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003

 

 フィーム家に居候を始めて約半年がたった。


 生活は、朝起きて乳しぼりをしてからご飯を食べる。たまにジャンさんについて行って町に行くことも。町へ行かないときは、字の勉強。ハンナたちが町に行き、俺は行かないというときも1人で勉強していました。ミリアさんが教えてくれたりもしました。 

 ジャンさんが帰ってくると、剣術の稽古をつけてもらい、晩御飯前に少し自由時間。大抵はカレン、ハンナと遊んでいましたよ。


 勉強のかいあって、文字をマスターとまではいかないが、ほとんどわかるようになったのです。発音は翻訳の効果でわかるので、書くのを覚えるだけですからね。それでも5ヶ月ほどかかりましたけど……。カレンも同じころに覚え終えたし、あの競争は引き分けと終った。

 何も賭けてないとはいえ、負けるのは悔しい。引き分けで良かったと思う。


 そうそう、初めて町に行ったとき、ジャンさんが「金がないのも困るよな」と、お手伝いのお給料として、銀貨1枚を毎月くれると言い出した。

 居候の身なのにそれは悪いと思い2回断りました。しかし、彼も引かない。3回目には受け取ってしまいました。これが日本人というものです。

 おかげで、全財産、銀貨4枚と銅貨83枚でございます。

 銅貨が100枚で銀貨1枚になり、銀貨100枚で金貨1枚、金貨100枚で白金貨1枚となるそうです。

 相場は知りませんが、お給料は良い額だと思います。やったね!


 白金貨は、めったに見れるものではないらしいです。

 ジャンさんも今までに一度しか見たことないという。あまり出回ってないのかもしれない。


 あとは、文字を覚えてからの1ヶ月、勉強の時間が無くなったので本を読んでいた。

 これで常識知らずから脱してやる。という意気込みで読み始めましたよ。



 1冊目の本で、この世界は5つに別れていることが分かった。

 大陸は、全部陸続きということはないが、大陸の方が割合は多く、大陸60%、海40%といったところらしい。

 そして、俺が今いるのは、西のウェース大陸だ。ほかには、南のサース大陸、北のノス大陸、東のイース諸島、そして、中央のミーア大陸である。

 西と南はいたって普通らしい。普通と言っても俺がこの世界にいる自体普通ではないのだが……。

 北は昔、魔王が存在し、勇者が倒したという伝説が残っている。魔王がいたためか魔物が多く、凶暴性も高いという名残があるそうだ。

 東は、小さい島や大きな島がいくつかあり、それが大陸ではなく、諸島と言われる所以だそうだ。無人島もいくつかあり、ダンジョンもあるかもしれないので冒険者に結構人気だとか。

 中央は、人が一番集まっており、中央の中心都市は活気があるという。


 ある物好きの船乗りが、西の大陸からさらに西に行くとどうなるかという実験を行ったことがあるらしい。

 結果は東のイース諸島についたとのこと。

 それを聞き、真似した人が南から南に向かったところ、北のノス大陸に着いたという。

 異世界も丸いみたいだ。端っこまで行って、何もないということにはならないな。

 この発見により、地名が変わったりはしなかったそうだ。


 あと、この世界に住む種族だが、人族、獣人族、エルフ、ドワーフ、龍人族の5種族がいるみたいだ。


 大陸系の話の本なのに、なぜか日付関連のことも載っていた。

 俺も半年間暮らしていたのだ。日付に関してはわかっている。


 地球と結構似ていて、1月から12月まであり、四季もある。

 1月から3月が冬、4月から6月が春、7月から9月が夏、10月から12月が秋となっている。

 俺が来たのは6月だった。日本は8月の初めだったのに、ズレがあるらしい。まあ、気にしてもしょうがない。

 あとは、1ヶ月は30日間で固定されているということだけかな。

 時間は1日24時間。これは地球と全く一緒だ。


 今の日付は、162年12月30日となっている。

 162年というのは、勇者が魔王を倒して世界が救われた年を0とし、これからも平和に過ごせるように勇者に感謝として数え始めたそうだ。明日で、魔王の死から163年目になるとも言える……。



