030
すまんなハセル、剣抜かせてもらうぞ。
ギルドから出た俺は一旦西の入口まで行き、昨日と同じ方法でこの墓場までやって来たのだ。
サーベルを抜いた変わりといっては変だが、来る途中で買ったよくわからない果物をらしいものをお供え物として2人が眠る前に置いた。
「コウ様?」
「ん? おうリーゼ、お参りか?」
リーゼの後ろに2人の人影が見える。1人はシュリカ。もう1人は3、40代くらいの女性だ。
……もしかしてハセルかスティナの親か?
俺が一礼をすると女性の方も返してくれる。
「初めまして、ハセルの母です。……もしかして貴方がコウさんですか?」
「は、はい。そうですけど……」
「いきなりすみません、前にコウさんと言うお兄さんに助けてもらったと、スティナから聞きまして」
手を合わせ終わったハセルの母親はそう言うと、小さい杖が立っているお墓の前に行き、俺が供えた果物らしき物の隣に花を供え、手を合わせている。
「……この子たちもいつ死んでもおかしくないってわかってましたから、自分たちで言ってましたよ。冒険者になるということはいつか死んでもしまうと思う。それまでは楽しく過ごそう。とね。私たちもわかっていて許可したんですから、だからそんな自分を責めないでくださいね。シュリカちゃんもリーゼさんもよ」
「うっ、うん」
「は、はいっ」
「それでも、……守れなかったのは俺の判断ミスもありますから……」
「だとしてもです。昨日帰って来なくて何となくわかっていました。シュリカちゃんが生きていてくれただけで私は嬉しいんですよ。ハセルとスティナは残念でしたが……気を落とさないでください」
「……はい、ありがとうございます」
ハセルの母親は、それではと墓場から立ち去ろうとした。
俺は、墓標は明日には立てますので、とだけ言うと、「2人の分まで生きてくださいね」と言われる。
「……もちろんです」
ハセルの母親が遠ざかっていくのを見ながら俺はそう小声で答えた。
「このキーチの実はコウ様が?」
無言だった場にリーゼの声が響く。
「キーチの実?」
「これの事ですよ」
リーゼは花の横に置いてある実を指さす。
これキーチの実って言うのか。
「へー」
こぶし大の大きさの黄色い実を俺はジッと見つめた。
「これすっぱいんですよ。食べ物の上に絞ったり、ドリンクにしたりするのが良いですね」
「……そうなのか」
レモンみたいなものかな。お供え物としてこれは失敗だったか……?
……っと、こんな所で空気の読めない会話をしている場合ではなかった。
「えーっと……シュリカさん……?」
「……何ですか?」
「怒ってらっしゃる? でも大丈夫! リーゼの事は許可されたし、何ならシュリカも一緒にどうだい!?」
「……何の事ですか?」
ぬおっ、や、やっぱり怒ってらっしゃる! その目はやめてくれ、昨日もルナにやられてんだから!
