら謝ってきたのだ。


「さっきコウちゃんが昨日帰って来るのが遅かったって言ったからだよ」


 リーゼの後ろから顔を出してきたルナがそう教えてくれた。

 そういえば2人はリビングにいたんだった! 今の話、丸聞こえじゃないか!!


「あっ、あれは、あれなんですよ! シュリカにイーロと一緒に買い物に行ってもらおうと思って出た言葉で、本心というわけではないのですよっ!?」



 ----



「―――――でしたぁぁ」


 歩き始めたシュリカとインディロの後ろの家からそんな声が聞こえてきた。


「な、何かあったのか?」


「きっとコウくんがリーゼちゃんに何かやったんですよ」


「そう……なのか?」


「はい、きっとそうです。付き合い長いですから」


 微笑みながら、「いつもの事ですよ」とシュリカは付け足していた。


「そうか……」


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


「…………」


「……あ、あのー」


「何ですか?」


「えっと、雑貨屋はこっちッス」


 大通りに出てから左に足を進めた。



 ほとんど無言の時間が続いていた。インディロは何かを話そうとするが、話題が見つからず断念。シュリカは普段通り、いつもの変わらない顔で歩いていたのだ。


「ここッス、ここが雑貨屋ッス」


 何も進展はないまま、入っていった雑貨屋は昨日リーゼロッテが来たお店だった。

 店自体が狭いせいか、商品がごちゃごちゃと置いてある。裁縫用と思われる糸や、タオル、木で編んである籠と色々な商品をそろえている。だが、ゴミ袋のコーナに何もなかった。理由は昨日リーゼロッテが買い占めたからだが。


「水汚れを落とすのは……あった!」


 シュリカが見つけたのは固くしなやかな木の繊維で出来ているたわしのような物だ。持ちやすいように正方形の石が付いており、石の一面がブラシのようになっている。正方形の石から木の繊維が生えているように見える物だった。


「ふぬっ」


 シュリカはそのたわしを取ろうとするが、少し高い位置にあり、手が届かない。


「むっ、ぬぬぬっ」


「オレが取るッスよ!」


 手を伸ばしているシュリカの横からインディロはたわしを取り、シュリカへと渡した。


「あ、ありがとう」


「いえ、他にも何かあれば取るんで言ってください」



 雑貨屋を物色し始めて10分程で買い物を終了していた。


「オレがお金払おうと思ったんだけどな……」


 シュリカがお会計中、先に雑貨屋から出ていたインディロは呟いた。

 インディロがお金は払う言ったのシュリカに遠慮されてしまったのだ。しつこく言ってこれ以上関係を悪くしたくないと考えたインディロは身を引いたのだった。


「お待たせしました、では帰りましょうか」


 見た目機嫌が良さそうに、シュリカは雑貨屋から出て来た。


「お、おう」


 歩き始めたシュリカに続きインディロも歩く。



「ここで右ですよね?」


「あ、はい、そうです……」


 このままだと何も話せないまま、大通りから家に続く道へと曲がってしまう。


「……あの、シュリカさん、お話があります」


 と思ったのか、インディロは曲ってから立ち止まりそう言った。


「キャっ、す、すみません」


 いきなり立ち止ったため、後ろを歩いていた人がインディロにぶつかったのだ。


「あっ、こ、こちらこそ」


 ぺこっと軽くお辞儀をされたインディロは、同じようにぶつかった女性にお辞儀を返していた。


「すみません、大丈夫ですか?」


 シュリカも気を使ってか、女性に話しかける。


「はい、大丈夫です。ちょっとぶつかっちゃっただけですので」


 すみませんでした。と彼女は2人の横を抜けて先を歩いて行った。


「……いきなり止まったら危ないですよ」


「……ハイ……」


 しょんぼりとした面持ちでインディロは返事をした。


「話があるんですよね? 私も話したい事ができましたので……座れるとことに行きましょう」


 そう言ってシュリカは家までの道の途中に見えるベンチの方を指さす。



「大体の話はわかるわ」


 ベンチに腰掛けてからシュリカは言う。


「イーロさんが良い人だって思わせようとしたんでしょ?」


「なっッ、……そんなところ……です」


 シュリカの言い方には棘があったが、言い訳をせずにインディロは肯定した。


「と言うのも、買い物に行く前、外でコウくんと話してたでしょ?」


「えッ!? な、なぜそこまでっ!」


 インディロは大袈裟とも思えるほどの驚きようだった。あの話はシュリカには聞かれないようにとコウが言っていたのだ。だから当然シュリカは知らないとインディロは思っていたのだ。