 2冊目の本は、魔法についてである。

 こっちに来たばかりの時、ハンナが読んでいたものだ。

 この本には、魔力は生まれた時から自分が持てる魔力最大量が決まっていると書いてある。


 15歳から伸びが悪くなり、そして、25歳くらいで魔力最大量に到達するらしい。

 だが、俺は知っている。成長に個人差はあっても限界はないと。神様に聞いたのだもの、正しいはずだ。

 魔法使いになりたいと思うならまだしも、魔法使いなんてどうでもいいと思ってる人は、魔法は生活魔法ぐらいしか使わないのだろう。

 生活魔法は後で説明するとして、魔力が極端に少ない人でも、子供の頃から使っていれば、誰でも魔法使いになれると俺は思っている。

 子供の時の方が、伸びが良いのだから。

 個人差もあるが成人になるまでに伸ばせばいいのだ。魔力は使えば使うほど伸びるらしい。

 魔力無しだった俺も、この間、指先から一瞬だが火が出るようになった。

 まだ俺が成人していなければ魔法をちゃんと使えるのだろうが、成人してしまっているのだから諦めるしかない。

 成人していなかったとしたら冒険者にはまだなれないので、時が経つのを待たなくて良かったと考えよう。

 25歳を過ぎたら今以上に上がりにくくなり、上がっても微々たるものなのだろう。だから、限界がないことに気づかれないのかもしれない。


 この本は有名な人族の魔導士が書いた人族用の本らしいので、みんな信じて疑わないんだろうな。

 魔導士とは、魔法使いの別の言い方で魔法使いと特に違いはない。ほかにも魔術師と言う人もいるが、これも同じである。


 そして、知りたかった生活魔法だが、これは日常生活で使われる全般の魔法のことであることがわかった。

 よく使われるのが、ボックスという魔法だ。これは、アイテムや道具などをしまえる空間を作り出し自由に出し入れできる魔法だ。ゲームでよくあるアイテムボックスだな。

 子供のころは容量が小さいが、大人になると最大64個入るそうだ。同じアイテムでも同じ枠には入らず別の枠となる。

 ほかにも、火をおこしたり、のどが渇いたときなど水を出したりと、便利な魔法である。

 威力は極小なので安全らしい。



 3冊目はまだ読んでいる途中なのだが、勇者のお話である。

 あらすじは、勇者が召喚され、魔王を倒すべく旅に出る。

 旅の途中で仲間を増やし、魔王いざ勝負。

 魔王撃破、世界は平和になりました。めでたし、めでたし。

 みたいな感じだ。

 王道な話であるが、これは現実に起こっていたと思うと何とも言えない感じがある。

 ……勇者は他の世界から召喚されたのかという点が疑問だ。



 以上が、俺が新たに得た情報である。


 そして今、俺はジャンさんと一緒に町に向かっている。

 明日は新年ということで、世間は休日になるらしい。

 冒険者も例外ではないそうだ。

 フィーム家では、新年パーティ&お誕生日会をやる。

 この世界は数え年で歳を数えるのだ。


「明日で17かぁ……」


「そういえば、コウが来てから半年くらいが経ったよな」


 馬車を操っているジャンが話しかけてくる。

 馬車の中での、俺の独り言が聞こえてしまったらしい。


「そうですね、あっという間でした」


「うちにいて楽しいか?」


「もちろんです!」


「それは良かった」


 とジャンさんが言い、会話は一旦終わった。


 俺は、町にあまり行かない。

 町に行くより、本を読みたかったからだ。行くとしても、月1回程度だ。

 そんな俺が、なぜ今町に向かっているのかというと、誕生日プレゼントの調達のためである。

 フィームさんちは、みんなにプレゼントを渡すそうだ。あの2人は、まだ経済力がないので貰うのみだが。

 プレゼントは貰ってからのお楽しみということで、昨日はミリアさんが買い物に行っていた。今日は俺の番というわけだ。

 銀貨4枚と銅貨83枚で何を買おうかな?