「えと、あのーですね……だから、リーゼの事は宿の人に言ったし、良かったらシュリカも一緒に宿に来るか……と?」
「……あ、そう言う事ですか! 大丈夫です自分の家で。コウさんに迷惑かけてしまいますから」
「そんなの――」
気にしなくていい。そう言うはずだったのに横から妨害が入った。
「コウ様! 私、シュリカ様と今日も一緒に行きます。……出来ればこの街にいる間ずっとがいいんですが、どうでしょう?」
「えっ、うーん……」
まさかリーゼから言ってくるとは。シュリカと一緒にいてくれるのはシュリカの心のケアにもなる。リーゼは意外としっかり者だからな。ドジなところも多々あるが。
「そうだな。わかった」
「ありがとうございます!」
「そうそう、シュリカに聞きたい事があったんだ」
ギルドで言われた、2人のギルドカードのことを聞いた。
「持ってますよ」
迷いもなくそれをシュリカは取りだすと俺に見せてくる。
……確かに。
「これさ、明日墓標貰うときに必要なんだけど借りてもいいか?」
「……良いですよ」
そう言うと俺に2つのカードを差し出してくる。
「あっ、今じゃなくてもいいんだ。明日ギルドで貸してくれれば」
「……はい」
シュリカは2枚のカードを一度胸に押し当てるとボックスにしまった。やっぱり大事な物なのだ。回収とかにならなければいいけど……。
「明日12時ごろにギルドで良いか?」
「わかりました」
「じゃあまた明日な」
俺は宿に帰るため、来た道を引き返した。
「あっ、コウちゃんお帰り~」
宿に入るとルナが俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「うん?」
「こっちこっち~」
探すと、ルナはいつもご飯を食べている所に座っている。
「何やってるんだ?」
「今ご飯食べ終わったところだよ」
「こんな時間にご飯作ってもらったのか!」
今は13時を過ぎているのだ。 こんな時間に作ってもらうなんて申し訳なさすぎる。
「うん。コウちゃんがいなくて、降りてきたら、食べる? って聞かれたから」
「まぁ、俺がいなかったのは悪かった。こんなに時間かかるとは思ってなくてさ」
「何やってたの?」
「昨日の事の手続きをね」
「……そっか」
ぐぅ~
「…………」
「コウちゃんもお腹空いてるの?」
そういえば今日は何も食べていない。後で食べようとして忘れていた。食事の話をしたおかげでお腹が空いていたのを再認識させられた。
「空いてるな……」
お腹をさすりながら俺は答える。
「聞いてみればまだあるかもよ? すいませーん」
「えっ、悪いしいいよ」
「いいからいいから、あたしに任せて」
「はい? 何ですか」
ルナの声に呼ばれてマクシさんはキッチンから顔を出した。
「コウちゃんにも何か食べ物ありますか?」
「あっ、何もなかったら大丈夫だから」
「丁度良い! 残っていたものがあるんですけど、それでも良い?」
「うん!」
……ルナが答えるところではないだろう。
「少し待っててくださいー」
マクシさんはキッチンに戻ると、数分と経たず料理を運んで来てくれた。
「お待ちどう様、あり合わせだよ。いや~、もう少しで捨てるとこだったよ。ありがとね、コウ」
「い、いえ」
大皿いっぱいに盛られた料理を見て俺は晩ご飯はいらないな、と率直に思ったのだった。
「お、お腹いっぱいだ……」
部屋に帰り、ベッドに寝転ぶ。
ほんと食べ過ぎた……腹がはちきれそう……。
「あたしはもう少しいけたかな」
あれだけ食べてですか!?
ルナは、俺のお腹が今の状態になってから、「さっき食べてたけど食べる?」と聞いたら、うんと即答し、ペロリとたいらげてしまったのだ。この小さい体のどこにあの量が入っているのかと疑問に思う。
「……ふぅ、俺はもう動けない。だから明日の予定を言うぞ」
「うん?」
「明日はお昼にギルドに行ってからお墓に行く。以上だ」
「うん。了解」
「俺はこのままのんびり過ごそうと思うから、好きなとこ行って来ていいよ」
「は~い」
ルナは返事をしたが部屋から出て行こうとはしなかった。
食べてすぐ寝ると太るよなぁ、でも動いてるから大丈夫かな……。
ベッドで横になりながらそんな事を考えていたら睡魔が襲ってくる。
「……う~む……」
俺は睡魔に負けることにした。
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「ふんっ、うぅぅぅん」
昨日早く寝たせいというか、何というか寝すぎて眠い……。こんなに寝たのは久しぶりではないだろうか。昨日の夕方くらいに寝て、今は10時を少し回ったところだ。
起きていつも通りにもう1つのベッドを見た。
「あれ?」
ルナの姿はなかった。布団に潜っているような山も見えないので、ベッドにはいないのだろう。
早く寝て、早く起きてしまったから出掛けてでもいるのかな?
俺は取り敢えずベッドから出て、部屋にある椅子に腰掛けようと動いた。その時、俺の視界の隅に毛の塊らしきものが入ってくる。
その毛の塊は俺の寝ているベッドの上にあり、色は見覚えのある薄紫で、艶のある毛だ。
…………これはルナか? 久しぶりの猫ルナか?