「ふふっ、キッチンを掃いていたら聞こえてきたのよね」


 インディロの驚きっぷりになのか、はたまたコウの少し抜けているところに、なのかはわからないがシュリカは笑っていた。


「本当ッスか……」


「ええ。コウくんたちがいた所は多分キッチン裏だったんだと思うわ。近くにドアがなかったかしら?」


「……見てないですね」


 少し考えてからイーロは答えた。

 実際、キッチンから繋がるドアはコウたちがいた場所の近くにあったのだ。コウとインディロが外壁の角まで行っていれば見えていたのだから。つまり、話をした場所で止まらずに、家沿いに直角に曲がった所にドアはあったのだ。コウはその場で人がいないか確認していたが、しっかり角の奥まで見るべきだったのだ。


「どのくらい話聞こえたんスか?」


 インディロは続けて話した。


「う~んと、何の話だ? だったかしら? そんな声が外の方から聞こえたの。それからは聞こえなくなっちゃったけど、ドアに耳を近づけて聞き耳立てていたら聞き取れたわ」


「てことは全部……」


「うん」


 えへへっ、と舌をちろっとだして、コウがいたら悶絶してしまうかもしれないほど可愛らしい小悪魔っぽい仕草をシュリカはしていた。


「途中笑い声には驚いたけどね」


 しかし、インディロは、シュリカの事が視界に入っていなかったため見ていない。今、インディロの視界には地面が映っていた。


「そうだったのか……」


 頭を両手で押さえながらシュリカにも聞こえない程小さい声でそう呟いた。


「あっ、私も考えていたんだよ。話を聞いて、この買い物の中でイーロさんがどんな人なのかを見てね」


 インディロの姿を見てシュリカは慰めるように言った。


「もう答えは出ててね」


 その言葉は耳に届き顔を上げたインディロは、シュリカをジッと見つめる。


「さっき決めたの。……これからよろしくね、イーロさん」


「あ、」


 もう駄目だと思っていたのだろう。シュリカの言葉を聞いて一瞬言葉が出なくなっていた。


「……ありがとうございます」


 一礼してインディロはシュリカに向き直した。


「でも、どうして……」


 自分で言うのも変だが気になったのだろう。インディロはそう口にしていた。


「うん? さっき女の子にすぐに謝ってたからかな。……それに、ルナちゃんの事を好きなのも知っているし……なにより、うちであの言葉を聞いたからね、もう悪い事はしないって」


 私もコウ君に似てお人好しになっちゃったかしら? とシュリカは付け足した。コウの場合、お人好し、というか、身内、というか、仲良くなった人に甘い、と言った方がしっくりくるかもしれない。


 「なるほど……ありがとうございます。えーっと、姐さんて呼んでも……?」


 ぶつかったとき、女、子供と戦うことを前から良しとしないインディロは反射的に謝っていたのだ。あそこでぶつかって来ていたのが男だったら話が変わっていたかも知れない。悪い事ではなくてもすぐ謝らず、更には(ガン)を飛ばすくらいはしていたかもしれないのだから。


「えっ! しゅ、シュリカでいいわよ。周りから変に思われちゃうじゃない」


「わかりました! シュリカさん、これからよろしくお願いします」


「うんっ。あと、コウくんと同じように呼び捨てで、喋りやすい話し方でいいですよ」


「あ、じ、じゃあ遠慮なくそうさしてもらいまッ、もらう。オレの事も呼び捨てでいいから、敬語もいらない」


「わかったわ」


 2人の表情は明るかった。


「じゃあそろそろ帰りましょう」


「うッス」


 家まで徒歩5分以内のベンチから立ち、2人は再び歩き始めた。


閲覧ありがとうございます!


……宣伝!

昨日、スマホでちょこちょこ書いていた短編を上げたので、暇なとき、時間があればちらっと見てくれると嬉しいです。

以上、宣伝でしたm(__)m

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