「もう着くぞー」


「はーい」


 馬車から顔を出す。イーガルの町だ。

 町の周りは5メートルくらいの壁があり、魔物が入らないようにしている。


 町の入口にいる兵隊さんに挨拶をして中に入り、馬車小屋に止める。


「んじゃ、あとは自由行動な。お昼にここ集合で」


「了解です。いってきまーす」


「おーう」


 そう言うと、ジャンさんは仕事に取り掛かる。

 俺は町に繰り出した。



「どこ行こうかな~。あまり店を知らないんだよな」


 あてもなく歩いて行く。


「いつもより人が多い気が……人混みきらいだなぁ」


 そう言いつつ、取り敢えず冒険者ギルドに向かうことにした。

 ギルドの近くは店いろいろあったしな。


「よし」


 意気込んで裏道に向かう。

 ギルドまでならこっちの方が早いことを俺は知っている。

 伊達に何回も迷ってるわけではないぜ。6、7回しか来てないがな。


「ちょいと、そこの兄ちゃん」


「ん?」


 裏道を歩いていると呼び止められる。


「おっちゃんの商品見ていかないかい?」


 汚れた灰色のローブを着たオヤジが露店を開いていた。


「……何でこんな人の来ないところで?」


「今の時期、あっちは場所代が高いからねぇ。ここでもたまに兄ちゃんみたいなお客が来るからな。おっちゃんはこっちの方が性に合ってるんだよ」


「場所代も無料だし?」


「あっはっはっはー」


 笑うということは当たったのか? 適当に言ったのだけど。


「言うねぇ兄ちゃん。まぁ安くするから見ていくだけ見てってよ」


「見ていくだけならね」


 おっちゃんの露店はいろんな種類が置いてあった。

 アクセサリーから小さめの武器、薬草まで。雑貨屋みたいだな。


「おっ、これかっこいい」


 鞘も柄も黒く、鍔がない忍者刀みたいな短剣を手に取った。


『魔法武器 スキル ボックス』


「ん?」


 頭の中に流れてきたぞ。なんだこれは?