ちょん、と指で突っつくと、ピクッと毛の塊が動いた。やっぱりルナだ! 猫のルナだ。
どうして猫になっているかはわからないが、気持ちよさそうに寝てるしあと少し寝かせておこうかな。
猫ルナの体半分くらいまで布団を掛けてあげ、俺は部屋にある椅子に座りぼーっとしていた。
ルナが起きたのはそれから10分も経たなかった。
何の音も出さず、俺の膝の上に飛び乗ってきたのだ。いきなり膝の上が重くなったことにより俺は突拍子もない声を上げてしまった。
「い、いきなり驚くだろ!」
「ニャー」
「何言ってるかわからないって……」
ルナは喉をゴロゴロとならしながら、俺のお腹に頭をこすりつけている。
猫のこの行動って何か意味あったんだっけ? ……飼ってなかったからわからないや。
考えるのを放棄してルナを見た。
……嫌な気分ではないし、まぁいいか。
そう思った瞬間、ドン、という重さを膝に感じる。
んん!?
痛くはなかったので声は出なかったが、驚きは猫ルナが乗って来たとき以上だ。
「おはよー!」
「お、おはよう」
元気よく挨拶され俺は反射的に挨拶を返してしまう。
ルナは俺の膝に跨って、俺の方を向いて座っていた。
「……2、3言いたい事があるがまずはご飯に行こう」
「うんっ」
ルナは膝から降りて、テテテと先に降りて行ってしまった。
「……な、なんなんだ……」
「コウちゃんこっちこっち」
先に行ったルナが席を取っている場所に向かう。
オークションが迫っているからか人の数も増えている気がする。前日にはまた減るだろうけど終わってから混むってマクシさん言ってたしなぁ……。
「ご飯、もう頼んどいたからね」
ルナは耳をピコっと動かしながら嬉しそうに言う。
「……元気いいなぁ」
俺はぼそっと呟いた。
「何で今日、ネコになっていたんだ?」
「うん? なんとなくだよ」
首を傾げながらルナは答える。
「そうなのか……じゃあなんで俺の膝に?」
「それはコウちゃんを驚かそうと思ったから!」
「……さいですか」
「あっ、コウおはよ。はい、お待たせ」
今日もマクシさんがホールをやっているようだ。
「ありがとう」
「わーい、いただきまーす」
「ルナはいつも元気が良いね」
「もぐ、もぐもぐっ!」
「何言ってるかわかんないって」
「あはは、じゃあごゆっくり」
そう言ってマクシさんはキッチンへと戻っていく。
「もぐもぐ、んっ。今日も美味しいね」
「そうだな」
俺たちは時間の許す限り、のんびり朝ご飯を食べていた。
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のんびりしていたせいもあって、ギルドに着いたのは12時になる5分前であった。
遅刻するかと思い、宿からここまでノンストップでランニング程度の速さで走ってきたのだ。息は少し上がっているが、まだまだ動ける。流石チート入りの体だ。
「2人はもう来ているかな?」
俺はギルド内を見渡すが発見することはできなかった。
「上にいるかもよ?」
ルナの言葉に俺たちは二階へと上がる。
「あっ、いた」
先に見つけたのはルナだった。
オークションの力がここまでで及んでいるのか人が多い。一階も結構な人数がいたが、二階はそれより多くの人がいた。
そんな中、ものの数秒で見つけたルナの凄さに驚愕した俺であった。
「やっほー」
ルナの背中を追ってリーゼとシュリカのもとにたどり着く。
「わるい、待たせたよな」
「いえ、大丈夫です」
「うん」
「……じゃあ行くか」
4人で1階の受付に向かう。
受付には、昨日俺が話した人がいたのでその人の所に並んだ。受付をしている人は数人いるのだが、どこも並んでいたのだ。オークション前、最後の稼ぎでも得ようとしているのか、手には依頼の紙を持っている人が多い。
順番が来るまで待つこと8分。前に並んでいたのは3、4組のパーティだったが素材換金などもあったせいか意外と時間がかかっていたのだ。依頼を受けるだけなら1分もかからないんだけどな。ついでだし、俺たちもアイテム換金していくか、あとカードの更新も。
その旨をみんなに伝えると、オッケーという返事が返って来る。
「すいません。昨日――」
「あっ、墓標の方ですね。少々お待ちを」
俺が言い終わる前に、受付の人は俺たちが来た意味を理解したのだろう。俺の話を聞かずして裏に行ってしまった。
「お待たせしました。こちらになります」