「……おっちゃん、これ魔法ついてないか?」


 オヤジは驚き、ニヤニヤした様子で答える。


「それに気づくとは、すごいな兄ちゃん。その若さで一流の冒険者か何かか?」


「……そんなことはいいから、魔法武器って何だ?」


「教えてくれないのかい、ケチだねぇ。まあいいや。魔法武器は名の通り、魔法の能力がついた武器のことだ」


「魔力無しでも使えるのか?」


「……そんなこと聞くと、冒険者じゃないってわかっちまうよ?」


「わかったならいいじゃないか。で、どうなんだ?」


 魔力無しで使えるなら、荷物の心配が減る。今の俺ではボックス魔法すらまともに使えないからな。


「無しでも使えるよ。でも兄ちゃん、これを欲しいということは魔力が極端に少ないのか?」


「……なぜそうなる? ダンジョンでは魔力は大切だろう。魔力消費が少ない魔法でも、戦闘終わりで何回も使ってたらなくなるだろ。塵も積もれば山となってしまうんだぞ?」


「ん? ……そうなのか、わかった」


 あれ? ことわざの使い方あってるよな? まぁ、魔力が超少ないのは騙せたみたいだしいっか。

 ばれてもいいのだけど、笑われるのはいやだからな。


「で、兄ちゃんそれは買うのか?」


「もちろんだ。いくらだ?」


「銀貨3枚だが、兄ちゃん面白いから2枚にしとくよ」


「そんな安いのか!?」


 俺は銀貨4枚しか持ってない。銀貨10枚くらいだったら値切ってやると考えていたのに。

 それ以上だったら諦めていたが。


「普通は銀貨50くらいじゃないか? おっちゃんもよく知らねぇが」


「たかっ! なぜこんな安く!?」


「こんなとこで露店開いてるんだ。高くちゃ誰も買わんだろ。それに、羽振りのよさそうな奴には高値で売ってるしな」


 オヤジは悪い人だった……。


「その剣は今回の目玉商品だよ。今日入れて一週間、ここで商売してきたが誰も気づかなかったってわけだ。兄ちゃんを待っていたのかもな」


「商売上手だな……」


「おーっと、褒めてもなんも出ねぇぜ」


 笑いながらオヤジは言う。褒められて満更でもないみたいだ。


「じゃあ、ほかにも買うからこの剣銀貨1枚でどうだ?」


「なっ!? ずうずうしい奴だな」


 それでも、しょうがないな、とオヤジは言ってくれた。根は良い人なのか? それとも俺が貧乏に見えているのか? ……安くなるならどちらでもいいか。


「その分たくさん買っていってくれよ」


「いいのがあればな」


 そう言って、俺は物色を再開した。


「……この指輪5個ないか?」


 俺は、銀色で薄い青色の波の模様が入った指輪を指す。


「置いてあるだけになっちゃうなぁ」


「そうか……」


 色違いでもいいか。


「じゃあこの青の模様が入った指輪2個と、黄色の模様が入ったのを3個。あと、首にぶら下げられる紐を5個と、短剣を入れて銀貨4と銅貨50でどうだ?」


 ほぼ全財産を使う。


「あっはっはっはっ。いいねぇ兄ちゃん、値段を自分で決めちまうか」


「値札がないからな。相場もわからないし」


「おっちゃんもちゃんとした相場はわからねぇからなぁ……。兄ちゃんのためだ、その値段にしといてやろう」


「ほんとか! ありがとう」


「いいってことよ。今日でここも店じまいだからな。紐はサービスだ」


「助かる」


 お金を渡し、商品を受け取る。


「店じまいってことはこの町からいなくなるのか?」


「そういうことだ。おっちゃんは世界をぶらぶらしながらこんな風に露店やってるからな。機会があればまた会うだろう」


「そうか。ありがとな、おっちゃん」


「おう、まいどー」


 そうして、俺はギルド方面に歩いて行った。



 少し歩く、まだ裏道だ。

 ここら辺でいいか。でだ、どうやって魔法を使うんだ? 使った事ない魔法は感覚を探らないとわからない。

 短剣を持ち考える。

 頭に浮かんできた言葉は意識すれば消えた。オンオフができるみたいだ。


「……ボックス」


 取り敢えず言うと目の前にちょっとした歪みが。


「おお、できた」


 ハンナが使っていたのを見たことあるから覚えている。確かにこんな感じだった。


 短剣以外の買った物を入れる。

 短剣は入れたら魔法を使えなくなるかもしれないので、持っておくことにした。

 帯剣できるようにするものも買うんだったな。

 腰に差していた剣をボックスに入れ、短剣をそこに差す。

 取り敢えずはこれでいいか。……神様ことウェース様が言っていた特殊能力は、物のスキルが分かる能力なのか?

 でも、前にジャンさんに魔法アイテムのギルドカード見せてもらったとき、触ったが何もでなかったぞ?

 ……よくわからんな、いずれわかるかな?

 そんなことを考えていると、冒険者ギルド前に到着した。

 銅貨33枚になっちゃったし、どうしよう。


 ギルド近くは露店が多く出ており、いつも以上に人がいた。


「いい匂いだ」


 匂いの方に近づくとフランクフルトが売っていた。

 名前も見た感じも俺が知っているフランクフルトと同じだった。

 それを銅貨10で買う。全財産、銅貨23枚となりました。


「んん! 味も同じだ! ケチャップ欲しいな」


 あっちと同じ味の料理に出合い、喜んでいるとお昼を告げる鐘が鳴る。

 この町は、昼に一回鳴るのだ。

 やべっ、もうこんな時間か。おっちゃんと長く話し過ぎたみたいだ。

 来た道を走りながら戻って行く。

 露店のあった場所には何も無い。おっちゃんはもういなかった。



 馬車小屋前に到着するとジャンさんがすでに待っていた。


「すいません! お待たせしました」


「お帰り、良いのは買えたかい?」


 走ってきた俺を笑顔で迎えてくれる。


「はい!」


「それは良かった。ん? 短剣買ったのかい」


 俺はうなずく。


「剣を差すのがないのか。帰ったら俺の使い古しでよければあげるよ」


「欲しいです!」


 飛びつく勢いで返事を返す。


「わかった、わかった」


 落ち着けという感じになだめられた。


「じゃあ、帰るか」


 ジャンさんはそう言い、馬車を動かしだした。



 ----



 次の日


 朝起きた俺は、カレンとハンナと3人でウギの様子を見に行く。

 何事もなかったので家に入りくつろぐことにした。


「くらえ、コウ兄ちゃん!」


 助走を少しつけ、両足でキックをしてきたカレン。を上手くキャッチする。

 半年間だてに剣術を習ってるわけではないぜ。このくらい避けるのは朝飯前だ。避けたらカレンが地面に落ちるのでキャッチしたわけだが。

 落とさないと信頼からの両足蹴り攻撃なのか? まあいい。


「俺にそんな蹴りが効くと思ったか。お返しだ」


 キャッチしたカレンをうつ伏せに置き、両ももを俺の両膝で挟み横腹をくすぐってやる。


「あっあはははははははっ! ちょっっつにいっっ! きゃはははっやめっ!!」


 バタバタと暴れるがうつ伏せで固定しているため俺にダメージはあまりない。かかとが背中に来るぐらいだ。


「降参か?」


「きょ! きょうしゃん!!」


 降参と言いたかったのだろう。言えてないがやめてあげる。


「ふーはーはー。ずぴっ」


 カレンは息を切らし、鼻をすする。


 ハンナは椅子に座って読書中だ。

 ミリアさんは朝ご飯を作ってくれている。

 ジャンさんはまだ就寝中である。

 カレンを倒したので俺も読書に戻る。


「朝から元気だなあ」


 ジャンさんが起きて最初の一言だった。


「「「おはよう」」」


「ご飯出来ましたよー」


 みんなで挨拶。朝ご飯もできたようだ。



 朝ご飯を食べ終え、俺は前に決めたことを言うことにした。


「あの」


「どうした?」


 ジャンさんが聞き返す。


「俺、あと半年したら冒険者になろうと思います。なので、町で一人暮らしをしようと考えています」


 少しの沈黙の後、ジャンさんが言う。


「そうか。俺もミリアもいつ言い出すかと話していたが、半年後か」


「寂しくなってしまいますけど、コウさんが決めたことですもの。反対は私もジャンもしませんよ」


「えっ、お父さんもお母さんも止めないの!? お兄ちゃんいなくなっちゃうんだよ?」


 カレンは俺に行かないでほしいいそうだ。ハンナもカレンと同じ気持ちなのだろう。目で訴えてくる。


「来た時から冒険者になりたいって言ってたしな。父さんたちも元は冒険者だったんだ、それなのに危ないから止めろとは俺は言えない」


 ミリアさんもその言葉にうなずく。


「そんな……寂しいよ!」


 カレンは泣きそうになっている。


「あと半年はいるからさ。それまでいっぱい遊ぼう」


 俺はそう言うと、カレンは言い返してくる。


「半年じゃなくてずっといればいいのに! わたしのこと嫌いになったの?」


「そんなわけないだろ! 血が繋がってなくても大切な妹だと思ってるに決まってる」


「それじゃ何で!?」


「俺は冒険者になりたいから……」


 ハンナが今の言葉に少し反応した。


「ぐずっ」


「カレン!」


 バタバタと走ってカレンは行ってしまった。


「……兄さん、わたしは応援する。カレンを追ってあげて」


 ハンナは少し目に涙をためていた。


「ありがとう」


 ハンナの頭を軽くなで、カレンを追いかけた。



 カレンはすぐに見つけられた。ウギたちの柵の前で座っていた。


「……カレン」


「お兄ちゃん……」


 鼻をすすりながらカレンは話す。


「あのね、わたしがわがままなのはわかってる。でも、お兄ちゃんがいなくなるのは寂しいの……」


 カレンは昔から兄が欲しかったそうで、俺が来てとても喜んでいたとミリアさんが前に言っていのを思い出した。


「俺も会えないのは寂しいけどさ、最初はイーガルに住むし会おうと思えば会えるよ」


「……うん」


 カレンは自分の中で気持ちを整理しているみたいだ。


「あと、これ」


 俺は指輪を取り出す。


「全部同じ色が良かったけど、無かったから」


「指輪?」


「そう、今日のプレゼント。青がジャンさんとミリアさん。黄色がカレンとハンナと俺。みんなでお揃いのを買ってみたんだ」


 どう? と聞いてみる。


「綺麗だね。みんなお揃いかぁ」


 嬉しそうな表情を見せるカレン。


 良かった。カレンに泣き顔は似合わない。


「みんなにはまだ内緒ね」


「うん」


 そう言うとカレンの機嫌は良くなっていた。


 家に戻ると、さっきのことはなかったかのようにみんなで過ごし、ジャンさんに剣術を教えてもらう。終わってから井戸近くでひっそりと魔法練習をしていたらカレンに見つかった。