そう言って受付の人は自分のボックスから2つの十字架を取り出し、受付台に置いた。
「ギルドカードは持って来ていただけたでしょうか?」
「は、はい」
シュリカは、ハセルとスティナのカードを取り出し渡す。
「このカードはどういたします?」
確認したからか、受付の人はそう聞いてきた。
「どうって……?」
「はい。こちらは証明としてはもう使えませんが、欲しいという方には差し上げる事が出来るんですよ」
「は、はいっ、いります!」
シュリカは聞くや否や受付に身を乗り出して言った。
「あっ、す、すみません」
受付の人は2人のギルドカードに何かを当てていた。それをする事によって身分証明下出来なくなるのだろうと俺は予測する。
「いえいえ、他に何かありませんか?」
そう言いながらシュリカにギルドカードを2枚返していた。
「あ、あと換金とカード更新お願いします」
俺は十字架2個をボックスにしまいながら言う。
まずはギルドカードを全員分出してから、各々が持っていた使わない素材を出していく。
「……あっ、ルナさんですか! 預かりものがありますので少々お待ちください」
ルナのギルドカードを見た受付の人は、また裏に入ってしまった。
「うにゃ?」
「何だろうな?」
「お待たせしました。昨日手紙が届きましたのでお渡しします。こちらにサインを」
戻って来るなりそう言うと、1通の便箋とサインを書く紙らしいものを出してきた。
「……リーゼちゃん。あたしを持って」
「えっ?」
「上にあげて、届かないー」
ルナの身長では受付台まで手は届いても字が書けるほど、というか上にあるものが見にくいのだ。それが紙ならなおさらだ。上から見なくては、字は読めないもの。
「は、はい」
リーゼはルナの両脇を抱えて持ち上げる。その間にルナは署名をしたのだった。
「あと、換金お願いします」
全員分のギルドカードを返してもらってから、受付台にある素材を換金してもらう。後ろに並んでいる人に、早くしろ的な目で見られているが俺はそれを無視し続けた。
こうして墓標とお金を手にした俺たちはハセルの家に向かう。
やっぱり両親も一緒に立ててあげたほうが2人も喜ぶかもしれない、とお墓に向かう途中そんな話になったのだ。
シュリカの案内により、昨日俺がお墓まで歩いたときより半分ぐらいの時間でハセルの家に着いた。ここから墓場まではまだあるから、完全に半分の時間で着くというわけではないが、それでも昨日より早くつくのは事実。流石地元っ子。
シュリカが玄関をノックすると、強面な男が現れた。ゴードンさんと張れるぐらいの怖さだ。シュリカは臆す事なくその男に話していた。男は、わかった。と言うように頷くと、家の中に戻っていった。
「し、シュリカさん、今のお方は?」
「はい? あっ、今の人はハセルのお父さんですよ」
なに!?
「お母さんと行くから先に行っててくれとのことです」
「こ、怖めのお父様ですね……」
リーゼも怖かったようだ。1回ゴードンさんに思いっきり追いかけられているもんな。思い出してしまったのかも知れない。誰だってイカツイ顔の人に追いかけられるのは怖いだろうし。
「ふふっ、ハセルのお父さんはあんな顔でも優しいのよ。無口な所もあってそれが怖さを倍増させるときもあるけど」
2人でいたら俺は耐えられそうにない。そう思ったのであった。
今度も、シュリカの案内で墓場に到着した。ここに来るまでにスティナの親はいないという事を聞き、驚いた。でも、だからといって何かできるわけではなかった。ハセルとスティナが眠る前で一度合掌をすることしか出来なかったのだ。
それからハセルの両親を待つ。
「……そういえばランクはどうだった?」
少しは明るい話題をと思いギルドのランクの話を振った。ちなみに、俺のランクは未だ変わらずEのままだ。
「あたしEに変わってたよ」
……早速追いつかれるとは……。あれか、ボスを最後倒した人にはボーナスポイントが入るとかか? 真相は知らないし、このカードを作った人に聞けばわかるかもしれないけど、俺たちでは知る事は無理そうだな。……何はともあれ、チームメンバーがランクアップする事は嬉しい事だ。
「おお、おめでとう」
「コウ様、私もEになってます!」
「えっ!?」
リーゼの言葉に驚愕した。
もうEになったのか! あの1回のダンジョン攻略のみで。
確かに最初から中級に行ったからかもしれないが……これがレベリングってやつか!