「魔法練習? わたしもできるよ」


 カレンが使うのを見るのは初めてだ。


「水よ、わたしに力を貸して。――ウォーターボール」


 前に出していた右手に10センチくらいの水の球ができた。


「すごいな」


「コウ兄ちゃんはできないの?」


「……魔法は苦手でな」


「そっかー」


 勝ち誇った顔をされてしまったのが少し悔しい……。


 カレンとリビングに戻るとミリアさんが忙しそうにしていた。

 パーティ料理を作っているそうだ。

 俺たちも少しばかりお手伝いをした。



 テーブルの上には大量の料理が並んでいる。


「えー、おほん。去年を無事過ごせ、コウという息子まで出来たということに、そして今年も無事に過ごせることお願って。乾杯!」


「「「「かんぱーい」」」」


 ジャンさんの音頭の合わせてみんなで言う。


「コウさん、ジャンも言いましたがコウさんはもう我が家の一員ですよ」


 そんなことを言われたら目頭が熱くなってしまう。


「……はい」


「コウ兄ちゃん照れてるー」


 カレンが俺をからかい、みんなに笑われる。

 こういうのを一家団欒というんだな。

 そういえば、日本の実家では俺が高校に入ってからこういうの無かったな……。


 料理も半分は減ったというところでプレゼントのお時間です。

 まず俺から渡すことになった。


「俺からはこの指輪です。青がジャンさんとミリアさん。黄色がカレン、ハンナ、そして俺。色は違うけどお揃いです」


 指輪を渡すと喜んでもらえた。


「指のサイズがわからなかったので、合わなかったらこの紐に通してネックレスにしてください」


 紐もみんなに渡す。


「いっその事みんなでネックレスにするとかどう?」


 ミリアさんが提案した。


「それもいいかもな。コウ、いいか?」


「もちろんですよ」


 喜んでもらえるなら俺はそれでいいと思った。

 ネックレスにしてみんな着ける。

 みんなが指輪を眺めてくれているのを見て、とても嬉しい気持ちになる。ありがとう、おっちゃん。


 ミリアさんのプレゼントは本だった。

 ハンナと俺は本をよく読んでいるが、読まないジャンさんやカレンにも本だった。4冊ともちょっとした童話みたいで、面白そうだ。4冊とも読破しよう。

 ジャンさんは、ウギの毛で作られた服をプレゼントしてくれた。

 左胸のところにフィームと書いてある。オリジナルブランドの服みたいだ。

 これもみんなお揃いで、この場でみんな着替えてパーティの続きをした。


 明日は仕事ということでほどなくしてお開きとなる。

 楽しい時間はあっという間だった。

 大量にあった料理は、さすがに全部は食べきれなかったが3分の2は食べていた。

 みんなでちゃっちゃとお片付けをし、それぞれ自室に入っていった。



 流石に食べすぎたな……。

 布団に転がってお腹をさすっているとドアがノックされた。


「はーい?」


 ガチャ


 入ってきたのはカレンだった。


「コウ兄ちゃん……一緒に寝てもいい?」


 恥ずかしいのか、顔を少し赤くして聞いてくる。


「いいよ。おいで」


「ありがと」


 布団を上げ、カレンが入れるようにするともぞもぞと入ってきた。


「お兄ちゃん、今日はごめんね」


「うん?」


「朝、迷惑かけちゃったでしょ?」


「あれくらい気にするな。カレンが俺のことを本当の兄だと思ってくれてることがわかって嬉しかったし」


「そんなの当たり前じゃん」


 笑顔で答えてくるカレンのその頭をなでる。


「かわいいのぅ」


 恥ずかしかったのかカレンは、なでている俺の腕を取り、枕代わりにして反対を向いてしまう。


 少しして、トントンとまたノックが聞こえる。

 来客が多いな。


「どうぞ?」


 今度は入ってきたのはハンナであった。


「コウ兄さん一緒に寝ても……」


 カレンを見つけ言葉が止まる。


「や、やっほー。ハンナ」


 カレンも動揺しているみたいだ。

 2人は恥ずかしがっているのかな? ここはお兄さんが丸く収めましょう。


「ハンナおいで」


 カレンと反対側にハンナを呼ぶ。

 カレン、俺、ハンナの順だ。

 ハンナは遠慮しながらも、もそもそと布団に入ってきた。


「兄さん、温かい」


 ぎゅっと腕を抱きしめられ、両腕が封じられた。


「君たちはなぜ、俺の部屋へ?」


「あと半年だから、兄さんとの思い出作り……やっぱりダメだった?」


「わ、わたしもだよ」


「そっか、嬉しいな」


 今日は嬉しいことばかりな日だな。


「明日も早いし寝るぞー」


「はーい」


「おやすみなさい」


 俺たちは眠りについた。


 寝ていると2人が俺の体に半身を乗せてきて、俺は体を動かせず、寝てもすぐ目を覚ますという行為を繰り返していたのは秘密だ。



 ――――そして、また約半年が経過した。



今回は、半分くらい説明回になりました。

どこかで矛盾を起こしそうです…


次話は2日後に投稿できたらいいなぁ。

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