「シュリカはどうだった?」
自分を納得させてから聞く。
「私もE……です」
シュリカの最初のランクは知らないが、EということはEになって少ししかしていなかったかそれ以下だったということかな。リーゼでさえEになっているのだから。
これでみんなランクでは並んだな。ポイント蓄積値には差はあるだろうが。
「あ、あの私、これからの事を決めたので後で聞いてもらっても良いですか?」
シュリカは続けて俺に向かってそう言ってきた。
「うん? もちろん」
俺は何と言われてもいいようにもう考えてある。想定外の事を言われたとしても、それに合うように努力はするつもりだ。
リーゼはルナと話していた。
聞こえる範囲では、久しぶりだねなどと言っている。そういえば昨日は会っていなかったな。1日ぶりで久しぶりになるのか? なんて考えていたりすると、先程ハセルの玄関で会った父親と昨日会った母親が歩いてくるのが見えた。
俺は近づいてきたハセルの両親にお辞儀をしてから2つの墓標をボックスから取り出す。
「これが2人の墓標です」
木で出来ていると思われる、頑丈そうな十字架を1つ渡す。
「……ありがとう」
ハセルの父は低めのしっかりとした声で返事をして、それを受け取った。
墓標には名前は入っていない。墓場にあるのを見れば時々木が削られて書かれている名前入りのが見つかるが、無い方が圧倒的に多かった。名前の有無は親族の自由なのだろう。
ハセルとスティナのにも名前は入っていないが、そんなことは気にした様子もなく、ハセルの両親はボックスから取り出したであろうスコップを手に持ち、墓標を埋める穴を、小さな山が出来ていた場所を掘っていた。シュリカもスコップを持ってきていたようで、隣に並べて埋められるよう距離を測り穴を掘っている。俺はその光景をただ見ているだけであった。
「そのくらいで良いんじゃないかしら」
ハセルの母がそう言うと、父は掘るのを止めて傍に置いていた十字架の下の部分を半分程埋める。
「コウ様こっちも大丈夫そうです」
リーゼに言われた俺は、もう1つの十字架を隣と同じように埋めた。
「…………」
改めて墓標の前で手を合わせる、ここにいる6人全員で。お供えしていたキーチの実は、頻繁には来ないわけだから持って帰ることにした。鳥とかに食い荒らされたらいやだもんな。すっぱいから大丈夫かもしれないが、もしものためだ。
「……さて、私たちはそろそろ行きましょうか」
ハセルの母の言葉に父は頷きを返す。
「皆さん、2人の為にありがとうございます。どうか2人の分まで生きてください。うちにはいつ来てもいいので良かったら遊びに来てね」
「は、はい」
リーゼが返事をする中、俺はハセルの両親を引き止めた。
「あ、あの、これ良かったら……」
そう言い、昨日取ったハセルの剣とさっき抜いたスティナの杖を前に出す。
「これは……?」
「2人が使っていた武器です。あと、他にも遺品は残してありますのでよろしければ……」
シュリカに目配せをする。2人の持ち物の全てはシュリカが持っているのだ。シュリカはその中から複数の小物やらを出していく。
「……シュリカちゃん、何か手元に残していたい物があれば出さなくていいわ。そうじゃなければ……良かったら譲ってくれないかしら」
ハセルの母の目が揺れているように感じた。
「……はい」
シュリカもその言葉を受け入れ、ハセルの母に渡している。
俺はハセルの父に剣と杖を渡してその光景を眺めていた。
読んでいただきありがとうございます! 今年最後の更新となります。
投稿を初めてはや4、5ヶ月……早いものです。
まったり更新ですが、よろしければ来年もよろしくお願いします。お暇な時の暇つぶしになれていれば嬉しい限りです。




